サークル立ち上げと簡単に言ってしまったが…団体とか運営していく上では避けて通れない道である避けて通れないのが経理だと彼は思った。
ナオちゃんの意向はまだ確認していないが、おそらくボランティア活動でするのだろうと考えられる。
まぁ、色々物品を用意―――購入したり、借りたりするのだろうがそれに伴ってどうしても必要になってくるのかお金である。彼も発案者な手前ある程度は出資するつもりだったが、ただ出資するだけでは効果的にお金を使えないとも考えた。
そんな折、アルバイト雑誌を眺めていると――――事務・経理…などなど纏めて経営者としての基礎を学べるうえ、給与も割高なアルバイト募集があったので彼は申し込んでみることにした、習うより慣れろ。働くことで学びつつ、資金もたまるので丁度いいとの判断である。
彼は内容をしっかり見て応募したのだが、最後の一行のみ見落としていた。
――――――――未来の経営者を目指そう!御門コンツェルングループ
「……アンタ、何でここにいるわけ?」
「――――いったい何のことでございましょう…(あぁ、ごめんごめん遥香ちゃん、今仕事中だから許してお願い今度指名したときに経緯を説明するから)」
SPさん――――スミスさん、ウェッソンさんの二人を引き連れて本人たっての希望らしい社会勉強の一環で視察に訪れたらしい遥香ちゃんとばったり遭遇するまでわずか一日――アルバイト初日から前途多難というべき船出だった。
「まぁいいわ、しっかり働いて頂戴(後で内容教えなさいよね)」
「はっ、わかりました(御意)」
SPさんたちもうんうん頷いていた。頑張れよ、後輩…!と言わんばかりに サインしてくるのが困る、下手に返事しようもんなら一発解雇すらあり得る状況なのだ。
何故に後輩!?と驚愕するものの、無視するのも非常にまずいので仕方がなしに「ありがとうございます」と言ってからSPさんたちに向かって一礼する。
そんな彼の姿を見たアルバイト先の上司たちからは『いったい何者…!?』と戦慄されていた。そりゃそうだ、世界的財閥の一人娘が一介のアルバイトに直接、しかも親し気に声をかけるなんて何事かと思うだろう。個人的な繋がりでもあるとしか思えない、下手に扱おうぞもんならどうなるか――――そう考えられているのが、もう見なくてもわかる雰囲気になっているのを彼は感じ取っていた。神よ。私なんかしました?
「き、君はいったい…?」
「一介のアルバイトでございます店長」
「で、でもあのお嬢様と―――」
「一介のアルバイトでございます店長」
「……SPの方々とも面識あるような…?」
「一介のアルバイトでございます店長」
彼がこれまでの経験を総動員して此のアルバイトを決死の覚悟で頑張ろう、と心に決めるまで五分もかからなかった。
数日後の週末の土曜日…彼の姿はドリームクラブ内にあった、今回の指名は当然ながら遥香ちゃんである。
「ご指名、ありがとうございます――――で、首尾は上々なんでしょうね」
「うん、初日から職場の先輩方にバリッバリに怪しまれている以外は順調だよ」
「そう、それならいいわ」
「よくねぇよ」
ドリームクラブって癒しの空間よね?なんで密談の場所みたいになってるん?と彼は訝しんだ。横でうんうん頷いている遥香ちゃんとSPさんたちにちょっと思うことがないでもない彼だったが、ひとまずは冷静になって報告することとした。
「―――――とまぁ…ナオちゃんのサークル立ち上げの資金稼ぎと、経理とかの経験を積むためにあのアルバイトに申し込んだんだ。まさか遥香ちゃんと会うことになるとは思わなかったけど」
「ナオさんの手伝いねぇ…そういえば私に今度B級グルメとか遊びとか教えてくれるんじゃなかったの?」
じとっとした責めるような視線にたじろぎつつも、彼はしっかりと答える。
