デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神魔狩りのツクヨミ   作:木下望太郎

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第八話  悪魔を操る者、正義の味方と相対す

 

「何……!」

 アラハバキに相対し、今後の策を思い巡らせていたライドウは、突然の闖入者の方へと身構える。

 

 顔全体に大きな鳥居の意匠を施した、奇妙な黒い面をかぶった男。声と、黒い洋装に包まれた体格からして自分とそう変わらない年齢か。

 

「いったい何者だ」

 

 つぶやくゴウトの声に、驚いたように一瞬だけ目を見開いた後。十六夜月(いざよいづき)と名乗った男は応えた。

「何者だ、って? 正義の味方さ」

 

 ゴウトが耳を震わせ、ライドウも眉を寄せる。

 目の前の男はゴウトの言葉が聞こえている。魔力霊力の類を持たぬ者には、ゴウトの言葉は猫の鳴き声にしか聞こえない。つまり、この男も何がしかの召喚師(サマナー)か。

 しかし、正義。正義、か――

 

 正義の味方は高らかに続けた。

「この廃屋を神魔で溢れさせたのもお前か。いったい何を企んでいる」

 

 刀の柄から手を離し、ライドウは押し留めるように掌を向けた。

「誤解だ、自分は――」

 

 仮面の奥の目が刺すようにライドウを見る。

「しらを切る気か。その神魔たちはお前を主と呼び、ひざまずいていただろう」

 

 卓球の試合でも見ているように、ライドウと十六夜月(いざよいづき)を交互に見ていたアラハバキが、不意に楕円形の目を歪ませた。嘲笑うかのように。

 身を反らせて突然叫ぶ。

「そうだああああっっ! このぅおれ様たち悪魔はあああ、極悪悪魔召喚師(デビルサマナー)・葛葉ライドウ様の忠実な部下だぜええええっっ!」

 

「なっ――」

 

 ライドウが言葉を失っている間に、アラハバキの手で黒く指輪が光る。

 同時、六体の悪魔はライドウに向かい、改めてひざまずいた。

「我ら、ライドウ様の御意(ぎょい)のままに」

 

「やはりな」

 十六夜月(いざよいづき)は重くうなずく。部屋の隅に横たわる女性に視線を向けた。

「怪我はありませんか。どなたか知りませんがなぜここに、いや――」

 西洋かるた(トランプ)カードのような札を手に、ライドウへと身構えた。

「それよりも、お前を止めるのが先決。話は後で聞かせてもらおう……命まで奪うつもりはない、大人しく投降するんだ」

 

 ライドウは抑えるように、片手の掌を再び十六夜月(いざよいづき)に向ける。

「待て、当方も対話を――」

 

 アラハバキが高く声を上げた。

「対話をするつもりはねえええってよおお! 行くぜ野郎どもおおお!」

 六体の悪魔が叫びと共に立ち上がる。

 

 仮面の奥で男の目が険しくなった。

「抵抗するか……! 行け、(ブルーアイ)――」

 そこでなぜか言葉を止め、咳払いした後。

「行け、青龍(せいりゅう)!」

 

 男が放った札から白い光が放たれ、それが(こご)って龍の姿を取る。それはまさしく四神獣の一角、青龍。

 

「やはり、あやつも召喚師(サマナー)か!」

 ゴウトの声と同時、ライドウは刀を抜き放つ。

 

「魔を(はら)え、赤口葛葉(しゃっこうくずのは)!」

 繰り出す無数の剣閃が龍の放った炎を斬り裂く。火炎は無数の火の粉と散り、刃からこぼれる緑の燐光(りんこう)と共にかき消えていった。

 

「何……!」

 十六夜月(いざよいづき)が仮面の奥で目を剥く。

 

 入口の扉に半身を隠しつつ、女学生ほどの齢の少女が顔をのぞかせた。

「大丈夫、いざよいくん!? あいつ強いよ!」

 

