「――全員揃ったな。第一中隊の出撃を見送った後、我々はアルゼナルを放棄する。既にフロンタルには出撃してもらっている」
ジル司令の言葉にやはりか、とも思ってしまうナオミ。
自分たちの家ともいえるアルゼナルをここまで壊された悲しみと怒り、そして謎の男との遭遇―――いや今は考えるよりも先にやるべきことがあると思い直して、ナオミは正面を向いた。
「放棄といってもどうやって?」
「用意はしてある―――が、敵艦隊が正面に居てはやりにくい。お前たちは目標を排除、我々の脱出経路を確保せよ」
「「「イエス、マム!!!」」」
そういうと皆が出撃するために、奇跡的に損害を免れていたカタパルトへ向けて走り出していく。
既に出撃しているというフロンタルを心配してか、ヒルダがやや焦っているようだったが―――出撃したら落ち着くであろうとサリアは確信していた。
だって彼は。
「大丈夫よ、ヒルダ―――フロンタルは、私たちの『彗星』は落とされたりしないわ」
だって彗星は落ちるのではなく流れるものなのだから、とヒルダを落ち着かせるようにサリアは話すと自分の不安を払拭するかのように頭を振った。
※
飛翔するヴィルキスの中でアンジュは内心イライラしていた、なぜなら『男ってみんな勝手』だと怒っているのだ。
自分を助けてくれた男であるタスクと、仲間であるフロンタルはどちらも勝手に行動しがちだと彼女からすれば思えたからだ。
おいしいところをかっさらっていく、特にフロンタルには思うところがあったアンジュは自分の機体であるヴィルキスをどんどん加速させていき―――その惨状に驚くしかできなかった。
自分たちが付いたころには、もうすでに戦闘区域にいると思われる敵側にはジュリオがいるとおもわしき戦艦以外には殆ど周囲に存在しなかったのだから。
『――通告する、速やかに戦闘行動を中止せよ。さもなければ艦を撃墜させてもらう』
『わ、わかった―――こちら神聖皇帝ジュリオ一世だ、全軍今すぐに戦闘を中止し撤収せよ』
そうジュリオがいうや否や、全ての戦闘区域内での戦闘の気配が消えたことを確認したフロンタルは友軍機―――ヴィルキスが先行して近づいていたのを把握した。
『――フロンタル、その男を殺すのは待って』
『アンジュか…ここは君に―――…?』
任せるとしよう、と続きを言いかけて何者かが出現したのを確認したフロンタル。
突如として合わられたパラメイルとは違うどこかヴィルキスに似た風貌をしている機体から、聞きなれぬ男の声が発せられていた。
その声は脳裏に自然と響き渡る――――それがフロンタルには如何に不快なものか表現しようがなかった。
『純粋無垢なる炎が殻たる器を破り、紅く流れゆく様――実に見事だ…だからこそ、その炎がそれ以上汚れることは避けたい』
そういうと、ゆっくりとジュリオがのる旗艦に向けて向き直す謎の機体―――に向けてヴィヴィアン機から聞きなれない男性の声が周囲に響き渡る。
『全機撤退だ、アイツは収斂時空砲を撃つつもりだ!!』
その通信を聞くと同時に発射された光の暴風を寸でのところで回避するフロンタルだったが、ヴィルキスやレイザーとハウザー―――――アンジュ、ヴィヴィアン、ナオミの機体もギリギリの所でしか回避できなかったようだった。
――――なんだ、この飛ばされるような感覚は…?
未知なる既知感に、フロンタルは何故か戸惑うことないまま―――身をゆだねるしかなかった。