うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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あけましておめでとうございます!

暫く投稿ができず、申し訳ありません…。

9連休という、神が作りたもうた年末年始を心ゆくまで堪能しておりました…。

今年も、どうぞよろしくお願い致します。


第34話 誤認

 

イータが正気を取り戻したという報を受け、アルファは疲れ切った身体に鞭打って、イータの研究室へと足を運んだ。

 

研究室には、アルファを始め、イータ、シェリー、イプシロンの姿があった。

 

「まずは、意識が正常にもどって安心したわ」

 

「…正常…戻った?」

 

アルファが漏らす安堵の声に、イータは小首を傾げて呟く。

 

「…意識自体は戻っていたのですが、ずっと虚ろだったんですよ…」

 

「声かけても反応ないし、心配したのよ」

 

イータの疑問を呈するその様子に、シェリーとイプシロンが答えて見せる。

 

「虚ろ……そうだったんだ……」

 

視線をアルファ達から剥がし、イータはゆっくりと俯く。

 

なぜそのようなことになっていたのか、心当たりがありすぎた。

 

そしてそれは、イータ本人だけではなかった。

 

「……あなたがなぜ発狂して意識を失い、意識を取り戻しても虚ろだったのか…大方の予想はついているわ…」

 

真剣な様相で語りかけるアルファであったが、その表情には悲痛なものが見え隠れする。

 

「でも、その上で聞くわ…。一体何を見たの…?」

 

アルファの問いに、イータは俯いていた視線を僅かに上げる。

 

そして思い起こす。

 

自分が見た、イタチの記憶を…過去を…。

 

瞬間、一気に視界が歪み、凄まじい吐き気がイータを襲う。

 

『うっ』という声を漏らした後、両手で頭を抱えて震えだす。

 

「ッ!イータ!」

 

そんな彼女の様子を見て、イプシロンが酷く焦ったようにして寄り添い、肩に触れる。

 

「…私は…私は、イタチさんの…記憶を…見た…」

 

「……それで……あなたは何を見たの…?」

 

アルファは、一切の覇気のない声でイータを促す。

 

「………ッ」

 

イータはぐっと黙ったまま答えない…。

 

いや、答えることができなかった。

 

自分が見た記憶を、自身の口で話す覚悟が、勇気がなかったからだ。

 

そんなイータを見て、アルファがゆっくりと口を開く。

 

「イタチは、国と弟を守るため、うちは一族を…抹殺した……」

 

「……………ッ……」

 

アルファの告げた言葉に、イータは大きく目を見開く。

 

それと同時に、先ほどイプシロンが放った『私たちはシャドウ様から聞いた』という話が本当であったと理解する。

 

…それは、その言葉は、イータが見たイタチの記憶と一緒であったからだ…。

 

イータは、小さく、ゆっくりと頷いて見せる。

 

イプシロン、シェリーは大きく目を見開いて固まる。

 

愕然とした表情を浮かべ、石像のように固まる。

 

「そう…。本当…だったということね……」

 

辛うじて口を開いたアルファも、その身体は大きく、身じろぐようにして震えていた。

 

…願わくば、嘘であって欲しかった。

 

作り話であって欲しかった…。

 

だが、イタチの記憶を直接見たイータが頷きを見せたことで、それは悉くが真実であり、現実であることを突き付けてきた。

 

「…イータ…あなたにお願いがあるの……」

 

「……?」

 

アルファの突然の願いに、イータは少しだけ瞳孔を開く。

 

「…私にも、イタチの記憶を見せて欲しい…」

 

その内容に、イータを含めた、この場にいる全員が動揺を見せる。

 

それを一番大きく見せたのは、言わずもがな、イータであった。

 

「…ダメ……見ない方がいい……」

 

「なぜ…?…私はあなたと違って、知らぬまま見るわけではないわ…」

 

「そういう問題じゃない……アルファ様でも…いや、アルファ様だからこそ、きっと耐えきれない…」

 

イータの言葉に、アルファは目を見開く。

 

その言葉の意図を理解した結果であった。

 

だが、それ故にアルファも止まらない。

 

敬愛し、最愛の男性であるイタチの真実を、過去をしっかりと認識したいという思いが故に……。

 

「…それでも私は知りたい…。なぜ彼が、イタチが自分を犠牲にしてまで国を、弟を守ったのか……。本当のことを…。彼の本当の想いを知りたい…」

 

アルファの懇願するような言葉に、しかしイータは珍しくキッとした表情を見せる。

 

