デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第二十三話  悪魔召喚師十七代目葛葉ゲイリン 対 ゲイリンが弟子、凪

 

 音もなくゲイリンが踏み込み、流れるように刃を繰り出す。斬り、かと思えば突き、えぐり込むように執拗に突き。かと思えばまた軽やかに斬り込む。

 

「この太刀筋は……!」

 亡師が【ローハイド】と名づけていた技。葛葉ゲイリン代々に伝わる剣技に飽き足らず、アメリカでの修行を経て編み出した独自のコンビネーション。目の前の敵は、それを完全に再現してみせた。

 

 ぎりぎりの所で刃を受け流し、跳び退いた凪へ。葛葉ゲイリン――その姿をした者――は微笑み、手招きしてみせた。

「今のを防ぐとは上出来のカテゴリ。さあ、次はお前が技前を見せるターンだ」

 

「師匠……!」

 体の前で小太刀を盾のように突き出しつつ、凪の手は震えていた。

 

 その背をどやすように、オルトロスが乱雑に尾で打つ。

「何ヲ固クナッテル! ソレデ勝テルナラ結構ダガナ!」

 

 凪はよろめき、何歩か足を継いだ。先ほどよりはいくらか自由に動くようになった腕を上げ、構え直す。

「気づかい、感謝します。今は敵の策に惑わされず、必ず討ち果たすセオリー……それが私の、召喚師(サマナー)としての役目」

 新たな小刀を取り出し、構える。

「行きます、【火炎印】!」

 放たれた小刀にオルトロスが火の息を吹いた。炎をまとった刃がゲイリンへと飛ぶ。

 

 かわすにせよ刀で防ぐにせよ、その動作に集中するゆえの隙が一瞬生まれるはず。そこをオルトロスとの同時攻撃で仕留める――戦闘不能とさせ、次にブネへと向かう――算段で、凪は師との距離を詰める。

 

 ゲイリンが取っていたのは、回避の動作でも防御の構えでもなかった。

貫け(スティング)……【クイック&デッド】!」

 緑の燐光を噴き上げる切先を突き出し、己を一つの矢、いや弾丸と成し。燃える小刀を肩口へ刺されながらも、凪目がけて跳び込んでいた。

 

 声を上げる間もなかった、車に跳ね飛ばされたかのように凪の体は宙を舞った。

【火炎印】のダメージで多少勢いが削がれていたのか、刃の直撃は避けることができた。だが突進の勢いは、それだけで凪を打ち飛ばすのに充分だった。

 

 これが十七代目葛葉ゲイリン。かつて不治の病に身を蝕まれながらも試練に挑み、先代までの葛葉ゲイリンの霊魂と死闘を繰り広げ。かつてのゲイリン十四人までを、たった一人で斬り伏せた剣鬼。――いや、それを模した敵。

 

「く……!」

 凪が地面から身を起こし、立ち上がろうとしたとき。

 

「チェック・メイトだ。我が弟子よ」

 目の前に、師の刀が突きつけられていた。

 小さく息をつき、ゲイリンがかぶりを振る。

「さて、楽しい一時ではあったが。これまでだ、せめて苦しまずに逝くがよい!」

 

 刃が一息に振り下ろされ、硬い音が響いた。

 

「何……!?」

 

 目をつむっていた凪が、いぶかしむような師の声にまぶたを開くと。

 ゲイリンの刀は見たこともない悪魔の体に食い込んで止まっていた。凪を守るかのように前に立つ、陶器の鎧をまとった武者と、体を覆うような巨大な盾を構えた騎士に。

 

「え……」

 

 目を瞬かせる凪の前に、赤い髪の女性が姿を見せる。確か、半月のツクヨミと名乗っていた。

 ぱんぱんぱん、と手を叩き、半月のツクヨミは朗らかに笑む。

「はいはいはい、そこまでそこまで~。ダメじゃないおじいちゃん、そんなことしちゃあ。レディーには優しくなきゃ、でしょう? あ、瀬戸大将と『アイアス』ご苦労さま」

 二体の悪魔は青い光と共に札へと姿を変え、半月の手に戻っていった。

 

 その隣で。新月のツクヨミと名乗っていた、金髪の女性が硬い表情で口を開く。

「今のは女性蔑視的発言です。撤回を推奨します、半月さん。それはそうと」

 胸を張り、ゲイリンと次いでブネを真っ直ぐに指差した。

「おおよその話は聞かせていただきました。縁ある死者の姿をかたどり、殺し合わせるなど死者への冒涜(ぼうとく)、生者への愚弄(ぐろう)! たとえ誰が許そうとも、この新月のツクヨミが許しません!」

 

 顔の前に上げた手の指をひらひらと動かし、半月が微笑む。

「はいは~い、半月さんも許しませ~ん。というわけで」

 身をかがめ、凪へ笑いかけた。

「ありがと、よく頑張ってくれたね。どういう所属の神魔使いかは知らないけど、後は私たちに任せて」

 

 札を構え、敵を見据えたまま新月も言う。

「事情は後で聞かせてもらいます。伝説に(うた)われるソロモンの悪魔、それほどの強大な神魔が相手であれば。純正なる神の力を与えられた、私たちツクヨミの出番です」

 

