「副代表、代表からはなんと…?」
「…『専守防衛に努めよ』とのことだ、我々から決して手を出してはならない」
「―――――代表のお考えも理解できます。しかし、このままいくと我々と月とが戦争になります。もう月も地球も『我々』の事を知ってしまっている、そのせいでしょう…互いの過激派が協力しろと圧力をかけてきています。今はもう暴発寸前といった有様です、何とか食い止めてはいますが…いつまでもつやら」
「それでも我々が圧力に屈することがあれば、それは世界の崩壊に繋がりかねないのだ。決して月と地球との間に戦争を開かせてはならん……仮にメサイアのネオ=ジェネシスが露見してみろ、それこそ財団が世界の敵となる」
「まぁ…そうなった場合の為の『準備』だったしねぇ。配備状況はどうなっているのさ?」
「――――ザク=ウォ―リア、グフ=イグナイテッド、ゲルルグ=マリーネなどのモビルスーツを中心とした機動兵器群、及び機動戦艦も予定通りに配備が進んでいます。もう数日すれば完了するかと」
「世界の敵を作ることで、世界を一つにまとめる――――敵対すらしかねない月と地球の双方が交流を促進させるためには同盟締結が不可欠、それを結ばせる為には共通の敵を作ってしまえばいい…というのが最悪のシナリオですか」
「……我々は代表に命を救われた時から代表の為に動くと決めております、その為なら何でもするという覚悟も出来ております」
「となると…いよいよ、かぁ~…地上の方も展開準備できてるんでしょ?例のマスドライバーの護衛部隊とか」
「―――太平洋上のアレか。ロストテクノロジーで動かすというのが個人的には心もとないが、代表がもたらしたミラージュコロイドという技術で隠すほどの代物だ…決して失うわけにはいかん。護衛の方は戦略級機動城塞が投入されていると報告を受けているが、量産はしないのか?」
「…それは予算的にも人員的にも無理でしょ、一機を製造・維持出来ているだけでも奇跡レベルの金食い虫なんだよアレ。それに何を目的に量産に踏み切るのさ?パイロットの確保すら面倒なんだ。同じ予算で海域防衛をするならフォビドゥン=ブルーを部隊単位で揃えたほうがコストパフォーマンスはいいよ。まぁ…『世界との全面戦争』を想定するなら、戦略的に考えて量産を検討した方がいいだろうけどさ」
「アウル=ニーダという天才がいなければ一人では動かす事すらままならん機動兵器、か…もともとはザムザザーと同様に複座型を想定していたが、それだと人員が不足してしまうからな…仕方がないといえばそれまでだが」
「―—―—アウル君は心中複雑そうだったけど。『俺がアレで出るって想定されてるってことは、状況相当ヤバいじゃん』とか言っていたし。できればアウル君には部屋で大人しくゲームでもしててほしいけど…クェスちゃんも似たような事いってたしね」
「クェス=パラヤ……代表が見出した秘蔵っ子か。彼女が代表が言われた『ニュータイプ』という存在なのだろう?代表や彼女の存在を見ていると代表が『ニュータイプ』と表現するのも判る気がするよ」
「彼女曰く本質は『物事を正しく感じ取る力』だったか。代表が『宇宙に進出した人類は新しい力に目覚めてもおかしくない』と話されていたからな、疑う余地もない」
「確か…彼女が宇宙で開発した例の機体にのる予定だったか」
「そうだね。αシリーズのフラッグシップ機だから、ウチの開発陣も気合い入れてるし期待してよさそうだよ。元々が代表の専用機として計画された機体だしね」
「……なんにせよ最悪の場合は機動城塞であるメサイアを中心とした小惑星群を母体にして独立国家を形成・樹立させて月と地球に独立戦争を行う事になるだろう。その場合はこの場にいる全員が死に物狂いで働くことになるな」
「それも仕方があるまい、これまでの受動的な運命とは異なる自主選択的運命…それを樹立させる新しき運命の計画こそ、我らが行く道なのだから」
「ホント、最悪の事態にならないことを祈ってるよ。あの何事も前向きに捉えようとする代表が『最悪』なんて表現するような事態が迎える結末なんて僕は想像もしたくない」
「それは私もだな、最悪と言う事は我々にとって最も都合が悪い事態なのだから」
「で、そうならない為の方策は……え、これ代表は正気なの?」
「私も二度確認したが、正気だそうだ」
「とはいってもねぇ……あえて財団としては何もしない、というのは僕としては怖いなぁ。あの代表の事だから無策というわけではないだろうけど」
「…信じておられるのだろう、月と地球が平和的に手を取り合う可能性を」
「まぁ、メサイアとかのことは『備えあれば患いなし』っていった意味合いが大きいみたいだしね…軍事利用よりも宇宙で活動する拠点的な意味合いが大きい設計になってるし。月に構えてある月との共同開発拠点のグラナダといい、代表は何百万人住まわせる心算なのさ?」
「―――――私が伝え聞く限りでは少なくとも数千万人、独立国家になる場合は最終的に億単位の人間が流入してくる可能性があると考えておられるようだな」
「……何にせよ、我らが出来る事は代表からの指示通りに粛々と事を進めていくだけだ」