土曜日の午前中、メールが来たのがきっかけで彼は起床した。
(あー…えーと、ナオちゃんから相談したいことがある、か)
了解。相談に乗るよ、と返信しておく。今日の指名の順番もナオだったため、ちょうどいいタイミングであった。
あれからナオとはメル友になり、お互いに近況を報告したり色々相談したりしている(主にトレーニング仲間として)。
驚いたのがナオは実家である埼玉県から走って東京都内にあるドリームクラブまで走ってきているとのこと。自分も大概だとおもっていたが、ナオもそれに負けず劣らず凄い体力をしている事に彼は驚いていた。
彼の場合は走るのが面倒くさいので確実に同じことはしないだろう、交通網を担っている方々本当にお疲れ様です。
(ナンパされてた女の子を助けたっていってたけど、たぶんそれ関連だろうなぁ)
メールで知ったのだが、以前大学近くの通りでナンパにあって困っていた女子大学生を助けたらしいのだ。その子が同じ大学らしく、時々会うものの…どこか変わった目で見られるのが悩みとかいっていた。
なんというか、恩人を見る目じゃなくてなんか狙うような目つきらしい。
とりあえず夜はドリームクラブに行くことにして、彼は日課のトレーニングを行うこととした。
※
「ご指名ありがとうございます―――――それじゃあ、乾杯」
「乾杯」
コン、とお互いのドリンクを突き合わせて先ずは乾杯する。
最初は取り留めもない話題からだったが、次第にメールの話題になっていた。
「そういやさ、ナオちゃん相談があるって言ってたけど…どうしたの?」
「うん…メールにも書いたけど、ナンパされていた女の子を助けたんだ。そしたらそれ以降、その子から熱視線を感じるようになってしまって…多分、助けられたからその時のつり橋効果とかいうのが手伝ってるんだと思うんだけど、持たれているらしいんだ、恋心。一応、ボクだって女性だよって説明したけど、あまり納得してないみたいで…」
なんともいえない複雑そうな表情を浮かべるナオをみて、彼は苦笑した。
彼女からしたら助けた相手からいい感情を持たれているのは良いのだろうが、よりにもよってナオのことを女性として見てないのだから腑に落ちないのだろう。
「その子にナオちゃんが護身術でも教えたらいいんでね?きっと自分でもナンパを撃退できるってなったら変わるのでは」
「そうかな…そうなのかも…」
「ナンパされるってのは怖いだろうからね…助けてもらったのは嬉しいから、一時的にそう思えてしまってるだけだよ。その娘がいざって時の護身術を覚えていけば自然と恋心じゃなくて憧れだって気づくんじゃないかな?――――ナンパとか多いなら、いっそのことナオちゃんが護身術サークルとか立ち上げてもいいかもね…ほかの娘たちにも需要ありそうだし」
彼がそう提案すると、ナオはちょっと考えた後で首肯した。
「そうだね、そのアイデアいいかも。ボクも人に教えて勉強になるし、ナンパ被害も減って一石二鳥かも!お兄さんも協力してくれる?」
「いいよ、できることは協力するよ。書類とかいろいろ確認しなきゃいけないことも多いだろうから、大学側に確認を取りつつしたほうがいいよ」
「そういう面もありがたいけど…できれば先生として来てほしいんだ。より実践的なナンパ撃退方法とかボクよりも知ってそうだし、師範代なんでしょ?」
「そういう君も師範代ね」
ハハハ、と二人は笑いながら、お互いの肩をたたきあう。
「俺の流派は護身術じゃないというか、一般向けじゃないからなぁ…うん、ナオちゃんの護身術を受ける係とか雑用係としてならいいよ」
「え、割と痛いけど大丈夫?」
「平気平気、技を受けるのも鍛錬のうちってね」
彼の流派はどちらかというと防御力が凄まじいので、技を受け流すのが得意なのである。彼には下心などなかった、しいていうなら大学ってどんな所だろうという好奇心があった。
彼が大学に行かなかったのは学力云々よりも、単に学びたいことを見いだせなかったからである。かといって専門学校に行くほどやりたいこともない。消極的な選択肢でフリーターをしているのだ。だから、彼は自分をやりたいことがある人間を支えたくなるのだろうと自身を分析していた。
「ありがとうね、お兄さん」