デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ 作:木下望太郎
――その少し前。
着替えた
青緑色のマントの下、身に着けた装束は体にぴったりと合った黒いジャケットと、同じく細身のズボン。だが内着の襟元は、和服の
ツクヨミは神の――月と夜、そして暦の神たる
むつは
「割と様になってるよ。馬子にも衣装ってやつだね」
「あの、だな……嘘をつけとは言わないが、もう少し景気のいい言葉が聞きたいものだな。お兄さんなんて見なよ、常に満月さんをベタ誉めしてるじゃあないか」
満月のツクヨミの
とたん、むつは顔をしかめる。
「あんなベタベタした感じでいろってーの? いつはさあ、満月の話になると常に持ち上げようとするっていうか。違うか、素で惚れ惚れしてる感じ? 満月の武勇伝早口で語ってくんの正直キモいんですけど」
「そこまでやってくれとは言わないが。五分の一ぐらいは見習ってほしいものだな」
むつは、は、と息を吐き出す。
「期待しないでほしーもんだね。オタクに優しいギャルなんて実在しないんだよ?」
「俺はオタクではないし君が優しかったことなど一度もない。その文章で正しいのは君がギャルだってことだけだ」
互いに強めの視線をぶつけ合っていた、そのとき。
展望台から山道を巡った先にある廃ホテル。その上階の窓から紫色をした、雷光のような光が突如として溢れた。
「何!?」
単なる事故ではあるまい。小脇に抱えた神宝の面、それがわずかに震え、かすかな電流のような手応えを
「
「え、え? ちょっ――」
何度も目を瞬かせ、
先に駆け出し、
「何をやってる、行くぞ! 犠牲者が出る前に!」
むつはまだ目を瞬かせていたが、やがて追って走り出した。
「そーいうとこはね。……昔っから、割とスキだよ」
後も見ず
「何か言ったか!」
「別にー! ……割とだよ、割と」
山上を巡る道の端、海を見下ろす場所に目的地はあった。
ざっと見たところ、十階建てほどの廃ホテル。かつては翼を広げた白鳥を思わせたであろう、左右対称に広がる大規模な建物であったが。今は外壁の塗装もまばらに剥げ落ち、灰色にくすんだ姿をさらしていた。
好奇心で侵入を試みた者も多かったのだろう、立ち入り禁止の札が貼られているにも関わらず、一階の窓ガラスはほとんどが割られ、フロントに入る自動ドアのガラスさえ同様だった。フロントの壁や柱にはスプレーで野卑な言葉が大きく書かれていた。
内部の壁紙はそこかしこが剥がれ、床には窓ガラスの破片と外から吹き込んだ落ち葉、土ぼこりが堆積している。天井板が剥がれて垂れ下がっている箇所さえあった。
フロントへの出入口前で立ち止まり、息を整えつつむつが言う。
「矢島山上観光ホテル。バブル期に立てられた大規模な観光宿泊施設だったけど、バブル経済の終焉と山上という便の悪さが災いして程なく閉館。土地の買い手もつかず取り壊されることすらなく、ロクに管理もされてない。んで、廃墟マニアとか心霊フリークにとってはちょっとした有名スポットだとか」
「建物も老朽化しているようだ、その点も気をつけていこう。特に足下と頭上は注意が要りそうだ」
そして、顔の前に掲げた
「――アマテルカミホギ」
むつが差し出す、十数枚ほどの神魔札を受け取る。トランプカード程度の大きさをしたそれらは神魔、神や悪魔と呼ばれる超常の存在を封じたもの。ツクヨミは神の力を行使することで、それら神魔を
「上層部を調べよう、ついて来てくれ。離れるなよ」
「うん!」
なぜだか笑顔で大きくうなずくむつを不審に思いつつ。