「いらっしゃいませ、ドリームクラブへようこそ!今日のご指名はどうされますか?」
「んー…」
今週も週末は特にやることなかったため、ドリームクラブへと足と運んだはいいものの、彼は指名に迷ってしまっていた。
最近はるい先生、みお、ナオとローテーションを組んで指名しているものの、全員が休みとあってはどうしたものかと悩んでしまう。
せっかく出てきたのに家に帰るのもなぁ、と悩んでいると妙案を閃いた。
「受付さん、今日出勤している人の中で指名が一番少ない子をつけてくれない?」
「指名が一番少ない方、ですか?……それでしたら遥香さんになります、よろしいですか?」
「うん、せっかく来たから楽しみたいし…その遥香ちゃんって娘とも話してみたい」
「わかりました、それではこちらへどうぞ」
受付の方に促され、席へとつく。
いつもながら楽しそうにしている周囲をみていい店だなぁ、と思っていると屈強な男を二名ほど付き従わせた女性が此方に向かってきているのが見えて――――彼が座っている席の前で静止した。
「ご指名、ありがとうございます。初めまして――――私は遥香と申しますわ」
「お、おぅ…初めまして遥香ちゃん。ちなみに後ろの人たちはいったい?」
「ああ、私のSPです、お気になさらずとも結構ですわ」
いやー、ムリっす。バリバリ気になりますよ、いや気にするなとかアイコンタクトでこっちにすんなし。二人とも じゃねぇよしゃべれや。SPだから無理?そんな~
「……SPってことは遥香ちゃんはそういう身分の方ってことだよね?」
「御門コンツェルンの一人娘ですわ、父から社会勉強のためにこの店で働くように言いつけられましたの」
ちょっと社会勉強の場所、間違えてませんかね。そう喉元まで出そうになったが、彼は何とか飲み込んだ。突っ込んだら負けのような気がしてきたからだ。
御門コンツェルンっていえば世界的な財閥なんすけどねー、SPつけてるからってなんでクラブで働かせてんだよ―――あぁ、突っ込みたいと彼は心底思ったが耐え抜いてみせた。誰が褒めて。
「…社会勉強か~、まぁ広くとらえれば社会勉強にはなるのか……な、大変だねぇ」
とりあえず、二人とも席に着いてからドリンクを頼んだ、どうやら遥香ちゃんはビンテージワインが好きようだ。一方の彼はというと、雰囲気だけでも話しやすくするために同じビンテージワインを頼んだ。
「父曰く、私の常識と一般の常識には大きなずれが生じているらしく、そこのところをよく学んでくるように言われているのですが…いまいちよく判りませんの、あなたはそれを教えてくださるのかしら?」
「んー…それはいいんだけどさ、『一般の常識』ってのは山のようにあるからねぇ…最初に教えておくと分かり易い一般常識っていったらやっぱりお金かなぁ。遥香ちゃんは好きなものがあったらどんな風にして買っているの?」
「買い物、ですか…私は店丸ごと買い取ったり、付き合いのある方々からの贈答品などもおおくて…正直なところ、買い物とってもあまりピンときませんの」
「なるほどねぇ、そのレベルのお金持ちか~、じゃあ小銭とかほぼ気にしないタイプかな」
「―――――コゼニ?コゼニってなんですの?」
「硬貨、つまりは金属製のお金だね。遥香ちゃんは紙のお金、つまり紙幣は見たことあると思うけど……1、5、10、50、100、500円といった少額のお金はみたことないでしょ。これが小銭っていうんだ」
「――――ありませんわ、世の中にこんなお金があるなんて知りませんでした」
遥香は目の前の硬貨をまじまじと見ていた、よほど珍しかったようだ。
「まぁ記念硬貨とか例外もあるけれども…基本的に小銭って言ったらこれらのお金のことをいうよ。これが結構重要なんだ、一円でも足りないと物は買えない。一円だからってバカに出来ない、塵も積もれば山となるっていうようにこれらも立派なお金なんだ。子供でもそれをよく学べる場所あるよ、一般庶民みんな昔は必ずと言っていいほど行ったことはある場所」
「ど、どこにあるんですの!?コゼニを学べる場所って!!」
興奮気味に問う遥香にどうどう、と落ち着くように促す彼はみんな知っている子供たちの社交場とも言っていい場所に遥香を誘ってみることにした。
「―――――今度、駄菓子屋に行ってみない?」
※
彼が遥香を駄菓子屋に誘ってみたら、意外なことに即決OKであった。
今すぐにでも行こうとする遥香をSPさんたちと一緒に宥め、どうせなら知り合いの子供たちとかいるなら一緒にいこーぜと彼が遥香に声かけすると、『なら、孤児院の子たちも一緒に連れて行ってあげたいですわ』との遥香の声にて一緒に孤児院の子供たちも行くことになったのだが――――どうせなら、と彼は一計を案じてきたのだ。そして翌週のある平日。
「やー…企画しておいてなんだけど、結構うまくいったもんだなぁ。一応、許可はとってたし、盛況だったから嬉しかったっておばちゃんもいっていたから良かった良かった」
どうせ学ぶのなら、楽しく学んだほうが遥香にもいい思い出になると踏んだのだ。
なじみのある駄菓子屋に協力を依頼し、予算は彼が自前で用意して―――孤児院の職員の方々とも連絡を取り合い、彼はちょっとしたイベントを企画したのだった。
そのイベントに遥香も参加してもらい、どれだけ多くのお菓子を買えるかチャレンジをしてもらったのだ。
「私としても楽しく学べたので良かったですわ、子供たちともより距離が縮まったように思えますし…本当に今回の件では貴方には感謝しますわ。あんな小さなお金でも大切な子供たちの笑顔をつくることができるのですね」
慈母のようなほほえみを浮かべる遥香を見て、彼は企画して本当に良かったと思った。お金の大切さというのは説明するよりも実感してもらったほうがいいと判断したために今回のような企画になったのだが、功を奏したようである。
「ね、小銭だからと言ってバカにならんでしょ。みんながみんな大金をもっているわけじゃないから…手持ちのお金でやりくりして家計を支えたり、お小遣いをためたりして本当に欲しいものを選び抜いて買っているんだ。だからお金ってすごくもあり、怖くもある」
「怖い、ですか…?」
「お金は人を変えるっていう話もあるぐらい、人に対する影響力も凄まじいからね…まぁ、今日の所は小銭の大切さをわかってもらっただけでも良かったよ」
それじゃあね~と手をひらひらさせて立ち刺そうとする彼を見て、
「――――――ちょっと待ちなさいよ」
彼が振り向くとそこには、口調と共に表情もお嬢様としての柔らかなものから、気が強い女傑のものへと変化していた遥香がいた。
「……これだけ面白いもの知ってたんだから、ほかにも知ってるはずよね、アンタまた教えなさい」
「――――そっちが素の口調って事かい。ワンコイン定食とかB級グルメとか、子供の遊びから大人の遊びまでまた何かネタ仕入れておくよ、また機会があればどっか四人で出かけよーぜ」
SPさん――――スミスさん、ウェッソンさんの二人とも サインしてくれたので、おそらく大丈夫だろうと彼は し返すことで返答した。