「さて、これから作戦会議を始めるよ―――その前にお前たち、よくやった。これでもう立派なメイルライダーだね」
そう言うと指令室にいた幼年部の子供たちの頭をヒルダは撫でてやった、あの死地から無事に戻ってきただけでも新人には十分な戦果だったからだ。
「やった!褒められたよ、わたしたちメイルライダーだって!」
「ありがとうございます、ヒルダお姉さま!リベルタスのお役に立てるよう、もっと頑張ります!!」
「………このような子供たちまで動員せねばならんとはな、やはり兵士不足は如何ともしがたいか」
「ああ、今のあたしたちになりふり構ってられる余裕なんてないんだ…この子たちは立派に戦ったんだ、自分達なりの理念を持ってね。お前たち、もう今日は下がって休みな…夜更かしするんじゃないよ」
「「イエス、マム!」」
そうやって立ち去る幼きメイルライダーたちをにヒルダは優しく声をかける。
その姿を見ながら、出撃したはずのアンジュが見当たらないことに気づくフロンタル。
「アンジュの姿が見えない様だが……あぁ、なるほどな」
「さすが、アンジュいないってだけで察したんだねフロンタル―――だけど時間もあまりない。一応、それも含めて色々仕込んでいるところだけど…」
「…ヒルダ、アンジュから応答があった!こっちに向かっているらしい、アンジュが誘導してるって」
タスクからの報告にヒルダは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。
「早速来たね、待ちに待った吉報ってやつがさ…アウローラ、潜望鏡深度まで浮上しな、客を出迎える!!」
「「「イエス、マム!」」」
そしてアウローラが浮上する、招かれた客を迎えるために。
「ご招待していただきありがとうございます、総司令殿―――私はサラマンディーネというものですわ」
そういう『客』、一時撤退していたサラマンディーネ達の姿はアウローラ内の格納庫内にあった。
アンジュが出撃したときにシンギュラー反応を感知していたヒルダの指示にて、アンジュを通じて接触を図っていたのだ。
「あたしがリベルタス総司令のヒルダだ、あんたがドラゴンの親玉だね―――まずは招待に応じてくれてありがとう、と言っておくよ」
「貴様、姫様に向かって―――」
ヒルダの態度にナーガが食って掛かりそうになるが、静かにサラマンディーネは手でナーガを制した。
「いいのです、ナーガ…こちらは招かれている側なのですから。総司令殿、単刀直入に言わせてもらいます――――我らと同盟を組んでいただけないでしょうか?敵は同じなのですから」
「今まで敵だったドラゴン達と同盟を組むってのは正直言うと胸糞悪い、でもそんなこといってらんねーのがあたし達の現状だ―――いいよ、同盟を組もうじゃないか。お互いを利用しあってお互いの目的を達成しあおう」
そう言って握手を交わす両者、どちらともなく手を放してからサラマンディーネが口火を切った。
「早速で悪いのですが、司令官殿。アウラを奪還する具体的な段取りを相談しておきたいのです」
「段取りっていっても、こっちはそこまで複雑なもんは考えちゃいない。手札だって心もとないんだ。こういう時は単純明快な手が一番さ――――全戦力をもってミスルギ皇国を攻める、あたしたちで何とか時間さえ稼げればいいんだ、アンジュかドラゴンの姫さんのどっちかがアウラを解放するまでの時間をね」
「…そうなると我々は時間を稼げばいいだけだ、よかったなナオミ…彼女らを無理に殺す必要がなくなった」
「はい!本当に良かったです」
ナオミは安心した様子で胸を撫で下ろしていた、そんなまっすぐな彼女を見て苦笑するフロンタル。
「して司令官殿、いつ仕掛けるつもりかな?エンブリヲたちが何やらし始めた頃合いを攻めるのが効果的だと思うが」
「その通りだよフロンタル。みんな、連中が何かをし始めるまでは待機だ。全員それまでは英気を養ってな」
