勇者パーティの助っ人だが、今更中身が女だなんて言えない 作:コイントス99ナイン
「毎回ありがとう、アルト」
「別に、たまたま合流しただけだ」
紺色の髪をした青年がニカっと笑い礼を言うが、アルトと呼ばれた少年は狐の仮面越しにくぐもった声で冷たげにそう返した。
「なんだよ冷たいなぁ〜…そうだ、その髪についてなんだけどよ」
「な、なななんだっ!?」
青年は悲しげな顔をするがすぐに顔を上げ、アルトの後頭部で1つにまとめられた銀の長髪を見て言った。
「いや、“男”がそんな髪長くて邪魔じゃねえのかとおもってよ」
それを聞いてしばらく硬直した後、早口で読み上げるように言った。
「この髪は一族の掟で長く伸ばさないといけないんだ短く切ると髪の持つ神秘的エネルギーがなんかこう溢れ出してパワーが大きく減衰してしまって俺自身の弱体化に繋がるんだだから」
「ほーん、そうなのか。切りたくないなら俺がとやかく言えたことじゃないしな」
「い、いやべ別に髪を切りたくないとかじゃなくてだな」
「じゃ、またどこかで会おうな!」
青年の言葉をアルトが訂正しようと同じように早口で言うが、それは叶わず。青年は早々に別れを告げて行ってしまった。
指定のものを集め終えたようだったので、おそらくキャンプ地まで戻るのだろう。
「あ…ン゛ン゛ッ!……また」
急いで取り繕った冷静沈着なキャラクターらしい発言は、誰もいない森に虚しく響いた。
◆◆
(なんとかクールキャラを維持できただろうか…)
森からの帰り道、俺は考える。
俺の名前は“アリス”。
今年で18歳になる
俺には前世の記憶がある。日本に生まれ、日本で育ち、最後には車に轢かれて死んだ。そんな短い一生を送った“男”の記憶だ。
そう、俺は事故死してこの世界に女として転生した転生者である。
前世での話はこれぐらいにして、今世での俺の話をしよう。
◆
俺は辺境伯の長女として生まれた。
家族構成は父、母、長男、次男、私だ。
幸いにも俺は辺境伯という恵まれた身分に生まれ、両親も優しい人だった。
しかし、女に生まれた俺に外で遊ぶ自由はなかった。
俺は小さい頃から勉強漬けで、いつも机から横目で兄さん2人が外で遊んでいるのを見て妬ましく思ったものだ。少しでも目を逸らせば後ろからお小言が飛んでくるので余計に。
俺は外に出たかった。
前世での俺はそこまでアウトドアな性格ではなかったが、外で遊ぶことの楽しさを知っていたこと、何よりも違う世界の光景をもっと見てみたいという気持ちがそれをより強くした。
俺は10歳になった時、お忍びで屋敷を出て街を出ることを決意した。もちろん両親には内緒で。
もう10歳になるということで、お見合いの話が出てきたのが決め手だった。
正直言って今世の俺は可愛い。
クリクリの青い目に、真っ直ぐと伸びた銀色の髪、そして地母神の如く優しさに溢れた顔!
アリスとしても俺としても、結婚だなんて絶対に嫌だった。
「あ、おはよう!おばさん!」
「あらおはよう、“アリナ”ちゃん」
そして、お忍びで街に降りるようになってから5年の月日が流れた。
アリスは自分の正体がバレぬよう偽名を名乗って仮面をしているものの、街の人々はその少女が秀才で知られるアリス令嬢だと理解していた。
「へへ〜ん! 今回も俺の変装は完璧みたいだな!」
アリスが5年間バレることなくお忍びで街を訪れられたのは、街の人々が善意で黙ってくれていたおかげなのだが、アリスは自身の変装が完璧だったからだと信じて疑わなかった。
しかし、そんな人々の善意にも限界がある。
アリスのお忍びに関する情報が漏洩され、ついに辺境伯の耳にまで届いてしまった。
「アリスッ!!何度も言うとるだろうがこのわんぱく娘めっ!!」
俺は罰として7日間の謹慎を言い渡された。
「クソぉ…!ついに親父にバレた! おのれ街の奴らめ!絶対に許さん! こんなところ、今すぐ出て行ってやる!」
俺はいつものアリスモードの丁寧口調を忘れ、ベットに顔を埋めながら乱暴な口調で言う。
家を出ていくと決まれば話は早い。
俺は早々に荷物をまとめ、冒険者の服を着て狐の仮面を被り、部屋の窓から飛び出した。
◆◆
そんなこんなで家出してから3年の月日がたち、冒頭の部分の少し未来へと時間は進む。
「アリス様! どうか俺と、共にきてくださいませんか!」
紺色の髪をした青年が、アリスモードの俺に深々と頭を下げてまるで告白のような誘いをしている。
次期勇者からの誘いに、俺は顔を引き攣らせるしかなかった。
UAばっかつく!!!