「やっぱり潤いドライヤーは便利だわ…細かい所はプラモ工作から食器洗い、オプションつけて出力上げて調整すれば農薬散布にまで幅広く使える機械ってなかなか無いんじゃなかろうか」
みおの発明した潤いドライヤーを思いつきで使ってみたら意外と幅広く活用することが出来、彼は非常に満足していた。
その汎用性の高さからアルバイトにも活用しており、バイト仲間からも好評であった。その旨をみおにメールで報告すると『これを励みにまた発明がんばりたいです』と嬉しがっていた。
「除湿器もバージョンアップしていたし、みお様様だな。これからも定期的に指名してあげよう、なんか悩みもあるっぽいしなぁ…」
なんか例のお酒がらみか知らないが、あのお酒を上げた時に神妙になっていたのが気になっていた。
話題が地元の話や実家や親のこととなると…みおちゃんはしどろもどろになっていたので、彼は途中から気を使って発明の話題にシフトしていったのだ。
(まぁ、事情は人それぞれっていうし)
今週のバイトも特に問題なく――――――正社員にならないかと話を振られた以外は――――終わった。
アルバイトより正社員のほうがいいのは分かってはいるものの、その仕事になんかしっくりこないのだ。短期間なら特に問題ないが、一生その仕事を頑張るという気概がないと相手方にも失礼に値するであろうと彼は考えている為、保留させてもらっている。
「真剣になれるもの、ねぇ…今の所あのクラブに行くぐらいしか意欲的に行動してないなぁ。アルバイトは基本的にしたことない業種をやってみてとれる資格とってるだけだしなぁ…何かに真剣に打ち込める人が羨ましいわ」
るい先生然り、みおちゃん然り―――何がしら真剣に取り組めることがある人間が羨ましい彼は自分の無頓着ぶりに内心ため息をつきそうになる。
昔から一子相伝の体術を磨き上げることぐらいしか意欲的に打ち込めなかったのは環境が故か、それとも生来の性格からか―――――――ここで悩んでも仕方がないと彼は気持ちを切り替える。
誰かに相談してみようか、と思いつき今週もドリームクラブに行こうと思った彼はカレンダーを確認してメールをチェックする。
(ありゃ、今週はるい先生もみおちゃんも休みか……ん?新しい娘が入ったってメール来てるな)
ナオちゃんという娘が入店してきたらしい。身体を動かすのが得意な娘らしいので、もしかしたら話が合うのかもしれないな…と思った彼は早速外出の準備を済ませて家を出た。
※
「初めまして、ナオって言います―――――あれ、あの時のお兄さん?」
「お久しぶりだね、慌てんぼさん。その様子だと面接受かったみたいで何よりだよ」
彼がドリームクラブに来た時にホストガール一覧を見たときにちょっと驚いたものの、この子が新しく入ってきた新人と知ると合点がいった。
あの時の面接先がドリームクラブだったというのは面白い偶然もあったものだと、彼は思った。
「あ、あの…あの時にアドバイスありがとうございました!おかげでこうして働けることになりました」
「敬語とかいいよ、年も近いだろうし…」
「そうですか?―――――じゃあ、改めて。よろしくね」
「よろしくね、ナオちゃん」
コン、とお互いのドリンクを突き合わせて先ずは乾杯する。
るいのアドバイスから、彼は基本的にホストガールの飲み物は好きなものを選ばせるようにしたのだが…彼女は日本酒が好みのようで、日本酒をおいしそうに飲んでいる様をみて彼は自然と笑顔になった。
「そういえばあの時、ケガとかなかった?一応、注意していたつもりだったけど」
「うん、特になかったよ。それにしてもお兄さんはすごいね、あんなに上手に勢いを相殺させて止めてみせたんだから…結構鍛えてるんでしょ?」
