デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第十九話  正義の味方、正義の悪魔と死闘を演ずる

 

 ――一方、その頃。

 

 十六夜月(いざよいづき)は背筋を伸ばし、胸の前で札を構え直した。

「この国の破壊だなどと、させるものか! お前たちを倒し、すぐに奴らを止めてみせる! 行け、青龍(ブルーアイズメガフレイムドラゴン)!」

 

 札から顕現(けんげん)した青龍が(うな)りを上げて炎を吐く。アンドロマリウスの体が火に巻かれると同時、十六夜月(いざよいづき)さらなる札を放った。

「とどめだ、潰せ! がしゃどくろ!」

 現れた巨大な頭骨が岩のように転がり、紫色の瘴気を撒き散らしながら悪魔へと打ち当たり、()き潰した。

 

「やった!」

 むつがピンク色の髪を揺らして拳を握るが、ゴウトは首を横に振る。

「いや、あれを見よ……!」

 

 がしゃどくろの巨体は確かに悪魔を下敷きにした。が、そこで動きを止めていた。まるでもがくように、小刻みに体を揺らしながら。

 

「やれやれ、久々に封を解かれてはみたものの。今の世の術師は随分と質が落ちた様子だな」

 床に倒されたまま、マントの下から伸びた手ががしゃどくろをつかみ止めていた。そのまま身を起こし、担ぎ上げた頭骨の上下の歯に手をかける。

「ふん……!」

 抵抗し噛みつこうとする巨大な歯をものともせず。黒い炎を上げる両手が強く震え、砕く音と共にがしゃどくろを二つに裂いていた。

 

 十六夜月(いざよいづき)は目を剥いていた。

「何だって……!」

 手持ちの神魔札の中でも、がしゃどくろは単純な威力なら随一といえた。その分、下手をすればこちらに牙を剥く厄介な神魔でもある。それをあの敵は、事も無げに始末してみせた。

 

 手に残る骨片をはたき落とし、未だ青龍の火に包まれたフードの奥で敵が笑った。

「ほほう……伝わってきたぞ神魔どもの力から、貴君の想念。なるほど面白い……貴君の想う正義とは、こういう姿か」

 燃えるマントを、音を立てて脱ぎ捨てる。

 

 その下から現れた姿を見て、十六夜月(いざよいづき)は声を詰まらせた。

「な……っ」

 

 体の全てをくまなく覆う黒い衣装は、たくましい肉体にぴったりとフィットしたいかにも動き易い形。その継ぎ目のない衣装の胸や手足の部分には、いぶしたような鈍い光を放つ銀色のプロテクターが着けられていた。

 顔は同じく銀の仮面に覆われ、目元はサングラスのように黒いゴーグルで隠されており表情はうかがえない。仮面は頭部をもヘルメットのように覆う形だった。

 まるでこれは。幼い日にテレビで見て憧れた、変身ヒーローたちの姿そのもの。だが、目の前の敵のスーツとプロテクターはその多くの箇所に、蛇皮の紋様が刻まれていた。

 

 黒いヒーローは背筋を伸ばして腕を組み、見下ろすように十六夜月(いざよいづき)へ目を向ける。

「貴君の想念の形、小生の姿として借り受けよう。興味深い、今の世ではこういうものか……正義と力を表す形は」

 顔の前で握り締めた拳が、黒い炎を上げた。

「その力、存分に試すとしよう。貴君自身の体でな――ゆくぞ!」

 言葉が終わると同時に地を駆け、宙返りを決めながら跳び上がり。十六夜月(いざよいづき)へと、空中から蹴りを放つ。

 

 

 

 一方、ライドウは射出されて宙を舞い来るアラハバキの拳をかわし、いなし続けていた。

 

「ずっどおおおん! そらそらそらそらそらぁぁ!」

 

 雄叫びと共に襲い来る右拳を、足をずらし体を半身に開いてよけ。そこへ落ち来る左拳を、刀の柄で横へといなす。次の右拳は前へ踏み出してかわし、左拳は刀の横腹で受け流す。

一所に居つくことなく、流れるように舞うように身を動かしつつ、目を走らせ次の手を読む。どこか伝統舞踊にも似て無駄を削ぎ落とした動きを繰り返し、じりじりと間合いを詰めていた。

アラハバキ本体をあと一跳びで叩き斬れる、その距離へ到達しようとしたとき。

 

「頑張ッタところ悪いガ……我を忘レてはいまいナ?」

 横合いから風を切り。突如として、三つ首の大(がらす)が飛来した。

 

「ぐ……!」

 剣のような鋭い(くちばし)をかわし切れず、刀を構えてどうにか受ける。体勢を崩したそこへアラハバキの拳が殺到し、したたかに打ち据えられた。

「……っ!」

 無言で歯を食いしばりつつも跳びすさり、さらに襲い来る拳から距離を取った。脇のホルスターから素早く拳銃を抜き、大(がらす)へと向ける。

 

 三つの頭が口を開き、しわがれた声を上げる。

「忠告シテおくガ。飛び道具ハ使わぬガよかロウ、外しタ場合流れ弾ガ落ちル。通りがかるル者でもあれバ、オ主ノ守る人々ガ万が一傷つくヤモしれぬナ?」

 

