デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

21 / 33
第二十話  新月のツクヨミたち、ソロモンの悪魔らと対峙する

 

 ――一方、その頃。

 

 新月のツクヨミは立ちはだかる三体の神魔を真っ直ぐに指差す。

「さあ、どこからでもかかってきなさい! 秩序を乱し人を傷つけた報い、身を以て教えて差し上げます!」

 

 神魔らのうち一体、フードつきのマントに身を隠した者が肩をすくめる。

「正にその秩序を乱し、この国を破壊することこそ主の命だが。いいだろう、ソロモン七十二柱のうち序列第七十位、この僕『セエレ』が相手になろう」

 はためく音を立てて放り捨てたマントの下から現れたのは、銀色の髪をなびかせた線の細い男の姿だった。近世ヨーロッパの軍服にも似た衣装だったが、両肩には肩章代わりのように、長い羽根が飾り立てられていた。

 

 その口上を聞いたとたん、新月の眉がぴくり、と動く。

「ソロモン七十二柱……その神魔たちなら、組織の管理する『ソロモンの指輪』によって封じられているはずです。あなたが本当にその神魔だというのであれば、なぜここにいるのか。その経緯を詳しく教えていただく必要があります」

 

 セエレは鼻で笑う。腰に提げていた騎兵刀(サーベル)を抜き、新月へと切先を向ける。

「そう言われて、素直に答えるとでも思うかな?」

 

 新月は硬質な表情を変えなかった。

「ええ、当然です。――アマテラスオホミカミ」

十言神咒(とことかじり)に呼応して、手にした面の目元が澄んだ金色の光を放つ。

 白い面をかぶり、背中に届く金髪を整えた後で言葉を続けた。

「この私と神魔の力の前に、無事でいられるとでも思っているのですか?」

 手にした神魔札が、金色の怜悧な光を放つ。

 

 

 

 黒い竜がすり潰したような声を上げる。

「ツクヨミに悪魔召喚師(デビルサマナー)とやらか……どうやら、かの建物にいた者らの仲間の様子。かの者らも長くはもつまいが、貴様らもここで――」

 

 凪が、弾かれたように顔を向ける。

悪魔召喚師(デビルサマナー)……! ライドウ先輩が、あの建物にいるプロセスですか!」

 

 息をついた竜の鼻先で火炎が、ごう、と鳴った。

「そのように呼ばれる者がいたことは事実。とはいえ――」

 高く首をもたげた竜が足を踏む、その重みに地面が揺れた。

「序列第二十六位、この『ブネ』の前に立ち塞がっておいて。まず、貴様が無事に済むとは思わぬがよかろうな。どうだ、捧げ物なりして背を向けるなら、追わずにおいてやってもよいが」

 

「悪魔を駆り、人に仇なす悪魔を討つことこそ悪魔召喚師(デビルサマナー)の役目、人々を護ることこそ本懐。師は、先輩はそう教えて下さいました」

 燃えるような竜の瞳へと、凪は小太刀を真っ直ぐに向ける。

「逃げません、私は。師が、運命から逃げなかったように」

 傍らでオルトロスが身を反らせ、双頭で()え声を上げる。

 

 

 

 馬の頭を高くもたげ、もう一体の神魔がいなないた。

「フヒィィン! どうやらワタクシの相手はアナタのご様子、せいぜいお手柔らかに願いましょうかぁあ!?」

 人間に似た体型の、しかし獣のように分厚い胸を張る。はち切れんばかりの力こぶを誇示するように、広げた両腕を顔の横で力強く掲げていた。

 

 半月は首元にかかる赤い髪をかき上げ、微笑んだ。

「こちらこそお手柔らかに。ところでそうそう、お仲間はソロモンの悪魔みたいだけど。あんたもそうなら、馬の姿で現れたってことは……」

 目をつむり、人差指を額に当てていたが。やがて目を開けると同時、馬頭の神魔を指差した。

「ガミジン! それかオロバス! どう、当たった?」

 

 神魔は軽く目を見開き、両の掌を見せて背をのけ反らせる。

「ヒヒィッ、なんとなんと! 正に正解、序列第四位の『ガミジン』でございまぁぁす!」

 唇を吐息に震わせ、頑丈そうな歯列を剥き出しにして笑う。

「さぁて気になる正解の賞品は! ワタクシの故郷たる地獄へ、片道ファーストクラスでのご招待にございまぁぁす!」

 

「楽しそうだね、遠慮しとくよ。――フルベ、ユラユラト フルベ」

 布瑠(ふる)(こと)に応えるように、手の内で黒い面の目元が青白い光を放つ。

 

「これから迅雷とお茶して、そこら辺ぶらついて、気に入った店でご飯食べてと、予定が目白押しなもんでね。地獄ツアーはあんたに進呈するよ」

 神面をかぶる。手の内の神魔札から、青白い光がおぼろげに立ち昇った。

 

 

 

 そうするうちにも、新月のツクヨミは神魔札を繰り出していた。

「行きなさい、段蔵!」

 飛び加藤とあだ名される忍者『加藤段蔵』が、黒装束の残像だけを残してセエレへと跳ぶ。

 

「遅いね」

 忍び刀が振るわれたとき、そこにセエレの姿はなかった。

 逆に段蔵の背後を取り、その背を蹴って新月へと跳ぶ。

 

「くっ!」

 新月は他の神魔をすでに顕現(けんげん)させていたが。龍の鱗を(そな)えた馬のような神獣『麒麟(きりん)』の角は敵にかすりもせず、猿の頭や虎の四肢を(そな)えた合成獣『(ぬえ)』の爪は空を切った。

