光と歌のステラノート   作:ミヤイ

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前回の続きです


第8話 センター争奪戦!

 翌日の放課後。

 夕陽が沈みはじめ、結ヶ丘の屋上がゆっくりと紫色へ染まりゆく。

 可可とすみれが、わずか数歩の距離で睨み合っている。

 

「センターは……かのんが相応しいデス!」

 可可が胸を張り、迷いのない声で言う。

 

「なんでよっ!? 私が一番映えるし、歌えるし、可愛いんだから!」

 

 すみれは負けじと叫ぶ。

 その気迫は確かに本気で、彼女なりの必死さがにじんでいた。

 

「ダンスも歌も、大事なのは“心”デス!」

 

 可可がすかさず言い返す。

 

「かのんの歌は心に届くデス! だからセンターは、かのんデス!」

 

 かのんは二人の間で言葉を失い、その視線を泳がせた。

 

「ちょ、ちょっと可可ちゃん……私、そんなつもりじゃ──」

 

「だったら確かめればいいじゃない!」

 

 すみれの声が屋上に響いた。

 

「勝負よ、かのん! どっちがセンターにふさわしいか、“歌”で決めましょう!」

 

 可可が満足げに頷く。

 

「自信あるならやればいいデス!」

 

「えぇ……!?」

 

 かのんは完全に置いていかれていた。

 静寂。

 屋上の空気が、一瞬で張りつめる。

 そして、かのんは小さく息を吸った。

 

「……じゃあ、歌わせてもらうね」

 

 ヒロトは、かのんを見つめながら胸の奥がひりつくのを感じた。

(無理してる……本当はこんな勝負、望んでないのに)

 

 

 かのんは目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。

 

「♪ ほんのちょっぴり〜悲しい時なら……!」

 

 その瞬間──屋上の空気が変わった。

 

 透き通るような声。

 優しさと力強さを同時に持つ歌。

 夕暮れが溶けるように、音が空へと広がっていく。

 

 すみれの瞳が大きく見開かれた。

 

(……嘘……こんな……)

 

 かのんの歌は綺麗なだけじゃない。

 “人を励ます強さ”があった。

 可可は手を胸に当て、嬉しそうに目を潤ませている。

 ヒロトはただ、胸が熱くなるのを止められなかった。

 

(これが……かのんの、本当の輝き……)

 

 歌が終わると、風がスッと戻ってきた。

 

 しばらく、誰も言葉を発せなかった。

 

 やがて──すみれが震える声を漏らす。

 

「……無理よ……こんなの……勝てるわけない……」

 

 自分のプリズムのようなプライドが、かのんの歌声で粉々になった。

 その表情には、悔しさも、悲しさも、憧れさえも混ざっていた。

 

「輝けないなら……スクールアイドルなんて……辞めてやる!!」

 

 すみれは背を向け、屋上の扉へ駆け出した。

 かのんが「待って!」と伸ばした手は、空を掴む。

 

 扉が強い音を立てて閉まった。

 

「思い知ったかデス! これでセンターは──」

 

「やめて……可可ちゃん!」

 

 かのんは肩を震わせていた。

 さっきまで歌っていた温かい声は、影を落としている。

 

「すみれちゃん……本当に、辞めちゃうのかな……?」

 

 その瞳は泣きそうだった。

 勝って嬉しいわけがなかった。

 

 可可もようやく気づく。

 

「かのん……」

 

 風が吹き抜けたあと──ヒロトが静かに歩き出した。

 かのんが顔を上げる。

 

「ヒロトくん……?」

 

「──後は、任して」

 

 低く、でも優しい声だった。

 

「すみれは今、誰かが必要だ。

 かのんじゃ頭が整理できなくなる。可可でも違う」

 

 ヒロトは拳を握る。

 

「俺が行く。あいつを連れ戻してくる」

 

 かのんは唇を噛み、首をふる。

 

「でも……」

 

「大丈夫。かのんはここにいて。

 君のせいじゃない。君は……歌っただけだ」

 

 かのんの胸がきゅっと締め付けられる。

 

 そしてヒロトは背を向け、屋上の扉へ走り出す。

 

(待ってろよ、すみれ。

 今は……放っておける状態じゃない)

 

 彼の姿は、扉の向こうへと消えた。

 

 夕風がふたりを残して吹いていく。

 

 

 ──

 

 階段を下りた瞬間、校舎の廊下に差し込む夕陽を見た。

 オレンジ色の光の中を、すみれの影が小さく揺れながら遠ざかっていく。

 

(速い……!)

