デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
「何なんだ、あいつは」
厄介なことになった。正直そう思いながら、満月のツクヨミは頭をかきむしった。
突然現れたライドウという男と、なぜこんな所に来たかは知らないがド新人のツクヨミ、
いつが眼鏡をかけ直し、同じく階下を凝視する。
「こんな所で任務があるなどという話はありませんでした、
「それに、あのライドウとかいう男。相当の
いつが目を見開き、満月の顔を見る。
「そんな、満月さんにかなう奴なんているはずがありません!」
苦笑の形に頬を緩めつつ、満月は冷静に推し測る。
ツクヨミは神の力を分け与えられた存在だが、武術の達人というわけではない。神装と呼ばれる、神の力を秘めた武具を振るう場合もあるが、あくまで武具そのものの力を引き出しているに過ぎない。極端な話、神魔札なしには戦うこともできない。
それを、ライドウという男は自力でやってのけた。
神装は基本的に使い捨てだ、圧縮され具現化された
ライドウの召喚術がどれほどのものかは未知数だが、先ほど見せたクラスの神魔をいくつも自在に扱えるとすれば。奴と戦ったとして満月でさえ、負けの目はゼロではない。むしろ、無傷で勝てる確率の方がゼロに近い。
満月は、ふ、と鼻で笑った。口の両端を吊り上げ、悪戯を思いついた悪童のような笑みを見せる。
傍らの面を手に取り、
「――トホカミエミタメ」
「満月さん?」
いつの言葉には応えず、懐から取り出した神魔札の束に口づける。
「さあて……遊ぼうぜ」
片手で乱暴に面をかぶり、はみ出た長髪を振り乱して叫ぶ。
「行け、創成神魔札――斬り開け、『ギルガメシュ』!」
札から放たれた、
伝説に語られる英雄の姿とも異なる独特の容姿は、オオカミの神威と満月の想念が創り出した、世界に唯一無二の存在。たとえ同じ名の神魔を操る者がいたとして、満月のそれとは違う姿違う力になるだろう。
ギルガメシュは獅子の叫びを上げ、大剣を床へと叩きつけた。
「満月さん!?」
いつの声に耳を貸すことなく、砕け落ちた床の先、穴の向こうの階下へと飛びこんだ。白いマントをはためかせながら、二枚の神魔札を放つ。
「
札から溢れた光が二羽の鳥の形を取る。鮮やかな羽毛に包まれた翼を伸びやかに羽ばたかす
翼に炎を宿した二羽が的へと飛ぶ。一体はライドウへ。もう一体は――アラハバキと、登美のり子の間に。
「く!?」
階上からの奇襲に目を剥きつつも、ライドウは良く反応した。振るい上げた刀が鳳凰を打ち、その体を赤い光の粒子へと散らす。
だが。その光は紅い火の粉へと変じ、床やライドウ自身へと降り注ぎ。音を立てて燃え盛った。
「何……!」
もう一羽の鳳凰も空中で炎へと姿を変え、アラハバキと登美のり子へと降り注ぐ。
鳳凰らは札へと戻り、満月の手元に飛来した。
「良くやったフランソワーズ。上々だぞ、カトリーナ」
二羽の鳳凰につけた名を呼び、頬ずりしてから懐へ納めた。
階下に上がる炎に目を向け、上階の穴から身を乗り出したいつがつぶやく。
「そうか……満月さんも、人が悪い」
若干引きつった顔のいつとは違い、口の端を吊り上げて満月は笑う。
この場には悪条件が揃い過ぎている。裏切った満月といつ、奪われたソロモンの指輪。裏切りを知る登美のり子、裏切りを知られては不味い――組織には早晩バレるだろうが、今知られて良いことはない――
だが、いくつかの要素を変えてやれば。
まず、この騒動の首謀者――という形で、弁明などされる前に――、ライドウを始末。
その戦闘の中、登美のり子を事故という
そして、アラハバキを破壊し、
そうすることで満月は裏切りを知られることなく、登美のり子からの報酬も指輪自体も両取りすることができる。その後指輪をどうするか――気づかれないよう組織へ戻すか、自身で利用するか。それとも割のいい取り引き相手を探すか――それは後で考えればいい。
「んんんぎゃああああ!?」
炎に巻かれたアラハバキが床を転がって身悶えする。
「ちい……っ!」
登美のり子は炎を浴びつつ、隅に積まれた家具の陰へと倒れ込むように跳んだ。ソファーの向こうで、紫のもやのような光が上がるのが見えた――何らかの術を使った、おそらくは転移して逃げたか。だが深追いするのは不自然、奴はあくまで見知らぬ一般人だ。
「満月さん!? なぜここに」
マントを振るい上げながら応える。
「フッ……この廃屋から妙な気配がしたもんでな。来てみれば大事な大事な後輩が戦ってる、優しい先輩が手助けに来てやったというわけだ」
満月は口を適当に動かしつつ、炎にもがくライドウとアラハバキに目をやる。乱れた長髪を整えた後、身構えた。
「さあて、先輩が教えてやるよ。正義の戦いって奴をな」
未知の敵ライドウ、そしてアラハバキと六体の神魔。不利の可能性は高いが、奇襲の優位と満月の実力、加えて
仮面の奥で唇をなめる。
教えてやるよ、正義ってのはな――俺様の都合のことをいうんだ。