デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
燃え上がるかのように立ち込める
そして、同じく
「ォ、ォ、ォ……! ゴォア、ォ、ォ……!」
自らの喉から溢れる黒い血に溺れるかのような
解放された修羅の槍の神力は爆風と化し、敵の体を貫いた。同時に、煽りを食らった
生きているのが不思議なぐらいだった。さらにいえば、相手の方もまだ生きているのが。とはいえ、その吐息はあまりにか細く、ほどなく絶えるであろうと思われた――
「おの、れ……お、のれ……ぇ!」
絶え絶えな息の下から、アンドロマリウスが声を上げる。
もう無理をするな、俺たちの勝ちだ。お前はよく頑張ったよ、正直勝てるとは思わなかった――そんな風に声をかけようかと思ったが、全く声にはならず。
「認め、ぬ……認めんぞ、小生ら、の、正義が敗れるなどと……」
アンドロマリウスが絞り出すような声を上げる。天へ向けられていたその目が動き、倒れたままの
「こうなれば、ただでは滅びぬ……死なばもろとも、貴君も道連れよ……!」
「げ」
それだけははっきりと声にできた。敵の巨体が、命ごと燃やし尽くすように、内から爆ぜようとするかのように
体の痛みも忘れ、よろめきつつも立ち上がる。
なら、自爆される前にとどめを刺すしかない。まだもう一つだけ、使っていない神装板があったはず。
懐を探ると、確かにむつが残してくれた神装板はもう一枚あった。だが、それを握って力を込めても、一向に具現化する気配がない。体力も、開封するだけのわずかな
「げ……!」
「どうしたド新人! ずいぶん顔色悪いじゃねえか!」
聞き覚えのある声と共に放たれた札。そこから
放ったのはマントをたなびかせた赤い仮面の男、満月のツクヨミ。
隣で半月のツクヨミが肩をすくめる。
「って、仮面つけたままじゃ分かんないけどね~」
軽く放った札から現れたのは
ダゴンが掲げた裾の内から溢れ出た水は洪水となって、横たわるアンドロマリウスを呑み込み。雪ムスメが放つ吹雪が、枝を踏み折るような音を立ててそれを凍りつかせた。
氷塊から顔と腕一本だけを突き出した格好で、アンドロマリウスがひび割れた仮面の下の顔を歪める。
「何だと……!?」
むつたちからの連絡で半月が救援に来てくれたということか? だが、こんなにも早く来るとは。
目を瞬かせたまま立ち尽くす
「
新月の札から現れた
「新月さんも、よくこんなに――」
首を横に振って
「話は後です、今は早急にあの神魔の処理を」
視線の先には氷に包まれたアンドロマリウスがいた。その巨体がもがくたびに、氷が軋む音を立てる。
「そのために。今は皆、自分に力を貸してほしい」
「ライドウ! 無事だったか!」
ライドウも唇の端を緩め、微笑む。
「君も無事で」
隣で見知らぬ少女が、
「先輩がお世話になったと聞いています。お礼を言わせて――」
ライドウが片手で制する。
「凪くん、その話は後だ」
アンドロマリウスを見据えていた、満月がライドウへとあごをしゃくる。
「俺たち全員でそいつと、そいつの
仮面を開いた半月は口を開けていた。
「まさか、オレ様満月が自分より強いとか言うとはね……メチャクチャ強いんだね、この子」
新月の目が険しさを増す。
「満月の口から信じるなどという言葉が出るとは……逆に、何が目的なのです」
満月は地団駄を踏む。
「俺を何だと思ってんだてめえら!? ……まぁそいつが? 強いとは言っても? ガチで
負け惜しみのように言うと、ライドウの方へと駆け寄る。片手を取り、自分の手を重ねた。
「この俺が力を貸してやるんだ、しくじるなよ」
