恋愛って何さ――――――ここ最近の彼はこの疑問が頭の片隅に常にあった。
彼個人でもできるだけ学ぶべく恋愛小説のみならず情愛も知ったほうがいいかと官能小説にまで手を出しているのだが、一人では学べたのは偏った知識だけだった。
その結果として彼の本棚には堂々と官能小説が鎮座しているのだが、それを後日遊びに来た方々から問い詰められたのはいうまでもない。
幸運にもみおえもん、ナオちゃん、遥香ちゃんと交流を持てているのは幸いであり、恋愛が二人がお互いに想いあってこそ成立するものであることを学べたことは大きな収穫といっても過言ではないだろう(彼自身の評価)。
「――――とまぁ、個人的に勉強してる限りではそんな感じですね。やっぱり誰かに相談しながらじゃなきゃ何かを学ぶって出来ないもんっすね~」
と宣いながら彼は目の前の人物―――るいに報告していた。
聞いていたるいは呆れ半分安心半分といったようで、苦笑しながら彼を見ていた。
「それはそうよ、一人じゃ練習は出来ても実践はできないもの…君って成績は優秀だったけど、こうして改めると情操教育がちょっと抜けているかもねぇ」
「そうっすかね、自分じゃ客観的に見れないからなぁ…るい先生のいうとおりかも」
よくいえば抜けている、悪く言えば鈍感というか―――――行動の機微を察するのが異様に巧いのに、自分自身に向けられる感情に対しての心の機微を察するのが異様に下手なのが彼をみたるいの感想であった。
「――――今更ながらだけど…どうやって情操って学べばいいんすか、るい先生」
問われたるいはちょっと言葉に詰まってしまった、中々に難しい問いかけだったからである。情操教育とは教科などではなく、同学年の子供たちと一緒になって成長していく過程で自然と学んでいくものであり、教えてほしいといってもすぐに教えられるものではない。
「一人で学べないなら、二人で学べばいいじゃない―――――今度私と映画鑑賞でもしない?ちょうど面白そうな恋愛映画をやっているわよ」
教育実習生時代とはいえ、彼が元教え子であることに変わりはない。
るいとしては、教えてあげるのもやぶさかではなかった。
「ごめんね、こんなことになっちゃって…」
「いえ、別にいいっすよ―――――先生が助かってよかった」
映画を見て恋愛とは何かと学んだ―――――気がした彼はるいと一緒に映画館を去ろうとしたとき、るいが胸を押さえて屈みこんだのをみたのだ。
彼はかつて母親が同じような仕草をしたとき、胸が痛いといって病院へ行き、その日のうちに急死してしまったのが脳裏にフラッシュバックした。
無意識のうちに彼は直ぐにるいを安静にさせて、救急車を呼び助けを求めた。
それが功を奏したのか一時的な発作で済んだようだったが、るいは念のための検査を兼ねての緊急入院と相成ったのだ。
「ありがとう、生徒に教える前に助けられちゃった」
「教えてもらうのは後でもできます、まずは先生の体調を整えてください」
るいは冷静に対応した彼に感謝以上の感情を抱いてしまうのも無理はないだろう。
命の危険の際に冷静に自分を助けた異性が優し気に微笑んでいたのだから。
「あ、そういえば勉強で読んでた本…結構面白かったので置いていきますね。暇つぶしにでもよければ読んでください」
るいはその本のブックカバーを外さないまま、表紙をめくってタイトルを読んだときに『…絶対に教育してあげるわ』と教育者として、一人の女性として心に固く誓ったという。