デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第七話  神魔を狩る十六夜月、悪魔を駆るライドウと邂逅(かいこう)す

 

 弱りゆく西日がカーテンの隙間から差すのみの薄暗い廊下の奥で。カーテンが、風もないのに揺れていた――いや、カーテンではない。それはカーテンレールにはつながっておらず、布の(ひるがえ)る音を立て、ゆらゆらと宙を漂っていた。

 やがてその白布が、いくつもいくつもの顔の形を取る。まるで内側から人が顔を押し当てたように。

 低級な神魔(じんま)の一種、『霊塊(れいかい)』。自我をなくした浮遊霊らの集合体。明確な自我を持たず、漠然とした怨念で霊障を為す存在。

 その布の内から黒くくすんだもやのような瘴気(しょうき)がにじみ出し、十六夜月(いざよいづき)を包もうとする。

 

 革靴の音を立て、埃の積もった廊下を十六夜月(いざよいづき)は駆ける。手にした神魔札のうちから一枚を放った。

神魔顕現(じんまけんげん)!」

 

 札からこぼれた白い光が集まり、実体となって神魔『青龍』の体を形作る。いかにも東洋的な、長い体をした青い龍は口を開き炎を吐き出した。

 霊塊は苦悶の表情を浮かべて焼き尽くされ、たちまち黒い煤と化して消えた。

 

「よし」

 手元へ舞い戻ってきた札を回収し、懐へ納める。一度使った札は魔力を使い切った状態となり、ある程度の時が経つまでは再び使うことができない。

 

 むつが無邪気に拍手する。

「いい感じだねー。でもさ、前から聞きたかったんだけど」

 十六夜月(いざよいづき)の手札をのぞき込む。その内にはあと二枚、同種である青龍の札があった。

「なんでいざよいくんの青龍って火ぃ吐くの? フツーさ、そういうのって西洋のドラゴンがやるんじゃない? 東洋の龍なら水とか雷を操るとか、そんなんじゃあ?」

 

 青龍は道教や陰陽道に伝わる、四方を(つかさど)る四神獣の一柱。それが示すのは東方にして木火土金水の五行のうち木行(もくぎょう)。木行の力には雷や風も含む、それは知っているのだが。

 

「いいだろう別に。やっぱりドラゴンは炎だよ炎」

 

「だからドラゴンじゃないって」

 

 十六夜月(いざよいづき)は神魔札をなでさすってつぶやく。

「ふふ……格好いいぞ、俺の青龍(ブルーアイズメガフレイムドラゴン)……!」

 

「そんな読み方しないよねそれ!? せいりゅうだよせいりゅう!?」

 

 一説に、神魔は人間の想像力から生まれた超常的存在であるといわれている。それゆえか扱う人間によっては、同一の神魔でも違う姿、違う能力を見せることがある。

 その最たるものは『創成神魔札』。ツクヨミらの主たる神、『オオカミ』――元無極體主(もとふみくらいみぬし)王御神(おおかみ)――がツクヨミらの行動に応じて創り出す、唯一無二の姿をした神魔の札。

 その多くは神々の名を冠し、強大な力を持つが。任務の中で、ツクヨミの働きに応じてオオカミが創り出すものであり、任務に就いたことのない十六夜月(いざよいづき)は手にしたことがない。

 

 札を持つ手に力を込め、十六夜月(いざよいづき)は廊下を駆け出す。

「さあ行くぞ、俺の青龍(ブルーアイズメガフレイムドラゴン)!」

 

「ちょっ、人前で言わないでよそれ!? ホントに!」

 

 若干距離を取り気味に、むつが後をついていく。

 

 

 

 幾度かの戦闘を神魔の力で切り抜けつつ、上階へと向かう。

「しかし、この神魔たちはいったい何なんだ」

 

 むつの言っていた、心霊スポット云々にしては数が多過ぎる。神魔を操る力を持った何者かが放ったということか。そしてそれは、先ほどの光や震動と無関係ではあるまい。

 

 上階を巡るうち、妙なものが目についた。ちぎれかけた、真新しい注連縄(しめなわ)の下がった扉。何らかの儀式がなされる部屋ということか。ならば、先ほどの光の源はおそらくここ。

 無言のまま手で合図し、むつを離れた所で押し留める。十六夜月(いざよいづき)自身は足音を殺してドアの前へ忍び寄り、扉に身を隠しつつゆっくりとノブをひねる。あの光と共に走った震動のせいか鍵は壊れており、扉の間にも隙間ができていた。

わずかにドアを開け、中の様子をうかがう。

 部屋の中に広がっていた光景は。

 

「……!」

 

 広い洋室の床に描かれた六芒星、焦げた笹竹に囲まれた祭壇。

 部屋の隅にはスーツ姿の女性が倒れ、どうにか上体を起こしている。

 祭壇の周囲には西洋悪魔らしき六体の神魔。それらは皆、祭壇の中心へ向かってひざまずき、忠誠を誓うように深く(こうべ)を垂れていた。

 

 そして、祭壇の中では。

「――なああライドウ様よおおお! このぅおれを召喚した、いわばご主人サマだがよおお――」

 嘲るような声を上げた等身大の土偶。その姿をした神魔が、傍らの人物へとうやうやしく腰を折ってみせる。

 

 七体の神魔から最敬礼を受ける、祭壇の中心の人物。

 ライドウ様と呼ばれたその男は意外にも若かった。自分やむつとほぼ同年代、つまり高校生程度。どころか、着ているのも学生服だった。

 今どき古風な黒い学帽をかぶり、詰襟の制服を着崩すことなく身につけている。とはいえ、無論ただの学生ではあるまい。あまりにも剣呑(けんのん)なことに、黒いマントの下からのぞくのは鞘に納められた日本刀だった。

 傍らに黒猫を連れたその男には、表情らしき表情はうかがえなかった。ただその眼差しは、目の前の光景を真っ直ぐに受け止めていた。何らかの強い意志を秘め、相対する土偶へと視線を投げかけていた。

 

 状況を総合するに。ライドウというこの男が、何らかの術式を以て七体の神魔、そして廃屋内をうろつく神魔らを召喚した主。床に倒れている女性は犠牲者であろうかと思われたが、生命に別状はなさそうだ。今なら、助けられる。

 破るような音を立てて、部屋の扉を勢いよく押し開けた。

 

「待てっ!!」

 装束のマントをたなびかせ、声を張った。

「そこまでだ。(みだ)りに神魔を使い、世を乱す悪党よ。貴様らを天が許しても、この十六夜月(いざよいづき)が決して許さん!」

 

 十六夜月(いざよいづき)は背筋を伸ばし、力のこもった指を真っ直ぐに伸ばし。ライドウと呼ばれた男を指差していた。

 

 

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