デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第十話  十六夜月、相剋(そうこく)する二つの正義を見る

 

 十六夜月(いざよいづき)は満月の言葉を咀嚼(そしゃく)しつつ、満月とライドウ、そして土偶の姿をした神魔らを見回していた。

 

 満月のツクヨミ。月相(げっそう)――満月や新月など、月の満ち欠けの状態を示す言葉――の数だけいるツクヨミの中でも、群を抜いた手練(てだれ)の一人。癖の強い性格だが神魔(じんま)にはむしろ慕われ、彼の前でのみ真の力を見せるものもあるという。

 助けに来てくれたというなら、これ以上なく心強い存在だった。だが、そもそもどうしてここに? 妙な気配を感じて来たと言ったが、組織の許可なく持ち出すことのできない、神宝の面と神魔札を持って? 

 

 天井に開いた穴から、満月の金鵄(きんし)たる武内いつ――むつの兄――が顔をのぞかせた。

「運が良かったね、十六夜月(いざよいづき)。僕らはちょっとした任務を終えた後で、息抜きにこの近くへ立ち寄ったんだが。そうしているうち、あの光や震動を感じてここへ来たんだ。――むつ、下がっていろ。満月さんの邪魔にはなるなよ」

 

 むつは、は? とでも言いたげに口を開け、思い切り顔をしかめてみせた。

 

 満月が準備運動をするように指を握っては開きつつ、ライドウを見据える。十六夜月(いざよいづき)の方は見ずに言った。

「俺はあのライドウとかいう奴をやる、お前は神魔どもの相手をしてろ。倒す必要はない、足止めして弱らせてくれりゃあいい。そんで、俺の方もライドウを痛めつけたら、トドメはお前に任せてやるよ」

 近寄り、ぽん、と肩を叩いてくる。

「カワイイ後輩へのプレゼントだ、首謀者を討つ手柄をくれてやる。ただし確実に殺せ、命乞いのたわ言には耳を貸すな。後は、他の雑魚どもの始末は俺に任せろ」

 

 十六夜月(いざよいづき)が何も言えずにいる間に、満月はライドウに向かい神魔札を構える。

 

 だが、ライドウもすでに新たな神魔を()んでいた。

「悪魔召喚、『ジャックフロスト』!」

 

 ヒホホー、と甲高い声を上げて飛び出たのは、青い帽子をかぶった雪だるま。それが降らせた氷雪が、ライドウの体と周囲の炎上を消し止める。

 

 一方、土偶の姿をした神魔も回りの神魔らに助けを求めていた。

「んごぉおおおてめええらああ! 何とかしろおおお!」

 

 人形のように傍観していた六体のうち一体、三つ首の大(がらす)が翼を何度も羽ばたかせ、炎を吹き飛ばす。

 

 その光景に違和感を覚え、十六夜月(いざよいづき)は仮面の中で眉を寄せる。

 だが、その感覚を頭の中で言葉にするより早く、土偶が向かってきた。

 

「てめえええらあああ! 何だか知らねええがぅおれ様のテキかああ!? カツかあああ!? ビフテキ派かビーフカツ派かはっきりしろこらああああっっ!」

 

「くっ!」

 とにかく、今は満月の指示に従う。満月はライドウとの戦いに専念してもらい、自分は神魔たちを相手にする。

 札から現出させた英雄『フィン・マックール』の槍が防御の構えを取り、土偶の突進を受け止めた。

 

 

 

 満月は手にした複数の札を放つ。

「行け、ポチコロ、ワンスケ、タマサブロー! 俺の忠犬『張子犬(はりこいぬ)』どもよ!」

 札から飛び出たのはころころと丸みを帯びた、三体の犬――の置物が動き出したようなもの――。小型犬のような声で何度も鳴きながら、ライドウ目がけて走りくる。

 

「く……?」

 その愛らしさに虚を突かれたか、ライドウの動きが一瞬止まったが。刀の横腹を振るい当て、三体まとめて薙ぎ払った。

 

 傍らの黒猫が口を開く。

「ライドウ、あやつらはやる気だ! 今は戦闘に専念せよ、対話を試みるのはこの場を切り抜けてからだ!」

 

「……了解した」

 ライドウは表情なくうなずき、刀を構え直す。満月へと跳び込みざま刃を振るった。

 

「オイオイ……勇ましいのは結構だがな。その程度で抜けると思ったか?」

 

 満月の体に打ち当たる寸前、刃は鋭い牙に咬み止められていた。六つの口の牙――三つ首の屈強なシェパード犬、二体の『ケルベロス』によって。

 

 満月は喉で、クク、と笑い、次の札に手をやる。

「さあて、こいつで終わり――」

 

 そのときにはすでに。ライドウは咬み取られたままの刀を手放し、大きく跳び退いていた。

「悪魔召喚。()えよ、『ケルベロス』!」

 

 抜き放つ管から溢れた緑の光が実体を取る。それは屈強を越えた屈強、ぎちり、と(いわお)のような筋肉を(そな)えた白い獅子。その尾は(さそり)のような甲殻に覆われ、目には燃えるような光を宿している。

 

「何ぃ……!」

 満月がつぶやきを漏らし、二体の――三つ首犬の――ケルベロスが、驚愕したように口を開け。くわえていた刀が床に落ちた。

 

 ライドウは自らの獅子に命じた。

「ケルベロス。【炎の吐息(ファイアブレス)】だ」

 

 背を丸め、大きく息を溜めた一拍後。獅子の口から吹き出す炎の気流が、覆いかぶさるように満月を襲った。

 

「ぐおおおっ!?」

 どうにか横へと跳び、難を逃れた満月だったが。二体の犬が身を呈して炎を食い止めてくれなければ、間に合わなかった。

 

「アーノルド……シルベスター! よくも貴様、俺の犬たちを……!」

 黒い煤と化して漂い、札へと還ったケルベロスたちの名を呼び、満月は拳を震わせた。

 

 ライドウは首を横に振る。

「もう、よすんだ。これ以上争う必要はないはず、当方は対話を希望する」

 傍らでは獅子が鋭い爪の伸びる足で床を踏み締め、いつでも跳びかかれる体勢を保っている。(うな)り声さえ上げず、静かに。

 

 満月は喉の奥で(うな)る。

「後悔するぜ……この俺を本気にさせたことをな……!」

 

 

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