デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
――その少し前。
先頭に立ったライドウを追い、
廃ホテル内を巡るうちにライドウが気づいたのだ、アラハバキの居場所を探る方法に。
ライドウは今までの任務で倒した国津神からの呪いを受けているという。満月と戦った部屋を脱出して距離を取った後、その感覚が強くあったらしい。だが、部屋でアラハバキと相対していたそのときには、呪いの感覚がなかった。
つまり。国津神の合体した存在であるアラハバキから『離れれば離れるほど呪いの感覚が強まり』『近づくほど呪いの感覚が弱まる』。
走りながら、むつが首をかしげる。
「何かヘンな感じじゃないそれ? 近づくほど強まるってのなら分かるけど」
むつから距離を置いて駆けるゴウトが口を開く。
「それほど国津神らの執念が深いということよ。『アラハバキと直接対峙し、その怒りを受けるならば良し』『さもなくば何処へ逃げようと、否、逃げれば逃げるほどに呪い、必ず取り殺す』とな。……怖ろしいものだ」
「どうだいライドウ、調子は」
「すこぶる良い、ほとんど呪いの感覚は消えた。どうやら目指す場所は、この先だ」
ライドウが視線で示したのは。屋上へと続くものらしい、長い階段。
「よし、行――」
階上から、何かが激しく打ち当たるような衝撃音が響いた。
駆け上がり、出入口のドアを押し開けると。
「てンめぇぇええぇ……! 許さん、許さんぞ絶対にだ……! てめえは俺の、手を出してはならないものをメチャクチャにしてくれた……!」
身を震わせる満月が、神魔らへ拳を向けていた。
「絶対に許さんぞクソ神魔ども!! 見せてやるぜこの俺の、正義の怒りをなぁあ!!」
「満月さん!」
「ド新人! ちょうどいい、手伝え! 奴らをブチ殺すぞ! 俺たちの正義の怒りを喰らわせてやろうぜ!」
「その前に聞いて下さい、彼は、ライドウは敵では――」
満月は地団駄のように床を踏む。
「ンなことは分かってるとっと手伝え! ……あー、その、今まで戦ってたのはテストだテスト! 新人のお前が正しく状況判断できるか、ってな、合格だ合格いいからやれ!」
腑に落ちないものも感じたが。神魔らを止めねばならないのは事実であったし、先輩である満月が
「アラハバキよ」
ライドウが前に出る。
なぜか屋上の片隅で所在なさげにうなだれていたアラハバキが、弾かれたように顔を上げた。
「ライドウぅぅぅ! ここで会ったが百年目だあああお待ちしていましたあああ! 哀されて百年! 各界絶賛の品質保証だああああどっかぁああん!」
わけの分からぬ言葉には構わず、ライドウは言った。
「アラハバキ、お前たち国津神もまた、この国を愛する者ではないのか。国の神、この地の神々よ、どうか人々を
けえっ、と床に唾を吐くように首を振った後、アラハバキはふんぞり返った。
「笑わせてくれるぜええ天津神の、
満月との戦いで落としたライドウの刀は
神魔らの中心にいた、フードをかぶった一体が胸を張り、声を上げた。
「どうやら役者は揃った様子。正しき義に
何か指輪の類だろうか、掲げた拳に鈍く光るものが見えた。
「封を解いた者への義のため、我ら六柱にてこの国を壊す。そちらのアラハバキ殿もどうやら、我らと目的の重なる部分はある様子。決して仲間というわけではないが、特に邪魔立てはすまい」
「
満月の手の内で鳳凰の札が荒々しく火の粉を洩らす。
「また、争いを繰り返すのか……
目深にかぶった学帽のひさしに手をやり、うつむいていたライドウが刀を抜く。その刀身からは、ひそやかに緑の燐光が昇っていた。
