そんなお話です笑
気軽に楽しんでください。
どうぞ!
放課後の校舎は、夕陽に照らされて淡い金色を帯びていた。
窓の外からは吹奏楽部の音が微かに聞こえ、まだ春の名残を残す風がカーテンを揺らしている。
その扉の前で、俺──天城ヒロトは立ち止まった。
扉越しには、笑い声が響いている。
何度も救われた声。
あの夜、崩れた街の中で、光と共に響いた歌声──。
(……俺が、ここにいてもいいのか?)
一瞬、迷いが過った。
でも、あのライブを見て、俺は決めた。
戦いの光だけじゃない。人の心が放つ光も、確かにある。
その場所に、俺も立ちたかった。
ノックをして、そっと扉を開ける。
「……失礼します」
「──あ、ヒロトくん!」
用意されていたパイプ椅子に座っていた澁谷かのんが、ぱっと顔を上げた。
橙色の光を浴びて、その髪がほんのりと輝いて見える。
「来てくれたんだ!」
可可が椅子から飛び上がるように立ち上がり、ぱたぱたと駆け寄ってくる。
「ヒロト、ずっと待ってたのデスよ!」
千紗都も笑いながら頷く。
「この前のライブ配信、見てくれた?」
「……ああ。見た。というか、忘れられない」
俺は静かに答えた。
言葉を選びながら、一歩前に進む。
「街が壊れて……人が逃げ惑って……それでも、君たちは歌い続けてた。
あの時の“光”は、俺の中にもちゃんと届いた。
だから……俺も、君たちの力になりたい」
その瞬間、部屋の空気が柔らかくなる。
かのんが胸の前で両手を組み、目を細めた。
「……ありがとう、ヒロトくん。すごく、嬉しい」
「ようこそなのデス!」
「これで三人目だね!」
みんなが笑い合う中、胸の奥で小さな安心が広がっていった。
この場所は、戦場じゃない。
でも、心の光を探す人たちが確かにいる。
──ここが、今の俺の居場所なんだ。
そんな穏やかな空気を切り裂くように、廊下から高い声が響いた。
「ここがスクールアイドル同好会かしら」
ガラッ!
勢いよく扉が開く。
夕陽を背に立っていたのは、一人の少女だった。
⸻
「はーいっ! 注目~!
今日から私、平安名すみれがこのスクールアイドル同好会に加わりまーす!」
腰に手を当ててポーズを決めるその姿は、どこか舞台俳優のように堂々としていた。
金髪に星のピアス、長い脚。
一瞬で場の空気を掻っ攫うほどの存在感。
「えっ……えっと……」
かのんが困惑しながら笑う。
「え、えぇと……加入希望の方、ですか?」
「その通り! 平安名すみれ、元子役、元ミュージカル経験者!
スクールアイドルでも、センターを狙っちゃう系ガールよ☆」
可可がぽかんと口を開けたまま言った。
「センター……? でも、スクールアイドルは“みんな”で歌うのデス」
「みんなで? なにそれ、地味じゃない?」
すみれは笑いながら、かのんの机に腰かける。
「せっかくスポットライトがあるのに、どうしてわざわざ全員で分け合うの?
