デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
――一方、その頃。
新月のツクヨミは立ちはだかる三体の神魔を真っ直ぐに指差す。
「さあ、どこからでもかかってきなさい! 秩序を乱し人を傷つけた報い、身を以て教えて差し上げます!」
神魔らのうち一体、フードつきのマントに身を隠した者が肩をすくめる。
「正にその秩序を乱し、この国を破壊することこそ主の命だが。いいだろう、ソロモン七十二柱のうち序列第七十位、この僕『セエレ』が相手になろう」
はためく音を立てて放り捨てたマントの下から現れたのは、銀色の髪をなびかせた線の細い男の姿だった。近世ヨーロッパの軍服にも似た衣装だったが、両肩には肩章代わりのように、長い羽根が飾り立てられていた。
その口上を聞いたとたん、新月の眉がぴくり、と動く。
「ソロモン七十二柱……その神魔たちなら、組織の管理する『ソロモンの指輪』によって封じられているはずです。あなたが本当にその神魔だというのであれば、なぜここにいるのか。その経緯を詳しく教えていただく必要があります」
セエレは鼻で笑う。腰に提げていた
「そう言われて、素直に答えるとでも思うかな?」
新月は硬質な表情を変えなかった。
「ええ、当然です。――アマテラスオホミカミ」
白い面をかぶり、背中に届く金髪を整えた後で言葉を続けた。
「この私と神魔の力の前に、無事でいられるとでも思っているのですか?」
手にした神魔札が、金色の怜悧な光を放つ。
黒い竜がすり潰したような声を上げる。
「ツクヨミに
凪が、弾かれたように顔を向ける。
「
息をついた竜の鼻先で火炎が、ごう、と鳴った。
「そのように呼ばれる者がいたことは事実。とはいえ――」
高く首をもたげた竜が足を踏む、その重みに地面が揺れた。
「序列第二十六位、この『ブネ』の前に立ち塞がっておいて。まず、貴様が無事に済むとは思わぬがよかろうな。どうだ、捧げ物なりして背を向けるなら、追わずにおいてやってもよいが」
「悪魔を駆り、人に仇なす悪魔を討つことこそ
燃えるような竜の瞳へと、凪は小太刀を真っ直ぐに向ける。
「逃げません、私は。師が、運命から逃げなかったように」
傍らでオルトロスが身を反らせ、双頭で
馬の頭を高くもたげ、もう一体の神魔がいなないた。
「フヒィィン! どうやらワタクシの相手はアナタのご様子、せいぜいお手柔らかに願いましょうかぁあ!?」
人間に似た体型の、しかし獣のように分厚い胸を張る。はち切れんばかりの力こぶを誇示するように、広げた両腕を顔の横で力強く掲げていた。
半月は首元にかかる赤い髪をかき上げ、微笑んだ。
「こちらこそお手柔らかに。ところでそうそう、お仲間はソロモンの悪魔みたいだけど。あんたもそうなら、馬の姿で現れたってことは……」
目をつむり、人差指を額に当てていたが。やがて目を開けると同時、馬頭の神魔を指差した。
「ガミジン! それかオロバス! どう、当たった?」
神魔は軽く目を見開き、両の掌を見せて背をのけ反らせる。
「ヒヒィッ、なんとなんと! 正に正解、序列第四位の『ガミジン』でございまぁぁす!」
唇を吐息に震わせ、頑丈そうな歯列を剥き出しにして笑う。
「さぁて気になる正解の賞品は! ワタクシの故郷たる地獄へ、片道ファーストクラスでのご招待にございまぁぁす!」
「楽しそうだね、遠慮しとくよ。――フルベ、ユラユラト フルベ」
「これから迅雷とお茶して、そこら辺ぶらついて、気に入った店でご飯食べてと、予定が目白押しなもんでね。地獄ツアーはあんたに進呈するよ」
