デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
――一方、その頃。
「この国の破壊だなどと、させるものか! お前たちを倒し、すぐに奴らを止めてみせる! 行け、
札から
「とどめだ、潰せ! がしゃどくろ!」
現れた巨大な頭骨が岩のように転がり、紫色の瘴気を撒き散らしながら悪魔へと打ち当たり、
「やった!」
むつがピンク色の髪を揺らして拳を握るが、ゴウトは首を横に振る。
「いや、あれを見よ……!」
がしゃどくろの巨体は確かに悪魔を下敷きにした。が、そこで動きを止めていた。まるでもがくように、小刻みに体を揺らしながら。
「やれやれ、久々に封を解かれてはみたものの。今の世の術師は随分と質が落ちた様子だな」
床に倒されたまま、マントの下から伸びた手ががしゃどくろをつかみ止めていた。そのまま身を起こし、担ぎ上げた頭骨の上下の歯に手をかける。
「ふん……!」
抵抗し噛みつこうとする巨大な歯をものともせず。黒い炎を上げる両手が強く震え、砕く音と共にがしゃどくろを二つに裂いていた。
「何だって……!」
手持ちの神魔札の中でも、がしゃどくろは単純な威力なら随一といえた。その分、下手をすればこちらに牙を剥く厄介な神魔でもある。それをあの敵は、事も無げに始末してみせた。
手に残る骨片をはたき落とし、未だ青龍の火に包まれたフードの奥で敵が笑った。
「ほほう……伝わってきたぞ神魔どもの力から、貴君の想念。なるほど面白い……貴君の想う正義とは、こういう姿か」
燃えるマントを、音を立てて脱ぎ捨てる。
その下から現れた姿を見て、
「な……っ」
体の全てをくまなく覆う黒い衣装は、たくましい肉体にぴったりとフィットしたいかにも動き易い形。その継ぎ目のない衣装の胸や手足の部分には、いぶしたような鈍い光を放つ銀色のプロテクターが着けられていた。
顔は同じく銀の仮面に覆われ、目元はサングラスのように黒いゴーグルで隠されており表情はうかがえない。仮面は頭部をもヘルメットのように覆う形だった。
まるでこれは。幼い日にテレビで見て憧れた、変身ヒーローたちの姿そのもの。だが、目の前の敵のスーツとプロテクターはその多くの箇所に、蛇皮の紋様が刻まれていた。
黒いヒーローは背筋を伸ばして腕を組み、見下ろすように
「貴君の想念の形、小生の姿として借り受けよう。興味深い、今の世ではこういうものか……正義と力を表す形は」
顔の前で握り締めた拳が、黒い炎を上げた。
「その力、存分に試すとしよう。貴君自身の体でな――ゆくぞ!」
言葉が終わると同時に地を駆け、宙返りを決めながら跳び上がり。
一方、ライドウは射出されて宙を舞い来るアラハバキの拳をかわし、いなし続けていた。
「ずっどおおおん! そらそらそらそらそらぁぁ!」
雄叫びと共に襲い来る右拳を、足をずらし体を半身に開いてよけ。そこへ落ち来る左拳を、刀の柄で横へといなす。次の右拳は前へ踏み出してかわし、左拳は刀の横腹で受け流す。
一所に居つくことなく、流れるように舞うように身を動かしつつ、目を走らせ次の手を読む。どこか伝統舞踊にも似て無駄を削ぎ落とした動きを繰り返し、じりじりと間合いを詰めていた。
アラハバキ本体をあと一跳びで叩き斬れる、その距離へ到達しようとしたとき。
「頑張ッタところ悪いガ……我を忘レてはいまいナ?」
横合いから風を切り。突如として、三つ首の大
「ぐ……!」
剣のような鋭い
「……っ!」
無言で歯を食いしばりつつも跳びすさり、さらに襲い来る拳から距離を取った。脇のホルスターから素早く拳銃を抜き、大
三つの頭が口を開き、しわがれた声を上げる。
