ゴルザとティガの戦いを彼女はどう見たのか。
そして、その戦闘が彼女の名もない気持ちをどう動かしたのかご覧下さい
──それは、昨日の出来事だった。
その揺れは、まるで平穏な日常が終わることを告げる鐘のように、唐突に訪れた。
地鳴りが響き、アスファルトが裂け、轟音とともに黒い巨体が地を割って姿を現す。
それが“怪獣”という言葉の意味なのだと──澁谷かのんは初めて理解した。
御茶ノ水の街が悲鳴を上げる。
火の粉が舞い、避難のサイレンが鳴り響く。
地獄のような光景が、平穏だった街を塗りつぶしていった。
その怪獣は、結ヶ丘女子高等学校の方角へとゆっくりと進み始める。
校舎が揺れ、窓ガラスが割れ、胸の鼓動が速くなる。
「……学校が……!」
息を飲んだ、その瞬間──
金色の閃光が夜明けのように街を照らした。
「……光の、巨人……?」
眩い光が視界を包み、息をすることも忘れる。
突如現れた巨人は、これ以上進ませないと言わんばかりに怪獣の前へ立ちはだかった。
銀と赤紫の身体。
夕日のような光を浴びて、堂々と立つその姿。
恐怖と畏敬、そして──どこか懐かしいような温もりが、胸の奥で混ざり合っていた。
巨人──ウルトラマンティガ。
彼は、超古代怪獣ゴルザと激しくぶつかり合っていた。
ティガの攻撃は、怪獣の分厚い皮膚に弾かれ、逆にゴルザの尾が鋭く巨体を叩きつける。
巨人は何度も倒される。だが、必ず立ち上がる。
その姿を見て、かのんは息を呑んだ。
どうして、あんなに傷ついているのに。
どうして、何度倒されても──立ち上がるの?
胸の奥が締めつけられる。
怖いのに、目を逸らせなかった。
ティガの胸に輝く青い光が、やがて赤く点滅する。
苦しそうに、しかし必死に立ち向かう姿。
それはまるで、歌うたびに声を詰まらせる自分の姿と重なって見えた。
「……頑張って……!」
思わず、声が漏れる。
握りしめた拳に力がこもった瞬間、ティガの体が再び光に包まれた。
色が変わる。赤と銀の輝き──その瞬間、風が熱を帯び、かのんの頬を撫でた。
「……すごい……!」
ティガが拳を振るたび、空気が震え、衝撃波が街を駆け抜ける。
その姿は恐ろしくも、美しかった。
ただ破壊するのではなく、“守るために戦っている”ことが、見ていて伝わってきた。
やがて、ゴルザは地中へと潜り、逃げ去った。
ティガは追わず、静かに空を見上げる。
その身体が、金色の光の粒となって空へと消えていく。
夜空に散るその光は、まるで星屑のようだった。
「……ありがとう」
かのんの唇が小さく動いた。
それが誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
けれど、心の奥がほんのりと温かくなり、涙が滲んだ。
⸻
翌朝。
登校してすぐ、かのんは教室に鞄を置くと、迷わず音楽室へ向かった。
扉を閉めると、外の喧騒が遠のき、静寂が満ちる。
ピアノの前に座り、鍵盤へと指を置いた。
「“今こそ、私たちの音楽が必要”……か」
今朝、登校中に唐可可が言っていた言葉が、ふと頭をよぎる。
彼女はずっと、スクールアイドルを一緒にやろうと誘ってきていた。
けれど、かのんはいつもその誘いを断っていた。
なのに、今朝はどうして──「ライブしよう」なんて言ってしまったんだろう。
思い浮かぶのは、昨日の“光の巨人”の姿。
誰かを守るために、傷つきながらも立ち上がるその姿が、脳裏から離れない。
鍵盤を押す。
柔らかな音が朝の光の中へと溶けていく。
そして、自然と口が動いた。
「♫──ほんのちょっぴり、悲しい時なら〜背筋を伸ばして〜」
声が震えた。
