デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第十三話  十六夜月、ライドウがスマホに驚愕する様を見る

 

「そんな……こんな一瞬で写真が!? それも何枚も!」

「馬鹿な……しかも見よ、どれも色がついておる! 現実の光景をそのまま切り取ったかのようだ……!」

 むつの渡したスマートフォンを、ライドウとゴウトは食い入るように見つめていた。

 

「うわー、タイムスリップしてきた人ってホントにそんなリアクションなんだ。ウケる~」

 むつは画面を操作し、さらに何枚もの写真を見せる。ライドウとゴウトと横並びで撮った自撮り写真、さらには自撮り動画も。

 画面の中ではむつ一人が『うぇいうぇ~い』とはしゃぎ、ライドウは無言で困惑したような視線を向けている。むつの手で雑になでられたゴウトが『何なのだこの女子は』とごちていた。

 

「こ……これは、先程の自分たちの姿!? まるで活動写真(キネマ)だ、しかも音声つき(トーキー)の!」

「なんと……それも、このような蒲鉾(かまぼこ)板の如き物で撮ることができるというのか!?」

 

 スマホを見つめて目を見開くライドウと、ひげの先を震わせるゴウトを横目に見ながら。面を小脇に抱えた十六夜月(いざよいづき)は、俺も一緒に撮ってくれれば良かったのに、という言葉を噛み潰した。

「……それより、もう少し話し合っておきたいんだが」

 

 ――少し前、ライドウとの戦いで満月が起こした爆発の後。

十六夜月(いざよいづき)と満月らは部屋の中を探ったが、ライドウたちの姿は見つからなかった。

土偶とその部下らしき六体の神魔も同様だった。爆炎に巻かれつつも、その炎に乗じて満月らの目をくらませ、脱出したと思われた。

 

 両手をわななかせていた満月は十六夜月(いざよいづき)の胸ぐらをつかみ、何か言おうとしたが。舌打ちして突き離してきた。

「俺はあの神魔どもを追う。お前はライドウとやらを見つけ次第殺せ、奴のペテンに耳を貸すな」

それだけ言い残し、いつと共に駆けていった。

 

 しかし十六夜月(いざよいづき)としては、ライドウが敵だとは思えなかった。少なくとも話を聞く必要がある、あの土偶らが何なのかについても。

 それでむつと共に、満月より先にライドウを見つけるべく駆け回っていたところ。なんかくねくねしているライドウを発見したというわけだった――。

 

 十六夜月(いざよいづき)は息をつく。

「しかしまあ、驚かされたよ。『どうやら自分たちは、大正の世から将来の世へと転移してきたらしい』なんて言い出すんだから」

 

 くねくねから助けた後、消耗した様子だったライドウに神装『無尽の果実』を渡した――口にした者の体力を回復する、鮮やかな黄色をした房状の果実。要はバナナ。その歴史は浅く、現代において新型ウイルスが蔓延した数年前、ツクヨミの組織が人員の健康管理のため、食べ易く滋養のある果物に多少の神力を付与したものを取り放題の軽食として関係施設に設置したものがルーツとされている――のだが。

 

「済まない、こんな高価な果物を自分のために」

 受け取ったライドウはそう言って正座し、一口ずつ噛みしめるように味わっていた。

まるで昭和前半か大正の人だな、十六夜月(いざよいづき)がそう言うと、ライドウは首をかしげた。

「無論、自分は大正の生まれだが。君たちとてそうだろう。しかし、ショウワとは何だ?」

 

 その後――並んで一緒にバナナを食べながら――話すうちに明らかになった。

 ライドウ自身が言うには、彼は大正の世から来た悪魔召喚師(デビルサマナー)。国家と人々を悪魔から密かに護る超國家機関、ヤタガラスに所属している。かつて倒した国津神らの霊をアラハバキとして一体にまとめ、討ち祓う任務――ライドウ個人は、できるなら説き伏せたかった――の中、出現したアラハバキと共に現代に召喚されてしまった。

 そしてどうやら、その引き金となったのが。この廃ホテルで行なわれていた何らかの儀式。

 

 そういえば爆発の後、部屋で倒れていたスーツ姿の女性も見当たらなかった。いつの間にか逃げていたのか。思えば彼女も巻き込まれた一般人などではなく、あの部屋の祭壇で儀式を行なった張本人であるらしかった。その儀式が何を目的としたものなのか、未だうかがい知ることはできないが。

 

 ライドウとはさらに情報を交換し合ったが、いくつか腑に落ちない点もあった。

大正時代は十四年まで、昭和元年の前半を含めても大正十五年までだが。ライドウは『大正二十年』から来たと明言した。そして神魔とは異なる『悪魔』、さらには耳にしたことすらない超國家機関の存在。

