※この世界における遊戯王カードの効果は現在調整中です。 作:月日は花客
諸々デメリットも付けるのでこれ一強にはならない予定です。
ユグドラシルに於いて「ワールド」を冠する職業は、取得方法が特殊であり、また他の職とは違う絶大な力を手にする。
有名なのはワールド・チャンピオンやワールド・ディザスターだろうか?
戦士最強職がワールド・チャンピオンで、魔法最強職がワールド・ディザスターと考えるとわかりやすい。
シャカパチ禁止同盟にも、一人だけワールド職業保持者がいる。
それがルーエ。【列車】使いのプレイヤーで、ユグドラシルでは射手系の職業を取っており、元々はFPSプレイヤーだった為かなりのエイム力を誇る。
そんな彼が持っているのがワールド・ゲイザーというものだ。
職分としては探知系に入るだろうか?
ユグドラシル初期は、ギルドやダンジョンのトラップを見つけるために探知系スキルを多く所持しているものも珍しくなかった。
しかしアップデートや新規コンテンツの実装により、「罠の破壊」が他の職でも容易にできるようになってしまい、あるいは探知系スキルでは察知できない特殊な罠も多くなったせいか、探知系の職はだんだんと影が薄くなっていった。
ワールド・ゲイザーも、多くの人に認知され始めた頃には、今更探知系に特化するのはどうか……と微妙な扱いを受けていたのだ。
そのため、大規模ギルドでもワールド・ゲイザー持ちのプレイヤーがいないというのも珍しくなかったらしい。
そんな少し不遇なワールド・ゲイザーだが、ルーエはこれを早い段階で取得していた。ワールド・ゲイザーの獲得条件は、おそらくプレイ開始時に与えられる百科事典に一定数文を書き記すことだと思われる。
まだまだユグドラシル初期の手探りの時にいきなり取得した為、当時のルーエが怯えながら相談してきたのを覚えている。
百科事典に一定数文字を書きだすだけなら、簡単過ぎないか? と考える者もいるだろうが、この文量がえげつないのだ。
ルーエの百科事典から逆算して、総文量約50万字を必要とする。
普通に小説としてがっつり太い単行本ができるレベルだ。しかも適当な文章はAIに弾かれるのか、同じ文字を連打とか数字の羅列のみなんかはカウントされないらしい。
これだけの文量を初期にクリアしたルーエはかなり早い部類に入ると思われる。
ルーエはメモ魔なのだ。ド級の。
仕事、私生活、趣味、ユグドラシル……。ありとあらゆる場面でメモ帳を手放さず、その覚え書きの数はどれだけあるのかわからない。
当然遊戯王でのデッキ構成や考えたコンボ、その使用結果なんかも事細かに書き込まれ、メモアプリのデータがやけに重いらしい。
百科事典にはルーエやギルドメンバーが見つけた素材や武器、敵の情報がその時の状況と併せて詳細に記され、採取地や素材のリソースも判明次第追記されている。
更には当時要注意とされていたプレイヤーやギルドの情報も分かり次第追加され、やがてその量はワールド職を取るほどまでに膨れ上がっていたのだ。
彼の百科事典を読ませてもらうと、まるで何かの論文や難しい参考書にも思える。ただ、覚え書きとして書いているからかあまり文体や書き方は統一されておらず、人によってはとても読みづらいと感じるだろう。
所々にギルメンの微笑ましいやりとりやエピソードも書いてあるので、彼が私たちのことをよく見ているのがわかる。
さて、そんな大変な労力を必要とするワールド・ゲイザーだが、能力としてはどんな物なのか。
私はスキルを使う準備を始めたルーエを見つめる。
「距離は?」
「まずはギルドから半径5キロ。そこから何かを発見するまでだんだんと距離を伸ばしていって。集落とか街とか、他のギルドとかが見つかればラッキーかな」
「了解」
ルーエは短文で返事を返すと、虚空を見つめスキルを発動する。両目に魔法陣が二つ、浮かび上がった。
ワールド・ゲイザーのスキルは〈
それだけ聞くと、他の探知系スキルや遠視ができるアイテムの方が手軽なんじゃないかと思われるだろうが、スペックが圧倒的に違う。
基本的に他の遠視系スキルやアイテムは、一つの視界を遠くに飛ばすので、一画面しか見れなかったり、見えたとしても少しボヤけていたりする。
