運命の始まり   作:マッキンガムⅡ

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第12話

ある夏の日の午後、月の大使館の車が朝霧家の前に停まり……ゆっくりと中からカレン=クラヴィウスが下りてきた。

 

 

「――――試験の日程をお伝えに来ました。日曜日の午後八時。場所は大使館の中庭です、あまり人に見せるようなものでもありませんから」

 

「……了解したわ」

 

「わかりました」

 

 

カレンは達哉をじっと見る、練習に励んでいる姿をみて感心しているのだ。

 

カレンと達哉たちが2、3言交わしたかと思うとそれを見守っていた四人のうち、三人が立ち上がり、そのうち菜月と麻衣がカレンへの抗議をし始めた。

 

 

『フィーナに達哉じゃ勝てっこない、試験は公平にしてほしい』

 

『二人の仲を認めてやってほしい』

 

 

菜月たちとてフィーナ達が無条件に結ばれるわけではなく、それには試験が必要なのは判りはするのだろうが、どうしても納得はいっていないのだろう。

 

残りの一人であるミアはというとカレンに意見を促されると「姫様が後悔しないようにしていただくことが一番です」と控えめの言葉を発した。

 

 

 

「……そちらの方の意見は?」

 

「―――――フィーナと達哉の問題は二人で解決するべきだろう、外野が何を言っても意味をなさないさ」

 

 

 

カレンに意見を求められた『ラウ=ル=クルーゼ』は自然と口に出した。

 

それは単なる思いつきではない、真剣に付き合うと決めた二人の問題だからこそ二人で乗り越えなければならないと考えているからだ。

 

達哉たちにカレンに抗議する意思がないと悟ると、菜月と麻衣が玄関の階段に座り込む。ミアだけは気丈に屹立していたが、心なしか元気がない。

 

カレンが公用車に戻る途中、ラウとすれ違いざまに二人は言葉を交わした。

 

 

 

「―――貴方の事、信じてますから」

 

「ああ、任せておけ」

 

 

 

カレンの言葉をラウは『レイ=ザ=バレル』としてもしっかり受け止めた。

 

『ラウ』としては特別にやることはない。

 

無理をしないように監督するのは家族の領域だし、達哉を指導するのはフィーナ自身の手で行われなければならないからだ。

 

『レイ』の立場で考えていてもそれはゆるぎなかった。

 

その言葉にカレンは安堵するかのように一瞬表情を和らげほほ笑むと、公用車に乗り込んで去っていった。

 

 

 

「…ラウさん、カレンさんとは何を話していたんですか?」

 

「何、ちょっとな。そんなことよりも達哉、フィーナ…頑張れよ。俺は今から左門で仕事だからな」

 

 

 

そういうと左門へと去っていくラウ、そんな後ろ姿に訝し気になりつつもラウの言うとおりに頑張らねばと達哉は気合を入れなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂の月光が管理する、月人居住区にある礼拝堂の中にレイの姿はあった。

 

ただ静かに祈る。されど、その背中からは祈ることの多さを物語るかのような真剣さを感じさせるものがあった。

 

 

 

「―――――レイ、話がある」

 

 

 

そんな背中に言葉をかける人物がいた。

 

 

「その声と気配…リースか、どうかしたのか?」

 

「フィアッカ様からの手紙で話を知った――――あなたが財団の代表であることや、私の為にフィアッカ様と取引を行ってくれたこと」

 

「…あぁ、そのことか。俺にとっても意義のある取引だったからな、別に気にするようなことではない」

 

「どうして、そこまで一生懸命になれるの?」

 

 

その疑問を投げかけられたレイはリースリットに向き直る。

 

そして、ありのままの自分の意見としてレイはリースリットに返答した。

 

 

「…友人が困っているのだ、助けない理由などあるはずもない」

 

「私の事だけじゃない。この10年間…貴方はロームフェラ財団まで築き上げて、たった一人で多くの人々を救い続けている。そしてセフィリア女王の意志も守ろうとしている」

 

「俺としては自分が望む事をしているだけだ」

 

「…望む事?」

 

「自分が望めない未来、それを誰かに託したくてな。俺の身体の事も知っているのだろう?」

 

 

リースは首肯した。

 

レイ=ザ=バレルは寿命が生まれつき短い。それはクローン人間として生まれる際、遺伝子を操作されたために副作用的なもので寿命が短くなってしまったらしいということ。

 

それはリースリットもフィアッカ経由で知らされていた。

 

 

 

「だから『生きられるのなら、どんな命でも生きたいだろう』と考えるようになっていった。俺は生まれも特殊なら育ちも特殊でな…自分の思うように生きられなかった反動からか、他人には自分の分まで自由に生きてほしいと願うようになっていったよ」

 

 

 

レイは礼拝堂の椅子に座り、ぽんぽんと自分の隣の席を叩き示した。それに呼応してか、リースリットはレイが示した席に座った。

 

 

 

「最初の内は自分の事を運命だから、と諦めていた。でも、こんな俺を親友だといってくれたヤツがいてな。アイツの行動に付き合っていくうちに諦めなければ道は開けると思えるようになっていったよ。だから…『自分は救えなくても、誰かを救うことは出来る』――――そう思えるようになったから、俺は命がある限り一生懸命になれるんだ」

 

 

 

レイはかつての親友を思い出していた。

 

勝ち気で、ぶっきらぼうで、でも本当は優しくて、事あるごとに上官と喧嘩してた彼は今どうしているのだろうか?彼女とうまくいっていればいいのだが。

 

あの敗戦の後、彼らがどうなったかは判らない。しかし心のどこかで確信が持てるのだ、彼らは彼らなりに幸せになるべく色々なものと戦っている。

 

彼らは今もなお、生きているのだと。

 

 

 

