単独でダンジョンに挑むのは間違っているだろうか? 作:一般通過害悪
ということで投稿です。
前回の振り返り
・謎の男ヴェイン・アッシュ
・臨時パーティーを組む
・取り敢えず、地上に帰還する
今回の始まり、地上への帰還から始まるぞ。
17階層、16階層と上がっていく。
通路を抜け、戦闘を避けながら、アルはひたすらに地上を目指した。革袋の重さが肩に食い込む。魔石とドロップアイテムでパンパンである。
今回の探索で得た魔石は、上層の比ではない。中層のモンスターは一体あたりの価値が段違いであることは言うまでもなく。
階段を上り続け、やがて12階層、11階層……上層に戻ってくる。
避けられずに、何度も止むなく戦闘を強いられたが、モンスターの強さが明らかに落ちたのを戦闘で感じた。
そこから、自身の成長を実感しながら、アルは黙々と階段を上り続けた。
ギルドの換金窓口は、夕方の混雑で賑わっていた。アルは列に並び、順番を待つ。十分ほどで、ようやく自分の番が回ってきた。
「いらっしゃいませ……あら、アルさん」
立っていたのは、すっかり顔なじみになったエルフの女性職員だ。名前は知らないが、いつもアルの対応をしてくれる。
「こんばんは。今日は……随分と大荷物ですね」
アルはその言葉に、ギチギチに積まれた革袋をカウンターに置いた。
「換金をお願いします」
エルフ職員はその言葉を聞き、中から、魔石とドロップアイテムを取り出す。目が、わずかに見開かれた。
「……これは……ハァ」
エルフ職員はすっかり慣れたように、査定していく。こうやって、数十分程度経って査定終えた。
「合計で……308000ヴァリスになります」
「……ありがとうございます」
アルは、金を受け取った。
(桁が違う………)
これなら、しばらくは生活に困らないだろう。
「それと……」
エルフ職員が、少し声を潜めた。
「最近、中層に潜られているようですが……何か、変わったことはありませんでしたか?」
アルは、一瞬だけ考えた。
(……怪物進呈の件で、報告するようにと言われていたな)
「……はい。一つ」
エルフ職員の表情が、わずかに引き締まった。
「18階層で、数日前に報告させて頂いた謎の男と接触しました」
「……詳しく聞かせていただけますか?」
アルは、ヴェインについて説明し始めた。
「取れた情報は、名前がヴェイン・アッシュ。年齢は20代後半くらいです。種族は見る限り人間のように見えました。容姿は、黒髪に紫色の瞳。黒いローブを着ていました」
エルフ職員は、メモを取りながら頷く。
「ファミリアは?」
「……分かりません。聞きましたが、教えてくれませんでした」
「……そうですか」
エルフ職員の表情が、わずかに曇った。
「その方は……どのような用件で?」
「パーティーを組まないかと誘われました」
「……!」
エルフ職員の手が、一瞬止まった。
「それで、アルさんは……」
「条件付きで受けました」
アルは、淡々と続けた。
「戦闘には関与しない。ただ、監視するだけだと言われました」
「監視……」
エルフ職員は、小さく息を吐いた。
「……その方のレベルは、分かりますか?」
「……あくまで予測ですが……レベル5、もしくは6だと思います」
エルフ職員の顔色が、明らかに変わった。
「……ファミリア名が不明で、レベル5以上……」
彼女は、メモを持つ手に力を込めた。
「……分かりました。詳細なご報告、ありがとうございます」
エルフ職員は、顔を上げてアルを真っ直ぐに見た。
「アルさん。これは個人的な忠告ですが……」
「……はい」
「ファミリア名を明かさない高レベル冒険者というのは、大抵、裏の事情があります」
その声には、明確な警告が込められていた。
「もし、その方が何か不審な行動を取った場合……いえ、少しでも違和感を覚えたら、すぐに逃走を選択してください。間違っても戦おうなどとは思わないように。アナタがどれだけ強くともレベルの壁は高いですから」
「……了解しました」
アルは、小さく頷いた。
エルフ職員は、それから少し表情を緩めた。
「……それと、中層は上層とは比べ物にならないほど危険ですのでくれぐれも油断なさらないように」
「……肝に銘じます。では」
アルは会話を終え、ギルドを後にした。
夕暮れの光が差し込むオラリオの街並み。
魔石灯が灯り始め、商店街には帰路につく人々の姿がある。
アルは、バベル塔を出て大通りへと向かった。
(オオクチ様はちゃんとしているだろうか)
数日とは言え、拠点を空けてしまったと言う事実からアルは結構心配だった。
性格を加味して、食事を用意していたとはいえ色々と心配事が絶えない。
そう考えながら歩いていると……前方に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
(……美遊か)
黒髪を編み込んだ小柄な背中と気配からそう確信した。
ただ、その横には、見覚えのない同い年くらいの女の子がいる。
なぜ、女だと思ったのかと言うと、薄い桃色の髪色をポニーテールと骨格、体型からだ。
(……友達……パーティーか?)
