光と歌のステラノート   作:ミヤイ

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第6話 光が残したもの

 ──暗闇が、息をしていた。

 

 無数の電子ノイズが渦巻く黒い空間。その中心に、漆黒の衣を纏ったひとつの影が立っていた。

 その目は、まるで人間を嘲るように赤く細められている。

 

「愚かな人間たち……。救いを差し伸べてやるつもりだったというのに……!」

 

 指先で虚空をなぞると、そこに映し出されたのは──ティガ。

 光の巨人が、ゴルザとメルバを圧倒する姿だった。

 

「……またお前か。あの忌まわしき力が、我らの計画を狂わせた」

 

 闇の中で嗤う。

 キリエル人──兼ねてから自身の力で人類を導く救世主になろうとした異形の存在。

 彼はゴルザとメルバを、都市へと差し向けた張本人だった。

 

「人々が恐怖に震え、絶望したその時こそ、我が教義が根付く時だった……だが、“光”が希望を与えてしまった。ならば次は……その光を砕くまで」

 

 彼は片手を掲げ、闇の中にひとつの影を呼び出す。

 

「行け……人間たちに、真の絶望を見せてやるのだ。光を信じる愚かしさを、思い知らせてやれ」

 

 低く響く嘲笑が、暗闇の底に消えていった──。

 

 ⸻

 

 

 朝の通学路。

 いつもの坂道を、澁谷かのんはゆっくりと登っていた。

 制服のスカートが風に揺れる。だが、その表情は晴れやかではない。

 

(……昨日のあれは、夢じゃなかったんだよね)

 

 彼女の脳裏には、昨日の惨劇が何度もフラッシュバックしていた。

 

 ──フェス当日。

 ステージの空へ、突如響いた轟音。

 地割れ、逃げ惑う人々、そして二体の怪獣──ゴルザとメルバ。

 

 瓦礫が飛び、照明が崩れ、音響設備が爆ぜた。

 観客席は無人となり、希望の歌声が掻き消された。

 

「……こんなじゃ、ライブ出来ません」

 可可の声は、粉塵と涙に混ざって掠れていた。

 衣装は破れ、白いフリルには黒い煤がこびりついていた。

 

 そんな彼女の肩に、そっと手を置いたのは嵐千砂都だった。

「ふたりとも、無事だったんだね! よかった……でも、ヒロトくんは?」

 

「ヒロトくん……いないの。さっきからずっと姿が見えなくて」

 

 かのんの声が震える。

 瓦礫の向こう、あの光の巨人とヒロトが重なって見えた気がしたのは──気のせいだったのだろうか。

 

「早く逃げよう。危ないよ!」

 千砂都が言う。

 

 しかし、可可は動かなかった。

「……私、このステージで歌いたかったのデス。この夢の場所で」

 

 その言葉が、かのんの胸を強く打った。

 逃げるか、歌うか。

 その選択が、彼女の中で静かに揺れていた。

 

「可可ちゃん……歌おう」

 

「かのん? でも……」

 

「スクールアイドルのステージで歌うのが夢なんでしょ? 

 誰も見ていないかもしれない。でも、夢を諦めたら、私たちの“歌”は終わっちゃう。

 だから、届けようよ。──どんな形でも」

 

「……分かりました。かのん、一緒に歌いましょう!」

 

 その瞬間、千砂都がスマホを取り出す。

「SNSのライブ配信、まだ繋がる! これならみんなに届くかも!」

 

「それだ!」

 かのんは涙の跡を拭い、壊れかけたステージの上に立つ。

 粉塵に包まれた中、照明も音響もない。けれど、その声だけは確かに響いていた。

 

「私たち、結ヶ丘女子スクールアイドルです! 