 

 だが、ライドウが嘘をついているとも考えにくかった。仮に自分の正体を隠すにしても、タイムスリップしてきたなどという信じがたい嘘をわざわざつく必要がない。それに、そんな嘘をつくなら大正時代がいつまでかぐらいは把握しておくものだろう。

 また、ツクヨミの組織は秘密主義だ。ツクヨミや金鵄(きんし)に知らされていないことも多いらしかった。悪魔のことやライドウの所属する機関についても、存在はするが十六夜月(いざよいづき)たちには知らされていない、ということも考えられた。

 

 ふと、彼は現代と全く違う歴史をたどった並列世界(パラレルワールド)の住人なのではないか――そこでは大正時代が二十年以上続き、神魔ではなく悪魔が、ツクヨミの組織ではなくヤタガラスが存在する――、などという考えも浮かんだが。タイムスリップ以上に荒唐無稽な話だ、かぶりを振って頭の隅に追いやった。

 あるいは、十六夜月(いざよいづき)の知らない神魔使いの機関が存在し――または、かつて存在し――、その組織内での特殊な年号の数え方として昭和六年を『大正二十年』と呼称しているのではないか。たとえば日本で昔、西暦や年号以外に『皇紀』という、初代天皇即位の年を基準とした年が使われたように。

 

 猫じゃらしのようにハンカチを振るむつと、それに気を取られてじゃれつくゴウトを横目にライドウが口を開く。

「当初は信じ難い話だと感じていたが。現代の……いや、大正の世には在り得ない文明から、ここが将来の日本だということは了解した。悪魔とは異なる神魔や、ツクヨミとその組織については自分の見知るところではないが――」

 こちらへ向き直り、深く真っ直ぐに、頭を下げた。

「済まない。アラハバキとは自分が決着をつけるべきだった。自分のせいで、この時代に無用な迷惑を」

 

 十六夜月(いざよいづき)はわずかに口を開けていた。

「……すごいな、君は」

 

 不審げに、わずかに眉を寄せるライドウをよそに。十六夜月(いざよいづき)は思っていた。

 彼の言っていることが真実だと仮定して。――現状を把握した上で、最初に出てくる言葉が謝罪なのか。未来へ来てしまったという困惑や、どうすれば帰れるのかといった心配を差し置いて、最初に謝ることができるのか、この男は。

 思えば満月との戦いでもそうだ。爆発に巻き込まれる直前、十六夜月(いざよいづき)へ迫る敵を撃って助けてくれた。自分自身を守ることより先に。直前にこちらと対話が成立しかけていたとはいえ、打算でできることではない。

 

 この男はまるで、自己など無いかのように振舞う。自分自身を捨ててまで、他人を救おうとする。

 この男、葛葉ライドウは、まるで――

 

 十六夜月(いざよいづき)はまず、頭を下げた。

「疑って済まなかった。攻撃してしまったことも謝罪させてほしい」

 そして、右手を差し出した。

「改めて名乗ろう、俺は十六夜月(いざよいづき)のツクヨミ。君に、協力させてくれ」

 

 ライドウは黙ってその手を見つめ、十六夜月(いざよいづき)の目を見つめた。その瞳の奥まで見通そうとするように。

「……一つ、聞かせて欲しい。何故こちらの言を信用する気になった。過去の世から来たなどと、荒唐無稽な言を吐く者を」

 

「何で、って――」

 先ほど考えたままのことを伝えるのはどうにも気恥ずかしく。はにかみつつ、別の言葉に換えて言った。

「信じたいと、思ったからさ。君の言うことがどうあれ、君自身は信じられる人間だと思った。――それに、正義の味方ならきっとそうする」

 頭によぎっていたのは幼い頃、むつと一緒に見ていたテレビの中のヒーローたち。彼らならきっとそうした。

 何より、この男は。葛葉ライドウは、まるで――正義の味方そのものじゃないか。

 

 十六夜月(いざよいづき)はうなずいてみせた。左手で自分の胸を叩く。

「俺は……俺も、正義の味方だから」

 彼らのように――ヒーローたちやライドウのように――できるかは分からない。けれど、そう在りたいと思った。

 

「正義の味方、か……自分も、そう在りたいものだ」

 なぜだか学帽を目深にかぶり、うつむいた後。

 ライドウは顔を上げ、再び十六夜月(いざよいづき)の目を見た。

「改めて名乗らせてもらう。自分は悪魔召喚師(デビルサマナー)、十四代目葛葉ライドウ。帝都と人々を、そしてこの将来の世を護るため、こちらこそ協力をお願いしたい」

 

 互いに、手を握り合った。

 

 一方、むつに捕まったゴウトは無理に抱え上げられ、くねくねくねと踊らされていた。

 

 

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