 座り込んだままの凪の返事を待たず、新月は札を放った。

「創成神魔札! ゆきなさい、『シグルド』!」

 金の光の中から姿を現した、鎧姿の騎士がブネへと大剣を振るう。

 

 ブネは身をかわすそぶりも見せず、何か考えるように首をかしげていた。傍らのゲイリンもシグルドを止めようとはしなかった。

 無防備なブネの首に、鈍い音を立てて大剣が食い込む。

 

「ふぅむ、新月? 新月のツクヨミとな?」

 刃を首に刺したまま、変わらずブネは首をひねっていた。シグルドが地を踏み締めて力を込めるも、剣は押されも引かれもしなかった。

 

「なっ……!」

 

 新月が目を見開く間に、合点したようにブネが大きくうなずく。

「おお、思い出したわ! 如何(いか)ほど昔であったか、以前もこの国で()ばれたことがあった。そのとき我らを()んだ者も、新月のツクヨミと名乗っておったわ。懐かしや、思えばそのときもあの国津神を――」

 

 新月は眉をひそめる。

「あの国津神? いったい何のことです、説明を――」

 

 ブネは鼻から炎を洩らして笑う。

「とはいえ。我が記憶が確かならば、そのときのツクヨミはこれほど(やわ)ではなかったがな」

 首の一振りで、剣ごとシグルドが振り飛ばされる。

 

 ブネが身を反らせて大きく息を吸い込んだと見るや、肺腑を内に包む胸が果実の如く膨らんだ。その空気を炎へと変え、一息にシグルドへと吐き出す。

 炎の奔流が通り過ぎた後には、鎧の欠片すら残っておらず。わずかな焦げ跡を地面に残し、シグルドは最初からどこにもいなかったかのように消されていた。

 

 目を見開いたまま固まる新月をよそに、半月は札を繰り出していた。

「行くよ、創生神魔札! 『ズー』!」

 和装にも似た、ゆったりとした衣をはためかせた鳥人が宙を舞う。狙うのは先ほどシグルドが裂いた、首の傷口。

 

 ブネが高々と持ち上げた翼を打ち振るい、鳥人を地に打ちつけ叩き潰す。

 

 その隙に、半月はさらなる手札を繰り出していた。

「さあ行った、渾沌(こんとん)たち!」

 一度に放った札の束から現れたのは、翼を(そな)えた黄色い体毛の獣たち。顔のないそれらはむくむくとした体を揺らし、地響き立ててブネへと向かう。

 

 ほう、と息をつくようにブネは口を円く開けたが。すぐに大きく空気を吸い込み、炎として吐き出した。

獣の群れは向かう端から火炎に呑み込まれ、たちまち黒く焦がされ。はかなくも(ちり)と散っていった。

 

「げ」

 さすがに歯を剥いた、半月の動きが止まる。

 

 今度は新月が前へと立つ。

「まだです、このまま押しましょう! 創成神魔札、『インドラ』!」

 黄金の鎧と仮面に身を包み、逆立つ髪を振り乱した雷神が札から顕現(けんげん)する。

 

 半月も新たな札を取り出した。

「ああ、奥の手行くよ! 『建葉槌(たけはづち)』!」

 札から飛び出した、古代和風の鎧をまとった女神が(ほこ)を構える。

 

 雷神の放つ稲妻が黒竜の巨体を撃ち、女神が縦横無尽に突き出す矛が喉を突き、鱗を裂き、傷口をえぐる。

 

 間断ない攻撃にさらされながらも、ブネは口元を緩めていた。

「む……ふふう! 良いぞ、良い……! それでこそ面白いわ!」

 ブネが合図のように視線をよこすと同時。

 

傍らに控えていたゲイリンが動いた。

「大した動きだが。技術としては未だ、荒削りのカテゴリ」

 音もなく跳び込み、連続で振るう刀が一分の狂いもなく、建葉槌(たけはづち)の矛を弾きブネの体から逸らしてゆく。続けて繰り出した突きが深々と、鎧の隙間から女神の体を貫いた。

 

建葉槌(たけはづち)は声もなく地に膝をつき、矛を取り落として自らの血溜まりに伏し。青い光となってかき消えていった。

 そしてブネが吐く炎がインドラを呑み込み、跡形もなく焼き尽くす。

 

「そんな……」

「何だって……!」

 

 言葉を失う新月と半月を前に。ブネは自らの体を走る傷口に目をやる。黒い血を流すそこに向けて炎を吐いた。

 巨体の上で燃える炎がかき消えたとき。傷口が消えていた。焼いて血止めしたというのではなく、最初から傷などどこにもなかったかのように。

 

 ブネはなおも、牙の並ぶ大口を緩めて笑う。

「それなりに楽しませてくれる者たちだ。さ、次は何を見せてくれる?」

 分厚い舌を伸ばし、唇をなめた。

「気の済むまでやり終えたならば。光栄に思うがいい、久方振りの食事の主菜としてくれようほどに」

 

 

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