「……それでもダメ……。アルファ様のお願いでも、それだけは……。その機械は…脳みそちゅうちゅうくんは…破壊する…」

 

「イ、イータさんッ!」

 

自身の作った発明品、それを破壊してでも他者に見せないという確固たる決意を見せたイータに、シェリーは酷く驚く。

 

研究や、それによって齎された発明品は、イータにとっては宝であり、命と同じかそれ以上に大切なものである。

 

故にそれを破壊してでも拒否する姿勢を見せたことが信じられなかったのだ…。

 

「そう……。なら聞くけど、あなたは自分の口で説明できる…?」

 

「…ッ!」

 

アルファの言葉に、イータは大きく肩を震わせる。

 

「…さっきの質問に答えられなかったあなたが、見た記憶を、私たちに話せるの…?」

 

アルファの低く唸るような言葉に、イータは黙りこくる。

 

そのまま沈黙が支配するかに思われたが、イプシロンが焦ったように声を上げる。

 

「お待ちください、アルファ様!」

 

「…なに?」

 

声のトーンを変えぬまま、視線をそちらへと移す。

 

「アルファ様の御気持ちは痛いほどわかります。ですがそれは…イータの見たイタチ様の記憶を聞き及ぶというのは、容認できません!…イタチ様は、きっと…いえ、絶対に見られたくないはずです!」

 

イプシロンの言葉は、至極真っ当なものであった。

 

それを証明するかのように、シェリーはじっとしたまま唇を閉ざしている。

 

「…そうね。イタチは私たちに知られたくなかったはず…。そして自分の記憶を覗き見られることも嫌なはず…」

 

「で、でしたら…イータの見た記憶を聞き出すというのは……」

 

「確かに、イタチの想いを知りたいというだけならば、私も堪えたわ…イタチの気持ちを踏みにじる結果になるもの……。でもね、今は状況が違うでしょう?」

 

イプシロンは、アルファの抑揚のある言葉に、ハッと気づいたような表情を見せる。

 

次いで、シェリーも同じような表情を見せるが、イータだけは違った…。

 

「どういう…こと…?」

 

アルファの放った言葉の意味を理解できず、小さく疑問を投げる。

 

その疑問に、アルファは少しばかりの沈黙をもって答える。

 

「……イタチは、記憶を失っているの…」

 

「…え……?」

 

アルファの告げた言葉に、イータは吐息を漏らしながら、表情を驚きのものへと変えていく。

 

「…記憶を……?」

 

「そうよ…。なぜ記憶を失うに至ったのか…。私はそれを調べなければならない…そして、彼の記憶を取り戻す手がかりを見つけないといけないの…」

 

アルファは、一度息継ぎをした後、続けて声を発する。

 

「…私は知らなければならない…。彼の記憶を取り戻すきっかけを見つけるためにも……。だから、その機械を壊すのもダメよ……。その機械が、イタチの記憶を失わせた原因かもしれないから……」

 

アルファは、語尾に行くにつれて、言いにくそうにそう告げる。

 

その言葉の破壊力は凄まじく、イータは徐々に息を荒げ、過呼吸にも似た様相を見せる。

 

「…ッ!イタチさんが…記憶喪失……⁉そ、そんな…じゃ、じゃあ…もしかして……それって…私の…せい……?」

 

脳みそちゅうちゅうくんを用いて覗き見たイタチの記憶であったが、それがイタチの記憶喪失の原因かもしれないと知ったイータは再び正気を失いかける。

 

だが、そんなイータにアルファはスッと優しく肩に手を添える。

 

先ほどまで言い争い、攻防を繰り広げていたとは思えない寄り添い方であった。

 

「…そうと決まったわけではないわ…。他にも原因と考えられるものはいくつもある…」

 

「で、でも…その可能性も…ある…」

 

アルファの寄り添いにより、些少の正気を取り戻しつつあるイータであったが、やはりそれでも動揺は収まらない。

 

「…あなたがなぜ、イタチの記憶を覗き見るに至ったのか、それはよくわかっているわ……」

 

「だけど…もし、私が原因だったとしたら……ッ」

 

「…だからこそ、あなたが見た記憶を、教えて欲しいの…。話すのが辛いのならば、私が見る……。覚悟は…出来ているわ…」

 

覚悟という言葉が、何に対してなのかを瞬時に察したイータは、ぐっと視線を落として俯く。

 

