デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第十五話  満月と登美のり子、アラハバキを追い詰める

 

 満月といつは、登美のり子の案内で廃ホテルを駆けていた。

 のり子によれば、ソロモンの指輪には魔力(マナ)の糸のような(しゅ)をかけていたのだという。その糸をたどれば指輪の在りかが分かり、また一定の距離を越えてのり子から離れることは――この場合でいえば、廃ホテルの敷地から出ることは――できない。

 

「そもそも、その(しゅ)とやらで指に固定しておけば良かったのでは」

 

 独り言のようないつのつぶやきに、のり子は走りながら応えた。

「無論試みた。だが、指輪に拒まれた。どうやらあれは、封印でもせぬ限りは一つ所に留まらぬ性質(さが)であるらしい。指にはめた瞬間流れ込んできた、今までにあれを所有した、数多(あまた)の者らの記憶の断片が――」

 そこで言葉を切り、足を止めた。

「喋り過ぎたな。どうやら、探し物はその先にある」

 のり子が視線で指したのは、屋上へ向かうものらしい長い階段だった。

 満月はうなずき、足音を殺して階段を上り始める。

 

 

 

「ぅおまえらあああっっ! なああにやってんだこぉぉのバカチンがあああ!」

 ドアを小さく開けてのぞくと。日の落ちた赤黒い空の下、広い屋上の真ん中で、アラハバキがこちらに背を向けて立っていた。その前には六体の神魔――馬の頭をした男、翼を(そな)えた黒竜と三つ首の大(がらす)。マントとフードに身を隠した、人型の者らが三体――が床に正座していた。

 

 アラハバキは身を震わせて怒鳴る。

「え~人という字はあああ、片方が片方を全力で支えてる形なのを知らんのかバカチンがあああ! ぅおまえらも、ぅおれ様を全力で支えんかあああっっ!」

 

 六体の神魔は身じろぎもしない。

 

 アラハバキが振り回すように腕を上下させる。

「返事はあああっっ!」

「はい」

 

 六体が揃えて上げた感情のない声に、アラハバキは何度も地団駄を踏んだ。

「そうじゃねええええっっ! そうじゃぬぇえええっっ! いやぁ毎度どうも掃除屋ヌエでございますぅ、ってそうじゃぬぇええええっっ!!」

 顔を突き出すようにして六体を見回す。

「いいかぁぁあ? ぅおまえらが全力でぅおれ様を助けんからこんなことになってんだろうがあああ! だいたいなんださっきの戦闘は、ぅおれ様ばっか戦ってんじゃねえかあああ!?」

 

 人型の一体が声を上げる。

「ご指示がございませんでしたので」

 

 アラハバキがまたも床を蹴る。

「だあああああっっっ!? なんだそりゃあああっ! 指示待ち人間かてめえらあああ大成しねえぞおおお!? まったく大正生まれの若い子はああああ! まあいい、え~ではそっちの端の奴から名前と能力、特技と趣味を言ってけええ! あ~ちなみにぅおれ様アラハバキの趣味は読書と縄文土器造り。嫌いな土器は弥生式土器とマイセン。特技は花占いとミカンの皮を――」

 

 続きが気にならないこともなかったが。満月はドアを押し開け、同時に神魔札を放った。

「かっ飛ばせ、『鬼人』!」

 (うな)り声を上げる鬼――金棒と虎皮の下帯という出で立ちではなく、なぜか金属バットをかついだジャージ姿だ――がバットを振るう。フルスイングが巻き起こす旋風がアラハバキの背後を襲い、正座したままの神魔らを巻き込んで床へと倒した。

 

「もらった!」

 その隙を突いて登美のり子が跳び込む。紫のもやを上げた手の内には、古色蒼然(こしょくそうぜん)たる青銅剣が現出されていた。

 

 だが、床に倒れたアラハバキの首が、ぐるりと百八十度後ろに回る。

「ぬああっ!? ぬぁんだてめえはあああっ! 後ろからどついといてあいさつも無しかこらああっっ、おはようございますだろうがああっ!」

 アラハバキの片手、指輪を手にしていない方の上で、()くようにぎらついた光が膨れ上がる。

「そうか死ぬのかてめええはああっ! しゃあっ、【滅門波(メギドラ)】ぁ!」

 

 貫くように放たれた光の束を、しかしのり子は身を(ひるがえ)してかわす。

「その程度……かえって血沸くわ!」

 声と共に叩きつける刃が、アラハバキのもう片方の手を斬り飛ばす。ソロモンの指輪を握った手を。

 

 硬い音を立てて床へ落ちた手から転がる指輪、それを拾い上げたのは。

 のり子でも満月でもなかった。身を起こしかけていた神魔らの一体、フードに顔貌を隠した人型の者だった。

 

 アラハバキが顔を向ける。

「ぅおまえ、よくやったああ! それをこっちへ――」

 

 指輪を手にした神魔は無言で立ち上がる。西の空から指す残照に向けて指輪を掲げ、輝くそれをうち返し眺めた後。ゆっくりと、自らの指にはめた。

 

「なああっっ――!?」

 

 アラハバキの叫びに構う様子もなく、神魔は指輪をはめた手を強く握る。胸の前に掲げたそれが震え、さらには肩が震え。身を震わせて笑い出した。年若い男のような声が響く。

「フ……フハハ、ハハハ! もらった、もらったぞ我が(かせ)を解く鍵、ソロモン王が秘宝! 七十二柱が神魔のうち序列第七十二位――すなわち最下位。『正義』の悪魔たる小生、『アンドロマリウス』が確かにいただいた!」

 

 その拳で指輪が輝きを上げる。同時、他の五体の神魔は弾かれたように立ち上がり、足音も高く気をつけの姿勢を取った。アンドロマリウスと名乗った者へ向けて。

 

 アンドロマリウスはフードの奥の目を、アラハバキとのり子、満月らへと順に向ける。

 

「正しき義無き者、すべからく生きるに(あたい)せず。我が正義、執行する」

 その目と拳の中の指輪が、鋭く光を上げた。

 

 

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