どちらも武器を持っていることからそう思考を行った。そして、こう考える、
(話しかけるべきか……)
そんな、思考を経てアルは話しかけることにした。アルが声をかけようと足を踏み出した、その瞬間。
「あっ」
美遊はまるでアルの気配を感じ取ったかのように振り返った。
そう言えばと、アルは思い出す。
(美遊も村正の特訓を受けていた……とすると当然か)
そう、村正の特訓の一環として行なっていた修行があった。
それは、布で両目を塞ぎ、前後からの攻撃を察知するというもの。
そのため、アルがそう思えた訳である。
赤い瞳がアルを捉え、一瞬だけ目を見開き、それからわずかに口角を上げた。
「どうしたの?美遊……」
それと同時に、横の少女も振り返る。
不思議そうな表情を数秒したあとにパァと笑顔を咲かせながら一気に距離を詰めてきた。
「わぁ………ねぇ!美遊のお兄さんだよね!?」
こちらの返答を待たずに、シュナはアルの手を両手で包み込んだ。
「美遊から聞いてるよ!アルさんって言うんだよね!すっごい強いんだよね!」
薄い桜色の髪がポニーテールで揺れ、茶色の瞳がキラキラと輝いている。
アルは一瞬、戸惑った。
(……なんだ、この距離感)
初対面だというのに、まるで旧知の友人のような馴れ馴れしさ。だが、悪意は感じられない。純粋な好奇心と好意だけが、この少女から溢れていることが分かった。
妹……厳密には違うが指摘するのは少々面倒くさいので話を合わせることにしよう。
「……えっ、ええ。アルと申します。妹がお世話になってるようで」
短く答えると、少女の笑顔がさらに輝いた。そして、恥ずかしそうに言う。
「えへへぇ〜、そんなそんな。私こそ美遊にはお世話してもらってる立場と言うか。えっと、お兄さんの心配は」
「……シュナ」
シュナの言葉を遮るように美遊は名前呼んだ。
「その手、離して。お兄ちゃ……アルが困ってる」
「あっ、ごめんごめん!」
シュナは、慌ててアルの手を離した。
それから、にこにこと笑いながら美遊の隣に戻る。
「えっとね。勝手に手を触ってごめんなさい。私は美遊とパーティー組んで………ううん。組ませてもらってるシュナと言います。レベルは1でまだまだ、冒険者としては駆け出しだけど頑張ってます! それと、美遊とは別のファミリアで、エンキ・ファミリアに所属してます!」
「………あっ、そうなんですか」
一気に情報が流れてくるので、処理しながら軽く頷くアル。
エンキ・ファミリア
オラリオでは中堅に位置するファミリアである。
神の中では、かなりの穏健派であり、総数は30ぐらいで、最高レベル4が所属している。
確か、そんな感じだ。
一応、アルはファミリアの情報は事前に調査済みであり他ファミリアのことは、マニアには劣るもののしっかりと知識に入れている。
脳に情報が追い付いた、その時、美遊が静かに口を開いた。
「……アル。ダンジョン帰り?」
「ああ、そんなとこだ。二人もそんな感じか?……っと、シュナちゃんは言い辛いならタメ口でいい。俺もそうさせてもらうから」
「ありがとう!その、丁寧な口調は言い慣れて無くて……。質問の回答は〝いえす〟だよ」
ふむと、想像した通りらしい。
ここで、良いことを思いついたというようにシュナが指パッチンを行いアルを見つめる。
