光と歌のステラノート   作:ミヤイ

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人の性格や考えていることなどは、難しいなと書いて感じました
そんなお話です笑
気軽に楽しんでください。
どうぞ!


第7話 その出会いは、嵐の如く

 放課後の校舎は、夕陽に照らされて淡い金色を帯びていた。

 窓の外からは吹奏楽部の音が微かに聞こえ、まだ春の名残を残す風がカーテンを揺らしている。

 

 その扉の前で、俺──天城ヒロトは立ち止まった。

 扉越しには、笑い声が響いている。

 何度も救われた声。

 あの夜、崩れた街の中で、光と共に響いた歌声──。

 

(……俺が、ここにいてもいいのか?)

 

 一瞬、迷いが過った。

 でも、あのライブを見て、俺は決めた。

 戦いの光だけじゃない。人の心が放つ光も、確かにある。

 その場所に、俺も立ちたかった。

 

 ノックをして、そっと扉を開ける。

 

「……失礼します」

 

「──あ、ヒロトくん!」

 

 用意されていたパイプ椅子に座っていた澁谷かのんが、ぱっと顔を上げた。

 橙色の光を浴びて、その髪がほんのりと輝いて見える。

 

「来てくれたんだ!」

 

 可可が椅子から飛び上がるように立ち上がり、ぱたぱたと駆け寄ってくる。

 

「ヒロト、ずっと待ってたのデスよ!」

 

 千紗都も笑いながら頷く。

 

「この前のライブ配信、見てくれた?」

 

「……ああ。見た。というか、忘れられない」

 

 俺は静かに答えた。

 言葉を選びながら、一歩前に進む。

 

「街が壊れて……人が逃げ惑って……それでも、君たちは歌い続けてた。

 あの時の“光”は、俺の中にもちゃんと届いた。

 だから……俺も、君たちの力になりたい」

 

 その瞬間、部屋の空気が柔らかくなる。

 かのんが胸の前で両手を組み、目を細めた。

 

「……ありがとう、ヒロトくん。すごく、嬉しい」

 

「ようこそなのデス!」

「これで三人目だね!」

 

 みんなが笑い合う中、胸の奥で小さな安心が広がっていった。

 この場所は、戦場じゃない。

 でも、心の光を探す人たちが確かにいる。

 ──ここが、今の俺の居場所なんだ。

 

 そんな穏やかな空気を切り裂くように、廊下から高い声が響いた。

 

「ここがスクールアイドル同好会かしら」

 

 ガラッ! 

 勢いよく扉が開く。

 夕陽を背に立っていたのは、一人の少女だった。

 

 ⸻

 

「はーいっ! 注目~! 

 今日から私、平安名すみれがこのスクールアイドル同好会に加わりまーす!」

 

 腰に手を当ててポーズを決めるその姿は、どこか舞台俳優のように堂々としていた。

 金髪に星のピアス、長い脚。

 一瞬で場の空気を掻っ攫うほどの存在感。

 

「えっ……えっと……」

 かのんが困惑しながら笑う。

「え、えぇと……加入希望の方、ですか?」

 

「その通り! 平安名すみれ、元子役、元ミュージカル経験者! 

 スクールアイドルでも、センターを狙っちゃう系ガールよ☆」

 

 可可がぽかんと口を開けたまま言った。

 

「センター……? でも、スクールアイドルは“みんな”で歌うのデス」

 

「みんなで? なにそれ、地味じゃない?」

 すみれは笑いながら、かのんの机に腰かける。

「せっかくスポットライトがあるのに、どうしてわざわざ全員で分け合うの? 

 センターが一番輝くのが当然でしょ?」

 

 その言葉に、部屋の空気が一変した。

 かのんの表情が曇り、可可の手がぎゅっと握られる。

 

「……みんなの“想い”を受けて輝く姿に憧れたのデス。

 一人じゃなくて、みんなで一緒に作るんだって……そう思ってマス」

 

「ふーん……でもさ、観客が見てるのはセンターの子だけだよ?」

 

 その冷たい一言が、可可の心を突き刺した。

 彼女は言葉を詰まらせ、視線を落とす。

 

「すみれさん、言いすぎだよ」

 かのんが間に入る。

「私たちは、誰かが主役ってわけじゃない。

 みんなでステージを作るんだよ」

 

「その“みんな”に、私がセンターで入るだけ。何が悪いの?」

 

「っ……!」

 

 千紗都が慌てて止めようとしたが、もう遅かった。

 可可は机に置いていたリボンを握りしめ、立ち上がる。

 

「そんなの、スクールアイドルじゃないのデス!」

 

 沈黙。

 夕陽が差し込む部屋の中で、二人の視線がぶつかる。

 まるで“光”と“影”がせめぎ合うように。

 

「じゃあ、私はセンターになれないならやめるわ」

 すみれは肩をすくめて笑った。

「輝けない舞台に立つ意味、ないもの」

 

 そのまま扉へ歩き出し、振り返ることもなく言い放つ。

 