「やっぱり、レイは変わっている」

 

「そうか?」

 

「うん。それとお礼言ってなかった……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

 

これまでリースリットはフィアッカの器としての宿命を背負って生きてきたが、これからは違う。彼女自身の人生が、『リースリット』としての人生が待っている。

 

それが幸せなのかどうかは今のレイには判らないが、後悔だけはしてほしくないものだ――――そう思い、リースの頭をポンポンと軽く叩いた。

 

 

 

 

その時、静寂なはずの礼拝堂に異変があった。

 

――――――ドサッ

 

 

遠くではあるが、明らかに一定の重量があるものが落ちるような音がした。

 

 

「リース、あちらの方向は確かモーリッツ様たちの部屋があったな?」

 

「うん。確かめに行く?」

 

「ああ」

 

 

言うや否や、席を立って足早に物音の方向へとレイは動いていた。リースも一応気にはなるのか、レイの後を追うようにしてついてきていた。

 

 

「―――――エステル…?」

 

 

レイたちがモーリッツ達の部屋の方向へ赴くと、廊下でエステルが尻もちをついていた。

 

まるで立て続けに衝撃的な何かを知らされたかのように、顔色が目に見えて悪いのが伺えた。

 

 

 

「――――――ラウさんが財団の代表?私が地球人とのハーフ?いったい、わたしは――――なにをきいたの?」

 

 

か細く聞こえる声。

 

それは目の前の現実を受け止めたくない、何かに縋りつきたいような――――救いを求める声にもレイには聞こえた。

 

 

 

「……エステル、黙っていたことはすまなかった。騙すつもりは一切無かったんだ」

 

「さっき私が話していたのを聞いていたみたい――――ごめん、レイ」

 

 

 

リースが謝っていることに対して首肯して返答しつつ、レイは屈んでエステルの視線に自分の視線を重ねる。

 

 

「…立てるか?エステル=フリージア」

 

「――あなたが財団の代表、なのは本当なんですか?いや、それどころじゃなくて、私の出自が…?」

 

「…出自だと?エステル、君は孤児だったのでは…」

 

 

 

孤児は親がいない。肝心の身寄りが存在しないが故に『孤独な児童』なのだ。

 

レイがそう考えていると――――

 

 

 

「――――――それは間違いではありません。しかし、出自は判っているのです」

 

 

 

エステルが尻もちをついた場所からすぐ近くにあった微かに開いているドアから、モーリッツ高司祭と、見知らぬスーツをきた壮年の男性が出てきた。

 

複雑そうにする男性から、エステルのある事実をレイは告げられた。

 

 

 

「――――…私の兄が、エステルさんの実の父親にあたります。母親は月の人で高貴な身分である方だったと聞いております。もっとも、もうすでに兄は亡くなっておりますが…」

 

 

それが事実だとするならばエステルからしたら衝撃というほかあるまい、地球人というだけで偏見を持っていた一面もあるエステルには酷な現実である。

 

月人とも言い切れない。地球人とも言い切れない。

 

彼女のよりどころは一体どこにあるというのだろうか―――――

 

 

 

 

「……申し訳ありませんが、お二人には今日のところは失礼していただけないでしょうか?決して不義理なことは致しませんので」

 

 

 

苦悩を隠しきれていない表情で、モーリッツ=ザベル=グランツは二人の男性に告げた。

その様子から彼は知っていて…あえてエステルの為に事実を告げていなかったのだということが伺い知れた。

 

その事を察した男性とレイは頷いて立ち去ろうとするが、レイの服のすそを弱弱しくだがエステルが掴んでいるのを知覚したレイはそのままの姿勢でモーリッツとエステルに優しい口調で語りかけた。

 

 

 

 

「――――…モーリッツ様、必要とあらば俺の事はエステルに全て説明しても構いません。如何様に対応されようとも受け入れる覚悟は出来ております。エステル、君には嫌われても仕方がないと思っている。俺にどう対応をしていくかは君に委ねるほかないが…出来るならでいい、俺は君の知っている『ラウ=ル=クルーゼ』でもあることは忘れないでほしい。俺でよければ相談にのる、遠慮なく連絡してくれ」

 

 

 

 

エステルが弱弱しく掴んでいる手を、レイは出来るだけ優しく…しかし確りと離させてから、自分の携帯番号が書いてある自分の名刺を懐から出してエステルに握らせた。

 

そして「後の事は頼みます」とモーリッツに話し、エステルの叔父にあたる男性と共に立ち去っていく。

 

その後ろ姿を、エステルはぼんやりと見送るしか、その時は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてレイはエステルをモーリッツに任せた後、ある人物に連絡を取っていた。

 

『―――――あなたの方から電話がかかってくるとは思いませんでした』

 

「驚かせてしまって申し訳ない」

 

『いえ、特に気にしてしてません。何があったのですか?』

 

 

 

レイの電話相手は懐が広いのか、突然の電話にも特に気にする様子もなく応じていた。

 

 

ただ相手も忙しいだろうと思い、レイは単刀直入に用件を告げる。

 

 

「エステル=フリージアの出自が本人に知られた」

 

『……そうですか、彼女の様子は?』

 

「かなりショックを受けているみたいでな、発見した時には茫然自失としていた」

 

『――――無理もありません。彼女にとっては酷な事実でしょうから』

 

「おまけだが…彼女に私が財団の代表であることも知られた。彼女ならば口は堅く誠実だから、情報漏洩に関してはおそらく大丈夫だろう」

 

『世間的にはそちらが大きなニュースになりそうですが…』

 

「エステルの件も含めて、一度話がしたい。場所と時間はそちらに合わせよう」

 

『…判りました。そうですね――――前と同じ午後8時に同じ場所でどうでしょうか』

 

「了解した」

 

 

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