デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
――一方、その頃。
半月のツクヨミはハンドルを握り、鼻歌交じりで車を走らせていた。丸みを帯びたフォルムのハイトワゴンが矢島山上へのドライブウェイを駆けてゆく。
運転席の後ろで新月のツクヨミが神経質そうに、金色の髪にしきりに触れていた。
「おかしくありませんか。半月さんが運転されるなんて……こうしたことは
眉をひそめた新月の言葉に、助手席に座った長髪の男は肩をすくめた。半月担当の
ひょろりと長い体をきゅうくつそうに巡らし、新月の方を向く。
「アンタよ~、オレのこと分かって言ってんのか? オレだぜオレ、組織の手でほぼ軟禁状態でおなじみ、厄介者の
迅雷はツクヨミの組織の手により、蛇神『ミシャグジ』とその身を融合させられている。その体は強大な力を秘めるも暴走の危険性が指摘されており、任務時以外は結界に閉ざされた部屋で過ごすことを強要されていた。また、任務の際にも特に経験と実力を兼ね備えたツクヨミ、半月がお目付け役として行動を共にすることとなっている。
「年がら年中部屋に押し込められてんだぜ~、免許取れるとか思ってんのかよ? まぁ、運転なら結構自信あるぜ~、マリオカートだけどよ」
ハンドルを握る手つき、というかコントローラーを握る手つきをしてみせる。
赤い髪を片手でかき上げ、半月が笑った。
「暇だもんねー迅雷。部屋で体動かせてる?」
迅雷はずりずりと背後にもたれかかる。
「あ~、ヨガと太極拳はめっちゃやってるわ、動画見ながら。けどよ~ゴメン、アンタが買ってくれたフィットネスバイクっての? 自転車こぐ運動するやつ、あれ要らねぇわ。部屋で汗かくのヤだし場所取るしよ」
「そう? じゃあうちで使うわ。それより、今度またおでん作ってきてよ」
「いいぜ~、煮込む時間はたっぷりあるからよ。最近の自信作はビーフシチューだな。
残月は引退したツクヨミが務める、組織の構成員たち。ツクヨミと同行し直接にサポートする
新月の表情は未だ固い。
「そちらの
新月の隣でその
「うわ、まだこんなこと言ってるよこのコ。『こちらの
かぶりを振り、高く結った黒髪が揺れた。その後で笑ってみせる。
「ホラ言ってみ、キヨミさ~んって」
新月は表情を崩さず、背筋を伸ばしたまま襟元を整えた。今は新月も半月も、装束の上から薄手のコートを羽織っている。
「
キヨミは苦笑した。
「ご先祖様上げは嬉しいけどね。道満は民間陰陽師、腕前はともかくとして高貴な血筋ってワケでもないしねー。そこまで意識するのもどうかなーって思うけど」
かつて平安の世において、公的機関たる陰陽寮に属する陰陽師・
半月が口を挟む。
「それにさ。普段から仲良くなきゃ、いざというときに連携できないものよ。私たちみたいにイイ仲じゃなきゃ、ねぇ?」
半月が差し伸べた片手を、迅雷は押し戴くように両手で受ける。
「ああ、身も心も一つになった仲だからこそ、飛んで火の中水の中、ってな~。アンタのためならよ、半月」
半月の指に長い舌を這わせた後。手の甲に、音を立てて口づけた。
目を見開いた新月の、色白な顔がたちまち赤くなる。
「な……っ!? ふ、不潔ですっっ!」
横からキヨミの腕が新月の肩に絡み、くっつくほどに頬を寄せる。
「え~じゃあじゃあ、あたしたちも深~い仲になっとく? そうしとく~?」
「ふっ!!? ふふふふ、不潔ですっっ!!」
真っ赤になって叫ぶ新月。
半月が息をこぼして笑う。
「ま、とにかく。運転のことはさ、私が好きでやってるんだからいいじゃない。わざわざ無理言って任務に同行させてもらったんだし、そのお礼っていうことで」
迅雷は任務の際以外、結界を張った部屋からの外出を許されていない。それで半月は今回、新月の任務に協力するという形で外出の機会を作っていた。
二人がかりでの任務はあっという間に片づき、余った時間でこうしてドライブに来た、というわけだった。
新月の眉間は未だ険しく寄っていたが、それでもうなずいていた。
「半月さんがそうおっしゃるのなら、そのことはいいですけれど」
次の瞬間。全員が弾かれたように顔を上げ、車外へと視線を走らせていた。
迅雷が長い舌で唇をなめる。
「今の……神魔の気配だぜ」
キヨミが片手に新月の神魔札を、片手に陰陽術の霊符を持つ。
「そのようね。まったく、貧乏暇なしだわ」
半月がブレーキを踏み、路肩に車を寄せようとしたとき。
「きゃああっ!?」
傍らの草むらから悲鳴と共に、吹き飛ばされたような勢いで少女が転がり出る。幸い車とは接触しなかったものの、そのまま路上に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか!」
半月が車を停めると同時、新月が少女へと駆け寄った。
少女はしかし、跳ね起きると共に自分の来た方向へと小太刀を構える。長い髪には雑草の葉や
視線を正面へ向けたまま、かばうように手を新月らへ向ける。
「逃げて下さい! ここは非常に危険なカテゴリです、すぐに逃げて」
内ポケットから金属製の管を取り出す。緑の光をこぼしながら、そのふたがひとりでに開いていった。
「彼らはここで止めてみせます、無関係な方たちは必ず護るセオリーです。
凪と名乗った少女が握る筒から光が溢れ、獣の姿を取る。黄色い体毛に青いたてがみを
半月は微笑み、新月は身構える。
「へえ」
「これは……貴方も、神魔を!?」
やがて、凪が吹き飛ばされて来た方向から草をかき分け、三体の神魔が姿を見せた。馬の頭をした男、翼を
「フヒヒィン! アナタも神魔を扱うのですか、だが無駄なあがきです!」
「丁度よい、後ろの者らもろとも喰い殺し、
「その後に主の命のとおり、僕らでこの国を破壊に向かう……!」
「そんなことはさせないセオリーで――」
「そのようなことは許しません!」
凪と神魔らの間に立ち塞がり、新月が胸を張る。
「我が名は新月のツクヨミ! 人に仇なす神魔を狩り、国家と世の秩序を守護する者! 人呼んで神魔狩りのツクヨミ……事情は分かりませんがこのような暴虐、許すことはできません!」
羽織っていたコートを脱ぎ捨て、灰色の装束をあらわにする。キヨミが放った白い面と、神魔札入りのホルダーを素早く受け取る。
口を開けたまま目を瞬かせる凪に、半月は広げた指をひらひらと振ってみせた。
「私は彼女の同僚、半月のツクヨミ。そういうことでよろしく」
同じくコートを脱いで緑の装束姿になると、迅雷が差し出す黒い面と神魔札を受け取った。
目の前の神魔らへ向き直り、鼻で息をついた。
「さて、仕事続きで嫌になるね。ちゃっちゃとやりますか」