「まぁ、それなりにね。そういうナオちゃんも中々鍛えてるっしょ、勢いを相殺された際の立ち直り早かったし」
「一応、空手の師範代でもあるからね。ボクもそれなりには鍛えてるけど、あの動きは真似できそうにないなぁ…ちょっと自信無くしそうだよ」
「…あれはちょっとしたコツがあるからね、まぁ真似しなくてもいいんでない?空手にあういう技いらないっしょ。あと俺も一応、師範代ではあるよ」
「え、そうなんだ!何の師範代なの?」
「んー…無駄に歴史だけある錆びて錆びきって仕方がない流派さ。俺の代で16代目
になるかな。一応、親父から受け継いではいるけど…何の披露の機会もない、そんな流派だよ―――――まぁ、披露する機会があったらあったで問題なんだけど」
どういうこと?と首をかしげるナオだったが、16代も続いているという流派には尊敬の念を抱いていた。
昔は人生50年ともいわれていたが、それをもとにして計算しても800年以上は続いている計算になる。それほどまで流派が途絶えないというのが純粋にすごいと思ったからだ。
「うーん、それもなんか勿体ないね。せっかく受け継がれてるんだからさ―――門下生とか取らないの?」
「うちは一子相伝なんだ、人様に教えるほどのもんじゃない。教えるにしたって俺自身が教え下手というか意欲的でないというか…ま、所有者が見つかるまでは活躍することもないだろうしねぇ」
所有者?というさらなる疑問符が頭の中を駆け巡るナオだったが、なんにせよ彼自身としては自分から進んで格闘技者として世間に出ようとするつもりはないと悟った。
今の世の中なら総合格闘技などもある為、何がしらの格闘技の師範代なら賞金なども稼げるだろうに…それをあえてしないというのは大切な理由があるのだろうとナオは考えたからだ。
「ナオちゃんこそ、その若さで師範代とか超有望株じゃん。空手の大会とかでるの?」
「そうだね、ボクはたまに出たりするよ。大学の日本代表とか誘われたりとかもしてるけど…」
ちょっと言いよどむナオに対して今度は彼が疑問符を頭の中に浮かべる。
「…空手家としてはうれしいんだけど、黄色い歓声がきこえてくるというか、なぜか女性にもてるというか。嬉しいんだよ?嬉しいんだけどボク、女の子として見られてないみたいなのが悩みなんだ」
「――――――あぁ、そりゃ内心複雑だねえ…」
見た目からして中性的であるナオは女子に、つまり同性にモテやすいのだろう、と推測するのは容易だった。
頼りがいのある同姓が容姿端麗とくれば本格的に彼女に女性が恋をすることもありえるだろうなぁ、と彼は脳内で想像していた。
「すくなくともナオちゃんは十分可愛いと思うけどね、俺は…うーん。もしかして結構合理的な考え方とかする?風呂の時間とか短いとか」
「え、なんでわかるの?」
「いや、単に想像しただけだけども…ナオちゃんは男性脳寄りなんだと思う。男性脳寄りの人って合理的な考え方する傾向があるから、効率的に物事を進めるのが好きなんだよ。買い物とかも必要以上に時間かけないでしょ」
「うん、必要なもの買ったら直ぐに帰るね。友達とかと一緒に買い物に行くこともあるんだけど、なんでみんなあそこまで一つの品物を選ぶのに時間かけるのかがよく判らないんだ。ウィンドウショッピングとか楽しいとは思うんだけど…」
本当になんでだろうね、とナオが不思議がっているのを見て―――――あぁ、こりゃ女性にモテるわけだわと彼は内心で感心すらしていた。
頼りがいがあって、同性だから親しみが持てて、たまに庇護欲すら沸かせる。ここまで女性にモテやすい存在も稀有なのではないか、ともうある意味尊敬すら覚えてしまう。
「俺でよかったら幾らでも相談にのってあげるわ、がんばろうぜナオちゃん」
「…?とりあえずありがとう、お兄さん」