彗星と竜の舞踏会   作:マッキンガムⅡ

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第15話

『―――こちらフル=フロンタルだ、所属不明機に告げる。まず話し合いがしたい』

 

 

フロンタルは先ず所属不明機に対して話し合いを持ちかけた。ドラゴンはすでにノーマや人間の敵ではないと判明したので、不要な戦いを避けたいと思ったからだ。

 

 

『―――本当に、フロンタルなの?』

 

 

ヴィルキスと酷似した黒い機体の一機から通信が入った―――その声は忘れるはずもない、自分の上司であったサリアの声だった。

それを皮切りに戦闘が一時中断され、サラマンディーネ達はその隙をついて離脱を行うことに成功し、ほかのドラゴン達と共に一時撤退していった。

 

 

『これはサリア、なかなか変わった機体に乗っている。その機体は敵から奪取したのか――――あるいは、私たちの敵となったのかな?』

 

『関係ないわ、あなた達には。私はエンブリヲ様から託された、重大な任務があるもの』

 

 

エンブリヲ『様』ときた、これはすでに取り込まれているな――――そうフロンタルはサリアの声色から感じ取っていた、そんなサリアにアンジュは呆れた声を出す。

 

 

『はぁ…アンタ本当に救い難いわね。あんなナルシスト野郎の言葉を信じるなんて!』

 

『―――あの方への侮辱は許されないわ……ねぇ、ミリア』

 

 

どくん――――そう、鼓動が鳴るのを他人事のように聞こえたフロンタルだった。

そして聞こえてきた声が確証づけてくるのを否定したくなる、しかし現実は現実でしかなかった。

 

 

『うん!みてみてフロンタル、あたしメイルライダーになれたんだよ!!』

 

 

幼年部の、知り合いであったミリアが黒いヴィルキス―――つまりは敵として出現した事を内心で嘆きつつ、フロンタルは茫然自失になるまいと心を奮起させる。

 

 

『そうか…ミリア、よかったな』

 

 

嬉しそうにするミリアの声を聞いて褒めるフロンタルだったが、なぜ彼女がという疑問は尽きなかった。

そうこうしていると、サリアが此方にライフルを突き付けながら話しかけてきた。

 

 

『話し合いには応じかねる――――そう言いたいところだけど、アンジュ、ナオミ―――そしてフロンタル。貴方たちは別よ。エンブリヲ様に呼ばれているわ、着いてきて頂戴』

 

『…ヴィヴィアン、先にアルゼナルへ合流してほしい。我々はノーマ、ドラゴンと真実を彼女達から知らされたのだ。次はエンブリヲの言い分を聞くのが筋というものだろう』

 

『そうしてもらえると助かるわ、私達の手を汚さずに済むもの』

 

 

そう言い放つと、機首をミスルギ皇国の方角へと向けるサリアにエルシャとクリス、そしてミリアが続く。

フロンタルの指示を聞いて去ってゆくヴィヴィアンの機体を確認してから、フロンタルはエンブリヲの要請に応じることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お茶会って……尋問とかじゃなくて?」

 

「先ず茶会とはな…アンジュ、仕掛けるのは止めにしておこう。先ずは相手の言い分を聞かないといけない」

 

「…私としては不本意だけど、ここはそうするわ。エンブリヲの言い分も聞いてあげないこともないわ、聞くだけならね」

 

 

サリア達に連行された三人は、早速エンブリヲが主催する茶会に招待されていた。

意外なことに機体も丁重に扱われており、サリア達三人がフロンタル達に危害を加えようとする気配も様子も見られなかった。

茶会の会場についてからそうこうしていると、奥から金色の長髪男性が現れた。

 

 

「やぁ、初めましてアンジュ。そしてナオミ――――それと赤い彗星、シャア=アズナブル殿。私はエンブリヲというものだ」

 

「……私の名前はフル=フロンタルだ。エンブリヲ……いったい何が目的かな?」

 