しかし〈真実を見つめる瞳〉は、この視界を無制限に増やせるのだ。例えるなら、モニターが一つしかない他の術と違い、二画面三画面とモニターを増やしていける。そしてそれらを同時並行で見ることが可能だ。
更には特定のキーワードによる自動捜索や、マーカーをつけた人物を自動で追尾するなど便利機能が一通り揃っている。
やろうと思えば、ユグドラシル全土を監視することも可能なのだ。……まぁ、流石にそれは脳もMPも持たないが。
使用中は継続してMPが減っていくので、ガス欠には注意が必要である。
特に複数画面を見ながら情報を限定せずフルスペックで見ていくことになると、それはもうガリゴリとMPが削れていく。使い所を決めないとただの燃費の悪い遠視魔法になってしまうのが玉に瑕だろうか。
そのため、最初の斥候はかす△てらとAfに直接行かせたのだ。
また、ワールド・ゲイザーの能力はルーエの狙撃スキルや列車NPC達と組み合わせると中々ロマンがあり強い戦法が取れるのだが、今は戦闘時ではないし一旦割愛しておこう。
しばらく魔法陣越しにギルド周辺を観察していたルーエが、二分ほど経ったあたりで「お」と小さくつぶやいた。
「村がある。小さい……人数は50人程度か。それよりもっと先には発展している街らしきものもある」
「人はいるらしいな。いや、近くに人がいたら不味いか?」
「距離は村がここから20キロほど先。街は100キロは先だな」
「遠っ」
突然現れた城が見つけられないだろう距離なのは良いが、流石に距離がある。
しかし、村や都市という人の営みがあるのなら、この世界の情報も早めに得られるかもしれない。言語が通じるといいのだが……。
「種族は?」
「全員人間だ。村も、街も人間しかいない」
「この世界だと他種族は珍しいんですかね?」
「討伐とか、差別対象だったら嫌だなぁ」
人ではない種になってしまったメンバーの方が多いため、どうにも……人が他種族に敵対心を抱いていたらやりにくい。
別に戦いたいわけではないし。穏便に情報をくれたらちゃんとお礼もするからなんとかならないものか。
異世界でのコミュニケーションもわからない以上、下手にアプローチができないのが困りものだ。
「プレイヤーではないな。ただの農民や町民……この世界の現地人だろう」
「ありがとう。そろそろ止めていいよ、MPは平気?」
「残り五割ってとこだな」
「MP回復ポーション飲んどけよー。渡しといただろ」
たった二分使っただけでMPが五割もいかれてしまうのは、やはり燃費的に厳しい。
範囲を狭めたり、情報量を少なくすればその分消費MPも下がるのだが、安全に関わるギルド周辺はしっかり調べておきたかった。
ルーエが緑色のMP回復ポーションを飲むのを確認してから、私はこの情報をどう使うべきか考える。
ユグドラシル時代のように、引きこもって遊戯王だけを楽しむ生活は暫く戻れないだろう。
平和に、平穏に生きたいのが一番の願いで、そのためにも外に出て活動しないといけないのは絶対だ。
「現地の人に話を聞いて、この世界の情報も集めたいよね」
「そうだなぁ、それが一番確実だろうが……このメンバーで人間は二人しかいないぞ?」
火炎瓶おじさんとマッド研究員。この二人しか人間がいない。
人型は多いが、角やケモ耳が目立ったりと明らかに人外だとわかってしまう。
私も、背中にある絵の具が垂れたような翼はしまう事ができないのと、頭上に輝く光輪も人の擬態には向かない。
かといってNPCに任せるのもまた不安だ。ギルドの警備が薄くなるし、そもそも人型と言ってもアロマなんかは植物族だし、天気も天使族だ。見た目も派手なので目立つ目立つ。
「俺は別に行っても大丈夫だろうが、マッド研究員は戦闘力がなぁ」
「生産職にまともな戦闘力を期待するなよ。俺はポーションだのアイテム製作が本業なの」
「うーん、となると人の真似ができそうな種族のやつに頼るしかないか」
マッド研究員はこのギルド唯一の生産職として、アイテム製作や素材管理を全て担当している。それ故に戦闘面は最低値の一言。アイテムによってなんとか底上げして、巻物や短杖での支援でなんとかするしかない。
ミュートリアの前でこそ不審者だが、コミュニケーション能力は高いので優先したかったが……万が一の時に火炎瓶一人では守りきれなさそうだ。