「良いこと思い付いた! ねぇねぇ、アルさん!私たち、これからご飯食べに行くんだけど、一緒に行かない?色々話したいことや聞きたいがいっぱいあるんだ!」
「……」
アルは、一瞬だけ迷った。だが、すぐに首を横に振った。
「悪いが、今日は無理だな」
「あ、そうなんだ…………それじゃあ仕方ないね」
シュナは、残念そうに肩を落とした。
それに居心地の悪さを感じたアルは妥協点を言う。
「………埋め合わせはまた後日で……」
「本当!!」
がばっという効果音でも鳴るかのような速度で、アルとの間合いを詰める。
(ちけぇ)
「じゃあ、また今度ね!絶対だよ!」
「……ああ。もちろん」
言葉も、そこそこにアルは、美遊に近づいた。
「明日、時間はあるか?」
「ある。武器の点検?」
「そのつもり、それじゃあ、明日にいつもの場所に」
「うん……いつでも待ってる」
そんなこんなで一幕を終えてアルは二人と分かれた。
村正のもとで育った美遊にとって、シュナのような明るい友人ができたのは、良いことだろう。
そんなことを思いながら、アルは拠点へと向かうのだった。
廃教会の裏手にある小屋の扉を開けた。
「ただいま帰りました」
「おっかえりー」
いつもの声が返ってきた。
その瞬間、漂ってきたのは鼻を突く異臭だった。
(……おぅ)
アルは思わず顔をしかめた。
酒、生ゴミ、汗。その全てが混ざり合った、強烈な匂いが鼻を劈く。
この臭いには覚えがある。
(……最初にここに来た時と、同じだ)
そう、最初、ここに入った時と同じ匂いだと。
アルは、ゆっくりと室内を見渡した。
床には、空のビール瓶が二十本以上。
テーブルには、腐ったスープの鍋。
皿の上にはカビの生えたパン。
椅子には食べこぼしだらけの着物。
床を這う蟻の行列。
そして。
ベッドの上で、灰色の髪を乱したオオクチノマカミ。
髪は脂で、尻尾は毛玉だらけ、着物は汚れまみれである。
「んー……お帰り、アル」
「……」
アルは、静かにため息をついた。
(……四日間で、完全に元に戻ってる)
そうやって、問い詰めるように………出来るだけ優しい声で聞いてみた。
「……オオクチ様」
「んー?」
「風呂、いつから入ってないんですか?」
「……アルが出て行った日から……かな?」
「……ですか」
「………だって、一人じゃ無理だし」
アルの内心はこうである。
『コイツマジかぁ〜』
少し前に、入院中はちゃんと出来ただろうと突っ込もうとして…オオクチノマカミは、目を逸らした。
そのまま、アルの言葉を待たずに、こう言う。
「……ごめんね」
耳が伏せ、尻尾が力なく揺れた。
「私、やっぱりダメだね」
アルは、何も言わずにオオクチ様を見つめた。
「アルがいないと、すぐ元に戻っちゃう」
「……」
「ご飯も作れないし、掃除もできないし……」
オオクチノマカミは、自嘲するように笑った。
「神様のくせに、情けないよね」
「……まぁ、そうですね」
アルは、静かに言った。
「……はえ?」
オオクチノマカミが、変な声を出した。
明らかに慰めの言葉を期待していたのだろう。
耳がぴょこんと跳ね、尻尾が硬直している。
アルは、そのまま聞こえないフリをして本音を吐露した。
「オオクチ様は、確かにダメダメですね」
