デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第二話  十六夜月(いざよいづき)のツクヨミ、奔放不羈(ほんぼうふき)の幼なじみに翻弄される

 

 ――一方、その少し後。

 

 夕暮れの山上展望台、むつから突然連絡を受け、待ち合わせることとなったその場所で。

十六夜月(いざよいづき)のツクヨミは、冷たい声を作って言い放った。

「むつ、先に言っておく。……すまない、君の気持ちに応えることはできない」

 

「え……」

 彼のパートナーたる金鵄(きんし)、武内 むつ。彼女はたじろいだようにわずかに身を引き、十六夜月(いざよいづき)の目を見つめていた。

 

 その目をとても見ていられず、十六夜月(いざよいづき)は目をそらした。しがらみを振り払うかのようにかぶりを振る。長めの襟足が、制服のブレザーの襟を擦った。

「本当にすまない、だが今後世の安寧を護る身として、男女のことに(うつつ)を抜かしては――」

 

 十六夜月(いざよいづき)の顔をのぞき込むように、いや、観察するようにまじまじと見ていた後。むつの頬が膨らみ、こらえかねたように息を吹き出す。

「ぶ……っはは! ははは、え、何、え~? いやもしかして、わたしが? 告白するとか思ってたワケ? そのために呼び出したって? いざよいくん相手に~? はは、あっははは!」

 手を叩き、身を折り曲げて、制服のスカートからのぞくひざを何度も叩き。ピンクに染めた髪を震わせながらひとしきり笑った後。

十六夜月(いざよいづき)に身を寄せて、その目をのぞき込む。優しく優しく笑ってささやく。

「キっモ」

 

 言葉を失って固まる十六夜月(いざよいづき)をよそに、むつは歩き回りつつ講釈を垂れる。

「いやいや、そりゃあさ? ここ夜景スポットではあるけどさ、まだ夕方だしね? 突然山の上呼び出して告白とか、無いって思わないかなあ? ていうか、そうだ――」

 不意に表情を消し、気をつけの姿勢を取る。十六夜月(いざよいづき)の目を見据えた後、真っ直ぐ腰まで頭を下げる。

「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、いざよいくんの想いに応えることはできないから。ちょっとムリだから」

 

「ちょ……ちょっと待て!?」

 固まっていた体を無理やり動かし、十六夜月(いざよいづき)は口を開いた。

「待て、何だよこれ! 何で俺の方が振られたみたいになってるんだよ!? そんなつもりじゃ、ただ俺は今後っ、ツクヨミとして戦うことになるはずだしっ、その、ツクヨミと! パートナーとして! 間違いがないようはっきりとけじめを――」

 

 激しく身振り手振りをしながら熱弁する十六夜月(いざよいづき)を見ながら。むつは肩を落とし、大げさにため息をついた。

「はいはい、きみがマジメなのは分かってるよ。それにしたってここまでワケ分かんないこと言うとは思わなかったけどねー」

 首をかしげ、十六夜月(いざよいづき)の目をのぞき込む。

「いざよいくんは心が童貞なんだね。ヤバみ~」

 

「どどっ――」

 息を詰まらせた十六夜月(いざよいづき)は、顔をそらしながら声を上げた。

「――って、そういうことを女子が口にするんじゃあない! ……大体何だ、急に呼び出したり。初任務の指令もまだ下ってはいないはずだろう」

 

「それね。ま、仕事関係っちゃ仕事関係なんだよ? はいこれ」

 悪びれもせず、むつは足下に置いた大荷物を手にする。キャリーケースから取り出してみせたのは、十六夜月(いざよいづき)の使う『月夜見命与月弓尊(ツクヨミにあたえられしツクヨミ)(のめん)』――ツクヨミとしての力を行使するための仮面――。

 

「な……っ」

 またも一瞬固まった後、十六夜月(いざよいづき)は声を荒げた。

「何を、何で持ち出したこんな物! だいたい君はっ、任務でもないのにっ、神の力を宿した面を許可も無く――」

 