どころかセエレの姿が、もはやどこにも見当たらなかった。

 

「どこに――」

 髪を振り乱し、新月が首を巡らせると。

 

 背後でセエレがこちらに背を向け、歩み去ろうとするところだった。

 

「何のつもりです、待ちなさい!」

 新月は声を上げたが。セエレが妙なものを手にしているのに気づいた。見慣れた色の金髪を、一房ほど。

 

 新月が後ろ髪に手をやるのと、セエレが振り向くのと同時だった。

「フフ……遅い、遅いよ。遅すぎる、本来なら首の方を刈り取れていた」

 セエレは匂いを楽しむかのように金髪を鼻に寄せ、目をつむる。そうして髪を放り捨て、また背を向けて歩み出した。

 

「待ちなさい」

 髪の短くなった箇所から手を離し、新月は硬質な声を上げた。

「抵抗はあきらめなさい、あなたたちが封を解かれた経緯を詳しく話してもらいます。それまでは、どこにも行かせません」

 

 振り向いたセエレが顔を歪める。

「勝負はもうついただろう。君のように(のろ)い者と話すだけ時間の無駄だ、見逃してやろうと思ったが……自ら命を捨てに来るか」

 肩章の羽根飾りを揺らし、騎兵刀(サーベル)を構えた。

 

 声色を変えることなく、新月は新たな札を掲げる。

神魔顕現(じんまけんげん)、『鈴鹿御前(すずかごぜん)』」

 現れたのは紅い単衣(ひとえ)に身を包んだ、姫君のような女性。だがまるで男性貴族のように(はかま)と、紅い立烏帽子(たてえぼし)を身につけている。

 

「さらに顕現(けんげん)、『マッハ』」

 現れたのは燃えるような髪を鶏冠(とさか)のように逆立てた魔女。身にまとう衣装も同じく赤。

 だが、その衣装の輪郭がぶれ、姿形がかすんでゆき。赤髪がさらに高く立ち上がり、同じ色の立烏帽子(たてえぼし)へと姿を変える。

 

「何?」

 セエレがつぶやく間に。マッハは姿を変え、もう一人の鈴鹿御前(すずかごぜん)と化していた。

 

 二人の鈴鹿御前が揃って手を掲げる。そこから溢れ出た清浄な光が新月と、手にした神魔札を包んだ。

 鈴鹿御前らが姿を消した後も、新月と神魔札は輝きを帯びていた。

「二重の『加護』による絶対の防御。もはやあなたは、私の身に傷一つつけることができません」

 

 セエレは大きく口を開けた。

「はぁ? 何が始まるかと思えば我が身を守るか、とんだ臆病者だな君は! いいだろう……その防御とやら、どこまでのものか試してやるよ!」

 騎兵刀(サーベル)の刃に舌を()わせると、新月目がけて跳んだ。かと思うと途中で横へ跳び、さらに別方向へと跳び。そのたびに残像が現れ、新月を取り囲むようにその数を増やしていく。

 

「創成神魔札、『ヴァルキリー』! 『ホルス』!」

 掲げた札から翼を背にした女騎士と、(はやぶさ)の頭をした鳥人(ちょうじん)が姿を現す。隙間なく鎧で身を覆ったそれらの姿は、神や悪魔というよりもロボットのようにすら見えた。

 二体の神魔はまるで抱きつくように新月へぴたりと身を寄せ、隙なく防御の構えを取る。

 

 今や大軍勢の如き残像と共にセエレが嘲笑う。

「戦う気すらなくしたか臆病者! もういい、神魔ごとその首……もらった!」

 殺到する残像たちの中から、抜きん出て跳び出した一体が。騎兵刀(サーベル)を神魔と、新月の首目がけて振るった。

 

 肉に刃が食い込む、湿った音がした。

 

「あ……が……?」

 半ばちぎれて傾ぐ首で、目を瞬かせていたのはセエレの方だった。

 

 先ほど、その繰り出した刃がヴァルキリーとホルスに触れた瞬間。騎兵刀(サーベル)は完全に動きを止められ。神魔らから溢れた光が、替わって騎兵刀(サーベル)を形作り、セエレの首を裂いた。彼が新月へそうしようとした、まるでそのままに。

 

 新月は変わらぬ口調で言う。

「防御こそ最大の攻撃。私のヴァルキリーとホルスは防いだ攻撃をそのまま相手に返します。続いて――」

 短くなった箇所の髪を触りつつ、片手で新たな札を繰り出す。

「創成神魔札『ミネルヴァ』『メタトロン』『ウトゥ』。やりなさい」

 (ふくろう)の頭部をした戦女神、金の翼持つ天使、多腕の戦士。いずれも機械のように全身を鎧で固めた神魔が敵を取り囲み、籠手(こて)に覆われた手で斬り、刺し、殴り。一瞬の間断もない連携の内に、敵を肉片へと変えた。

 

 後ろでキヨミがため息をつく。

「ミッション・コンプリート~、ってそれはいいけど。自分で言っといて忘れてない?  なんでそいつらの封印が解かれたか聞き出すんじゃなかったっけ?」

 

 斬られた髪を未だいじっていた、新月の動きが止まる。

 

 キヨミは肩をすくめる。

「怒るのは分かるけど。仕事のことまで忘れるなんて、ちょっと感情的に――」

 

「私、全っ然怒ってませんから」

 面を取り、汗を拭う新月の唇は、思い切り尖っていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。