「正義の悪魔とは奇妙な名乗りだが。俺たちこそが正義の味方、お前たちの蛮行はここで止める。必ず平和を護ってみせる」
アンドロマリウスと名乗った神魔は、くく、とフードの奥で喉を鳴らす。
「何がおかしい」
「おかしいとも、実行不可能なことをそうも真顔で語られてはな。――ガミジン、ブネ、セエレ。貴君らは行け、この国を破壊せよ」
馬の頭をした者、翼を
「何だと! 貴様、卑怯な!」
「クク……なぁに、多勢に無勢では正義がすたるというもの。そちらのお嬢さん方は戦わぬ様子、また仲間でないアラハバキ殿は計算から外すとして。バティン、ナベリウス、このアンドロマリウスが貴君らと、それぞれ一対一でお相手しよう」
蛇の尾を持つ仮面の男、三つ首の
「さて。正義、執行する」
――一方、その頃。
「トン♪ トン♪ トンカラトン♪」
すれ違いざまに繰り出される刃を、しかし少女は――葛葉ライドウの後輩たる
自転車をターンさせて向き直る悪魔へ、真っ直ぐに小太刀を向けて身構える。
「一つ、アドバイスさせていただきたいカテゴリです。そのように重心がぶれていては刀を的確に振るえません。降車することをお勧めするプロセスです」
悪魔は包帯の下で乾き切った顔を歪め、刀を強く握り締めた。
「んだと説教かしゃらくせえええ! トン! トン! お前もトンカラトンって言えええ!」
車体を激しく揺らしながら立ち漕ぎで向かってくる。頭上へ振り上げた刀を、一息に振り下ろした。
「刀は……腰で振るプロセス!」
それより早く。凪は敵の懐へと跳び込み、がら空きの脇腹をすれ違いざまにかき斬っていた。
「トン♪ トォ、ン……」
悪魔は裂かれた腹の方へ身をかしげ、くず折れ、自転車ごと床へと倒れ。動きを止め、その身を塵へと変えていった。
凪は大きく息をつき、血を振るいのけた小太刀を鞘へと納める。ハンカチを取り出し、汗を拭った。
先輩であるライドウが任務の中でアラハバキを合体させた折、呑み込まれた光の奔流。遠巻きながら、その中に凪も巻き込まれていた。その後、気がつけばこの、ひどく広い建物の中へと転移していた。
おそらくはライドウとゴウト、そしてアラハバキも同じく転移してきていると考えられたが。光に呑まれた位置の差のせいか、少なくとも凪は離れた位置に来てしまったようだった。
今はとにかく、見知らぬ悪魔のうろつくこの建物を出る。ライドウが仮にこの中にいるとしても、外から探した方がむしろお互い目につき易いのではないか。そう考え、階下を目指していた。
果たして、他のそれより広く造られた階段を下りたとき。土とガラスの破片が一面に散らばり、荒れ果ててはいるものの、正面玄関らしき場所に出た。
外へ駆け出ようとしたそのとき。遥か上方から地面を揺らし、何かが玄関の先へ降り立っていた。馬の頭をした者、翼を
馬の頭をした者が鼻息を洩らす。
「フヒィィン……我らを先に行かせるとは、あの最下位も気の利いたことをする」
黒竜がすり潰したように低い声を上げた。
「慎め……仮にも今は我らが主ぞ」
フードに身を隠した者がうなずく。
「そのとおり。彼の命ずるとおり為そうではないか。我々で一足先にこの国を、差し当たっては周辺の街を、
「待ちなさい!」
反射的といえる速さで、小太刀を抜いた凪は悪魔らの前に立ち塞がる。
「帝都を、この国を破壊するなどとは聞き捨てならないカテゴリ!」
さほど厚くもない胸を、どん、と音を立てて叩く。けほ、とむせた後で再び胸を張った。
「亡師たる葛葉四天王、葛葉ゲイリンが弟子! 同じく葛葉四天王たるライドウ先輩に師事する
(次回予告)凪と出会ったのは見知らぬ悪魔たちと……半月、新月のツクヨミたち!?