センターが一番輝くのが当然でしょ?」
その言葉に、部屋の空気が一変した。
かのんの表情が曇り、可可の手がぎゅっと握られる。
「……みんなの“想い”を受けて輝く姿に憧れたのデス。
一人じゃなくて、みんなで一緒に作るんだって……そう思ってマス」
「ふーん……でもさ、観客が見てるのはセンターの子だけだよ?」
その冷たい一言が、可可の心を突き刺した。
彼女は言葉を詰まらせ、視線を落とす。
「すみれさん、言いすぎだよ」
かのんが間に入る。
「私たちは、誰かが主役ってわけじゃない。
みんなでステージを作るんだよ」
「その“みんな”に、私がセンターで入るだけ。何が悪いの?」
「っ……!」
千紗都が慌てて止めようとしたが、もう遅かった。
可可は机に置いていたリボンを握りしめ、立ち上がる。
「そんなの、スクールアイドルじゃないのデス!」
沈黙。
夕陽が差し込む部屋の中で、二人の視線がぶつかる。
まるで“光”と“影”がせめぎ合うように。
「じゃあ、私はセンターになれないならやめるわ」
すみれは肩をすくめて笑った。
「輝けない舞台に立つ意味、ないもの」
そのまま扉へ歩き出し、振り返ることもなく言い放つ。
「本当のスターは、“一人”で輝くのよ」
──ガチャン。
閉まった扉の音だけが、部屋に響いた。
静まり返る部室。
可可は唇を噛み、俯いたまま小さく呟いた。
「……違うのデス。スクールアイドルは……“みんなで”輝くのデス……」
かのんはそんな可可の肩にそっと手を置いた。
ヒロトは、二人の横顔を見つめながら思う。
(“光”って、なんだろうな……)
誰かが眩しく輝く時、誰かが影になる。
けれど、あの時見たティガの光は──誰かのために輝いていた。
その違いが、今の自分にはまだ、うまく言葉にできなかった。
──
部室を出て、校舎の廊下を歩く。
足音が静まり返った廊下に響くたび、今日の出来事が頭の中で繰り返された。
(……あの空気、最悪だったな)
すみれの言葉、可可の涙。
かのんの困ったような顔。
そして、自分は何も言えなかった。
どちらの気持ちも分かるようで、でもどちらにも寄り添えなかった。
(俺は……何を守りたかったんだろう)
そんな思考の渦の中、不意に背後から声がした。
「……天城ヒロトさん」
振り返ると、そこに立っていたのは葉月恋だった。
薄紫のリボンを風に揺らしながら、静かにこちらを見つめている。
「葉月さん……?」
「少し、時間をいただけますか」
どこか張り詰めた声だった。
俺は頷き、彼女に続いて中庭へと向かう。
⸻
夜の帳が下り始めた校舎裏。
オレンジから群青へと変わる空の下、木々の間を抜けて冷たい風が吹いた。
噴水の水音が、遠くで小さく響いている。
恋は立ち止まり、振り返った。
真剣な眼差し──いつも冷静な彼女が、何かを決意しているように見えた。
「あなたに、ひとつだけ聞きたいことがあります」
「……なんですか?」
「──あの日。
フェスで、怪獣と光の巨人が戦っていた時、あなたはどこにいましたか?」
心臓が、ひとつ跳ねた。
彼女の瞳は嘘を許さない。
まるで、心の奥まで透かして見ているようなまっすぐな視線だった。
「どうして、そんなことを……?」
「理由があります」
恋は、少し目を伏せて続ける。
「ライブ配信の映像、何度も見返しました。
あの光の巨人が現れる直前……あなたが、かのんさんたちの近くから姿を消していたんです。
そして、戦いが終わった後も、あなたの姿だけがどこにもない。
この間もあなたが姿を消した途端に光の巨人が現れました。
……偶然とは思えません」
沈黙。
冷たい風が頬を撫でた。
(……やっぱり、気づかれてたか)
彼女の洞察力を侮っていた。
創設者の娘であり、常に冷静な観察眼を持つ彼女──その目から逃れるのは難しい。
「ヒロトさん。
あなたは……あの巨人と、何か関係があるんですか?」
問いの重さが、夜気を震わせた。
俺は答えを探したが、すぐには言葉が出てこなかった。
戦いの記憶、破壊された街、逃げ惑う人々、そして歌──。
心の奥で、かのんたちの歌声が静かに響く。
やがて、口を開く。
「……もし、そうだとしたら。
それでも、俺は“普通の生徒”でいたいんだ。
この学園で……かのんたちと一緒に、何かを探したい」
恋の目が揺れた。
けれどすぐに、静かに頷いた。
「……わかりました。
無理に聞くつもりはありません。
ただ……あなたが何者であろうとも、私は否定しません」
「……え?」
「かのんさんたちを見ていれば、わかります。
あなたがここにいることで、みんなが変わり始めている。
あのライブも、あなたがいなければ実現しなかった。
──だから、私は信じます。あなたの事を」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。
戦士としてではなく、“仲間”として必要とされる。
それが、こんなにも温かいことだなんて。
「ありがとう、葉月さん」
「いいえ」
恋は微かに微笑んだ。
「でも、もし……再び怪獣が現れたら。
その時は、私にもできることを考えます。
この結ヶ丘を、そしてみんなを守るために」
その真剣な眼差しに、俺もまた頷いた。
「……約束だ」
「ええ。これは、私たちの約束です」
夜の空を、ひとすじの流れ星が横切った。
その光を見上げながら、ヒロトはそっと拳を握る。
それは、戦士としての誓いではなく。
ひとりの仲間としての、静かな決意だった。
如何でしたか?
今回は、人間ドラマチックに書いてみました。
久々の恋ちゃんの登場でしが、何やら勘づいている様子……。
次回以降どう関係を築いていくのか注目です
また次回!