「え、ちょ、アル……?」
「本音を言ってしまえば、このまま、簀巻きにして、そこら辺に捨てたいくらいです」
「ちょ、ちょっと待って!?」
オオクチノマカミが慌てて手を振る。
「〝すまき〟って何!? あと捨てるって!?」
アルは、小さく息を吐いた。
「……ですが」
「……え?」
「それでも、一応、俺はオオクチ様の提示した条件を呑んで眷属になった訳ですから」
アルは、オオクチノマカミの頭に手を置いた。
「俺が死なない限りは見捨てませんよ」
「……アル」
「それに……」
アルは、わずかに口角を上げた。
「一人で食べるご飯より二人で食べるご飯の方が美味しいですからね」
「……!」
オオクチノマカミの耳が、ぴょこんと跳ねた。
尻尾が、嬉しそうに大きく揺れ始めた。
「……ふふ。最初は何事かと思ったよ」
「……失礼しました。少し言い過ぎました」
「ううん。でも……」
オオクチノマカミは、アルの服の裾を掴んだ。
「……ありがとう。アルは、優しいね」
「……どうでしょうか」
アルは、小さく笑った。
「まぁ、次からは……もう少し、考えないとですね。オオクチ様が一人でも大丈夫なように」
「……うん」
「誰か、世話係を雇うとか」
「えー……」
オオクチノマカミは、顔をしかめた。
「それは嫌だなぁ……」
「……なぜですか?」
「だって、アルがいいもん」
耳が伏せ、尻尾が揺れる。
「アルじゃないと……ダメなの」
その声は、とても小さかった。
アルは、小さくため息をついた。
「……分かりました……と言いたい所ですが、俺とオオクチ様の為なので、妥協して欲しいです。お金の問題もありますし」
アルは合理的な思考のもとにそこだけは譲れない。オオクチノマカミはぶーぶーと文句を言ってくるが無視だ。
「ん………じゃあ、分かった。世話係については妥協してあげるからさ」
オオクチノマカミは、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今日は一緒に寝てもいい?」
「……えっと………それはちょっと」
「ええ〜〜!! そこはもちろんって言うところじゃない!?」
「だって、今のオオクチ様……その、まだ臭いが……」
「うぐっ………じゃ、じゃあさ。お風呂に入ったあとなら良いよね!? だって、せっかく綺麗にした私を汚いあのベットに寝かせるのはアル的に嫌でしょ? ね! ね!」
自身のベットを指差しながら必死に懇願するオオクチノマカミが滑稽で……アルはくすりと笑い言う。
「そうですね。俺としてもそれは嫌ですね」
「おお!ってことは?」
「ええ。ベットが綺麗になるまでは一緒に寝ましょうか」
そんな会話をしながら二人は、小さく笑い合った。
因みに、アルの脳内では既にお世話係の案が浮かんでいる。ただ、今すべきことを行うのだ。
「とりあえず、風呂沸かしてきます」
「あっ、手伝う……よ?」
「いえ」
アルは、首を横に振った。
「オオクチ様は、何もしないでください……その、匂いが……キツイので」
「あっ……うん。ごめん」
オオクチノマカミは、そんなに臭うかなと自身の服をスンスンと鼻を使ってみるが分からない。
アルは小さく笑い洗面所に向かいながら、思った。
(……やっぱり、選ぶ神………間違ったか?)
