デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第五話  国津神と異界の国津神、邂逅(かいこう)す

 

「く……!」

 やがて光が収まる。ライドウは、目を守るように学帽にかけていた手を離した。

目を開けたとき、見えたのは紫の電光が残滓(ざんし)のように時折走る、祭壇のような場所だった。焦げかけた笹竹と、焼け落ちた注連縄(しめなわ)の残骸に四方を囲まれている。

 

 傍らでゴウトが口を開く。

「何が起こった、ここはいったい……大丈夫か、ライドウ」

 

 さらに目をこらせば、どうやら屋内のようだった。西洋風の、だがひどく古びた室内。

 

 そして、同じく祭壇の上には。

「ずっどおおおぉぉん! ぅおれの時代がキタぁぁぁぁ! ぅおまえは青か? 黄色い青かあああああっ!!」

 わけの分からぬ言葉を叫ぶ、等身大の土偶――アラハバキ――がいた。祭壇に置かれていたものか、別の土偶を踏みつけ、粉々に蹴散らして。

 

 ライドウが声を発しようとしたとき、それより早くアラハバキへ呼びかける者がいた。

 

「ま、待て! お前はアラハバキ、なのか……? なぜ私の土偶を、いや、それより何かおかしい――」

 目を見開き、どこか慌てた様子で言ったのは洋装の女だった。首元にはなぜか勾玉が揺れている。

 

 アラハバキは目を――目であろう大きな楕円形の部分を――吊り上げた。

「はあああぁぁっっ!? ぅおまえがロミオでぅおれがジュリエットとかどういうことだこらああああっっ!!」

 

 駆け寄ろうとする女に、アラハバキの拳が交差気味にめり込んだ。

「ぶごぉ!?」

 

 うめきを上げて盛大に倒れる女へ、アラハバキは言い放つ。

「てめぇぇこらあああ! ぅおれを()んどいてその態度とか何だおらあああっっ! 自給自足って時給いくらだこらああああっっ!」

 

「な、な……?」

 倒れたまま顔だけを起こした女は、しきりに目を瞬かせている。

 よく見れば周囲には六体、見知らぬ悪魔らしき者らがいたが。彼らも一様に立ち尽くすのみだった。

 

 ゴウトが言う。

「ここがいったいどこか、それは分からぬが……あのアラハバキ、ずいぶんと常軌を逸した性格のようだな。厄介な」

 

 うなずきつつライドウは周囲に目を走らせる。自分たちとアラハバキの他、いるのは目の前の女と六体の悪魔のみ。どうやら凪や、離れていたヴィクトルはあの電光に呑み込まれずに済んだようだ。とりあえず、そのことには安堵した。

 辺りに目を配りつつゴウトに応える。

「おそらくあの女性も召喚師(サマナー)の類か。何らかの召喚儀式を行なっていたものが、アラハバキの合体に共鳴してしまい、我々がこちらの空間へ転移させられてしまった。そうしたところだろう」

 アラハバキへ向き直る。

「ともかく。アラハバキよ、話を聞いてほしい。敵対するつもりは――」

 

 女が立ち上がり、割って入る。

「ま、待て! お前がアラハバキなら、我が声に応えて降臨したのだろう!? 国津神たる我が願いを聞け、我が願いは天津神どもへの復讐! 我は国津神、(なが)――」

 

「ぬぁぁんだとおらああああっっ!!」

 突如射出され宙を飛んだアラハバキの拳に、女が思い切り打ち飛ばされた。

 

「げぶううぅっっ!!?」

 壁に打ち当たってずり落ち、床に横たわる女へ。アラハバキが声を放つ。

 

「ぅおれこそ国津神だああ、適当ブッこいてんじゃぬぇぇぞてめえええ! ナガスネヒコ、アビヒコ、ヒトコトヌシ、スクナヒコナ! 恨みを抱いて死んだ国津神たちはみぃんなぅおれの中にいるんだあああ! てめええなんか知らぬぇぇぇ、みんなみんな死んでいるんだ友達なんだぁぁぁぁっ! どっかああああん!」

 

 床に倒れた女はぴくぴくと震えていたが。やがて顔を引きつらせ、身を起こした。

「おのれ……何か知らんが、この私に逆らうというのか! 力ずくにも従わせてくれる! 我が六柱の神魔(じんま)よ、奴を拘束せよ!」

 

 ライドウは刀の柄に手をかけ、女とアラハバキの間に立つ。

「待て。事情は分からないが、これ以上お互い手出しはさせられない。双方とも矛を収め、自分の話を――」

 

 だが。女がアラハバキを指差そうとも、六体の悪魔は動かない。まるで彫像と化したかのように。

 

 女が頬を歪め、感情的な声を上げる。

「何をしている! 神魔どもよ、さっさと奴を――」

 それでも悪魔らに動く気配はない。

 そこで女は初めて、何かに気づいたように自らの手を見た。何も持たず、装飾品の類の一つもない手を。

 

「おおん? なんだああこりゃああ?」

 粘つく声を上げて、アラハバキが片手を宙に飛ばす。床の片隅に向かったそれが拾い上げたのは、指輪。黒い大理石のような素材で造られ、魔術的な紋様の刻まれた指輪だった。

 

 アラハバキがそれを手にしたとたん。まるで機械が駆動を開始したように、悪魔らの瞳に青い光が宿る。

 六体の悪魔は立ち位置を変え、アラハバキを囲むようにしてひざまずいた。

「主よ。御命令を」

 

「しまっ――」

 顔色を変えた女とは対照的に、アラハバキは楕円形の目を歪めて笑った。

 

「ほほう! どうやらこいつは、悪魔どもを操る道具のようだなあああ!」

 焼土でできた手の内に指輪を握り締め、掲げる。

「こいつでえええ! ぅおれ様が世の中グチャグチャにしてやるぜえええ、天津神どもが作った世の中をなああああ!!」

 

 刀の柄に手をかけたまま、ライドウはアラハバキへと向き合った。

「そこまでだ。それ以上の暴虐は許さない」

 

 アラハバキは嘲るような声を上げた。

「そいつは聞けねええなああライドウ様よおおお! このぅおれを召喚した、いわばご主人サマだがよおお――」

 嘲る表情のまま、うやうやしく腰を折って見せる。

 

 そのとき。破るかのような音を立てて、部屋の扉が勢いよく押し開けられた。

「待てっ!!」

 戸口に立つのは見知らぬ男。黒いジャケットにマントをたなびかせ、奇妙な黒い面を着けている。

 

「そこまでだ! (みだ)りに神魔を使い、世を乱す悪党よ! 貴様らを天が許しても、この十六夜月(いざよいづき)が決して許さん!」

 十六夜月(いざよいづき)、そう名乗った男は。背筋を伸ばし、力のこもった指を真っ直ぐに伸ばし。ライドウを指差していた。

 

 

 

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