 

 普段は気取って歩いているすみれだが、今の走りは必死だった。

 

「すみれさん!」

 

 呼びかけても、彼女は足を止めない。

 

「放っておいてよ!」

 

「放っとけるわけないだろ!」

 

 ヒロトも全力で追いすがる。

 

 すみれは感情を押し殺しているのか、肩が震えていた。

 悔しさ、恥ずかしさ、自分への怒り……全部をごちゃ混ぜにして走っている──そんな背中だった。

 

 校門を抜け、坂道へと飛び出したその瞬間──

 すみれが足を止めた。

 

 夕陽を背に、風に巻かれたような金色の髪。

 背中越しでもわかるほど、気持ちが不安定だ。

 

「……なんで、追ってくるの……?」

 

 振り返った顔は、必死に平気を装っていた。

 だけど目は赤く、少し潤んでいる。

 

 ヒロトは息を整えながら、静かに言った。

 

「君の背中が、そう言ってたからだよ」

 

「は……? 意味わかんないんだけど」

 

「“助けて”って、言ってた」

 

「────っ」

 

 すみれの肩が揺れた。

 強がりも、皮肉も、全部吹き飛ばされてしまうような言葉だったのだろう。

 

 

「……あたし……負けたくなんてなかった……!」

 

 すみれの声は震えていた。

 けれど、それはまだ“表面”にすぎない。

 ヒロトが一歩、近づく。

 

「すみれさん……」

 

「努力したの……本当に……! 

 かのんがセンターに相応しいってことなんて、最初からわかってた! 

 でも……それでも……一度くらい……勝ちたかったの!」

 

 吐き出された言葉は、苦しくて、悔しくて、惨めだった。

 

 そして──

 すみれは自分でも抑えられないように、過去へと遡り始める。

 

「……ねぇ、ヒロト。

 昔、あたし……子役してたの、知ってる?」

 

「詳しくは──」

 

「……全部ね、負けてたのよ」

 

 夕陽に照らされた横顔が、痛いほどに歪んだ。

 

「主役のオーディション、何十回も受けた……! 

 台詞も歌もダンスも、必死で練習した……! 

 でも……“主役の子の友達”とか、“通りすがりの少女”とか……

 そんな役ばっかりだった!」

 

 声が震え、記憶がこぼれ落ちるように言葉が続いた。

 

「最終審査まで残って……期待させられて……

 でも最後の最後で、いつも別の子に持っていかれた。

 その子がセンターで、あたしは……隅っこで笑ってるだけ」

 

 握りしめた拳が、白くなる。

 

「何度、泣いたと思う……? 

 “平安名すみれは脇役がお似合いね”って、何度言われたと思う……?」

 

 必死に笑っていた子ども時代のすみれが、ヒロトには見える気がした。

 

「だから……“輝きたい”って、思ったの。

 生まれて初めて本気で……自分のために輝きたかった!」

 

 すみれの声は、涙で途切れ途切れになっていた。

 

「なのに……! 

 なんで、あたしはいつも……主役になれないのよ……!」

 

 子どもの頃から長年抱えてきた願い。

 叶わなくて、届かなくて、何度も折れて、それでも諦められなかった夢。

 

 その痛みが、一気に溢れだしていた。

 ヒロトは、すみれの言葉を一つも遮らず、すべて受け止めた。

 

「……君がどれだけ頑張ってきたか、今ので全部わかった」

 

「やめてよ……そんな優しい言い方……

 今さら慰められても……」

 

「慰めじゃないよ。

 君はずっと“主役になりたかった子”なんだ。

 負けたくて負けてたんじゃない。

 “勝ちたくて、努力し続けてきた子”なんだ」

 

 すみれは顔を上げられなかった。

 涙が次々にこぼれてしまうから。

 

「その気持ち……俺は、ちゃんとわかってる」

 

「……ねぇヒロト。

 あたし……また同じ繰り返しなのかな……?」

 

「繰り返し?」

 

「主役になりたいって思って……

 本気で挑んで……

 でも、最後に負ける。

 いつもの“脇役”に戻される」

 

 その言葉は、とても小さくて、震えていた。

 

「怖いの……

 またあの頃みたいに……全部無駄だったって思わされるのが……」

 

 子役の頃の傷が、まだずっと残っていたのだ。

 それを押し隠して、強気なキャラで笑っていたに過ぎない。

 

「すみれさん」

 

 ヒロトはまっすぐな目で言った。

 

「君はもう“脇役の子ども”じゃない。

 君は……結ヶ丘のスクールアイドル、平安名すみれとしてこれからのステージに立つんだ。

 もう一度言うよ──

 “もっと胸を張っていい。もっと自分を信じていい”」

 

 すみれの涙が、風に流されながら輝いた。

 