洗面所に到着して軽く、その場所を見る。洗面所は特に何かなってる訳でも無さそうだ。
(いやでもなぁ、こっちに干渉してこないという一点においてはこれほど好条件の神は居ないし………それに、俺はあの神の条件を呑んで眷属になった訳だし………)
浴室に入る。そのまま、風呂の準備を進める。
(だとすると………俺が居ない間でオオクチ様を世話する人間が欲しくなるな)
だが、人を雇うとなると色々と問題がある。
一つ、お金問題。
お給料である。
現在の金銭で考えれば、金稼ぎのできるのがアルだけでありその金額も安定的なものではない。
雇うと言っても一人ぐらいしか無理だろう。
二つ、信用問題。
単純に、主神を任せるという一点においてはここは外せない。一応、言っておくとオオクチノマカミは欠点さえ見過ごせば〝美少女〟である。そう言う言語生命体に襲われれでもすれば……というアルにとって見過ごせない問題が付きまとう。
男は論外であり、女に至ってもダメだ。
アルは多種多様な人間と出会い、男女問わずに小さい子に欲情する言語生命体に会ってきた。
そこから、そう言う懸念点もある。
(……となると、やはり信用できる人間を探すしかないか)
だが、そう簡単に見つかるものでもない。
(まぁ、今すぐ必要というわけでもないし、ゆっくり考えるか)
アルは、蛇口を捻り風呂にお湯を入れる
溜まるまで十五分程度係るので、掃除に移ることにした。
窓を開け、簡単に掃除をしていく。
十五分程度の時間が経過し、ある程度の分別を終えたアルは浴室の風呂場に移動して確認、その後に良い感じに入ったことを確認した。
「オオクチ様、お湯が沸きました」
「はーい」
オオクチノマカミが、よたよたと浴室に向かってくる。
「じゃあ、よろしく」
アルは、小さくため息をつき一緒に入ることにした。
浴室に入りオオクチノマカミは桶に座らせ、手でシャンプーを泡立てる。
「んー……気持ちいい」
灰色の髪が、泡に包まれる。
洗う過程で、耳の付け根を指で触れてしまい、オオクチノマカミの尻尾がぴくんと跳ねた。
「ふわぁ……そこ、くすぐったい」
「……動かないでください」
雑念を払い、尻尾を丁寧にブラシで梳く。
「んー……」
満足そうな声が漏れる。
アルは黙々と作業を続けた。
数十分後。
オオクチノマカミは、すっかり綺麗になっていた。
灰色の髪は艶やかに輝き、狼耳はふわふわで、尻尾も毛並みが整っている。
「ふぅ……生き返った」
「……良かったですね」
そのまま、アルも身体を洗い終わり、湯船に浸かる。
オオクチ様の髪は軽く結って、湯船に浸からない様にしている。
「んふふ………気持ちいいねぇ」
「そう………ですねぇ」
(……疲れた)
中層での探索、ヴェインとの出会い、美遊とシュナ。色々とあった一日だった。
とは言え、湯船から出れば軽く掃除もしないといけない。
(明日は、美遊のところに行って……それから……本格的に掃除して……)
思考が、ゆっくりと沈んでいく、湯の温かさが、疲れを溶かしていく。
(……とりあえず、今日はもう休むか)
小さく息を吐いて、アルは目を閉じ………
「アル?」
「なんですか。オオクチ様」
「お風呂で寝ると死ぬよ?」
「ああ、はい」
風呂から上がり、オオクチノマカミは軽く拭いた椅子に座らせた。綺麗な着物を着せて、髪も乾かした。
一方、アルは台所に居た。
(さて……何を作るか)
冷蔵庫の中を確認する。
野菜、肉、卵、パン。最低限のものは揃っている。
アルは、小さい鍋を取り出した。
野菜と肉を軽く炒め、水をぶちこみ沸騰させながらスープの素を加える。
パンは、おーぶんとーすたーで軽く温め直す。
数十分もすれば完璧に準備を整えた。
「できました」
「わーい!」
二人で向かい合って座る。テーブルには料理が並べられている。
「いただきます」
「いただきまーす」
スープをスプーンで掬って口に運んだオオクチ様はとっても良い顔になった。
「……美味しい!やっぱり、アルの手料理は最高だよ」
オオクチノマカミは、満足そうに尻尾を揺らしながら手を止めようとしない。