 ライドウを見据えたまま十六夜月(いざよいづき)が応える。

「ああ……! だが、退くわけにはいかない。俺が護らなきゃ、俺しかいない。平和も、君も、そこに倒れてる人も、護れるのは俺しかいない」

 十六夜月(いざよいづき)はそう言い放ち、札を握る手に力を込め。射抜くようにライドウを見た。

 

「……っ」

 ライドウは。無意識に、歩を引いていた。

 

 個を捨て、己を捨て、帝都と世を護るため、ただ一振りの研ぎ澄まされた刀となる――それが悪魔召喚師(デビルサマナー)、十四代目葛葉ライドウの在り方だった。そのはずだ。

 だが、今。自分はそれを実践できているのか、そうしているのはむしろ目の前の男ではないか――そんな思いに駆られ、捨てたはずの自己がほんのわずか――いや、確かに動揺していた。

 

 目の前の敵は真っ直ぐにライドウを指差す。

(みだ)りに神魔(じんま)を使い、世を乱す悪党め……その愚行、この十六夜月(いざよいづき)が止めてみせる」

 

 男の手にした(ふだ)がまた、月光に似た清澄な光を帯び出した。

 

 ゴウトが声を上げる。

「いかん、来るぞ! こちらも悪魔を――」

 

 返事はせず、ライドウは黒いマントの内側、学生服の胸元へと手を伸ばした。そこに吊るしたホルダーから一本の管を抜き出す。ライドウの魔力を感知したそれは緑の光をこぼしながら、ねじ式のふたをひとりでに開いていく。

 管から溢れた、緑の光が放たれる。

「悪魔召喚……『ガシャドクロ』!」

 

 同時、十六夜月(いざよいづき)の手から白い光を帯びた札が放たれる。

神魔顕現(じんまけんげん)……『がしゃどくろ』!」

 

 ライドウの持つ管から走った緑の光は、やがて骸骨の形を取る。人間の全身骨格、ただし恐竜の骨格模型のように巨大な姿。ガシャドクロは牙を剥き、刃物のような爪を敵へと振るった。

 

 十六夜月(いざよいづき)の札から(ほとばし)った白い光は、やがて骸骨の形を取る。ただし全身骨格ではなく、岩のように巨大な頭蓋骨(ずがいこつ)。その頭にはまるで腫瘍(しゅよう)のように、人並の大きさの頭骨(とうこつ)がいくつもいくつもついていた。

 がしゃどくろは自らとそれら頭骨の、眼窩(がんか)という眼窩(がんか)から紫の光を漏らしつつ、激しく転がりガシャドクロへと打ち当たる。

 

 二体の巨大な髑髏(どくろ)は互いの体を打ち砕き、白い骨片へと散り。やがてそれぞれ、緑と白の光となってかき消えた。

 

 ゴウトが声を上げる。

「何だと……! バカな、あのような悪魔見たこともない……同じ名の、見知らぬ悪魔だと……?」

 

 十六夜月(いざよいづき)の傍らで、桃色の髪をした女学生が声を上げる。

「何あれ……! 見たこともない神魔だよ、気をつけて! いざよいくん!」

 

 ライドウはマントの裾をさばき、手にしていた刀を構え直した。

「何者だ……君は」

 

 十六夜月(いざよいづき)と名乗った男は、奇妙な仮面の奥でライドウを見据えた。

 男は背筋を伸ばし、マントを(ひるがえ)した。新たな札を掲げ、油断無く身構える。齢若い声が凛と響いた。

 

「俺は十六夜月(いざよいづき)のツクヨミ。人に仇なす神魔(じんま)を狩り、国家とこの世の安寧を護る者。人呼んで――神魔(じんま)狩りのツクヨミ」

 

 再び、ライドウを真っ直ぐに指差した。

「護ってみせる、この世と平和を。俺は、正義の味方だから」

 

 

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