光と歌のステラノート   作:ミヤイ

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前回から少しお時間頂きました。
前回の続きになります、ではどうぞ!


第10話 離れていても

 かのん達のダンスが噛み合わない頃──

 結ヶ丘女子高等学校音楽科の一施設である演技練習室は、窓から差し込む橙色の光で満たされていた。

 床は磨かれたように光を反射し、そこに千紗都の影が伸びる。

 

「……っ、は……!」

 

 息を整えながらも、千紗都は鏡に映る自身の姿を見つめながらステップを続けていた。

 大会に向けて、最終調整をしなければならない。

 だけど頭の片隅には、どうしても神津島の三人のことが浮かんでしまう。

 

(……可可ちゃんも、すみれさんも、かのんちゃんも……大丈夫だよね)

 

 最後のターンを終えて息を吐いたとき、練習室の扉が静かに開いた。

 

「千紗都さん。やっぱり、ここにいたのですね」

 

「葉月さん?」

 

 静かな足音で恋が近づく。

 その表情は、普段よりも柔らかいものだった。

 

「明日の大会……最終調整かと思って」

 

「う、うん。そうだけど……どうして分かったの?」

 

「音楽科の人間にとって、こういう大会前の空気は……分かるものです」

 

 恋はそう言って、千紗都の横に立つ。

 千紗都の肩がわずかに上がっているのに気づき、優しく声をかけた。

 

「……緊張しているのですか?」

 

「え……っ!? そ、そんなことないよ! ただ……」

 

 千紗都は少し視線を落とす。

 

「……気になってるだけ。

 みんな、ちゃんとやれてるかなって……

 いつもわたしがフォーメーション見てたし……迷惑かけてないかなぁって」

 

 恋は一瞬だけ目を細めた。

 千紗都の“優しさ”がすぐに伝わった。

 

「千紗都さん。

 あなたは、迷惑をかける人ではありませんよ」

 

「っ……」

 

 恋は練習室の中央へ歩き、床を指でそっとなぞった。

 

「かのんさん達があそこまで踊れるようになったのは、

 あなたがこれまで努力してきた証。

 ダンスに対して熱い想いがあるからこそ成し遂げた事なのです」

 

 千紗都は驚いたように顔を上げた。

 

「……そんなふうに、思ってくれてたんだ」

 

「ええ。

 だから、あなたがいないことで皆が困っていたとしても……それは“責める理由”ではなく、あなたが大切にされている証です」

 

「……大切、か……」

 

 千紗都は胸に手を当てた。

 その鼓動は、さっきよりも少しだけ軽くなっていた。

 

「葉月さん……。

 わたし、やっぱり神津島に行きたかったなぁ。

 みんなと一緒に練習して、笑って……」

 

 恋は柔らかく微笑んだ。

 

「きっと、その気持ちは伝わっていますよ。

 離れていても──心は、繋がっていますから」

 

 千紗都は微笑み返す。

 

「……ありがとう、葉月さん。

 わたし、もっと頑張るよ。

 大会も……そして、みんなが帰ってきた時に胸を張れるように」

 

「ええ。頑張ってください」

 

 二人の影が、夕陽の中で静かに重なっていった。

 

 

 ───

 

 

  夕陽が沈みはじめ、神津島の空は金と紫が混じり合うように色づいていた。

 海面には赤い光がゆらめき、どこか不穏な影を落としている。

 

 合同練習を終えたかのんは、ひとり桟橋の端に腰を下ろしていた。

 潮風が髪を揺らし、少し冷たい波の音が胸の奥に染みていく。

 

(……やっぱり、全然違う。

 Sunny Passionの二人は“本物”で……

 わたしたちは……遠い)

 

 息のあった動き。歌声。経験。

 立っているだけで、オーラがある。

 

 それが悔しいほど分かってしまう。

 

「かのん」

 

 背後から声がして振り向くと、ヒロトが静かに歩いてきた。

 

「みんな心配してたよ。急にいなくなるから」

 

「あ……ごめん。ちょっと、頭冷やしたくて」

 