しばらく、静かに食事を続ける。
やがて、オオクチノマカミが口を開いた。
「ねぇ、アル」
「はい?」
「そう言えば、二つ手紙が来てたよ」
「……手紙?」
アルは、スプーンを止めた。
「うん。ヘラ・ファミリアからと前に助けた冒険者のファミリアからだね」
オオクチノマカミは、机の上の二つ封筒を指差した。
一つは白い封筒。蝋で封がされており、ヘラ・ファミリアの紋章が刻まれている。
もう一つも、そのファミリアの紋章が刻まれている。
「……いつ届いたんですか?」
「んー、確か………今日さ。玄関の前のポストに入っていたんだ」
「そうですか……」
アルは手紙を受け取る。自室でしっかりと確認するとしよう。
食事を終えて、オオクチノマカミが皿を空にした。
「ごちそうさま!」
「お粗末様でした」
アルも丁度、食事を終えた。
皿を片付けながら、アルは口を開いた。
「それと、報告があります」
「おっ、なになに?」
オオクチノマカミは、興味津々といった様子で身を乗り出した。アルは、ヴェイン・アッシュとの出会いについて説明した。
18階層で待ち伏せされたこと。
パーティーを組むことになったこと。
戦闘には関与せず、ただ監視するだけであること。そして、その男の主神の命令で監視されていること。
オオクチノマカミは、黙って聞いていた。
やがて、アルが話し終えると小さく息を吐いた。
「……ふーん。そっか」
オオクチ様は顎に手を当てながらアルに言う。
「で、そのヴェインって男は、君に何かしてきたの?」
「……いえ、今のところ敵意はなく何もしてきませんでした」
「ふむ」
オオクチノマカミは、尻尾を揺らしながら続けた。
「まったく………私の眷属をどいつもこいつも狙いやがって…………ンン゛、私から言えるのは絶対に信用しないようにってことだけだね。そう言う経験は君の方が豊富そうだし、まぁ、頑張って」
「……はい」
最初の言葉を聞き流すとして、なんともまぁ、淡白な神である。一重にアルを信用していると言っては聞こえが良いが、些か楽観的過ぎないか。
まぁ、アルも何ができるわけでもないので簡単に考えて行くしかないのだ。
(まぁ、相手が格上だと分かってる時点で同行の許可を行なっている事がどれだけアホなのかは分かってるんだが………いざとなったら、オオクチ様も狙われる可能性も高めなんだが…………)
皿を洗いながら、小難しいことを永遠と考えてしまう。
そう、背中を見せている時点で攫われることも承知の上である。
そもそもとして、格上の相談を断れるはずなく。まぁ、それは置いとくとして。
皿を洗い終わりと同時に、オオクチ様が近づいてきた。
「2階まで上がるのめんどくさいから連れてってぇ〜、歯磨きもお願い〜」
手をぶらりと下げながらそうおねだりをしてくる神。
それに深い、ふかぁい、溜息をした。
その後、歯磨きをしたあと、2階にある部屋に移動した。
アルの自室はなんの面白みもない部屋である。
簡易的な机に椅子、クローゼット、そしてベットと言った普通なもの。
オオクチノマカミは自然とアルのベットを占拠する。
それを確認しながらアルは先程受け取った二通の手紙を確認する。
ーーー
拝啓
この度は、我が主神及びレグナントの提案を飲んでくださり、改めて感謝申し上げます。
さて、本題に入らせていただきます。
先日、主神ヘラ様との面談にて約束されました、レグナント殿との模擬戦についてご連絡いたします。
日時:本状到着より5日後の午前九時
場所:ヘラ・ファミリア本拠地『白腕の館』訓練場
形式:真剣による実戦形式(暗器、搦手可)
判定:戦闘不能、または敗北宣言
装備:武器防具の着用可
当日は医療班を待機させております。
怪我の治療については、こちらで全て対応いたしますので、存分にその力を発揮なさってください。
また、模擬戦終了後、昼食をご用意しております。
ご不明な点がございましたら、三日前までにお知らせください。
それでは、当日お待ちしております。
敬具
ヘラ・ファミリア 副団長
セレスティア・ルーンヴェール
ーーー
突然の手紙、失礼いたします。