「そこらへんの情報もあつめてるよ、庶民的なところがいいんだよね―――だったら、この後でもおでんとか食べに行かない?ここから近くにある屋台の牛すじがまたいい味だしてるんだよなぁ。雰囲気も味があって、下手な高級料理よりもうまいんだ…これがまた。しかも安いときてる、遥香ちゃんが知りたい庶民の味ってのをこれでもかってぐらい味わえるよ」
彼は安さと味を両立させている、ドリームクラブからほど近い公園の近くで開いているおでん屋を紹介することにした。
彼はごく稀に奮発して高級料理を食べたりするのだが…変に格式ばった店より、断然遥香に紹介するつもりの店が美味しいと感じていたからだ。
店の主人も寡黙で昔気質であり、暖簾や屋台自体が一種のいい味を醸し出している、今の時代には本当に珍しい店なのだ。
「へぇ…期待を持たせるじゃないの。わかったわ、この後で行くわよ」
「そうなると延長する時間も惜しいね、時間になったら店の前に集合といこう」
ドリームクラブ前で待ち合わせした彼と遥香+SP二人、合計四人は彼の案内にて近くの公園ある屋台に来ていた。
「ね、雰囲気あるでしょ」
「……詫び錆びっていうのかしら、なんか趣のある店ね」
こういう屋台で食べるというのがなかったであろう遥香は興味津々に店をみていた。SPの方々がいるせいか二人以外に客もおらずゆっくりと出来ることに彼は一安心していた。
「こういうお店で食べるがんもとか大根とかのおでんがいいんだ―――――おやじさん、この娘に牛すじと大根、あとは適当に見繕ってください」
「…あいよ」
「ありがとうございます――――では…わ、おいしい!!とろっとろに煮込まれてる牛すじ――――この食感、最高じゃない…大根もすごく味が染みてて美味しい…」
はふはふ、という擬音が聞こえてきそうなほど口を動かしながらおいしそうに食べる遥香を見た店主は一見すると表情を変えていないが、彼からみたらちょっぴり嬉しそうに照れているのがわかった。
「今遥香ちゃんが食べている奴が全部で270円だよ、安いでしょ?」
「――――――――えっ、こんなにおいしいのに…そんな値段なの?アンタ私が世間に疎いからって騙してるんじゃないでしょうね」
「ははは、騙してなんかないよ。これもB級グルメに入るかなぁ…ほかにも色々あるけど、こういったお店で食べるのが一番おいしいでしょ」
「まだ色々あるの?――――――そこが知れないわね、アンタ」
「そこが知れないのは俺じゃなくてB級グルメの世界ね。おでんってレトルトとかでもあるけど、やっぱりこういうお店で食べるのが一番おいしいよ。遥香ちゃんも結構好きになったでしょ?この店」
「ええ、もちろん。店ごと買いあげたいぐらいだけど、それは野暮ってことぐらいは分かるわ――――かわりになんだけど…やっぱりアンタ、私に飼われなさい」
店ごと買いあげたいとは偉く気に入ったもんだな――――――ってなんですと。飼われなさい?なんでそうなった。
「遥香ちゃん、俺、人間。飼う、ダメ。俺、人権、ある」
「何故急にカタコトなのよ…いやそういう意味じゃなくて――――――ああ、言い方を間違ったわね。私のものになりなさい」
「ものにはなりたくないっす、人でいたいので…対等な立場でいさせてくれ」
彼にはちょっと遥香の言いたいことが判らなくなったが、おそらくたぶんきっと希望的観測のもとではコゼニの件といいおでんの件といい……彼女にとって刺激的なことを多く知っているであろう彼のことをいたく気に入っているのだと思われる、だから手元に置いておきたくなったのだろうと推測できた。
「難しいわね…なんて伝えたらいいのかしら―――――――とりあえずはこのまま色々私に刺激的なことを教えなさい、それでいいわ」
「そりゃ続けるよ、遥香ちゃんと色々なところ行くの楽しいからね~」
彼のその言葉に安心したのか、遥香は静かに微笑んだ。