その後、その覚悟に答えるようにして、大きく息を吸いこみ、アルファの美しい瞳を見つめる。

 

「なら…それなら……私の口から、話す……」

 

「…ッ。イータ……」

 

珍しく真剣な面持ちを有する彼女の顔を見て、アルファは思わず息を呑んだ………。

 

 

 

 

 

 

イータが正気に戻ったことと、イタチの消息がつかめたことで、残る七陰もアレクサンドリアへと集まりを見せた。

 

そのまま自然な流れで七陰会議が始まりを見せる。

 

「イタチだけど、今はオリアナ王国で666…いや、ローズ王女と武神ベアトリクスと共にいるわ。…そして情報通り、記憶を失っていたわ…。それも、この世界に来てからの記憶だけね…」

 

イタチと直接対面して確認をしたアルファが、淡々とした口調で同じテーブルを囲んで座る七陰へと言い放つ。

 

その周りには、直立姿勢のナンバーズも見て取れた。

 

「…記憶喪失…まさか本当に…」

 

「なんてこと……」

 

ベータとガンマが、信じられないと言った様相を見せる。

 

「…私のことも、シャドウガーデンのことも、そして何より、シド…シャドウのことも覚えていなかったわ…」

 

「…となると、私たちのことを覚えているわけもなし…か…」

 

「うー…どうして忘れちゃったのですっ!」

 

アルファの追撃に、ゼータとデルタが落ち込んだように声を発する。

 

「…詳しい原因はわかっていないわ…。でも、原因と思われるものはいくつか考えられるわ…」

 

「一体何なのです!」

 

デルタは、ぐるるっと威嚇するように喉を鳴らして唸る。

 

「一つは、皆も知っている通り、黒き薔薇の力の可能性よ…。あれは、人為的な異世界とのゲート…。その力が一時的にイタチと共鳴し、イタチの記憶と意識を失わせるに至った……」

 

「…あの時、もし黒き薔薇がイタチ様の居た世界、忍界へと繋がりを見せていたのだとしたら、可能性は高いですね…」

 

ベータが、当時のことを思い出しながら、顎に手を当てて俯く。

 

「もう一つは、イータがイタチの記憶を覗き見るために使った機械…脳みそちゅうちゅうくんの影響…」

 

アルファが珍しく、少し言いにくそうに口を開くと、それを理解したデルタが顔を歪ませる。

 

「ッ!じゃあ、イータが悪いのですッ!?」

 

デルタが、仲間に向けるとは思えないほどの殺気をイータへとぶつける。

 

それを甘んじて受けるイータに、デルタは更に威圧に似た視線を向けるが、不倶戴天の敵?に待ったをかけられる。

 

「落ち着きなよ、バカ犬。可能性の話だ」

 

「デルタはバカじゃない!お前こそ落ち着きすぎなのです!メス猫!!」

 

先ほどまでイータに向けていた殺気をそのままに、それを対面に座るゼータへとぶつける。

 

「あのさぁ…もし仮にイータの機械が原因でイタチ様の記憶が失われたとしてもだ…。イタチ様が意識を失ったこととは無関係だろ?…つまり、黒き薔薇の可能性よりも低いわけだ…」

 

「………????????」

 

ゼータのそれは、的を射た発言であったが、ばk…愛らしいデルタには理解ができなかったようだ。

 

そんなデルタの呆けた様子に、ゼータは大きくため息をつく。

 

一先ず落ち着きを取り戻した場に、イプシロンの声が通る。

 

「黒き薔薇によって意識を失い、イータの機械によって記憶が失われた…という考えもできるわよね?…というよりも、そう考える方が自然だと思うのだけれど…」

 

「…私も、そう思います…。黒き薔薇の力は確かに強力ですが、あれはイタチ様によって完全に破壊されました…。そして、破壊直後のイタチ様は、我々のことをきちんと覚えておいででした…」

 

ベータがそれに肯定を示しつつ、当時のイタチの様子を思い出しながら説明する。

 

それを聞き及び、ゼータが納得したような表情を浮かべる。

 

「…となると、黒き薔薇と脳みそなんちゃらって機械の両方が原因ってことかな?」

 

「……私も、そう思う…。もちろん、脳みそちゅうちゅうくんに、記憶を消すような機能、ついていないけど…。黒き薔薇の影響を、受けた可能性は、ある……」

 

イータは、自身が関係していることもあり、非常に申し訳なさそうに呟く。

 

しかし、そんな彼女らの推察を否定するような声が響く。

 