※
「――――エンブリヲさんにお願いしないと、あの子が死んだままになってしまう。それだけはダメ。みんなの命を守らないと」
エルシャは慌てていた。幼稚園ぐらいの年齢の子が、エルシャが面倒見てきた子供が病気で死んでしまったのだ。
以前なら絶望していただろうが、今はエンブリヲがいる。死すら治してしまえるという安堵感がエルシャにはあった、彼女は彼にお願いするべくエンブリヲの部屋を訪ねた。
「エンブリヲさん、お願いがあります。ある子供を生き返らせてほしいんです」
いままでの彼なら二つ返事で蘇生させてくれた、そんな彼だからこそ、エルシャはアルゼナルの皆を裏切ってまでエンブリヲに協力する道を選んだのだ。
しかしエンブリヲから帰ってきたのは――――――絶望の返事だった。
「それはできない、生き返らせたところで無駄になる。新たる世界に行けるのは新しい人類のみだ。彼女たちを連れてはいけない」
無駄になる。目の前の人物は確かにそういった、無駄?あの子たちの命が?そんなことが目の前の人物が言うはずがない、その可能性に縋るしかエルシャには出来なかった。
「――――――――――そんな、嘘ですよね…エンブリヲさん?」
「君には新しい世界で新しい人類の母となってもらいたいのだよ……わかってくれるね、エルシャ」
人類の母?そんなものよりもあの子たちが私にとっての全てなのだ、新しい人類の母などよりも大切なものが私にはあるのに。
「あの子は、あの子たちは私にとって全てなんです!私はどうなっても構いませんから、どうか―――!!」
「もう少し物分かりのいい女だと思っていたが…これ以上は手をかけさせないでくれ、私は忙しい」
「エンブリヲさん、待って!!!」
「実験の準備を始めたまえ、わかったね?」
去ってゆくエンブリヲを見て、蘇らせてくれないこと―――それどころか子供たちとは、いっしょに新しい世界にいけないとを悟ったエルシャは打ちひしがれて項垂れるしか出来なかった。
「私は…私はいったい、どうしたらいいの……?」
もうその場にはエルシャしかなかった―――彼女は、自分の宝をあそこまで無駄と言い切ったエンブリヲに協力する気が起きなくなっていくのを無力感と共に感じていたが、身体が無意識のうちに何かをすることを求めるかのように動いていく。
気が付けば一機のラグナメイルのもとに来ていた。
この期に及んで何をしたらいいのか判断しきれなかったエルシャは、ただ黙々とラグナメイルを整備し始めて――――コクピット内にあるモニターに通信が来ていたことに気が付いた。
「……メッセージ?いったい誰から――――」
そこにあったメッセージを見て送り主と、その内容にエルシャは驚くしかなかった。
――ただ認めて、次への糧とすればいい。それが大人の特権だ――
※
指令室に突如アラートが鳴り響く――――敵機が来たかと思ったナオミが慌てて駆指令室へけ込んでくると、スピーカーから音声が流れてきた。
『アウローラ、聞こえますか……こちらエルシャ、投降します』
「黒いパラメイルが一機だけで来た…?」
てっきり敵襲かと思いきやまさかの投降である―――どうしますか司令?とヒカルは司令官であるヒルダに目線で指示を仰いだ。
「…浮上しろ、エルシャを回収する。色々と訊かなきゃいけないことがあるからな」
「「「イエス、マム!!!」」」
※
戻ってきたエルシャを見てナオミは喜ぶものの―――ほかの面々は複雑そうな表情をしていた、一度は自分たちを裏切ってエンブリヲ側についたエルシャをすぐには許すことができるほど大人ではない、しかしいちいち怒ってられるほどの余裕がないのも事実であったからだ。
「すぐ許してもらえるとは思わないわ、でもあの時は仕方がなかった―――ジル司令はリベルタスの際に子供たちを切り捨てるつもりみたいだったから…でも、子供たちとの平和な暮らしも、何もかもエンブリヲの嘘だったのよ」
