デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第十一話  十六夜月、虚偽の匂いに感づき始める

 

 満月とライドウの攻防を横目に、十六夜月(いざよいづき)は新たな神魔札を展開させた。実体化した『瀬戸大将』――花瓶の頭をした、瀬戸物の鎧をまとう付喪神(つくもがみ)の武者――が、宙を舞う土偶の突進を受け止めた。

 瀬戸大将の体にひびが走り、半ば砕けて膝をついたが。完全に防御された土偶は跳ね返るように飛び、距離を取った。

 

「ぐぐぐううううっっ……ぅおのれえええっっ!」

 土偶は怒ったように体を震わせ、近くで佇む六体の神魔に目を向けた。

「てめええらああ! 命ずる、ぅあの小癪(こしゃく)な野郎をぶっっ殺せえええっっっ!」

 

「御意のままに」

 六体の神魔の目が光り、十六夜月(いざよいづき)の方を向いた。

 

 ――やはり、おかしい。

 十六夜月(いざよいづき)は先ほどから覚えていた違和感の正体に気づいた。

 今まで、ライドウと呼ばれた男が神魔たちを顕現(けんげん)させた張本人とだと思っていた。廃屋を徘徊する神魔も、目の前の土偶らも。満月もそんな風に言っていた。

 

 だが、先ほどライドウと土偶が、満月の放った炎に巻かれたとき。ライドウは新たな神魔を顕現(けんげん)させて自分の炎を消し、土偶は回りの神魔に命じて消火していた。

 明らかにおかしい。土偶と六体の神魔がライドウの管理下にあるものなら、まずライドウの炎を消そうとするのではないか。

それが、六体の神魔は土偶に命じられるまで何もせず、命じられた後も土偶の炎だけを消していた。一方ライドウの方も、近くにいた神魔たちに命令することなく、わざわざ別の神魔を()んだ。

 

 そして今も、ライドウは土偶や六体の神魔に加勢を求めることもない。逆に、土偶は六体に命じ、自分の味方をさせようとしている。

 

 つまり。六体の神魔はライドウではなく、土偶の方に仕えている。日本の土偶と西洋の悪魔になぜ主従関係があるのかは不明だが。

 不明といえば何より、土偶とライドウの関係性が分からない。自分を召喚したご主人サマだと土偶は言っていたが、そのくせライドウを気づかう様子もない。果たしてどこまで真に受けたものか。

 

 じりじりと迫る六体の敵を前に、新たな神魔を複数展開させつつ。ライドウの方を向いて十六夜月(いざよいづき)は叫んだ。

「ライドウ! と呼んでいいか、話がある!」

 

 ライドウが十六夜月(いざよいづき)に目を向け、弾かれたように満月もこちらを見た。

 

「説明してくれ、この土偶たちと君はどういう関係にある! 君の目的は何だ、この土偶たちは何だ! いや、そもそも……何者だ、君は」

 

 ライドウは変わらず硬質な表情でいたが。口の端を、わずかに緩めた。

「感謝する。自分は悪魔召喚師(デビルサマナー)、人に仇なす悪魔を討ち、帝都と人々を護る者――」

 そこでなぜか視線を逸らせ、学帽を目深にかぶる。

「君の言い方に(なら)えば。正義の味方……その、はずだ」

 

 満月が両手の指をわななかせ、ちいぃっ、と後を引くように舌打ちをする。

「何やってるド新人! そいつのたわ言に耳を貸すなと言ったろうがっ! もういい、俺様がきっちり見せてやるよ……正義の力って奴をなぁ!」

 

 満月が放った札は鳳凰(ほうおう)(おおとり)は炎へと身を変え、ライドウの上へ降り注ぐ。

 

「その手は既に――」

 炎に包まれつつも、ライドウは傍らの、雪だるまのような神魔に指示を出そうとしたようだが。

 

 それより早く、満月は次の手札を繰り出していた。

「創成神魔札! 煽れ、『イシュタル』! 『オルクス』!」

 (まばゆ)い輝きを放つ二枚の札から具現化されたのは、杖を持つ青い髪のたおやかな女神。そして、蛇か(わに)に似た顔をフードに半ば隠した怪人物。

 女神が杖から放つ光が、怪人が放つ黒い波動が、ライドウと神魔らを薙ぎ払う。

 

 その勢いをこらえ切れず倒れ込むライドウ。と、同時。

「ぐああっ!?」

 ライドウを包んでいた炎が、音を立てて激しく燃え盛る。ライドウの背丈を越えるほど、さらにはそれを倍して天井へ炎が届くほど。

 炎の煽りを受けた雪だるまの神魔が、ヒホホ~、と悲鳴を上げて溶け去った。

 

 満月は得意げに炎を指差す。

「俺のイシュタルとオルクスは煽り上手でな、火勢を瞬時に倍化させる。いい感じに焦げ目がついたらお次はこいつだ、千早に千草、千歳、千尋!」

 

 ばらばらと床に落とした四枚の札、そこから次々と猫が現れた。錆び色混じりのキジトラ、茶トラにサバトラ、黒と、毛色も様々な猫はいずれも二本の尾を揺らしていた。頭に五徳――鉄の三脚台――をかぶった『五徳猫』。

 猫たちは鳴き声を上げながら二足で立ち、腹のポケットのような所に前足を突っ込み。どうやって入れていたのか、自分の体ほどもある花火玉――一尺玉というのか――を取り出した。

 そして、未だライドウを呑み込む炎に向かって。ボウリングのように、花火玉を転がした。

 

「ぐうう……!」

 炎の只中でもがきつつ、ライドウが懐に手をやる。神魔を封じているらしい管を手に取ると思えたが。

 抜き出したのは、一丁の回転式拳銃(リボルバー)だった。

 

「何!?」

 目を剥いた満月が的から外れるべく横へ飛び、床を転がる。

 

ライドウが連続で引き金を引いた。その弾丸の標的となったのは、満月でも五徳猫でも、転がりくる花火玉でもなく。

十六夜月(いざよいづき)の神魔らをすでに倒し、十六夜月(いざよいづき)へと迫る六体の西洋悪魔だった。

 体のいずれかに銃弾を受けた悪魔らはよろめき、その隙に十六夜月(いざよいづき)は距離を取ることができた。

 

 そして、炎に触れた花火玉は次々と引火、爆発し。建物を揺るがす轟音と共に、ライドウは爆炎に呑み込まれた。

 

 

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