デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
巨大な敵を前に、仮面の前部を閉め直し、
とにもかくにも、やるしかない。
二枚の札を同時に放つ。
「行くぞ
龍と神将が繰り出す炎が絡み合い、渦を描いて飛ぶ。炎はアンドロマリウスの巨大な体へと打ち当たった。未だ開いたままの傷口が焼け焦げ、黒い血が蒸発していく。
「ォォ、オ……」
巨体が揺らぎ、足を止める。
効いている――効いている。決して奴は無敵ではない、そもそも三人で攻撃した傷も残ったままだ、不死身でもなんでもない――時間稼ぎどころか、倒せるのではないか? 自分一人で。
そちらの方がいくらかは可能性があるように思えた。いつ崩れるか分からない建物の上で、いつ来るか分からない救援を待って逃げ回るよりは、ほんのいくらか。
思っている間に、アンドロマリウスは天を仰いでいた。
「ォ、ォォ、オオ……ッ!」
牙の伸びる口元に、ぎらつくような光が溢れてゆく。
手前にいた青龍と広目天が代わって光に呑み込まれ、蒸発音と共に姿を消した。光はどうにかそれで勢いを弱め、
「な……っ!」
それだけではなかった。辺りに散った粒子が宙を舞いながら寄り集まり、いくつもの小さな黒い手へと変じ。
黒い手は札をまさぐり、同種の札、青龍と広目天を抜き出し。引き裂き、黒い炎で焼き尽くした。
「んなああぁっ……!?」
「許さぬ……許しはせぬ! 正義たる小生らに楯突く、悪に加担する者ども……もろともに焼き尽くしてくれる!」
刀らしき形状が中に浮かんだそれらをつかみ、懐に入れる。
そうだ、これを使えば勝ちの目もあるのではないか。
ゴウトは、ライドウの
純正な神たる
だが――
建物を揺らしてなおも歩を進める、アンドロマリウスの巨体を見上げる。
我が事ながら、眉が疑問の形に寄る。
「……あれを、やるのかぁ……俺が?」
神魔による攻撃でアラハバキを倒した際には、浄化されていない呪いが洩れ出てしまった。ならば今度は、
できるのか、そんなことが。
思う間にもアンドロマリウスは歩みを止め、四つの腕を掲げた。そのうちの二腕、巨大な土偶の腕が火を吹き上げながら射出される。ライドウと満月を
「おお……ぅおおおっっ!?」
とにかく駆け、跳ぶ。風圧に体が浮くのを感じながら片方の拳をかわした。着地と同時に全速で駆け、体ごと床へと跳んで滑り込み。どうにかもう片方の拳もかわした、いや、かわせた。
土偶の拳はゆっくりと宙を舞い、元の腕へと戻っていく。が、もう一組の腕、アンドロマリウス自身のそれが大きくふりかぶられるのが見えた。
「げ……!」
慌てて辺りを見回し――逃げられる余地はあるか、つまずくような障害物や穴はないか――、気づいた。満月が倒された辺りに何かがある。
一つは直剣だった。両刃の長剣、古代日本でいう
もう一つは
満月は修羅の槍の他、二枚の神装板を手にしていたが。打ち倒される前に開封し、具現化させていたのか。
アンドロマリウスの目が
歯を食いしばって跳び退きざま、深淵の壺を叩きつける。
壺は巨人の腕で砕け散り、その肌に油を撒き散らし。一面の油は青い炎と化して燃え上がった。
「グォォオオ……!?」
アンドロマリウスは身もだえして拳を引き、燃える腕を他の腕で押さえる。
「今だ!」
剣を抱えて駆けながら算段する。
強大な破壊神の剣を
そのために、まずは
具現化させるべく、懐の神装板を手にする。ふと、違和感を覚えた。
腕を焼かれながらも、アンドロマリウスの目が
「グォオ……ヴァル、ヴァルゥゥ!」
炎に包まれていない方の腕が、横殴りに打ち下ろされる。
それでも、
横殴りの拳が
何者かが、横合いから巨大な拳へと打ち当たり。その軌道を
「ヴァ、ルゥゥ……!」
アンドロマリウスが驚いたように腕を引く。その手首の辺りが、中ほどまで断ち斬られていた。
それを為した者は、長大な太刀を手にその場にいた。青い狩衣の上から鎧をまとった、
かつて鬼、茨木童子の腕を斬り落とし、仲間たちと共に酒呑童子を倒した武者『
幻の札とされるそれを、むつは――おそらくこっそりと、組織の目を盗んで――持ち出していたらしい。それを、神装の板と共に残していてくれた。
「ありがとう、むつ」
つぶやきながらも足を止めず駆ける。
アンドロマリウスが慌てたように土偶の腕を射出するが、渡辺綱がまたも斬りつけてその軌道を変える。もう片方の拳も、体勢を崩しつつも同様に防ぐ。
「もらった!」
それよりも一瞬早く。アンドロマリウスの巨大な尾が、薙ぎ払うように振るわれた。
「が……ぁっ!?」
二人まとめて吹っ飛ばされ、床へ転がったそこへ。
神装の炎に覆われたままの、アンドロマリウスの腕が振り下ろされた。
焼け焦げる痛みに的を外したか、
勢い余って砕けた床の、風圧で飛ばされた破片が
抱えていた