光と歌のステラノート   作:ミヤイ

4 / 13
今回の話は、かのんちゃん目線で物語が始まります。
ゴルザとティガの戦いを彼女はどう見たのか。
そして、その戦闘が彼女の名もない気持ちをどう動かしたのかご覧下さい


第3話 歌えない私、歌いたい私

 ──それは、昨日の出来事だった。

 

 その揺れは、まるで平穏な日常が終わることを告げる鐘のように、唐突に訪れた。

 地鳴りが響き、アスファルトが裂け、轟音とともに黒い巨体が地を割って姿を現す。

 

 それが“怪獣”という言葉の意味なのだと──澁谷かのんは初めて理解した。

 

 御茶ノ水の街が悲鳴を上げる。

 火の粉が舞い、避難のサイレンが鳴り響く。

 地獄のような光景が、平穏だった街を塗りつぶしていった。

 

 その怪獣は、結ヶ丘女子高等学校の方角へとゆっくりと進み始める。

 校舎が揺れ、窓ガラスが割れ、胸の鼓動が速くなる。

 

「……学校が……!」

 

 息を飲んだ、その瞬間──

 

 金色の閃光が夜明けのように街を照らした。

 

「……光の、巨人……?」

 

 眩い光が視界を包み、息をすることも忘れる。

 突如現れた巨人は、これ以上進ませないと言わんばかりに怪獣の前へ立ちはだかった。

 

 銀と赤紫の身体。

 夕日のような光を浴びて、堂々と立つその姿。

 

 恐怖と畏敬、そして──どこか懐かしいような温もりが、胸の奥で混ざり合っていた。

 

 巨人──ウルトラマンティガ。

 彼は、超古代怪獣ゴルザと激しくぶつかり合っていた。

 

 ティガの攻撃は、怪獣の分厚い皮膚に弾かれ、逆にゴルザの尾が鋭く巨体を叩きつける。

 巨人は何度も倒される。だが、必ず立ち上がる。

 

 その姿を見て、かのんは息を呑んだ。

 

 どうして、あんなに傷ついているのに。

 どうして、何度倒されても──立ち上がるの? 

 

 胸の奥が締めつけられる。

 怖いのに、目を逸らせなかった。

 

 ティガの胸に輝く青い光が、やがて赤く点滅する。

 苦しそうに、しかし必死に立ち向かう姿。

 それはまるで、歌うたびに声を詰まらせる自分の姿と重なって見えた。

 

「……頑張って……!」

 

 思わず、声が漏れる。

 握りしめた拳に力がこもった瞬間、ティガの体が再び光に包まれた。

 色が変わる。赤と銀の輝き──その瞬間、風が熱を帯び、かのんの頬を撫でた。

 

「……すごい……!」

 

 ティガが拳を振るたび、空気が震え、衝撃波が街を駆け抜ける。

 その姿は恐ろしくも、美しかった。

 ただ破壊するのではなく、“守るために戦っている”ことが、見ていて伝わってきた。

 

 やがて、ゴルザは地中へと潜り、逃げ去った。

 ティガは追わず、静かに空を見上げる。

 その身体が、金色の光の粒となって空へと消えていく。

 

 夜空に散るその光は、まるで星屑のようだった。

 

「……ありがとう」

 

 かのんの唇が小さく動いた。

 それが誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。

 けれど、心の奥がほんのりと温かくなり、涙が滲んだ。

 

 ⸻

 

 翌朝。

 

 登校してすぐ、かのんは教室に鞄を置くと、迷わず音楽室へ向かった。

 扉を閉めると、外の喧騒が遠のき、静寂が満ちる。

 ピアノの前に座り、鍵盤へと指を置いた。

 

「“今こそ、私たちの音楽が必要”……か」

 

 今朝、登校中に唐可可が言っていた言葉が、ふと頭をよぎる。

 彼女はずっと、スクールアイドルを一緒にやろうと誘ってきていた。

 けれど、かのんはいつもその誘いを断っていた。

 

 なのに、今朝はどうして──「ライブしよう」なんて言ってしまったんだろう。

 

 思い浮かぶのは、昨日の“光の巨人”の姿。

 誰かを守るために、傷つきながらも立ち上がるその姿が、脳裏から離れない。

 

 鍵盤を押す。

 柔らかな音が朝の光の中へと溶けていく。

 

 そして、自然と口が動いた。

 