この度は、我がファミリアの眷属であるミラ・フォーレンを救っていただき、心より感謝申し上げます。
ミラから事の次第を聞きました。
中層13階層にて、アルミラージの群れに襲われ、パーティーメンバー二名が死亡。
ミラ自身も瀕死の重傷を負っていたところを、アル様に救っていただいたとのこと。
命の恩人であるアル様に、どうお礼を申し上げれば良いのか……。言葉では言い表せないほどの感謝の気持ちでいっぱいです。
つきましては、ぜひ一度、面会の場を頂けないでしょうか。
ミラ本人も、直接お礼を申し上げたいと申しております。
お忙しいところ恐縮ですが、ご都合の良い日時をお知らせください。こちらは、いつでも調整いたします。
また、微力ながら謝礼もご用意しております。どうか、受け取っていただけますと幸いです。重ね重ね、本当にありがとうございました。
テュケー・ファミリア 団長
リリア・ユースティア
追伸:ミラは現在、肉体の方は、完全に回復しております。
アル様の迅速な判断と治療のおかげです。
本当にありがとうございました。
ーーー
「テュケー・ファミリア、か」
アルは、記憶を辿る。
オラリオの中では、中堅に位置している。団員数は20人。
最高レベルは3(団長)。主神はテュケーは運や財産の女神。
オラリオには数多くのファミリアが存在する。
その中でもこのファミリアは堅実で愚直、真面目なファミリアとして知られているのだ。
尚、この評価は、現団長がなってからの評価であり、昔はそれはもう神が自由奔放過ぎてアレだったとか。
「……まぁ、返事は後でいいとして」
アルは、白い方の手紙を見つめる。
(4日後にレグナントとの試合か………レベル3)
数日前に戦った、黒いミノタウロスを思い出す。
(アレよりも強いと考えるべきか、それとも、それよりも下なのか)
頭を振る。対人間と対モンスターでは根本から違う。故に、モンスターと人間を比べるのは意味がない。
考えるだけ無駄である。
(とは言え、戦ってみなければ分からないか)
アルはそう思考を終える。
「ねぇ。ある〜」
色々と考えていると、ベットに寝転んで丸くなっているオオクチノマカミの抜けた声が聞こえてくる。そちらに振り替えると意外そうな顔をした神がいた。
「どうかしました?」
「いやぁ〜。何か嬉しいことでも書かれてた?」
そんなことを聞いてくるオオクチノマカミにアルは首を傾げる。なんのことだろうか?
「口角……上がってるよ?」
「?」
アルは神の言葉に、手を口に持っていくと、自分が微笑んでいることが分かった。
(なる………ほど)
「ふふ、そうらしいですね。楽しみなのかも知れません。彼女…………レグナントと戦うのが」
そうやって、アルはニコリと良い笑顔でそう言うのだった。
ーー解説ーー
ギルドの方針
アルについては〝英雄候補〟として注目している。立て続けに問題ごとにかち合っていることに注目しており、エルフ職員に何かあれば報告しろと指示を出している。
ヴェインについての報告が上がっても如何せん情報が一切ないのでどうしようもないと思っている。
エルフ職員
名前は……考えてない。
性別は女
結構出番はあるのでいつか出したい。アルのせいで胃が持たない。
ーー
美遊について
シュナという友達を作った。
アルの知らぬところで感情を知っていくだろう。
シュナについて
美遊のパーティーメンバー
冒険者になったばかりのルーキー。
活発で善意の塊みたいな子。
美遊に感情を教えて行く………のかも知れない
ーー
オオクチノマカミについて
アルが居なければ何も出来ない要介護者。
ある意味、足枷であり楔。
一話から片鱗は見せていたが、アルが長く家空けるとゴミ屋敷にするし、全部汚す。図々しいし厚かましい。性格と生活アカンやつ。
アル
主人公。ネジが引っこ抜けてるけど理性はある戦闘狂。
幾重もの戦場を渡り出会いをして来た10歳の少年。
基本的な家事は完璧。
ーー
次回は美遊との会話、オオクチノマカミの世話係を捕まえて……。
日常回を2話ぐらいやってレグナントとの模擬戦をします。