「…私はそうは思わないわ…」

 

アルファの発した言葉に、七陰だけでなく、その後方で待機しているナンバーズたちも大きく目を見開く。

 

「それは、どういうことでしょうか?」

 

些少の怪訝さをもってして、ガンマが尋ねる。

 

「…もう一つ、可能性があるの…。それも、最も高いと思われる可能性が……」

 

「そ、それは一体…」

 

アルファの抑揚のない言葉に、ベータは焦りを滲ませる声を上げる。

 

「…穢土転生……」

 

たった一言、短い言葉であったが、その場を支配するには十分であった。

 

なぜなら、アルファ以外、誰も聞いたことのない言葉であったからだ…。

 

「…エド…」

 

「テンセイ…??」

 

ベータとイータが、頭にハテナマークを量産して首を傾げる。

 

そんな2人を視界に捉えながら、アルファはイタチの言葉を思い出しながら口を開く。

 

「穢土転生…。死者の魂を穢土…つまりは死後の世界から呼び出す忍術…」

 

「「「「「「ッ!!」」」」」」

 

死者の魂を呼び出す忍術という、あまりにもぶっ飛んだ能力に、皆が大きく目を見開いて驚く。

 

そんな中、七陰の中でも聡明なベータとガンマが、何かに気付いた様子を見せる。

 

「死者の魂を呼び出す…⁉ま、まさか…イタチ様は、忍界でその術を発動させられたから、意識を…ッ!」

 

「イタチ様が意識を失い、目覚めなかったのは……」

 

「…ええ。魂を忍界に呼び戻されていたから…という可能性が高いわ…」

 

アルファは、自身の仮説と同じ考えを有したであろう2人に向けて声を発する。

 

「…魂が異世界に、行っていた、というのなら、何をしても意識が、戻らなかった理由、納得……」

 

先ほどまで、イタチの記憶喪失の原因が自分であると落ち込んでいたイータであったが、今この瞬間だけは、その様相を見せない。

 

「…俄かには信じがたい話だけど…アルファ様がそこまで言うってことは、イタチ様から直接聞いたの?」

 

「ええ…。彼は『穢土転生から解放された直後に、この世界で目覚めた』と言っていたわ……。つまり、記憶を失った原因も、穢土転生である可能性がある…」

 

ゼータの問いに、アルファは肯定をもって口を開く。

 

「…意識を失った原因が穢土転生というのは納得ですが…」

 

「記憶喪失に関しては確証がないですわね……」

 

ベータとイプシロンは、唸るようにして言葉を発した。

 

「だね…。記憶喪失に関しては、イータの機械が原因の可能性の方が高いと思う……」

 

「私はそうは思わないわ…。イータの機械にそんな機能はついていなかったのよ?私は、記憶を失ったのも、穢土転生が原因だと思うわ」

 

ゼータが先の2人と同じ意見を発するが、対してガンマはそれを否定するかのような言葉を吐く。

 

高度な思考の応酬が繰り広げられる中、一人だけ頭がショートしかかっている者がいた。

 

「……つまり、どういうことなのです…?」

 

パワーこそ力のデルタにとっては、この話はあまりにも難しすぎた…。

 

そんなデルタに、大きくため息を吐くゼータであったが、彼女でも理解できるように説明を試みる。

 

「…つまり、穢土転生って力が原因かもしれないってことだよ…」

 

「ッ…!穢土転生…!許せないのです!!」

 

ゼータの簡略化された説明に、ようやく理解が及んだデルタは、ムッキーといった様子で怒りを露にする。

 

そんなデルタの様相を視界の端にいれながら、ベータが口を開く。

 

「…しかし、例え原因がそうであったとしても、解決とはなりませんよね…」

 

「ええ…。イタチの意識喪失と記憶喪失が穢土転生によるものだとしても、現状彼の記憶を元に戻す手段はないわ……」

 

アルファがそう告げると、場に重苦しい雰囲気が流れ出す…。

 

そして数秒の後、アルファが再び口を開いた。

 

「だから、彼の記憶を戻す手段を、手掛かりを何としてでも探し出さなくてはならないの…。そのためには、彼のことをよく理解する必要がある…」

 

「…というと…?」

 

どこか含みのある言い方に、ゼータは催促にも似た言葉を投げかける。

 

アルファの言っていることはわかる。

 

イタチの記憶を取り戻すためには、イタチのことをよく理解する…。

 

言われずとも分かる話である。

 

