デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第六話  十六夜月のツクヨミ、初任務前だが初陣す

 

 ――その少し前。

 

 着替えた十六夜月(いざよいづき)は神宝たる面を抱え、先ほどの展望台でむつと合流した。山上を巡る道をたどった先には、目的地である廃ホテルが遠望された。

 青緑色のマントの下、身に着けた装束は体にぴったりと合った黒いジャケットと、同じく細身のズボン。だが内着の襟元は、和服の(えり)の合わせのように右の生地を下、左の生地を上に重ねる形。ズボンも左右の腰辺りにスリットが入った、(はかま)を意識したデザインとなっていた。

 ツクヨミは神の――月と夜、そして暦の神たる月読尊(つくよみのみこと)の――力を宿す者であると同時に、神に仕える者でもある。その装束も神職のそれに準ずる、ということらしかった。

 

 むつは十六夜月(いざよいづき)を頭の上からつまさきまで眺め、両手を腰に当てて何度もうなずく。

「割と様になってるよ。馬子にも衣装ってやつだね」

 

 十六夜月(いざよいづき)は考えるような表情をして、指先で頬をかく。

「あの、だな……嘘をつけとは言わないが、もう少し景気のいい言葉が聞きたいものだな。お兄さんなんて見なよ、常に満月さんをベタ誉めしてるじゃあないか」

 満月のツクヨミの金鵄(きんし)である武内いつは、むつの兄であった。

 

 とたん、むつは顔をしかめる。

「あんなベタベタした感じでいろってーの? いつはさあ、満月の話になると常に持ち上げようとするっていうか。違うか、素で惚れ惚れしてる感じ? 満月の武勇伝早口で語ってくんの正直キモいんですけど」

 

 十六夜月(いざよいづき)は息をつく。

「そこまでやってくれとは言わないが。五分の一ぐらいは見習ってほしいものだな」

 

 むつは、は、と息を吐き出す。

「期待しないでほしーもんだね。オタクに優しいギャルなんて実在しないんだよ?」

 

「俺はオタクではないし君が優しかったことなど一度もない。その文章で正しいのは君がギャルだってことだけだ」

 

 互いに強めの視線をぶつけ合っていた、そのとき。

 

 展望台から山道を巡った先にある廃ホテル。その上階の窓から紫色をした、雷光のような光が突如として溢れた。

 十六夜月(いざよいづき)が視線を向けたとき、雷光が屋内からさらに強く(ほとばし)り、爆音のような音を上げ。コンクリート造りの古い壁を揺らした。

 

「何!?」

 単なる事故ではあるまい。小脇に抱えた神宝の面、それがわずかに震え、かすかな電流のような手応えを十六夜月(いざよいづき)に送っていた。何らかの(オド)――魔力、霊力――の反応、つまり。

神魔(じんま)だ……!」

 

「え、え? ちょっ――」

 何度も目を瞬かせ、十六夜月(いざよいづき)の顔と廃ホテルとを見回すむつ。

 

 先に駆け出し、十六夜月(いざよいづき)は声を上げる。

「何をやってる、行くぞ! 犠牲者が出る前に!」

 

 むつはまだ目を瞬かせていたが、やがて追って走り出した。

「そーいうとこはね。……昔っから、割とスキだよ」

 

 後も見ず十六夜月(いざよいづき)は言う。

「何か言ったか!」

 

「別にー! ……割とだよ、割と」

 

 

 

 山上を巡る道の端、海を見下ろす場所に目的地はあった。

 ざっと見たところ、十階建てほどの廃ホテル。かつては翼を広げた白鳥を思わせたであろう、左右対称に広がる大規模な建物であったが。今は外壁の塗装もまばらに剥げ落ち、灰色にくすんだ姿をさらしていた。

 好奇心で侵入を試みた者も多かったのだろう、立ち入り禁止の札が貼られているにも関わらず、一階の窓ガラスはほとんどが割られ、フロントに入る自動ドアのガラスさえ同様だった。フロントの壁や柱にはスプレーで野卑な言葉が大きく書かれていた。

 内部の壁紙はそこかしこが剥がれ、床には窓ガラスの破片と外から吹き込んだ落ち葉、土ぼこりが堆積している。天井板が剥がれて垂れ下がっている箇所さえあった。

 

 フロントへの出入口前で立ち止まり、息を整えつつむつが言う。

「矢島山上観光ホテル。バブル期に立てられた大規模な観光宿泊施設だったけど、バブル経済の終焉と山上という便の悪さが災いして程なく閉館。土地の買い手もつかず取り壊されることすらなく、ロクに管理もされてない。んで、廃墟マニアとか心霊フリークにとってはちょっとした有名スポットだとか」

 

 十六夜月(いざよいづき)はうなずき、油断なく屋内に目を走らせた。視認できる限り、人はおらず神魔も見当たらない。無論のこと階上や、長く続く廊下のわだかまるような闇の奥まで、そうであるかは分からない。

「建物も老朽化しているようだ、その点も気をつけていこう。特に足下と頭上は注意が要りそうだ」

 

 そして、顔の前に掲げた月夜見命与月弓尊(ツクヨミにあたえられしツクヨミ)(のめん)に片手で触れ、神咒(かじり)を唱えた。

「――アマテルカミホギ」

 

 秘詞(ひめことば)に呼応したように、面の目元が澄んだ光を放つ。

 十六夜月(いざよいづき)はうなずいて、(おごそ)かに面をかぶった。全身、細胞の一つ一つ髪の一筋一筋にすら、清冽な力が満ちていくのを感じる。

 十六夜月(いざよいづき)は今、十六夜月(いざよいづき)のツクヨミとなった。

 

 むつが差し出す、十数枚ほどの神魔札を受け取る。トランプカード程度の大きさをしたそれらは神魔、神や悪魔と呼ばれる超常の存在を封じたもの。ツクヨミは神の力を行使することで、それら神魔を顕現(けんげん)させ操ることができた。

 

「上層部を調べよう、ついて来てくれ。離れるなよ」

 

「うん!」

 なぜだか笑顔で大きくうなずくむつを不審に思いつつ。十六夜月(いざよいづき)のツクヨミは、廃屋の中へと足を踏み入れた。

 

 

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