「となるとAf……」
「あー、僕は人と話すのはあんまり得意じゃないかも……。仲良い人となら普通に話せるけど、知らない人の前だと変に黙っちゃいそう」
偵察能力が高いAfに頼もうかと思ったが、本人的に初対面の相手とはあまり話せないらしい。確かに、私が初めてAfと話した時も明確に壁を感じたというか、距離感がやけに離れていると思った気がする。
今でこそ皆んなに気楽に話してくれているが、なんだかんだで心を開くのはメンバーで一番遅かったかもしれない。
便利だからとAfばかり外に行かすのも本意ではないし、ここは彼の辞退を受け入れておく。
私がでは誰にするかと首を傾げていると、火炎瓶がゆるりと手を上げた。
「俺が指名するとしたら、水槽仮説かな。正体を現さなきゃ普通に人間に見えるだろうし、おじさんじゃ気付かない細かいところも考えてくれそうだ」
「自分っすか、まぁ、極端なダメージを受けなきゃ人型は維持できるけど……大丈夫かな」
「良いんじゃない? 戦闘力や咄嗟の判断力もあるし。スワンプマンの変身解除ラインってどこまでだっけ」
「体力3割以下だね」
水槽仮説の種族であるスワンプマンは、人に擬態する事ができる。ドッペルゲンガーと近いが、実はスライム系の方が近い種族だ。
ドッペルゲンガーの様に多種多様な姿にはなれないが、スワンプマンの方が変身解除のダメージラインや解除後のデメリットが少ない。
むしろ変身解除後のほうが本領発揮とも言える。HPが少なくなってくるとステータスが上がるボスと考えるとわかりやすい。
そのため、変身中は多少ステータスが下がったり使えるスキルに制限がかかるが、それでも十二分に戦えるだろう。
最早デフォルトとなっている胡散臭い笑みも、イケメンだからギリギリ綺麗なスマイルと誤魔化せるかもしれない。たぶん。
そのオッドアイは目立つかもしれないが、人外的な要素としては強くないし……うん、火炎瓶の指名は良いんじゃないかな。採用で。
「今回も二人組で行ってもらう?」
「あんまり人数が多いと圧が凄そう」
「おじさんがタンク兼アタッカーになるとしても、流石に何人もいると守りきれなさそうだ」
「二人で問題な──うおっ!?」
そのまま話し合いを続けていると、水槽仮説の頭に突然【方界胤ヴィジャム】が降ってきた。紫色の卵型のモンスターによるダイレクトアタックだ。
手加減したのか攻撃力が0だからか、水槽仮説は大して痛そうにしていない。
ヴィジャムは、何か言いたげにそのまま水槽仮説の頭の上でぐりぐりと体を捻らせている。側から見ると可愛らしいじゃれつきに見えるが、こんなに突然現れるなんてどうしたのだろう。
水槽仮説はなんとかヴィジャムの翼を掴んで頭から下ろすと、そのまま膝の上に乗せた。指でつんつんと突いているが、柔らかいのだろうか。
「ヴィジャムが、『外に行くなら一枚はモンスターカードを持っていけ』……ってさ」
「モンスターカードを?」
皆近くにいるモンスターを見る。
すると、どのモンスターもそれに賛成しているのか、わかった風に頷いていた。
わざわざ遊ぶためのカードを持っていく事を推奨する意図がわからず、取り敢えずアルシエルに疑問の視線を送ってみる。
アルシエルはすぐにそれを気づき、教えるように人差し指を立てた。
「この世界では、モンスターカードを通じて私たちにマスター方の感情が受信できます」
「ああ、私たちの不安を感じ取って広間に集まってくれたよね」
「はい。それによってマスター方の状況が少し把握できる他、そのモンスターカードをマーカーとして、私たちは離れていてもすぐにマスター方の元へ召喚されることができるのです」
アルシエルは私にアルシエルのカードをテーブルに置くように言った。
素直にエクストラデッキからアルシエルを取り出し、机に表側で置く。
「では、私は広間の外へ行くので、私が部屋を出たら『虹天気アルシエルを召喚』とカードに触れてください」
「わかった」
なるほど、実演してくれるらしい。
アルシエルが部屋を出て行ったのを数秒見届けて、カードにそっと振れる。
特にそれ以外にアクションは起こさず、いつもデュエルでしているようにアルシエルの召喚を宣言した。