面を閉めた半月、新月、凪と呼ばれた少女も手を重ねる。
そのとき不意に、白い小鳥のようなものが飛んできた。いや、よく見れば
宙に浮かぶ呪符から聞き覚えのある声が上がる。確か新月付きの
「はーいどうもー、マイクテスト・マイクテ~スト。こちらキヨミ~、準備は全然オッケーでーす」
見れば、同じような呪符が廃ホテルの敷地と上空を囲むように、いくつもいくつも浮かんでいた。全ての呪符は光の帯でつながれている。まるで、四角い光の檻に廃墟全域を閉じ込めるかのように。
「蘆屋流陰陽術【逆・四角四境祭】。結界内を護る四角四境祭とは逆に、結界内に事象を封じて外部へ逃がさない術。衝撃も外へは通さないし、音や中の光景も外からは分からない、さっすが私ねー自分の才能が怖い。そーいうワケで思いっ切りやっちゃっていいよ、新月」
呪符から別の声が上がる。半月の金鵄である諏訪迅雷と、むつの兄、いつ。
「だとよ~、頑張れよ半月」
「満月さあああん! 存分にやって下さい、満月さんの力を信じています! ……何か言わないでいいのか、むつ」
考えるような間の後にむつがつぶやく。
「私はー、別に……」
「むつ。俺は、守るよ。約束を」
「……うん」
むつの小さな声の後、ゴウトの声が聞こえた。
「ライドウ、それに凪も。うぬらとツクヨミたちなら必ずできる、臆するな」
ライドウと凪がうなずく。
ライドウは片手に封魔管を持ち、全員の目を見回す。
「自分の
全員がうなずくのを見た後、ライドウは流れるような言葉を低く発する。
「――
重なった六人の手から清浄な光が溢れ、ライドウの腕を伝って封魔管へと伝わる。ねじ式のふたが開いていくと同時、内から緑の光を帯びた風が吹く。それはやがて渦を巻き、つむじ風へと変わり始めていた。
ライドウはさらに声を上げる。
「
封魔管のふたが弾け飛び、内から緑の光を帯びた嵐が吹き荒れる。
男はしわがれた声を上げ、長く垂れた髪の下からライドウを見やる。
「ライドウよぉ、オレを
「そのとおりだ。スサノオよ、かの敵とその者に宿る怨念を
新月がつぶやく。
「これが、スサノオ……高天原を荒らした荒ぶる神にして、
半月も口を開く。
「そして、古事記におけるスサノオの行動の一部と、日本書紀の一書におけるとある神の行動が一致することから、両者は同一視されることがある――私たちに力を分け与えた存在、ツクヨミと」
スサノオが前髪の下でいぶかしげに片眉をひそめ、もう一方の眉を持ち上げてこちらを見回す。
「んん? 何やらこいつら、覚えのあるようなねぇような気を帯びてやがるが……まぁいい。急ぐようだな、例のやつ行くぜぇぇ!」
ライドウが強くうなずき、全員の目を見る。
「皆、頼む。スサノオと自分に力を! ――
重なる手から伝わる光が、ライドウの刀から溢れ出す。呼応したように、スサノオの剣からも。
二人は高く武器を掲げ。音を立てて、床へと突き刺した。
「――奥義! 【天命滅門】!!」
突き立った刃から、清浄な光が
「ヴァル、ヴァル……ヴァ、ァ、ァ、ア……」
巨大な影がぼろぼろと崩れ、もやと化して漂い、光の中で薄れ、消えてゆく。
満月が鼻を鳴らす。
「ふん……手こずらせやがって」
そのとき。最後まで残っていたアンドロマリウスの頭が、バランスを崩したように傾き。
「ァ、ァ、ァ……! 貴様ら、だけは……!」
同じく最後まで残っていた、天へ向けられた腕が。朽木が倒れるように、ぼろぼろと崩れながらも、こちらへと振り落とされた。
アンドロマリウスと戦い続けた分、反応は
「俺が……護る!」
ライドウも床から刀を抜き、大上段に振りかぶる。
「我が魂……この剣に込める!」
横薙ぎに振るう