 わずかに頬を震わせ、ライドウはゆっくりと銃を下ろす。

 

 三つ首の鴉は翼の片方を胸に当て、うやうやしく礼をしてみせた。

「我ガ名ハ『ナベリウス』。序列第二十四位にシテ、失われシ名誉ヤ地位ヲ取り戻させル悪魔ナリ。召喚者ハその力を求メ、我を()んダようだガ。今は、アンドロマリウスの指示ニ従おウ」

 

 ライドウは銃を納め、封魔管を抜き出した。

「お前もアラハバキ同様、あくまでも平和を乱そうというのなら。悪いが、容赦はしない。――悪魔召喚、ケルベロス」

 管から溢れた緑の光が白い獅子の姿を取る。

 

 その名を聞いたとき、ナベリウスが目を見開いていた。三つの首を伸ばし、興味深げにケルベロスを見る。

「ほほウ! ギリシャ神話に名を残ス、冥府ノ番犬! しかシそのよウな獅子の如キ姿とは――」

 

 喋り終えるのを待ちはせず、ライドウは視線で敵を示す。ケルベロスはわずかな(うな)りを残し、足音もなく標的へと跳んだ。

 (なた)のような剛爪はナベリウスの体をかすめるに留まり、黒い羽根がわずかに散ったのみだった。

しかしケルベロスは動きを止めず、指示を待つことなく息を深く吸い込む。咆哮(ほうこう)と共に吐く【炎の吐息(ファイアブレス)】が、羽ばたきつつ着地したナベリウスを呑み込んだ。

 

「良し」

 炎に巻かれた影へとどめを刺すべく、刀を手にライドウが駆ける。

 

 だが。敵の体を覆っていた炎が内から裂かれた。ケルベロスの火勢を越える、三筋の炎の噴射によって。

 

「何!?」

 マントの端を焦がしつつも横へと跳び、かろうじて炎から身をかわす。ケルベロスも同様に直撃を避けていた。

 

吹き飛ばされたケルベロスの火炎、舞い散る火の粉の奥から敵が声を上げた。

「――そノ姿、なかなか面白イ解釈ダ。我モ借リよう、そノ想念」

 

 火炎が地に降り落ちる中、姿を見せたのは。(さそり)のような甲殻を(そな)えた尾、ぎちりと肉の詰んだ(いわお)のような四つ足の体躯。黒い体毛とたてがみをなびかせた獅子。ライドウの下にいるものと同じケルベロス――ただし黒く、三つ首の。

 

「我ガ名はナベリウス、ソロモン七十二柱ガ序列第二十四位。なレど、奇妙ナことに他ノ神話ノ魔物トも同一視さレておってナ――またノ名を『ケルベロス』」

 中央の頭がそう喋るうち、左の首は唸りと共に炎の息を洩らし。右の首は舌なめずりしてライドウを見据える。

 

 

 

 一方、満月は仮面の内で長く尾を引く舌打ちをしていた。

「ちいいっ! ちょこまかとウザってぇ!」

 連続で神魔を繰り出すも、どれもが敵の俊足の前に空を切る。ようやく捉えたかと思えば残像に過ぎない、という始末。

 

「おやおや、随分とご機嫌斜めのご様子。急がば回れと申します、ここは一つ焦らずに、まずは呼吸を整えられては?」

 蛇の尾と貴族的な衣装の裾をひらめかせ、バティンと呼ばれた神魔が慇懃(いんぎん)に微笑む。長方形の仮面に目元を隠した顔で。

 

 無論、敵の提案に耳を貸す満月ではない。

「翔べ、フランソワーズ!」

 

 放たれた鳳凰が羽ばたきと共に炎を浴びせて襲いかかるも、残像を残した敵に軽々とかわされる。

 

「やれやれ、余裕のないお方だ。器の底が知れるというもので――」

 

 揶揄(やゆ)されたにもかかわらず、満月は仮面の内でほくそ笑む。指を一つ鳴らした。

「舞い上がれ。カトリーナ」

 

 敵が身をかわした――いや、鳳凰の炎を広げて満月が追い込んだ――そこ。灰と化した万札とケースの燃えかすの散らばる床。その内にさりげなく落とし、灰の内に隠しておいた神魔札。

床上のそれから、もう一羽の鳳凰が天へと舞い上がった。

 

「があぁ!?」

 身をよじって直撃をかわすも、バティンの半身が火を浴びて炎上する。

 

 下がっていたいつが、拳を握って身を乗り出す。

「さすが満月さん!」

 

「当たり前だ! さぁてとどめだ、煽れ『オルク――」

 炎を倍化させる創成神魔札を放とうとしたそのとき。

 

 敵はすでにその神速を以て駆け、跳び、宙を舞い。自らを覆う炎を、風圧でかき消していた。

 

「なっ――」

 満月が表情をこわばらせる間にも。

 

舞い散る火の粉の内で敵は微笑み、うやうやしく礼をする。

「おやおやおや、何やら気落ちなされたご様子。ですが、ご心配には及びますまい」

 冷ややかな光を放つ剣を構えた。

「もう間もなく。七十二柱が序列第十八位、このバティンが、心配などする必要のない場所へ葬送(おく)って差し上げましょうほどに」

 

 

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