「目的などないよ。私はただ君たちと仲良くなりたいだけだ」

 

「ぬけぬけとよくもまぁ、そう言えたもんね」

 

「アンジュ、ここは落ち着いて」

 

 

どうどう、とアンジュを落ち着かせようとするナオミとモモカ。

そんな女性陣を後目に相対するエンブリヲとフロンタル、先に口火を切ったのはエンブリヲだった。

 

 

「しいて目的を上げるなら、そうだな。フロンタル……先ずは君と話がしたい。かの『赤い彗星』と話し合えるのは大変貴重な機会だからね」

 

「交渉は私から、というわけか。了解した」

 

「さて、何から話したものかな…あぁ、アウラを返すつもりはないよ、この世界を維持するために必要なものなのだからね」

 

「こちらの要求はすでに把握済み、か。どうして君はドラゴニウムに依存するのかな?ドラゴン達とて無限に存在するわけではあるまいに」

 

「それはそうだが、特に問題はないよ―――それすらも克服した新しい世界を作ってしまえば何の問題もない」

 

 

紅茶を優雅に飲むエンブリヲをみて、フロンタルも紅茶に口をつける。

アンジュたちもそれに倣って紅茶を飲んだ。

 

 

 

「新しい世界、か。そこに新しい人類でも作るつもりかね?」

 

「そうだとも。選ばれた優良な人種のみが存在を許される完全無欠な世界―――ユートピアを私はつくり上げたいのだ、わかるだろう?人の総意たる『器』である君ならば」

 

「…UC世紀を知っておいてなお、そのような絵空事を本気で実行しようというのは些か信じられないな。私のことを知っているならば、かつてのニュータイプ思想がたどった経緯を知らんわけでもあるまいに」

 

 

かつてUC世紀にあった『ニュータイプ』思想、それはある政治思想家が唱えた一種の進化論だった。宇宙という新しい環境に適応した人類は誤解なく分かり合えるようになるという、現実的に考えればありえない妄想ともとれる思想。

しかしUC世紀における一年戦争で、ごく少数だがニュータイプとしかいいようがない人々があらわれたのも事実ではあったのだ。

彼らは物事の本質を理解できるものであったが、それゆえに戦争に駆り出され―――やがて『ニュータイプ=撃墜王』といった戦闘面でしか世間的には見られることがなかった。

かの政治思想家が思い描いていた、『分かり合える人類』としてではなく。

 

そんな事実があるからフロンタルはエンブリヲの話が現実的ではないと判断した。

最初はうまくいくだろう。

しかし世界は人の数に比例して広がっていくのだ、ゆくゆくは対立する世界観同士で争うのも目に見えている――――この世に完全などないのだから。

 

フロンタルから次々と話される言葉にアンジュたちは疑問符を浮かべているが、それを意に介さずフロンタルとエンブリヲが話を続ける。

 

 

「エンブリヲ、君が描いている理想は嘗ての政治思想家たちが辿っていったそれに似ている。やがては独裁者に…そして自身を神格化させてゆき、世界を管理しようとして人間の可能性を見失うだけだ」

 

「私はそうならないように、次元融合を行うことで今の人類を一掃する……君とて同じようなことをしていたじゃないか。わかるだろう?今の人類は粛正されねばならん」

 

「私が求めたのは地球に依存しない『人類がいる世界』だ、まるで人類を信じていない君が提唱する『完全無欠な世界』とは異なる」

 

「――私と共に来ないと後悔することになるぞ、シャア=アズナブル」

 

「話をしても平行線のままか……いったん、部屋に戻らせてもらうとしよう」

 

 

フロンタルはそう言い放つと、紅茶を飲み干してカップを置き席を立った。

そして無言のまま部屋へと向かうフロンタルの背中をみてアンジュたちも続き、そんな彼らをエンブリヲが静かに嗤っていた。

 

 

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