どんな些細なことでも、どんな小さき可能性でも、実行する必要があるだろう。

 

だが、どうやって?と問われると、わからない。

 

故に出た発言であった。

 

どうやらそれを感じているのはゼータだけではなかった。

 

少なくとも、ベータ、ガンマ、デルタも同じような表情を見せていた。

 

「イータ……」

 

アルファは、ゼータの問いに答えることなく、たった一言、名を呟く。

 

イータは、それにゆっくりと頷いて見せると、大きく深呼吸をし、目を伏せた。

 

そして、閉じた眼を開くと、そこには異様な様相が見て取れた。

 

…何か、覚悟をしたような表情だったのだ…。

 

「今から、私が、見たことを、話す…」

 

「見たこと…?」

 

イータの言葉に、またもデルタが首を傾げる。

 

…だが、首を傾げたのはデルタだけであった。

 

他の者は、イータが何を言わんとしているのか、理解したようだ。

 

大きく目を見開き、唇が僅かに震えている…。

 

「私が見た、イタチさんの、記憶…。その全てを……ッ」

 

イータは、そう呟いたのち、ゆっくりと語り始めた……。

 

 

 

 

 

 

ローズとの会談を終え、ベアトリクスへ置手紙を残してきたイタチは、オリアナ王国とミドガル王国の国境沿いにある森の中にまで来ていた…。

 

ローズから齎された話は、イタチにとって衝撃以外の何者でもなかった…。

 

正直、『この世界で生きていた』という事実などよりも、衝撃的であった。

 

「(…まさか、俺の任務のことが露呈しているとは…ッ)」

 

イタチが過去に木の葉より受け、実行した極秘任務……。

 

うちは一族の抹殺…。

 

それを、ローズは知っていたのだ。

 

それも、その任務の真意に加え、イタチのねらいと想い、その全てを…。

 

「(ここが異世界でよかった…。もし、忍界であったのなら…)」

 

イタチは、清廉な様相を見せるローズの顔を思い浮かべながら、小さく目を細める。

 

イタチがこなした極秘任務は、その名の通り、極秘事項である

 

任務の詳細を知る者は少ない。

 

加えて、それが明るみに出てしまえば、里の根底を揺るがしかねないほどの混乱が生じる。

 

…内乱を防ぐためとはいえ、一族の抹殺を上層部が命じたと露呈してしまえば、大きな不信感に繋がるだろう。

 

実際に、その真実を知った弟は、木の葉に刃を向けるつもりであるのだから…。

 

「(…だが、今更真実が、それも異世界であるこの世界で露呈しようと、大したことではない…。問題なのは、なぜ俺のことを、シャドウが知り得ているのか…だ…)」

 

ローズの話によると、イタチの過去と真実を告げたのは、シャドウガーデンの盟主であるシャドウだ。

 

アルファの言葉も合わせると、自身がシャドウに語ったという可能性が高いが、その記憶は今のイタチにはない。

 

イタチがそう思考を張り巡らせているのと同時に、森の茂みが晴れる。

 

長く続く川が現れ、対岸には再び深い森が茂っていた。

 

川を飛び越え、再び森へと身を乗り出そうとした瞬間、低く落ち着いた声がイタチの耳に入る。

 

「いい夜だな…イタチ…」

 

「ッ!」

 

その声を聞いた瞬間、イタチは瞬時に身を翻し、クナイをその手に携える。

 

天上に輝く月を背に、漆黒を纏う男が空中に浮くようにして座していた。

 

「(…魔力によって強化された俺の感知に引っ掛からないだと…?)」

 

魔力の扱いを些少会得したイタチにとって、自身が感知できない経験は、これが初めてであった。

 

「…お前は、何者だ…?」

 

イタチの警戒心剥き出しの様相に、シャドウは少しだけ肩を震わせる。

 

「…なるほど、記憶を失っているというのは本当らしいな…」

 

漆黒の男は、ゆっくりとその足を地面へと預ける。

 

何の危険性もない動作であったが、イタチは背中に嫌な汗が滲むのが分かった。

 

「(…こいつ…力の底がまるで見えない…)」

 

イタチは両目に力を籠め、スッと写輪眼を発動する。

 

発動と同時に、目の前に立つ漆黒の男の情報を読み解くと、大きく目を見開くに至る。

 

「(…ッ!尋常じゃない魔力量だ…ッ!俺と同等…いや、それ以上か……)」

 