「♫──ほんのちょっぴり、悲しい時なら〜背筋を伸ばして〜」

 

 声が震えた。

 途中で途切れ、息が続かない。

 喉が締まり、怖くなる。

 過去の失敗がフラッシュバックして、歌う気持ちを押し潰していく。

 

「また……だめ。どうして私は……」

 

 涙は出なかった。

 ただ、胸の奥が重く沈んでいた。

 

 昨日のティガ。

 あんなにも勇敢に立ち向かった光を見た後だからこそ──

 今の自分が、どうしようもなく小さく見えた。

 

「私も……歌いたいのに」

 

 その時──

 

 トン、トン、と軽いノックの音。

 

「かのんさん、やっぱりここにいたデスね!」

 

 扉の向こうから、パンを片手に唐可可が顔を出した。

 寝不足の目をこすりながら、満面の笑みで音楽室へ入ってくる。

 

「かのんさん、練習してたデスね?」

「……うん。でも、まだちゃんと歌えない。緊張して声が出なくなるの。歌いたいのに……」

 

「だいじょうぶデス!」

 

「……だいじょうぶって、なにが?」

 

 可可はパンを机に置き、まっすぐに言った。

 

「昨日、街で戦ってた巨人。

 みんな怖いって言ってたけど、可可は違うデス。

 あの人は“守るため”に戦ってた。

 怖くても、立ち向かってた。──かのんさんも同じデス!」

 

「……私も?」

 

「そうデス。“歌うこと”が怖くても、歌おうとしてる。

 それって、とっても強いことデスよ!」

 

 その言葉に、かのんの胸がじんわりと温かくなった。

 ティガの姿と、可可の笑顔が重なる。

 “立ち向かう”という言葉が、静かに心に刻まれた。

 

「……ありがとう、可可ちゃん」

 

 ⸻

 

 その時、音楽室の扉がまた静かに開いた。

 

「あの〜、誰かいますか?」

 

 振り向くと、見慣れない男子生徒が立っていた。

 結ヶ丘では、男子生徒は珍しい。

 少し緊張したように頭を下げる。

 

「昨日、案内してもらったんですけど……普通科の教室ってどこでしたっけ?」

 

「あっ、昨日転入してきた人デスね!」

「えっ、転入生!? しかも男の子!?」

 

 かのんと可可が同時に声を上げる。

 ヒロトは困ったように微笑んだ。

 

「驚かせちゃったかな? 俺の名前は、天城ヒロトだ。よろしく」

 

 その声を聞いた瞬間──かのんの心がわずかにざわめいた。

 落ち着いた声、静かな瞳。

 どこか“光”を感じるような、不思議な感覚。

 

「……先ほどの歌は、あなたが?」

「う、うん……ちょっとだけ、ね」

「とても綺麗な声でした。……とても、心が落ち着く」

 

 ヒロトの言葉は、穏やかで優しかった。

 けれどその奥に、深い悲しみの影が見えた気がした。

 ──まるで、昨日見たティガの瞳のように。

 

 かのんの胸がざわつく。

 昨日の光景が脳裏をかすめた。

 金色の粒子が、空へと還っていくあの瞬間。

 

(……まさか、そんなはず……ないよね)

 

 ⸻

 

 放課後。

 

 可可は校門前で、チラシを手に仲間集めをしていた。

 その一方で、かのんは屋上にいた。

 

 空を見上げると、雲間から光が差し込む。

 昨日と同じ、柔らかく優しい光。

 

「あの人は……きっと怖くなかったんだろうな」

 

 自分とは違う。

 でも、だからこそ憧れる。

 

 光のように──誰かの心を照らせる人になりたい。

 

 そのために、もう一度、歌いたい。

 

「……やってみよう。やれることから」

 

 風が吹き抜け、髪を揺らす。

 それは、小さな勇気の灯火のようだった。

 

 けれど、それでいい。

 その小さな光が──

 やがて大きな希望へと変わる日を信じて。

 




如何でしたか?
慣れない存在に憧れるのは、人間度の世界でも同じですね
さて、小説の話数は進んでますが、まだまだ物語だとスーパースター1期の1、2話ぐらいという事実にペース遅すぎかなと不安になる作者ですが、
気軽に書いてますので皆様も気長にお付き合いお願いしますm(_ _)m

ではまた次回、バイバイ(^_^)/~~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。