 ヒロトはかのんの隣へ腰を下ろし、同じように海を見つめた。

 沈黙がふたりの間を通り抜け、夕風がそっと心を撫でていく。

 

「Sunny Passion……すごかったね」

 

 かのんの小さな声が海に吸い込まれる。

 

「うん。すごかったよ。

 でも……それがどうした?」

 

 ヒロトの落ち着いた声に、かのんは少しだけ顔を上げた。

 

「どうした、って……そんな簡単に言えないよ。

 わたしたち、全然太刀打ちできない。

 歌も、ダンスも……心の余裕も」

 

「それは、今の“実力差”だよ」

 

「実力差……」

 

「かのんがすごく頑張ってるの、俺は知ってる。

 でもSunny Passionは……その“何倍もの時間”を積み重ねてる。

 今の差は当然なんだ」

 

 かのんの胸の奥で張りつめていた糸が、少しだけ緩む。

 

 ヒロトは夕陽に照らされながら続けた。

 

「でもさ、“差”って、埋められるものだよ」

 

「埋められる……?」

 

「うん。

 今は相手が遠く見えるかもしれないけど、

 走り続ければ、その背中は必ず近づく」

 

 ヒロトは優しく笑う。

 

「それに──

 かのんが歌えば、ちゃんと“届く”よ。

 それはSunny Passionには真似できない、かのんだけの強さだ」

 

 夕陽がかのんの頬を照らし、目尻がじんわり熱くなる。

 

「……ヒロトくんは、そう言ってくれるけど……

 本当にわたし……追いつけるのかな?」

 

「追いつけるよ。

 ──かのんが諦めない限り、必ず」

 

 その言葉は、胸の奥に優しく火を灯した。

 

(……わたし……諦めない……)

 

 かのんは海を見つめたまま、小さく息を吸い込んだ。

 

「ありがとう、ヒロトくん。

 もう少しだけ……頑張ってみる」

 

 ヒロトは静かに頷いた。

 

「うん。

 かのんは“それでいい”んだよ」

 

 風が少し強くなり、海面を叩いた波がぱしゃんと弾ける。

 かのんは小さく頷き、立ち上がろうとして──

 

 ポケットの中でスマホが震えた。

 

「……ん? 誰だろ──」

 

 画面に表示された名前を見て、かのんは驚いて息を飲む。

 

【千 紗 都】

 

「ちーちゃん!?」

 

 慌てて通話ボタンを押す。

 

『よかった、つながった……!』

 

 聞き慣れた声なのに、どこか緊張がにじんでいる。

 

「どうしたの? 大丈夫?」

 

『うん……そのことなんだけど……』

 

 一瞬、言葉が途切れる。

 かのんは不安に眉を寄せた。

 

『わたしさ……すっごく緊張してるんだ』

 

「ちーちゃんが? 珍しいね……」

 

『うん。それにね──

 かのんちゃん達は、今どうしてるのかなって、すごく気になって』

 

 胸にあたたかいものが広がる。

 

「わたし達はね……

 Sunny Passionさんと練習してるよ。すっごく、すごいよ……二人とも」

 

『うん、少し気になって前のライブ映像見た事あるんだ』

 

「えっ、見てたの!?」

 

『見るよ! 

 どうやってあのパフォーマンスを超えるか考えたかったから

 私たち……仲間だもん』

 

 その一言で、かのんの胸がぎゅっと熱くなった。

 

『かのんちゃん……

 舞台が怖くなったら、わたしのこと思い出してね。

 わたしも……離れてても、絶対一緒にいるから』

 

 ヒロトが横で静かに聞いている。

 その表情は、どこか優しく、どこか誇らしげだった。

 

「……うん。

 ちーちゃんも、がんばってね」

 

『もちろん! 絶対勝ち上がってみせる!』

 

 千紗都の弾む声が、かのんの胸にしっかり届いた。

 その瞬間──

 

 空気が、さらにほんの少しだけ暖かくなる。

 

「じゃあ、終わったらまた連絡して!」

 

『うん! ……かのんちゃん』

 

「?」

 

『ステージ、楽しんでね!』

 