この世界に来て、初めて自身よりも強大な力を持つものとの遭遇に、イタチは珍しく狼狽える。

 

だが、それを悟らせまいと、平静を装いながら、ゆっくりと口を開く。

 

「…もう一度聞く…お前は何者だ…?」

 

「何者か…。貴様なら、大方予想はついているのだろう?」

 

漆黒の男の言葉に、イタチは怪訝な様相を見せる。

 

「…お前が、シャドウか…」

 

「フッ…。御名答…」

 

漆黒の男、シャドウは厭らしさのある笑みを浮かべながら返答する。

 

その表情には、どこか歓喜にも似た様子が見て取れた。

 

「…シャドウ。お前にいくつか聞きたいことがある…」

 

「ほう?…一体何かな?我が盟友シスイ…いや、イタチよ…」

 

シャドウの言葉に、イタチは些少の驚きを顔に表す。

 

「なるほど…。アルファの言っていたことは本当だったということか…。俺とお前が手を組んでいたことも、俺がシスイを名乗っていたことも…」

 

「アルファに会ったのか…。貴様が記憶を失ったと聞いて、彼女は心底驚いていたことだろうな…」

 

シャドウは、表情一つ変えずに、淡々とした口調で答える。

 

「シャドウ…お前はなぜ、俺のことを、俺の過去を知っている?」

 

「…過去…?一族殺しのことか?…知っているも何も、貴様が我に教えてくれたのではないか…。まさか、それも忘れてしまっているのか?」

 

予想は当たっていたのか…。

 

イタチは、苦渋を舐めたような表情を浮かべたのち、再び質問を投げる。

 

「…お前達シャドウガーデンの目的はなんだ?」

 

「フフッ…。貴様がそれを問うのか…?…まあいい……」

 

シャドウは、どこかおかしいと言った様子で小さく笑った後、その表情を真顔へと戻す。

 

「我らは、陰に潜み、陰を狩る者…ッ!」

 

そして、圧倒的なまでの魔力を放出しながら、宣言して見せる。

 

「ッ…」

 

それは、イタチをもってしても恐怖と畏怖を覚えるほどの者であった。

 

その力を見て、感じて、イタチはある仮説へとたどり着く。

 

「フッ…。イタチ…貴様が驚く姿は、中々に珍しいな…」

 

挑発にも似た言葉を受け、イタチは更に確信を抱くことになる。

 

「(なるほど…。なぜ俺がシャドウガーデンという組織に属していたのか、なんとなくわかった…)」

 

イタチは、シャドウの魔力に対抗するように、魔力を放出する。

 

「…ほう?」

 

その魔力に触れ、シャドウは酷く興味をそそられると言ったような様相を見せる。

 

「…どうやら、俺がお前と共に行動をしていたのは、お前のその危険すぎる力を制御するためだったようだな…」

 

イタチの言葉に、シャドウはこれ以上にない位に目を大きく見開く。

 

「なるほど…。そのような解釈もできるのか…」

 

シャドウが言い終えると同時に、イタチは手にもつクナイを投擲する。

 

それをシャドウは軽々とはじき返す。

 

「…なんのつもりだ?」

 

「…わからないのか?」

 

両者とも低く唸るような声を発する。

 

数秒の沈黙ののち、シャドウが息をゆっくりと吐き捨てる。

 

「…なるほど。我と戦うか…」

 

「お前は、野放しにしておくには危険すぎる…」

 

イタチは、両の手を何度か合わせ、印を結ぶ。

 

それを見たシャドウは、右手に黒い剣を生成する。

 

「いいだろう…。我と刃を交えれば、失った貴様の記憶を呼び起こすことができるやもしれん…」

 

冷たく、渇いた風が、両者の間に静かに通り過ぎる。

 

風が止み、静寂が場を支配した瞬間…。

 

圧倒的な速さと衝撃をもって、両者は衝突を果たした……。

 

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「私が天に立つ(※友達たくさんできるかな。)」▼現代日本で平凡な生活を送っていたはずが、目を覚ますと『BLEACH』の絶対的ラスボス・藍染惣右介(5歳)に転生していた。▼霊力も斬魄刀もない『よう実』の世界で彼に与えられたのは、完璧な肉体と頭脳、そして普通の言葉が勝手にラスボス風ポエムに変換される理不尽な呪いだった。▼※Geminiを利用して加筆修正しています…


総合評価:7711/評価:8.34/連載:18話/更新日時:2026年05月07日(木) 11:54 小説情報


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