とある平日、ナオちゃんとの約束で例の合宿場(畳)に必要物品を搬入しに来た彼はナオちゃんに声をかけた。
「おおっす、ナオちゃんこんにちはー…こちらの方々が例の護身術サークルの方々で間違いないのよね?」
「うん、そうだよ―――――――皆ー!この人がサークルを立ち上げからいろいろ手伝ってくれている方だよ、挨拶しなきゃね」
「「「こんにちは!」」」
「…こんにちは」
「よろしくね~」
同年代のはずなのに、妙に若々しい女子大生達の迫力にちょっと気圧されそうになりつつも、なんとか返事をした彼だったが―――――約一名、彼を怪しげな目つきで見る娘がいた。ナオちゃんが言っていた特徴から、彼は彼女が例の子であろうと推測できた。
「ナオちゃんから聞いてると思うけど、一応俺も武術は嗜んでる。ナオちゃんのほうがいいと思うけど、おれでもよかったら技の練習とか付き合うから、遠慮なく声かけてきてほしい。最近は物騒になってきているから、この合宿でできるだけ護身術をモノにしていってほしい。でも安全第一で行こう、よろしくお願します」
「「「よろしくおねがいします!!」」」
「じゃあ俺は一旦、先に合宿場に荷物を搬入しておくから…みんなは自分の荷物を宿泊する部屋に運ぶといいよ」
それじゃあね、と彼女たちに声をかけると彼は移動して、レンタルした軽トラックに積み込まれた物品を軽々と持ち上げて合宿場に運び込んでいった。
彼からしたら当たり前の行動なのだが、ナオちゃんをはじめサークルメンバーからしたら異常とも思えるのは仕方がないだろう。
「うっそ、あれだけの量の段ボールを一気に持ち上げて平気そうにしてる…」
「やっぱり鍛えてるんだろうなぁ、あの人も講師なんでしょ?」
「サークル立ち上げから手伝ってくれてるって……ナオの事好きなのかな」
「どこで知り合ったんだろうねー」
「割とイケメンだしねー」
「あはは…そんなことは後にして、みんな準備終わったら合宿場に三時に集合ね」
「「「は~い」」」
「おおーみんな頑張って…んー?なんかいまいち身が入ってないような気がするぞ。なんぞなナオちゃんがコッチ向かってきてる―――――どうしたん?ナオちゃん」
「――――みんなが君のことにになるって言って練習に身が入らないみたいなんだ、どうしようかなぁ…」
そりゃそうだ、と彼は思った。同年代の異性が一人でポツンと作業していたりすると違和感があるのだろう――――特に彼女たちは花も盛りの女子大生なのだ、興味関心などもあるだろう。
男の痴漢を撃退するための護身術サークルなのに、男性が関わっているとくれば違和感も一入だろう。ナオが空手の師範代ならば指導に関しても特に男性の手も必要ないような気がしないのもあるからだ。
「いっちょ、やってみますか――――試合」
「へ?」
ちょっと一緒に来て、とナオちゃんに声をかけてからサークル一同の前に立つ彼は大きく声を張り上げた。
「ちょっと俺がいるせいで練習に身が入ってないみたいだから、ちょっと信頼してもらためにも俺を実際のナンパや痴漢と想定してやってみようと思う。あぁ、そうそう防具はいらないよ―――――俺に本気で打ち込んで来い」
ナンパや痴漢に遠慮は不要なんだよ―――――そういうと自然体で立つ彼をみて、サークルメンバーは戸惑っていたが、やがて一人の女性が彼の前に立った。
「…本当に防具なしでいいんですね?」
「おう、問題ない――――――全力で来い」
ナオちゃんが彼の目の前に立ったと合図もなしにいきなり顎を狙ってきたが、彼はびくともせず――――そのまま受け止めてみせた。
「―――――なっ!?」
「はい甘いー」
伸ばしてきた腕をつかんで背負い投げ、一本。
「狙いはよかったけど素直すぎたな――――ナオちゃん、もうちょっと捻ろうよ」
「え…あ、うん――――もう一本お願いします!」
「――――――――――はぁ、はぁ、はぁ…」
「はい――――とまぁ、俺とナオちゃんの試合を何試合か見てみらったけども…ちゃんと見てたかな?見るだけでも見稽古っていって立派な稽古の一つになるんだ。ナオちゃんの狙いは間違ってないから、色々参考にしてね。じゃあそれぞれ解説に入るけども…」
そういって解説を始める彼を見てナオは凄いなぁ、とただ感嘆していた。
前々から強いとは薄々感じていたが、いざ相対すると想像以上に実力差があった――――まるで富士山を目の前にしたかのような心象をナオは抱いたのだ。
「――――――――とまぁ、こんな感じかな。後は聞いている限りだと基本の方はナオちゃんからみんな教わってるみたいだから、希望者は俺を相手に実践してみようか。ほかの子はナオちゃんの指示に従ってね」
「「「は、はい!」」」
「……あの、ひとついいですか」
他の子が何故か彼を見てちょっと怯えているものの、それをものともせずに彼に声をかける一人の女子大生が―――――例の子がいた。
最初にあった彼を怪しげに見る気配は薄れており、警戒はなくなりつつあると感じていた。
「うん?どうかしたのかな?」
「単刀直入に訊きます―――――貴方はナオさんの何なんですか?」
その言葉に全員がハッとして彼を凝視したが、彼は特に何も動揺はせずに答えた。
「嘘か本当かさておき、恋人だ―――――――――だから俺の(知り合いの)女に手を出すな」