神面をかぶる。手の内の神魔札から、青白い光がおぼろげに立ち昇った。
そうするうちにも、新月のツクヨミは神魔札を繰り出していた。
「行きなさい、段蔵!」
飛び加藤とあだ名される忍者『加藤段蔵』が、黒装束の残像だけを残してセエレへと跳ぶ。
「遅いね」
忍び刀が振るわれたとき、そこにセエレの姿はなかった。
逆に段蔵の背後を取り、その背を蹴って新月へと跳ぶ。
「くっ!」
新月は他の神魔をすでに
どころかセエレの姿が、もはやどこにも見当たらなかった。
「どこに――」
髪を振り乱し、新月が首を巡らせると。
背後でセエレがこちらに背を向け、歩み去ろうとするところだった。
「何のつもりです、待ちなさい!」
新月は声を上げたが。セエレが妙なものを手にしているのに気づいた。見慣れた色の金髪を、一房ほど。
新月が後ろ髪に手をやるのと、セエレが振り向くのと同時だった。
「フフ……遅い、遅いよ。遅すぎる、本来なら首の方を刈り取れていた」
セエレは匂いを楽しむかのように金髪を鼻に寄せ、目をつむる。そうして髪を放り捨て、また背を向けて歩み出した。
「待ちなさい」
髪の短くなった箇所から手を離し、新月は硬質な声を上げた。
「抵抗はあきらめなさい、あなたたちが封を解かれた経緯を詳しく話してもらいます。それまでは、どこにも行かせません」
振り向いたセエレが顔を歪める。
「勝負はもうついただろう。君のように
肩章の羽根飾りを揺らし、
声色を変えることなく、新月は新たな札を掲げる。
「
現れたのは紅い
「さらに
現れたのは燃えるような髪を
だが、その衣装の輪郭がぶれ、姿形がかすんでゆき。赤髪がさらに高く立ち上がり、同じ色の
「何?」
セエレがつぶやく間に。マッハは姿を変え、もう一人の
二人の鈴鹿御前が揃って手を掲げる。そこから溢れ出た清浄な光が新月と、手にした神魔札を包んだ。
鈴鹿御前らが姿を消した後も、新月と神魔札は輝きを帯びていた。
「二重の『加護』による絶対の防御。もはやあなたは、私の身に傷一つつけることができません」
セエレは大きく口を開けた。
「はぁ? 何が始まるかと思えば我が身を守るか、とんだ臆病者だな君は! いいだろう……その防御とやら、どこまでのものか試してやるよ!」
「創成神魔札、『ヴァルキリー』! 『ホルス』!」
掲げた札から翼を背にした女騎士と、
二体の神魔はまるで抱きつくように新月へぴたりと身を寄せ、隙なく防御の構えを取る。
今や大軍勢の如き残像と共にセエレが嘲笑う。
「戦う気すらなくしたか臆病者! もういい、神魔ごとその首……もらった!」
殺到する残像たちの中から、抜きん出て跳び出した一体が。
肉に刃が食い込む、湿った音がした。
「あ……が……?」
半ばちぎれて傾ぐ首で、目を瞬かせていたのはセエレの方だった。
先ほど、その繰り出した刃がヴァルキリーとホルスに触れた瞬間。
新月は変わらぬ口調で言う。
「防御こそ最大の攻撃。私のヴァルキリーとホルスは防いだ攻撃をそのまま相手に返します。続いて――」
短くなった箇所の髪を触りつつ、片手で新たな札を繰り出す。
「創成神魔札『ミネルヴァ』『メタトロン』『ウトゥ』。やりなさい」
後ろでキヨミがため息をつく。
「ミッション・コンプリート~、ってそれはいいけど。自分で言っといて忘れてない? なんでそいつらの封印が解かれたか聞き出すんじゃなかったっけ?」
斬られた髪を未だいじっていた、新月の動きが止まる。
キヨミは肩をすくめる。
「怒るのは分かるけど。仕事のことまで忘れるなんて、ちょっと感情的に――」
「私、全っ然怒ってませんから」
面を取り、汗を拭う新月の唇は、思い切り尖っていた。