途中で途切れ、息が続かない。
喉が締まり、怖くなる。
過去の失敗がフラッシュバックして、歌う気持ちを押し潰していく。
「また……だめ。どうして私は……」
涙は出なかった。
ただ、胸の奥が重く沈んでいた。
昨日のティガ。
あんなにも勇敢に立ち向かった光を見た後だからこそ──
今の自分が、どうしようもなく小さく見えた。
「私も……歌いたいのに」
その時──
トン、トン、と軽いノックの音。
「かのんさん、やっぱりここにいたデスね!」
扉の向こうから、パンを片手に唐可可が顔を出した。
寝不足の目をこすりながら、満面の笑みで音楽室へ入ってくる。
「かのんさん、練習してたデスね?」
「……うん。でも、まだちゃんと歌えない。緊張して声が出なくなるの。歌いたいのに……」
「だいじょうぶデス!」
「……だいじょうぶって、なにが?」
可可はパンを机に置き、まっすぐに言った。
「昨日、街で戦ってた巨人。
みんな怖いって言ってたけど、可可は違うデス。
あの人は“守るため”に戦ってた。
怖くても、立ち向かってた。──かのんさんも同じデス!」
「……私も?」
「そうデス。“歌うこと”が怖くても、歌おうとしてる。
それって、とっても強いことデスよ!」
その言葉に、かのんの胸がじんわりと温かくなった。
ティガの姿と、可可の笑顔が重なる。
“立ち向かう”という言葉が、静かに心に刻まれた。
「……ありがとう、可可ちゃん」
⸻
その時、音楽室の扉がまた静かに開いた。
「あの〜、誰かいますか?」
振り向くと、見慣れない男子生徒が立っていた。
結ヶ丘では、男子生徒は珍しい。
少し緊張したように頭を下げる。
「昨日、案内してもらったんですけど……普通科の教室ってどこでしたっけ?」
「あっ、昨日転入してきた人デスね!」
「えっ、転入生!? しかも男の子!?」
かのんと可可が同時に声を上げる。
ヒロトは困ったように微笑んだ。
「驚かせちゃったかな? 俺の名前は、天城ヒロトだ。よろしく」
その声を聞いた瞬間──かのんの心がわずかにざわめいた。
落ち着いた声、静かな瞳。
どこか“光”を感じるような、不思議な感覚。
「……先ほどの歌は、あなたが?」
「う、うん……ちょっとだけ、ね」
「とても綺麗な声でした。……とても、心が落ち着く」
ヒロトの言葉は、穏やかで優しかった。
けれどその奥に、深い悲しみの影が見えた気がした。
──まるで、昨日見たティガの瞳のように。
かのんの胸がざわつく。
昨日の光景が脳裏をかすめた。
金色の粒子が、空へと還っていくあの瞬間。
(……まさか、そんなはず……ないよね)
⸻
放課後。
可可は校門前で、チラシを手に仲間集めをしていた。
その一方で、かのんは屋上にいた。
空を見上げると、雲間から光が差し込む。
昨日と同じ、柔らかく優しい光。
「あの人は……きっと怖くなかったんだろうな」
自分とは違う。
でも、だからこそ憧れる。
光のように──誰かの心を照らせる人になりたい。
そのために、もう一度、歌いたい。
「……やってみよう。やれることから」
風が吹き抜け、髪を揺らす。
それは、小さな勇気の灯火のようだった。
けれど、それでいい。
その小さな光が──
やがて大きな希望へと変わる日を信じて。
如何でしたか?
慣れない存在に憧れるのは、人間度の世界でも同じですね
さて、小説の話数は進んでますが、まだまだ物語だとスーパースター1期の1、2話ぐらいという事実にペース遅すぎかなと不安になる作者ですが、
気軽に書いてますので皆様も気長にお付き合いお願いしますm(_ _)m
ではまた次回、バイバイ(^_^)/~~