「まーまーまー、言ったじゃん仕事関係っちゃ仕事関係だって。カワイイいざよいくんへ、むつおねーさんからの心づかいだよ」

 さほど分厚くもない自分の胸を、むつは拳で、どん、と叩く。

「ちゃんと許可もあるんだから。本人と最終メンテしとく、って持ち出したんだよ。神魔(じんま)を扱う練習、初任務が来る前にもっかいやろうよ」

 

 十六夜月(いざよいづき)は口を開けていたが、思い切り顔をしかめてみせた。

「おねーさんって……君の方が半年早生まれなだけだろ」

 

 ふふん、と、むつは息をついて笑う。

「おねーさんの言うことは聞いときなさいって。さもなきゃ多分初任務の真っ最中にビビって、もう一回戦い方のおさらいするハメになるよ?」

 

「なるかっ!」

「いやなるって」

「ならない!」

「じゃあ賭ける? 負けた方のおごりでモス食べ放題ね」

「いいだろう」

 

 深く息をついた後、十六夜月(いざよいづき)は呼吸が落ち着くまで待ってから言った。

「話はまあ分かったが。訓練だとしても人目を避ける必要がある、組織の施設内で良かっただろう。なぜこんな所で待ち合わせを――」

 

 むつは自分のスマートフォンを操作し、ネットの画面を十六夜月(いざよいづき)に見せた。オカルト関係の噂のまとめページ。いわく、この山上にある廃ホテル、その中に幽霊が出ると。

 

 むつは、に、と歯を見せて笑う。

「実戦で訓練、やっといた方がいいでしょ? 幽霊が実際出るんならツクヨミ様の力で(はら)ってやれば、皆も安心・霊にとっても結構。出なけりゃ出ないで、人目につかないとこで神魔の扱いを練習すればいい。でしょ?」

 

 十六夜月(いざよいづき)は、しばし考えた後大きく息をついた。

「分かったよ。……ありがとう、むつ」

 

 ちゃんと聞いているのかどうか、むつは不意に手を打った。

「あ! そっか、アレかぁ! いざよいくんが告白とか何とか思ったのってさぁ」

 にんまりと微笑む。

「アレ覚えてたんだよね? 幼稚園の頃さ、大きくなったら結婚しようって言ってくれたの」

 

 むつとは幼なじみだった。小学校の低学年に、親の仕事の都合で十六夜月(いざよいづき)が引っ越すまでは。

 武内家は神代の昔からツクヨミの組織を支える名家。一方十六夜月の家はツクヨミに関わる神社の傍系であり、組織にとっては末端の事務方でしかなかった。引越しも仕事の都合、組織の都合だ。

高校に入ってクラスメートとしてむつと再会するとは思わなかったし、ましてや自分が月読命(つくよみのみこと)の啓示を受け、十六夜月(いざよいづき)のツクヨミとなるとは思わなかった。しかも、むつが担当の金鵄(きんし)になるなどと、予想できるはずもなかった。

 

 思い切り顔を背ける。

「そんなわけ、だいたい昔言ったのはそっちだろう! 大きくなったらお嫁さんに――」

 そこで無理に言葉を切り、何度も大きく咳払いする。意識して表情を消した。

「――それより。訓練なら早く始めよう、面と装束をくれ」

 

 むつがツクヨミの仮面と、装束一式の入ったキャリーケースをよこす。

 公衆トイレにでも入って着替えようと――幼い日にテレビで見て憧れた変身ヒーローとは違い、いささか間抜けなことにツクヨミの変身方法は着替えて仮面をかぶるだけだ――、十六夜月(いざよいづき)は制服のネクタイを緩めつつ歩く。

 

 あっ、とむつが声を漏らした。

 

「今度は何だ」

 

 小さく口を開けて黙った後、むつは歯を見せて笑った。

「どーでもいいんだけどさ。エロかったよ今の、いざよいくんがネクタイ緩めるとこ」

「……知るか」

 

「次、誰かに告るときはさ。ネクタイ緩めながらしたらいーよ」

「だからっ、俺が告白したみたいな言い方を……!」

 

 十六夜月(いざよいづき)は顔を歪め、頭をかきむしった後でため息をつく。キャリーケースを引いて歩き出した。

 

 

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