「少なくても洗脳は解けているようだな。それでエルシャ、何か言う事があって投降してきたのかな?」
自分が送ったメッセージが役になったようだ、フロンタルは思う。
フロンタルの言葉を聞いて表情を改めると、エルシャは衝撃の事実を話し始めた。
「――――エンブリヲが、もうじき次元融合の実験を始めるわ。地球規模で行うことで人類を抹殺するつもりよ。私が一機ラグナメイルを奪ってきたから少しは遅れると思うのだけれど…残してきた子供たちは殺されはしない、でもそれも実験が始まってしまえばそれすらも危ない―――お願い、この世界を守って」
それを聞くや否や、ヒルダは慌てて指示を出す。
「くそったれが!今すぐに艦首をミスルギ皇国に向けろ、全軍出撃用意!!ドラ姫たちにも用意させろ―――エルシャも出撃しろ!!!」
「で、でも私はみんなを裏切ってしまって――――」
「んなことは後だ、今は少しでも戦力が欲しいんだよ。なぁ、フロンタル」
話の矛先を向けられたフロンタルは頷いてから、話を続ける。
「メッセージ通りだエルシャ…これからに次に、生かせばいいさ」
「フロンタルさん……ヒルダも、ありがとう」
メッセージ通り…?と訝しむヒルダだったが、事態は急を要するために一々質問なんてしていられない――――矢継ぎ早に指示を出してヒルダ自身も出撃するべくカタパルトデッキへと走り出す。
それを察知したフロンタルもまた自分の機体で出撃するべく、走り出した。
※
ロザリーがクリスと、アンジュ―――ではなく…ジルがサリアとそれぞれ『分かり合う為』に戦っている。ヒルダとエルシャは新人ライダーたちを率いて、アウローラを守るべく無人機の掃討を行っており、アンジュとサラマンディーネ達も暁ノ御柱に向かうべく、ミスルギ皇国軍と戦っていた。
そんな中、シナンジュが伝えてくる反応にフロンタルはやはりか―――と思う反面でそうであっては欲しくなかったとも思った。
目の前にはラグナメイルが二機。一機はエンブリヲの機体であるヒステリカ、もう一機は――――黒いヴィルキスともいう風貌のラグナメイル、乗っているパイロットは無邪気にフロンタルへ共通の通信チャンネルを開いてきた。
『あいたかったよ、フロンタル!』
『――見てのとおりだ。彼女は、ミリアは自分の意志で私に協力している、シャア=アズナブル…いや、今はフル=フロンタルだったか。今からでも遅くはない、私と共にこないか』
『ほう、君は暁ノ御柱にいるかと思っていたが―――いや、もう一人のエンブリヲというべきかな?』
『さすがの理解力だよ『赤い彗星』――――返答を聞こう』
フロンタルは無言でビームライフルをヒステリカに向けることで意思表示を行う。
もうお前とは言葉を交わす必要もない、そういわんばかりに向けられた矛先をみてエンブリヲは嗤っていた。
『実に残念だ。ミリア、私たちで彼を一緒に新しい世界へ連れて行ってあげるとしよう』
『はい、エンブリヲ様!フロンタル――――痛いの我慢してね?』
ラグナメイルから非情な宣言がされると共にビームライフルを撃たれたフロンタルだったが、避けるのは容易であった。
しかし反撃までは至らない。ヒステリカ―――エンブリヲも高みの見物を決め込まず、ヒステリカもシナンジュを撃墜させようと襲い掛かってきていたからだ。
ミリアも予想外に強かった。エンブリヲと即席とは思えぬ連携をもって容赦なくシナンジュを追い立てていたが、フロンタルが苦戦するのはそれだけが理由ではなかった――――時間がたつにつれ、一機また一機と『ヒステリカが増えていた』からだ。
フロンタルとて無策で挑んでいるわけではなかった。
ミリアを牽制しつつエンブリヲには容赦なく狙撃を行い、命中させる。
しかしいくら撃墜したのを確認しても、時間が経つにつれてヒステリカが『増えている』のだからフロンタルからしたら正直たまったものではなかった。