すると、カードがパッと光り、またキラキラとしたエフェクトがぶわりと発生する。どこかで星が煌めくような音が聞こえ、カードからアルシエルが登場した。
扉が開いた様子は無い。カードから出てきたのだろう。
メンバーたちの歓声が上がる中、アルシエルは机から降り、元の椅子に座り直した。
「このように、カードさえあれば自由に召喚が可能です。名前さえ呼んでいただければ、すぐに駆けつけますよ」
「確かに、MPなんかが減った感覚も無かったな……サモナーの使う召喚とはまた違うシステムみたいだ」
ハイ・サモナーは設定したNPCを近くに喚び出すこともできるが、NPCのレベルに応じたMPが消費される。
これはカードこそ必要なものの、それの上位互換と言って良いだろう。リンク3のアルシエルがリリース無しで召喚できたあたり、召喚条件も無視できるようだ。
モンスターカードを持っていれば、何か戦闘になった時もすぐに援軍を喚べると考えると破格の効果だ。
「すごいすごい! これなら余程やばい相手じゃなけりゃ大丈夫だな!」
「流石に最上級モンスターなんかは派手すぎるから偵察目的の今回は喚べなさそうだけど……手軽に味方を増やせるのは頼もしいね」
火炎瓶と水槽仮説のみだと少々戦闘力に不安があったが、これなら大丈夫そうだ。
もしかしたらNPCたちも、少ない戦力で遠くへ出かける私たちが心配だったのかもしれない。ユグドラシル全盛期はレベル上げのためにしょっちゅう外に連れてっていたけど、末期は殆どギルド内に引きこもっていたし。
「デッキ丸ごとじゃなくても、二、三枚持っていくのはアリなんじゃないかな。たぶん足りないスキルを補完できるモンスターもいたでしょ?」
「そうだね、火炎瓶と相談しつつ連れていくやつを決めるよ。ありがとなヴィジャム、助かった」
水槽仮説に撫でられたヴィジャムはとても満足げだった。
【Af】
二つ名:狂演のエンターテイナー
使用デッキ:アメイズメント
レベル:100
カルマ値:邪悪
役割:撹乱
種族:グレーター・ドッペルゲンガーなど
職業:アルルカン、マジシャンなど
主要NPC:驚楽園の支配人<∀rlechino>
ギルド内で一番闇が深い。遊戯王古参。
赤いシルクハットに赤いマジシャン風スーツを着ている。
ポップなフェイスペイントやキラキラとした笑顔は遊園地のパフォーマーのような派手さと華やかさがある。
ドッペルゲンガーなので、外装変更も可能。
ギルドの中では明るく、場を盛り上げつつ一部がはっちゃけた場合はツッコミに回ったりとバランサー。
言葉の中にチラホラと闇が垣間見えるが、それに特に触れてこず変に気遣わないメンバーの優しさをありがたく思っている。
メンバーは基本他人のリアルに干渉しない(あるいは興味が無い)。
ユグドラシルで紙の形式で遊戯王を始めてから色んなシャッフルが得意になった。ショットガンシャッフルはしない。
使用デッキはアメイズメントで、モンスターとの戦闘よりも魔法罠で相手を翻弄する方が好き。
勝ちに貪欲な方だが、負けが込んできても不機嫌にならないところが長所。切り替えが早い。
ユグドラシルではドッペルゲンガーの特性や職業スキルを活かして遊撃や情報撹乱に専念していた。NPCの姿に化けて隙を狙うのが得意。
現実では幼少期から実両親に虐待を受けており、毒ガスが蔓延する中防毒マスク無しで外に放置されていたところを保護された。
その後親戚に預けられるも、ネグレクトによって衰弱状態になった所をまたもや保護。
その後関係無い一般夫妻に養子にされるも、実子との差別が酷くほぼ家政婦のように扱われていた。
まともな教育も人間関係も無く絶望していた時、実子のお下がりでもらった機材で遊戯王やギルドメンバーと出会い、楽しい事や優しい友人を初めて経験する。
気軽に笑ったり軽口を叩けるメンバーに絶大な信頼を寄せており、それ以外の人間には興味が希薄。
人生経験から家族という関係を嫌っている。家族より友人の方が余程あったかくて楽しい。
そのため家族系の話題がタブー。ギルメンはリアルの話はほぼしないので特にそのタブーに触れたことはない。
課金は一応していたが微課金程度。あまり金銭に余裕が無かった。転々とした家は最後の夫妻だけ富裕層だがまともにお小遣い等貰ったことはない。