「……そんなこと言われたら……

 本当に……期待したくなるじゃない……」

 

「していいんだよ」

 

 すみれは小さく笑い、涙を拭った。

 

「……少しだけ、勇気出たかも」

 

「じゃあ、みんなの所に戻ろうか」

 

 夕陽の中、二人はゆっくり歩き出した。

 

 

 泣いたあとの風は、少しひんやりして心地よかった。

 すみれは目元を整えながら、ヒロトの隣を歩く。

 

「……顔、変じゃない?」

 

「全然。むしろ、強そうだよ」

 

「強そうって……もっと他にあるでしょ、言い方!」

 

 すみれが軽く肘で小突く。

 さっきまでの涙を思えば、そのやり取りだけで十分だった。

 

 

 ──

 

 階段を上り、屋上の扉を開くと──

 

「すみれ!」「すみれさんっ!」

 

 かのんと可可が同時に立ち上がり、駆け寄ってきた。

 

 その顔を見た瞬間、すみれは思わず視線を落とす。

 

「あ……その……」

 

 謝るのが怖い。

 自分が何を言ったかもわかっているから。

 

 けれど。

 

「すみれちゃん。……よかった、戻ってきてくれて」

 

 かのんの声は、優しすぎるほど優しかった。

 

「……え。怒ってないの?」

 

「怒ってマス!」

 可可が叫ぶ。

「すみれ、かのんを泣かせました! 最低デス! でも……でも、戻ってきたから……まだ許す余地、ありマス!」

 

「余地ってアンタねぇ……」

 

 思わず苦笑した。

 泣いたあとで笑えるなんて、信じられなかった。

 

「……さっきは、ごめんなさい。

 あたし、自分の事ばかりでみんなのこと見ようとはしてなかった……」

 

 かのんも可可も、そしてヒロトも黙って聞いていた。

 

「悔しくて……負けたくなくて……

 でも……自分の気持ち、素直に言ったら……

 なんか、全部怖くなっちゃって……」

 

 かのんがそっと、すみれの手を握った。

 

「大丈夫だよ、すみれちゃん。

 一緒に歌えるだけで──それだけで……わたし、嬉しいんだ。

 誰がセンターとか関係ない、みんなで歌おうよ!」

 

「かのん……」

 

 すみれの目がまた少し揺れる。

 

「……でも、かのん。

 あんた、歌の才能あるわよ。

 勝てる気しなかった。ほんっと悔しかったんだから」

 

「え、えへへ……そんなことないよ……」

 

「あるの!!」

 

 屋上に笑い声が広がる。

 

 涙と笑顔が混ざって、ようやく本当の“仲間”に戻れた気がした。

 

 

「じゃあ……かのんセンターで、いい?」

 

 すみれが自分からそう言った瞬間、

 かのんも可可もヒロトも、驚いて固まった。

 

「本当にいいの?」

 

 かのんが尋ねる。

 

「いいわよ。

 かのんの輝きに負けないくらい、隣で輝いてみせる!

 実力でセンターを奪い取ってみせるわ!」

 

 その言葉は、以前よりずっと強く、澄んでいた。

 

 可可が満面の笑みで手を叩く。

 

「すみれ、かっこいいーっ!! 

 やっぱり可可の見込んだライバル! 

 歓迎するのデス!」

 

「ライバル言うな!」

 

「ふふっ……なんか、みんな、いい感じに戻ってきたね」

 

 かのんが笑う。

 ヒロトも肩の力を抜いた。

 

「これでようやく、スタート地点に立てたね」

 

「……スタート地点?」

 

「うん。ここから始まるんだよ」

 

 夕陽が沈み、街に灯りがともる。

 

 屋上には4つの影が並んだ。

 

 仲間の影。

 未来へ歩く影。

 

「──よし! それじゃあ……」

 

 かのんが深呼吸して、手を差し出した。

 

「みんなで……頑張ろう!」

 

 可可が手を重ねる。

 

「はいデス!」

 

 すみれも続く。

 

「負けないわよ、アンタたち」

 

 ヒロトも最後に手を乗せた。

 

「……気持ちは一つ、これから頑張ろう!」

 

 4つの手が重なり、夕暮れの風が吹いた。

 

 まだ小さな光。

 けれど、この光は確かに未来へ続く。

 

「──始まるね」

 

 かのんのかすかな呟きが、夜の空に溶けていった。

 

 




如何でしたか?
すみれの回は、いつもの感じより人間ドラマを強めに書きました。
すみれの過去の傷や彼女の本心を理解したかのん達。
これからの活躍に期待ですね

怪獣も出さないとですね笑
気軽に呼んでもらえたら嬉しいです

では、また次回!
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