デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第九話  満月のツクヨミ、死人に口無しとうそぶく

 

「何なんだ、あいつは」

 厄介なことになった。正直そう思いながら、満月のツクヨミは頭をかきむしった。

 突然現れたライドウという男と、なぜこんな所に来たかは知らないがド新人のツクヨミ、十六夜月(いざよいづき)が乱入した階下の部屋をのぞき込みながら。

 

 いつが眼鏡をかけ直し、同じく階下を凝視する。

「こんな所で任務があるなどという話はありませんでした、十六夜月(いざよいづき)が初陣を迎えるという話も。どうしてここに来たんだ、むつ……?」

 

「それに、あのライドウとかいう男。相当の手練(てだれ)だ。もし正面からぶつかれば、俺も無傷ではいられないだろう」

 

 いつが目を見開き、満月の顔を見る。

「そんな、満月さんにかなう奴なんているはずがありません!」

 

 苦笑の形に頬を緩めつつ、満月は冷静に推し測る。

 十六夜月(いざよいづき)の放った神魔の力はド新人のくせに上出来だった。そして少なくとも、ライドウはそれと正面から打ち合えるだけの神魔――悪魔、と奴は呼んでいたが――を放つことができる。しかも、自ら刀を振るって神魔の炎を斬り飛ばしさえした。

 

 ツクヨミは神の力を分け与えられた存在だが、武術の達人というわけではない。神装と呼ばれる、神の力を秘めた武具を振るう場合もあるが、あくまで武具そのものの力を引き出しているに過ぎない。極端な話、神魔札なしには戦うこともできない。

 それを、ライドウという男は自力でやってのけた。

 

 神装は基本的に使い捨てだ、圧縮され具現化された魔力(マナ)であるそれらは、力を引き出せば影も形も無く消えてしまう。だが、あの刀は変わらず奴の手元にある。あれ自体は――何らかの魔力(マナ)を帯びているにせよ――実体のある、ただの刀だ。

 ライドウの召喚術がどれほどのものかは未知数だが、先ほど見せたクラスの神魔をいくつも自在に扱えるとすれば。奴と戦ったとして満月でさえ、負けの目はゼロではない。むしろ、無傷で勝てる確率の方がゼロに近い。

 

 満月は、ふ、と鼻で笑った。口の両端を吊り上げ、悪戯を思いついた悪童のような笑みを見せる。

 傍らの面を手に取り、神咒(かじり)を唱える。

「――トホカミエミタメ」

 天津祓(あまつはらえ)に呼応したように、赤い面の目元が深紅の光を帯びた。

 

「満月さん?」

 

 いつの言葉には応えず、懐から取り出した神魔札の束に口づける。

「さあて……遊ぼうぜ」

 片手で乱暴に面をかぶり、はみ出た長髪を振り乱して叫ぶ。

「行け、創成神魔札――斬り開け、『ギルガメシュ』!」

 

 札から放たれた、(ただ)れるような赤黒い光が集まり実体を取る。屈強な半裸の肉体に獅子の頭を(そな)え、大剣を担いだ勇士の姿。

 伝説に語られる英雄の姿とも異なる独特の容姿は、オオカミの神威と満月の想念が創り出した、世界に唯一無二の存在。たとえ同じ名の神魔を操る者がいたとして、満月のそれとは違う姿違う力になるだろう。

 

 ギルガメシュは獅子の叫びを上げ、大剣を床へと叩きつけた。

 

「満月さん!?」

 

 いつの声に耳を貸すことなく、砕け落ちた床の先、穴の向こうの階下へと飛びこんだ。白いマントをはためかせながら、二枚の神魔札を放つ。

神魔顕現(じんまけんげん)! 翔べ、『鳳凰(ほうおう)』!」

 

 札から溢れた光が二羽の鳥の形を取る。鮮やかな羽毛に包まれた翼を伸びやかに羽ばたかす(おおとり)。その背は奇妙にも、福寿を象徴するかのような亀甲に覆われていた。

 翼に炎を宿した二羽が的へと飛ぶ。一体はライドウへ。もう一体は――アラハバキと、登美のり子の間に。

 

「く!?」

 階上からの奇襲に目を剥きつつも、ライドウは良く反応した。振るい上げた刀が鳳凰を打ち、その体を赤い光の粒子へと散らす。

 だが。その光は紅い火の粉へと変じ、床やライドウ自身へと降り注ぎ。音を立てて燃え盛った。

「何……!」

 

 もう一羽の鳳凰も空中で炎へと姿を変え、アラハバキと登美のり子へと降り注ぐ。

 

 鳳凰らは札へと戻り、満月の手元に飛来した。

「良くやったフランソワーズ。上々だぞ、カトリーナ」

 二羽の鳳凰につけた名を呼び、頬ずりしてから懐へ納めた。

 

 階下に上がる炎に目を向け、上階の穴から身を乗り出したいつがつぶやく。

「そうか……満月さんも、人が悪い」

 

 若干引きつった顔のいつとは違い、口の端を吊り上げて満月は笑う。

 この場には悪条件が揃い過ぎている。裏切った満月といつ、奪われたソロモンの指輪。裏切りを知る登美のり子、裏切りを知られては不味い――組織には早晩バレるだろうが、今知られて良いことはない――十六夜月(いざよいづき)とむつ。そしてアラハバキと謎の悪魔召喚師、ライドウ。

 

 だが、いくつかの要素を変えてやれば。

 まず、この騒動の首謀者――という形で、弁明などされる前に――、ライドウを始末。

 その戦闘の中、登美のり子を事故という(てい)で――見知らぬ一般人の犠牲者として――始末。

 そして、アラハバキを破壊し、十六夜月(いざよいづき)らに気づかれる前にソロモンの指輪を回収。

 そうすることで満月は裏切りを知られることなく、登美のり子からの報酬も指輪自体も両取りすることができる。その後指輪をどうするか――気づかれないよう組織へ戻すか、自身で利用するか。それとも割のいい取り引き相手を探すか――それは後で考えればいい。

 

「んんんぎゃああああ!?」

 炎に巻かれたアラハバキが床を転がって身悶えする。

 

「ちい……っ!」

 登美のり子は炎を浴びつつ、隅に積まれた家具の陰へと倒れ込むように跳んだ。ソファーの向こうで、紫のもやのような光が上がるのが見えた――何らかの術を使った、おそらくは転移して逃げたか。だが深追いするのは不自然、奴はあくまで見知らぬ一般人だ。十六夜月(いざよいづき)らから離れたことで、良しとしておこう――。

 

 十六夜月(いざよいづき)が目を見開いていた。

「満月さん!? なぜここに」

 

 マントを振るい上げながら応える。

「フッ……この廃屋から妙な気配がしたもんでな。来てみれば大事な大事な後輩が戦ってる、優しい先輩が手助けに来てやったというわけだ」

 満月は口を適当に動かしつつ、炎にもがくライドウとアラハバキに目をやる。乱れた長髪を整えた後、身構えた。

「さあて、先輩が教えてやるよ。正義の戦いって奴をな」

 

 未知の敵ライドウ、そしてアラハバキと六体の神魔。不利の可能性は高いが、奇襲の優位と満月の実力、加えて十六夜月(いざよいづき)を味方として使ってやれば。勝ちの目のある博打(ばくち)だった。

 

 仮面の奥で唇をなめる。

 教えてやるよ、正義ってのはな――俺様の都合のことをいうんだ。

 

 

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