「偏在させているのか―――やっかいな、だが…まだだ、まだ終われんよ!」
そういうと次々とヒステリカから発射されるビームライフルをかわそうとするが一瞬だけ躊躇ってしまった。、フロンタルが避けたらミリアに直撃するコースだったからだ。
ならば――とシナンジュのシールドを空中に放してミリアのラグナメイルを守らせつつ、フロンタルは一機また一機と偏在するヒステリカを撃墜していった。
『――――フロンタルが、守ってくれた?私は攻撃してるのに?』
茫然と呟くミリアをよそ眼に、エンブリヲとフロンタルの戦闘は激化していくが多勢に無勢といった様相を呈していた。
『フロンタル、大丈夫か!?いま支援に―――』
『ヒルダ、アウローラの直掩に回ってくれ!暁ノ御柱を破壊する手法をあの艦が持っているはずだ!!』
ヒルダがそう通信してきたのに返事をした―――その一瞬、意識をそらしたのをエンブリヲが見逃すわけがなかった。
『沈め!!!』
そう言い放つと同時にビームライフルが発射され、光の矢がシナンジュへと向かっていく。
それをスローモーションのように見ていたフロンタルはこれで終わりか、と思った。
シナンジュが、赤い彗星が落ちかけた、その時。
『―――――フロンタル!!!』
ラグナメイルに乗っていたミリアがフロンタルを庇った、そしてラグナメイルが胸元に大きな穴を空けて海へと落ちていった。
その光景を見て状況を理解して無意識に一筋の涙を流しつつ、ミリアが撃墜され落ちていった水面をフロンタルはモニター越しに無言で見つめていた。
そんな主人の感情に反応するかのように、シナンジュがフロンタルの涙と同調するように赤い光を放ち始める。
動きを止めたシナンジュを見て、好機と判断したエンブリヲが再度シナンジュに攻撃しようとしてヒステリカを動か――――せなかった。
『……何故だ、ヒステリカが動かないだと……!?』
『――――なぜ、人類を滅ぼそうとする?』
突如として動かせなくなったヒステリカに混乱するエンブリヲは、暁ノ御柱がアウローラの主砲によって破壊されてしまっていたことに気が付いた。
その破壊によって生まれた隙間にアンジュたちが入っていったのを見て、なぜ判らぬとエンブリヲは嘆いた。
『今の人類は救いようがない…何度同じ過ちを繰り返せば理解する?何度やり直せば正解にたどり着ける?どうしてわからぬ、人間がおろかだという事が…!」
『確かに愚かである面もある、それでも―――人は分かり合えることが出来るのだ。その人間を信じきれなかったお前がどうして【我ら】に勝てるというのか、エンブリヲ』
『…たとえそうだったとしても、無駄なことだ――――暁ノ御柱には【私】がいる、もうお前たちは終わりだ……!!』
『そうか、ならば安心だ。アンジュたちがいる…お前では勝てんよ』
フロンタルはそういい放つと、目の前のヒステリカ―――エンブリヲに向けてビームライフルを向け、光の矢を発射した。
※
結果としてエンブリヲの目論見は達成されはしなかったが、二つの『地球』が中途半端に融合してしまい、世界中に大きな爪痕を残したのも事実ではあった。
その混乱たるや、まさに未曾有の危機といった様相であるのは間違いないだろう。
ドラゴン達にも少なくない犠牲が出たが、アウラを無事に奪還できたサラマンディーネ達がうまく統率しており混乱は人間側と比較して少ない。
その人間側はどうなっているかというと、マナという力を失ってからは急速な混乱を招いていた。それを目の当たりにしたアンジュたちはミスルギ皇国を基盤にした世界の混乱を収める為の組織―――世界共同統治機構を編成し、『全員』で世界復興へと舵を切った。
そんな中、フロンタルは身の振りようをどうしようか考えていると、一人の女性の声が聞こえてきた。
その声に応える為に振り向き…フロンタルはこれからを、新しい世界で二人で歩むと心に決めたのだった。