デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第二十一話  半月のツクヨミ、その実力の片鱗を見せる

 

 馬の頭部をした神魔、ガミジンが鼻づらを震わせて息を吐く。

「ブッヒヒィィン! ソロモン序列(ランキング)堂々の四位たるこのワタクシになんたる無礼! いいでしょう……そんなに地獄行きファーストクラスがお嫌なら、せいぜい自費でお出でなさい!」

筋肉を誇示するように両腕を広げて掲げる。

「ワタクシこそは地獄の侯爵にして三十個軍団余りの大軍を率いる者! そして死霊の召喚者でもある……つまりは、こう!」

 

 がちがちと歯を噛み鳴らす口から吐いた黒い霧。その中から次々と、はためく布にいくつもの恨めしげな顔を浮かばせ、歪んだ手を伸ばす『霊塊(れいかい)』たちが姿を現した。

 

 半月は肩をすくめる。

「大軍団はいいけどね。霊塊程度が兵士じゃ、どうも質が悪いんじゃない?」

 

 鼻息を吹いてガミジンは笑う。

「ブフルッヒィィン! そう言っていられるのも今のうちでございまぁす!」

 霊塊はまたも現れ、さらに現れ、とめどなく現れ。それでも辺りを埋め尽くすかのように、水が湧き出るかのように現れ続け。

 

 後ろに控える迅雷の頬が引きつる。

「ちょ、これ、シャレにならねぇんじゃあ――」

 

 満員電車に乗ったかのように、きゅうくつげにひしめく霊塊らは、互いの体を押し合い()し合い、いつしか互いの布と布、顔と顔との境目がなくなり。辺りの空を覆うかのような、一塊の巨大な霊塊と化していた。

 

「ええ~!?」

 

 さすがに目を見開いて霊塊を見上げる半月に、得意げにガミジンが笑い声を上げた。

「ブフフフヒヒィィン。これぞ我が下僕たる霊にして大軍団、すなわち『大霊塊(レギオン)』! 戦いは数! 量こそが質でありパワー! さあワタクシの下僕どもよ、イキのいい魂を存分にお喰らいなさぁい!」

 

 宙にはためく巨大な布に浮かんだ、いくつもいくつもの顔が一斉に半月をにらむ。そうして風を打つ音を立てて、砲弾のように半月へと飛んだ。

 

「ちょ、半月―!?」

 

 迅雷の叫びをよそに、半月は微笑んでさえいた。

「端からいこうか。顕現(けんげん)、『(ぬえ)』『大口真神(おおぐちのまかみ)』『白虎(びゃっこ)』」

 新月も顕現(けんげん)させていた合成獣が、そして赤い狼、白い虎が次々と現れ、大霊塊(レギオン)の端へと喰らいつき。体を形作る布のいくらかを破り取った。

 

「フヒィィン、それがどうし――」

 

 ガミジンが鼻息を吹く間にも、半月は手札を繰り出していた。

「『火車』『鬼人』『がしゃどくろ』」

 顔のついた燃える車輪が、金属バットをかついだ鬼が、いくつものしゃれこうべがついた巨大な頭蓋骨が同じく敵へと打ち当たり、さらに多くの布をこそぎ取る。

 

「フフフヒヒィィン、その程度で――」

 

「『二郎神』『ナタク』『雪ムスメ』。『鎌鼬(かまいたち)』『飯綱(いづな)』『雷獣』」

 中華風の衣装をまとった二人の武神が武器を振るい、白い着物の娘が吹雪を放つ。鎌と鋭い爪を持った獣たちが切り裂き、黒い獣が電光を帯びて突進し。今や大霊塊(レギオン)の半分ほどがちぎれ落ちていた。

 

「あ? な、なっ――」

 ガミジンが目を瞬かせる間にも、半月の手は止まってはいなかった。

「『八尺様』『トンカラトン』『くねくね』。『水虎(すいこ)』『瀬戸大将』――」

 八尺ほども身の丈のある怪女が、自転車に乗り刀をかついだミイラ男が。くねくねくねと身をくねらせる切り紙のような(あやかし)が、河童(かっぱ)の子供が、瀬戸物で身を(よろ)った武者が。さながら百鬼夜行の如くに駆けては騒ぎ、躍るように腕を武器をてんでに振るい、大霊塊(レギオン)を完全に打ち散らし。

 

「なっ、なっ、なああっっ……!?」

 

 もはや震えの止まらぬガミジンへ向け、半月はまだ手を止めてはいなかった。

神魔顕現(じんまけんげん)――『渾沌(こんとん)』。『渾沌』、『渾沌』『渾沌』、『渾沌』」

 むくむくとした丸い体に黄色い体毛をふさふさと生やした、翼のある六つ足の獣ども。それらがガミジンへと駆け、次々と体当たりする。

 

「なっ、がっ、こんなもの――」

 

 半月は次々と札を()る。

「『渾沌』『渾沌』『渾沌』、『渾沌』『渾沌』『渾沌』。『渾沌』、『渾沌』、『渾沌』。『渾沌』に『渾沌』と『渾沌』で、『渾沌』『渾沌』『渾沌』とまた『渾沌』『渾沌』『渾沌』。あと『渾沌』と『渾沌』と『渾沌』と、も一つおまけに『渾沌』。おっと忘れてたよ、あとダメ押しで『渾沌』と、アンコールにお応えして『渾沌』~っと」

 

「ブヒッ、あがっ、ぐああっ!? ぎゃっヒヒィィィィン……!!?」

 奇妙な獣たちが織り成す混沌とした大河の中、踏み砕かれ体のそこかしこから骨を突き出させたガミジンがぼろ切れのように押し流され、やがて黒い塵と化して消えてゆく。

 

 迅雷はひょろりと長い背を伸ばし、片手で目の上にひさしを作ってそれを眺めていた。

「うわ、容赦ねぇなー……でもまぁ、アンタ相手に頑張った方だったなアイツ」

 

 半月は残った札を手の内でもてあそぶ。

「とはいえ、奥の手を出すまでもなかったね。ねぇ『建葉槌(たけはづち)』」

 札の中では古代日本風の鎧を着込んだ女神が、苦笑したように微笑んでいた。

 

 

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