 今、大変な状況だけど……少しでも希望が届くように、歌います!」

 

 歌が始まる。

 光もない、歓声もない世界で。

 だが、スマホ越しに映ったその歌声は──夜を貫いていった。

 

 

 ──

 

 結ヶ丘へと続く坂道を歩きながら街を眺めるかのん。

 まだ街のあちこちには、昨日の災害の痕が残っている。

 折れた電柱、ひしゃげたガードレール、そして焦げた地面。

 

「……理事長との約束、守れなかったな」

 

 呟きは風に消えた。

 昨日、あのフェスでの勝利を約束していた。だが結果は、怪獣の襲撃による中止。

 観客も逃げ、照明も消え、音も奪われた。

 それでも──。

 

(あの瞬間、確かに“届いた”気がしたの。歌を、光に)

 

 かのんの脳裏には、粉塵の中で歌った自分たちの姿が蘇る。

 瓦礫の隙間で微かに反射していた光は、ティガの放った“希望の残光”のようだった。

 

 ふと、坂の下から聞こえる声。

 

「かのーん! かのんーっ!!」

 

 顔を上げると、唐可可が息を切らして駆け上がってくる。

 両手にスマホを握りしめて、まるで宝物のように抱えていた。

 

「ど、どうしたの可可ちゃん? そんなに慌てて……」

 

「バ、バズったのデス!! ライブ配信が、ものすごいことになってるのデス!!」

 

「え……?」

 

 可可がスマホを差し出す。

 画面には、再生回数──37万再生。

 そしてコメント欄には、見知らぬ人々の言葉が溢れていた。

 

「涙が出た。あの状況で歌えるなんてすごい」

「光と歌に救われた気がする」

「この子たち……誰?」

 

 かのんの瞳が見開かれる。

 指が震え、思わず口元を押さえた。

「……届いてた。ほんとに、みんなに届いてたんだ」

 

「そうなのデス! 世界中の人が見たのデスよ! これ、夢じゃないのデス!」

 

 二人の間を、朝の光が包み込んでいった。

 

 ⸻

 

 

 その日の放課後。

 かのんと可可は、勢いのまま理事長室へと駆け込んだ。

 千砂都もその後ろで息を切らせている。

 

「失礼しますっ!!」

 

 理事長は、デスクのモニターに映る映像をじっと見つめていた。

 それは昨日のライブ配信の映像──

 壊れたステージの上、粉塵の中で歌う二人の姿。

 

「……まさか、怪獣災害のさなかにライブをしていたとは」

 

「す、すみません! でも、どうしてもあの場所で歌いたくて……!」

 

「わたしたち、約束守れなかったけど……でも、歌で少しでも希望を届けたくて!」

 かのんが一歩前へ出て頭を下げた。

 

 理事長はしばらく黙っていたが、やがてモニターから目を離し、静かに頷いた。

 

「……この映像、すでに話題になっています。SNSトレンドでも上位に。

 正直、あのフェスで1位を取るよりも、はるかに大きな影響力を持っています」

 

「じゃあ……!」

 

「はい。正式に──スクールアイドル同好会としての活動を、認めましょう」

 

「やったデス──!!!」

 可可がその場で飛び上がる。

 かのんの目に涙が浮かび、千砂都は安堵の笑みを浮かべた。

 

 理事長は微笑みながらも、真剣な声で続けた。

「ですが……これからは責任を持ちなさい。

 あなたたちの歌には、人を動かす力がある。光が希望を照らすように、あなたたちは歌で導くのです」

 

「はいっ!」

 

 かのんの声は、真っすぐに理事長室の天井へ響いた。

 

 

 ──

 

 

 渋谷のカフェ。

 ガラス越しに街を見下ろすテーブル席で、一人の少女がタブレットを見つめていた。

 

「……“結ヶ丘女子スクールアイドル”ね」

 

 彼女の名は──平安名すみれ。

 サングラスを外し、タブレットに映るクーカーの映像を巻き戻す。

 

「こんな状況で笑って歌うとか、正気じゃないわ。でも……映える」

 

 再生回数、フォロワー数、コメント──その全てが彼女の計算を刺激していた。

「ふーん……これ、売れる匂いしかしないじゃない」

 

 コーヒーを一口啜りながら、唇の端を吊り上げる。

 

「スクールアイドル……いいじゃない。芸能界復帰の踏み台には、もってこいね」

 

 すみれは立ち上がり、手鏡で自分の髪を整えると、

 まるでスポットライトの下に立つ女優のように呟いた。

 

「平安名すみれ、再デビューよ!」




如何でしたか?
かのん目線での話。
人の居ないステージは、初代ラブライブを彷彿とさせる物がありました。
配信という方法で誰かに届いて欲しいという流れがLiella!ファーストライブのオマージュへと自然となってました。

これから彼女たちは、どうなるのか次回をお楽しみに!
それでは、次回!
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