「本当のスターは、“一人”で輝くのよ」

 

 ──ガチャン。

 閉まった扉の音だけが、部屋に響いた。

 

 静まり返る部室。

 可可は唇を噛み、俯いたまま小さく呟いた。

 

「……違うのデス。スクールアイドルは……“みんなで”輝くのデス……」

 

 かのんはそんな可可の肩にそっと手を置いた。

 ヒロトは、二人の横顔を見つめながら思う。

 

(“光”って、なんだろうな……)

 

 誰かが眩しく輝く時、誰かが影になる。

 けれど、あの時見たティガの光は──誰かのために輝いていた。

 その違いが、今の自分にはまだ、うまく言葉にできなかった。

 

 

 ──

 

 部室を出て、校舎の廊下を歩く。

 足音が静まり返った廊下に響くたび、今日の出来事が頭の中で繰り返された。

 

(……あの空気、最悪だったな)

 

 すみれの言葉、可可の涙。

 かのんの困ったような顔。

 そして、自分は何も言えなかった。

 どちらの気持ちも分かるようで、でもどちらにも寄り添えなかった。

 

(俺は……何を守りたかったんだろう)

 

 そんな思考の渦の中、不意に背後から声がした。

 

「……天城ヒロトさん」

 

 振り返ると、そこに立っていたのは葉月恋だった。

 薄紫のリボンを風に揺らしながら、静かにこちらを見つめている。

 

「葉月さん……?」

 

「少し、時間をいただけますか」

 

 どこか張り詰めた声だった。

 俺は頷き、彼女に続いて中庭へと向かう。

 

 ⸻

 

 夜の帳が下り始めた校舎裏。

 オレンジから群青へと変わる空の下、木々の間を抜けて冷たい風が吹いた。

 噴水の水音が、遠くで小さく響いている。

 

 恋は立ち止まり、振り返った。

 真剣な眼差し──いつも冷静な彼女が、何かを決意しているように見えた。

 

「あなたに、ひとつだけ聞きたいことがあります」

 

「……なんですか?」

 

「──あの日。

 フェスで、怪獣と光の巨人が戦っていた時、あなたはどこにいましたか?」

 

 心臓が、ひとつ跳ねた。

 彼女の瞳は嘘を許さない。

 まるで、心の奥まで透かして見ているようなまっすぐな視線だった。

 

「どうして、そんなことを……?」

 

「理由があります」

 恋は、少し目を伏せて続ける。

「ライブ配信の映像、何度も見返しました。

 あの光の巨人が現れる直前……あなたが、かのんさんたちの近くから姿を消していたんです。

 そして、戦いが終わった後も、あなたの姿だけがどこにもない。

 この間もあなたが姿を消した途端に光の巨人が現れました。

 ……偶然とは思えません」

 

 沈黙。

 冷たい風が頬を撫でた。

 

(……やっぱり、気づかれてたか)

 

 彼女の洞察力を侮っていた。

 創設者の娘であり、常に冷静な観察眼を持つ彼女──その目から逃れるのは難しい。

 

「ヒロトさん。

 あなたは……あの巨人と、何か関係があるんですか?」

 

 問いの重さが、夜気を震わせた。

 

 俺は答えを探したが、すぐには言葉が出てこなかった。

 戦いの記憶、破壊された街、逃げ惑う人々、そして歌──。

 心の奥で、かのんたちの歌声が静かに響く。

 

 やがて、口を開く。

 

「……もし、そうだとしたら。

 それでも、俺は“普通の生徒”でいたいんだ。

 この学園で……かのんたちと一緒に、何かを探したい」

 

 恋の目が揺れた。

 けれどすぐに、静かに頷いた。

 

「……わかりました。

 無理に聞くつもりはありません。

 ただ……あなたが何者であろうとも、私は否定しません」

 

「……え?」

 

「かのんさんたちを見ていれば、わかります。

 あなたがここにいることで、みんなが変わり始めている。

 あのライブも、あなたがいなければ実現しなかった。

 ──だから、私は信じます。あなたの事を」

 

 その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。

 戦士としてではなく、“仲間”として必要とされる。

 それが、こんなにも温かいことだなんて。

 

「ありがとう、葉月さん」

 

「いいえ」

 恋は微かに微笑んだ。

「でも、もし……再び怪獣が現れたら。

 その時は、私にもできることを考えます。

 この結ヶ丘を、そしてみんなを守るために」

 

 その真剣な眼差しに、俺もまた頷いた。

 

「……約束だ」

 

「ええ。これは、私たちの約束です」

 

 夜の空を、ひとすじの流れ星が横切った。

 その光を見上げながら、ヒロトはそっと拳を握る。

 それは、戦士としての誓いではなく。

 ひとりの仲間としての、静かな決意だった。




如何でしたか?
今回は、人間ドラマチックに書いてみました。
久々の恋ちゃんの登場でしが、何やら勘づいている様子……。
次回以降どう関係を築いていくのか注目です

また次回!
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