 通話が切れた。

 

 かのんは胸の前でスマホをぎゅっと握りしめ、海を見上げる。

 

(……離れてても、繋がってるんだ)

 

 追いつけないかもしれない。

 そんな不安がさっきまで胸に残っていた。

 

 でも今は──

 

(歩いていける。ちーちゃんが、応援してくれるなら)

 

 背後でヒロトが小さく笑う。

 

「……かのん。顔、明るくなったな」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん。ほら、行こう。可可とすみれが探してる」

 

 かのんは頷き、海に背を向けた。

 

 

──その瞬間だった。

 島全体を揺るがすような轟音が ドォンッ! と響いた。

 

「な、なに……!?」

 

 地面が突き上げられるように震え、

 桟橋の手すりがガタンと音を立てる。

 

 次の瞬間、

 足元の大地が 激しく跳ねた。

 

「かのん、伏せろ!!」

 

 ヒロトが咄嗟にかのんの腕を引き寄せる。

 二人は波打つように揺れる地面へ身を伏せた。

 

 海面も大きく波立ち、船が何度も桟橋にぶつかった。

 空気が震え、耳鳴りのような地鳴りが続く。

 

「な、何が起きてるの……地震……!?」

 

「違う……これは──」

 

 ヒロトが言いかけたそのとき。

 

 島の中央部、森の向こうで 大地が裂けた。

 

 地面が盛り上がり、土煙が天へ舞い上がる。

 まるで内側から“何か”が押し上げているように。

 

 ──そして。

 

 バゴォォォォンッ!!

 

 裂けた大地を吹き飛ばし、

 巨体が地中からゆっくりと姿を現した。

 

 黄色い皮膚、岩のようにごつごつした腕。

 異様に発達した胸郭。

 太い尻尾が地面をえぐり、木々をなぎ倒していく。

 

 かのんの瞳が大きく見開かれた。

 

「……怪獣……!?」

 

 その名を知らずとも、本能でわかる。

 “異常な存在”だと。

 

 レッドキングが口を開く。

 胸の奥でごろごろと音が鳴り、熱が集まる。

 

 次の瞬間──

 爆弾岩のような爆発性の高い岩が次々と吐き出された。

 

「危ない!!」

 

 ヒロトがかのんを抱き寄せ、その場へ伏せる。

 

 吐き出された岩弾は、

 明日ライブで使う予定だった屋外ステージへ直撃。

 

 ドガァァァン!!

 

 眩しい閃光と爆風が吹き荒れ、

 ステージの屋根が一瞬で吹き飛んだ。

 鉄骨が曲がり、照明が砕け、

 布製のバックボードが炎を上げて燃え落ちる。

 

「うそ……ステージが……!」

 

 かのんの声は震えた。

 

 島を照らす夕陽の光の中、

 破壊されたステージだけが黒く、痛々しいシルエットを作っていた。

 

 レッドキングは吠え、

 島中に響くような咆哮を上げる。

 

 グォォォォオオオオオオッ!!

 

 その声と振動だけで、胸が潰れそうになる。

 島のあちこちから悲鳴が上がり、人々が逃げ惑う。

 

「かのん! ヒロト! こっちデス!!」

 

「二人とも無事!? もう、信じられないわよこんなの!」

 

 可可とすみれが走ってくる。

 息は乱れ、顔は不安で強張っている。

 

「……ヒロトくん、あれ……どうするの……?」

 

 かのんの言葉に、ヒロトは一瞬だけ視線をそらす。

 彼の胸の奥にある“使命”が、

 今すぐにでも動き出そうとしていた。

 

(……でも、この状況で変身したら

 かのん達に正体がバレる……!)

 

 島が揺れ続ける中、

 ヒロトの喉がきゅっと締まった。

 

 レッドキングが再び口に岩弾を溜めはじめる。

 

 彼には、決断の時間が残されていなかった。

 

 




如何でしたか?
この作品に出てくる怪獣は、歴代ウルトラシリーズから選んで出してます。
逆にこんな怪獣出て欲しいとかあれば教えてください笑
では、また次回!
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