「忠告シテおくガ。飛び道具ハ使わぬガよかロウ、外しタ場合流れ弾ガ落ちル。通りがかるル者でもあれバ、オ主ノ守る人々ガ万が一傷つくヤモしれぬナ?」
わずかに頬を震わせ、ライドウはゆっくりと銃を下ろす。
三つ首の鴉は翼の片方を胸に当て、うやうやしく礼をしてみせた。
「我ガ名ハ『ナベリウス』。序列第二十四位にシテ、失われシ名誉ヤ地位ヲ取り戻させル悪魔ナリ。召喚者ハその力を求メ、我を
ライドウは銃を納め、封魔管を抜き出した。
「お前もアラハバキ同様、あくまでも平和を乱そうというのなら。悪いが、容赦はしない。――悪魔召喚、ケルベロス」
管から溢れた緑の光が白い獅子の姿を取る。
その名を聞いたとき、ナベリウスが目を見開いていた。三つの首を伸ばし、興味深げにケルベロスを見る。
「ほほウ! ギリシャ神話に名を残ス、冥府ノ番犬! しかシそのよウな獅子の如キ姿とは――」
喋り終えるのを待ちはせず、ライドウは視線で敵を示す。ケルベロスはわずかな
しかしケルベロスは動きを止めず、指示を待つことなく息を深く吸い込む。
「良し」
炎に巻かれた影へとどめを刺すべく、刀を手にライドウが駆ける。
だが。敵の体を覆っていた炎が内から裂かれた。ケルベロスの火勢を越える、三筋の炎の噴射によって。
「何!?」
マントの端を焦がしつつも横へと跳び、かろうじて炎から身をかわす。ケルベロスも同様に直撃を避けていた。
吹き飛ばされたケルベロスの火炎、舞い散る火の粉の奥から敵が声を上げた。
「――そノ姿、なかなか面白イ解釈ダ。我モ借リよう、そノ想念」
火炎が地に降り落ちる中、姿を見せたのは。
「我ガ名はナベリウス、ソロモン七十二柱ガ序列第二十四位。なレど、奇妙ナことに他ノ神話ノ魔物トも同一視さレておってナ――またノ名を『ケルベロス』」
中央の頭がそう喋るうち、左の首は唸りと共に炎の息を洩らし。右の首は舌なめずりしてライドウを見据える。
一方、満月は仮面の内で長く尾を引く舌打ちをしていた。
「ちいいっ! ちょこまかとウザってぇ!」
連続で神魔を繰り出すも、どれもが敵の俊足の前に空を切る。ようやく捉えたかと思えば残像に過ぎない、という始末。
「おやおや、随分とご機嫌斜めのご様子。急がば回れと申します、ここは一つ焦らずに、まずは呼吸を整えられては?」
蛇の尾と貴族的な衣装の裾をひらめかせ、バティンと呼ばれた神魔が
無論、敵の提案に耳を貸す満月ではない。
「翔べ、フランソワーズ!」
放たれた鳳凰が羽ばたきと共に炎を浴びせて襲いかかるも、残像を残した敵に軽々とかわされる。
「やれやれ、余裕のないお方だ。器の底が知れるというもので――」
「舞い上がれ。カトリーナ」
敵が身をかわした――いや、鳳凰の炎を広げて満月が追い込んだ――そこ。灰と化した万札とケースの燃えかすの散らばる床。その内にさりげなく落とし、灰の内に隠しておいた神魔札。
床上のそれから、もう一羽の鳳凰が天へと舞い上がった。
「があぁ!?」
身をよじって直撃をかわすも、バティンの半身が火を浴びて炎上する。
下がっていたいつが、拳を握って身を乗り出す。
「さすが満月さん!」
「当たり前だ! さぁてとどめだ、煽れ『オルク――」
炎を倍化させる創成神魔札を放とうとしたそのとき。
敵はすでにその神速を以て駆け、跳び、宙を舞い。自らを覆う炎を、風圧でかき消していた。
「なっ――」
満月が表情をこわばらせる間にも。
舞い散る火の粉の内で敵は微笑み、うやうやしく礼をする。
「おやおやおや、何やら気落ちなされたご様子。ですが、ご心配には及びますまい」
冷ややかな光を放つ剣を構えた。
「もう間もなく。七十二柱が序列第十八位、このバティンが、心配などする必要のない場所へ