デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第十四話  満月のツクヨミ、アラハバキを追い登美のり子と邂逅す

 

 ちいぃっ、と後を引く舌打ちを仮面の中に響かせ、満月のツクヨミは足音も高く廊下を駆けていた。かなり離れた後ろから、アタッシェケースを抱えたいつの足音が追ってきていたが、そんなことはどうでもよかった。

 

 我がことながらとんだアホウだと、胸の内で自分を罵る。

 先ほどの戦闘、変に欲をかいて『満月が痛めつけたライドウのとどめを十六夜月(いざよいづき)に刺させ、十六夜月(いざよいづき)に攻撃させたアラハバキを満月が倒そうとする』などと、ややこしいことをやろうとしてしまった。そのせいで攻撃の手が鈍り、あげくどちらも取り逃がしてしまった。

 

 ――満月自身は、ライドウがアラハバキと敵対していることは把握している。ライドウ自身が何者なのかは不明だが。

手堅く考えるなら、何よりもまずライドウを速攻で潰すべきだった。弁明などさせる暇も与えずに。

ただ、そうなるとライドウが死んだ後も――奴が操っている神魔である、と十六夜月(いざよいづき)には認識されていただろう――アラハバキが活動している、という矛盾が生じる。十六夜月(いざよいづき)が妙に思い、満月の意図に勘づいてしまうかも知れない。

 

 その懸念をなくすため、満月がライドウへダメージを与えた後で十六夜月(いざよいづき)にとどめを刺させようとしたのだった。無論、その前に満月がアラハバキを破壊してソロモンの指輪を回収する予定だった。

 最初から満月がアラハバキを、十六夜月(いざよいづき)がライドウを相手にするという手もないではなかったが。任務経験のないド新人の腕をそこまで信用するほど、満月は愚かではない。

 

「……まあ、愚かだったから取り逃がしたんだがな」

 さらに言えば、ライドウとアラハバキらの関係性については完全に不審がられてしまった。満月の努力も甲斐なく。

 

 足を止め、懐から神魔札を取り出す。口を寄せてささやいた。

「こんなバカが無理をさせるがよ。やってくれるか、アーノルド」

 

 静かに落とした札から顕現したのは三つ首のケルベロス。ライドウのケルベロス――なのか、あの化け物は――にやられたダメージから回復し切っていないのか、あるいは未だ怯えるせいか。その四つ足はいずれも震えていた。

 首の一つは耳を伏せ、クゥン、と力ない声を漏らし。それでも二つの首は満月を見上げ、耳を高く立てて吠えた。

 

 仮面の奥で苦く頬を歪め、満月は笑った。

「いい子だ」

 身をかがめ、三つの頭を順になでた。うなだれた頭を初めに、一番長く。

 

手札の中で、もう一枚のケルベロスが憤慨したように震える。

「休んでろ、シルベスター。アーノルドが疲れたら出てもらう」

 札をなでた後、顕現させているケルベロスの目を順に見る。

「あの部屋にいた土偶の神魔、あの匂いを追え。できるな」

 三つの首が揃って吠える。地にこすりつけるようにして鼻をうごめかせ、足早に歩き出した。

 

 

 三つ首の鼻を頼りに進み、やがてもう一体のケルベロスに交代させて程なく。三つの首の一つが顔を上げ、客室の一つへ向かって吠えた。

 

「でかした」

 三つの頭をなでた後、札へと還す。別の札を手に取り、(オド)を込めた。

「さあて、砕け散――」

 

「ま、待て!」

 ドアを開け、押し留めるように手を向けてきたのは登美のり子だった。

 

「あぁ?」

 仮面の中で顔をしかめる。どうやらケルベロスは、探している匂いとは違うが、あの部屋で嗅いだ匂いだというので反応しただけらしい。それで一つの頭だけが吠えたか。

 

 登美のり子の頬がひくひくと震える。長い髪の所々が縮れ、スーツにも焦げ跡が見えた。

「満月、貴様……! あの場で私を殺そうとしたな!」

 

 満月は片手の掌を上に向け、肩をすくめてみせた。

「何の話だ? さっきは得体の知れない神魔どもがいたんで、始末しとこうと思ったんだが。巻き込まれでもしたのか? そもそも何であんな所にいた、取り引きが済んで帰ったんじゃなかったのか」

 喋りながらも満月は、札を持つ手に(オド)を込めたままでいた。

 十六夜月(いざよいづき)らにバレる心配がないよう、どの道この女を始末するつもりではあった。時間はかけたくない、ここで手早く済ませておくか。

 

 のり子は吐き捨てるように息をつき、咬みつくような目で満月を見た。

「どうせ今も、私を消そうと考えているのだろうが。我が下につけ、先ほどと同額の報酬を追加してやる」

 

 満月は鼻で笑った。

「映画とか見ないのか? そんな台詞を吐く奴が生き残れたためしが――」

 

 のり子は視線を崩さなかった。

「指輪の所在を、私が術で把握していると言ったらどうだ?」

 

 札から手を離しはしなかったが、満月の手から(オド)が引く。

「……どうやら、あんたがその第一号らしいな」

 

 ようやく追いついてきたいつに、視線でのり子を示す。

「そのお嬢さんをエスコートしてやれ」

 

「え……え?」

 アタッシェケースを抱えて荒い呼吸を繰り返すいつは、のり子を見て反射的にか、身を引いていたが。

 

「状況が変わった、俺たちでアラハバキとやらを探して倒す。取り戻した指輪はその女に、俺たちは追加の報酬をいただく」

 

 ケルベロスの鼻で匂いをたどるといっても、そもそもアラハバキとは直接の接触がない。あの部屋に残った匂いもほとんど爆風で吹き飛び、あるいは熱で変質してしまっているだろう。ゆえに、より確実な探索手段として登美のり子を使う。

 

 指輪を優先するからには、ライドウを放っておくという危険性もあったが。仮に奴が十六夜月(いざよいづき)と接触したとしても『全ては首謀者ライドウの仕業だ、何を語ったとしてもペテンに過ぎない』と押し通す。

 強情を張るようなら十六夜月(いざよいづき)も、ライドウもろとも始末してやってもいい――だが、奴の金鵄(きんし)はいつの妹だったか。面倒な――

 

 そこまで考えて舌打ちをした。

 ぐだぐだと考えを巡らせてさっきは失敗した、迷っている暇はない。

「第一の目的は指輪の奪取だ。他のことは後で考えりゃいい」

 言い捨てて、三人で走り出す。

 

 

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