運命の始まり   作:マッキンガムⅡ

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なんか書けたのでUPします。



第15話

エステル=フリージアにとって初めて理解できた『世界』とは月の孤児院であった。

 

塀に囲まれた、小さな世界。

それでも小さき頃のエステルには広大で温かな世界だった。

モーリッツ様、そしてカレン様、そして孤児院にいた大勢の兄弟姉妹たち。

 

幼心にぼんやりといた抱いていた『モーリッツ様やカレン様のようになりたい』といった純粋な憧れは、今は一体どこにあるというのだろうか。

 

少なくとも今はその道から逸れつつあるのだと自覚できたのは不幸中の幸いなのだろう、そうエステルは感じていた。

 

外務局勤務という道、それは確かに選ばれたエリートにのみ門戸が開かれていた。

しかし自分は門前払いされた、孤児院出身という理由だけで。

そして今度は逆の事が起きた、外務局長自らがスカウトしてきたのだ。

 

 

それ自体は喜ばしい事なのだろうが、その原因となる理由がどうして忌避感を拭えなかった。

 

フィーナ様やカレン様と顔見知りだから。

 

財団のトップである彼と連絡が出来るから。

 

 

――――――つまりは自分自身の能力と全く別の所が評価されてのスカウトだからこそ忌避感を覚えてしまう。

 

 

憧れていたはずの世界が、その世界へと通じる道を懸命に歩んできたはずの自分が、どうして平等に評価されずに色眼鏡で見られてしまっているのか。

 

等しく人の縁は大切にしたい、しかしその縁を利用されて夢を叶えたくない。

 

エステルは一体どうすべきなのだろうかと自問自答しても堂々巡りでまるで解決の糸口が見えない…そう彼女が悩んでいると一枚の名刺が目に入った。

 

 

『俺でよければ相談にのる』、確かに彼はそう言って私に名刺を渡してきた。

 

…客観的に物事を見る必要があるのかもしれない。

 

そう思ったエステルは名刺に書かれた番号へ電話を掛けたのだが、それが自分の立場を大きく変える切欠になるとは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左門家の自室にてレイはエステルからの電話を受け取った。

 

大体の概要を聞かされたレイは真剣に考えて、言葉を選びつつ話を進めた。

 

 

 

「―――――――なるほどな。それは確かに腑に落ちなくても仕方がないだろう」

 

『私は一体、どうしたらいいのでしょうか…』

 

「エステル、そういう時は原点に返るべきだ」

 

『原点、ですか?』

 

「エステルは何故聖職者を目指したんだ?その若さで司祭になるというのは並大抵な動機

ではないだろう」

 

『……何故、ですか。今となっては遠い理由になってしまったような気もしますが』

 

「もちろん色々な理由があるだろうが、その中でも一番古い理由――――それこそ子供の頃に抱いていた夢などがあるはずだ」

 

 

 

ふとレイの脳裏に親友の姿が浮かんでいた。

ザフトの軍人を最初から目指していたわけではなく、むしろ争いから縁遠い所にいたらしい。しかし戦争に巻き込まれて家族を失い、もう誰も失わせるものかと守れる存在になりたくてザフトの軍人を志したとのこと。最初は軍人に向いてなかったのか成績も悪かったが必死の努力で食らいついていき、徐々に成績を上げその親友は卒業時には成績トップ10に入るほどの成果を示してみせた。

 

 

その親友に限ったことではない。

 

人の夢、人の業…人が『何かになりたい』と願うには、そう思えるようになった『理由』が必ず存在しているはずであるとレイはこれまでの経験から学んでいた。

 

 

『子供の頃に抱いていた、夢…』

 

「夢とかではなくとも、憧れていた存在が在っただろう?」

 

『…はい』

 

「同じ存在になれというのが最善とは言い切れないが『それ』を鑑みてエステル自身がどうしたいかを『今』やってみてはどうだろうか」

 

『――――原点回帰が重要というわけですか』

 

「迷った時こそ、だがな。エステル、君が置かれている状況は非常に特殊だからそのように悩むのも当然の事だ。直ぐに外務局勤務を決めずに悩んでいるのも君の真面目かつ高潔な精神がそうさせているのだろう。しかし悩むと言う事はどの選択も魅力があり、また欠点があると言う事だ。そうなってしまえば『なりたい自分』に近づける選択肢を選んだ方がいいだろう?」

 

『……言いたいことは何となくですが判ります』

 

「まぁ、俺が言えた義理でもないが…ある人曰く、『迷ったら面白そうな方が良いじゃない、より幸せになる為にはね』だそうだ」

 

『その方とは一体誰なんですか?』

 

「君も知っている人物が残した言葉だよ。『彼女』のおかげで俺は今も生きられているし、退屈な人生も送っていない。頼まれた仕事もあるしな」

 

 

 

エステルにはそんな人物に心当たりはなかったが、電話の向こうでレイが懐かしそうに語るあたり自分が知っているのは確かなようだった。

 

 

 

(より幸せになる為には、か)

 

 

 

その言葉にどこか励まされているような気分になるエステル、そんな彼女がいる彼女の自室へと複数の足音が――――モーリッツ高司祭とフィアッカ様か――――が近づいて来ていることを察したエステルは電話を一旦切ることにする。

 

 

 

 

 

『申し訳ありません…モーリッツ様たちが此方の部屋に来ているみたいです、またかけなおさせていただいても大丈夫ですか?』

 

「ああ、もちろん」

 

そういって切られる電話の電子音が自分の迷いを断ち切るように、なりたい自分へと背中を押してくれている――――エステルにはそう聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球連邦政府とは地球を統治している行政機関である。

 

その歴史は長く、地球連邦発足以前の国際組織である国際連合の頃から数えれば数千年は経過している。その繁栄は時間と共に比例して発展していき――――ある問題も抱えていくことになっていた――――その問題とは人口の増加に伴う食糧不足と住まう土地の不足である。

 

月への有人着陸から始まった月の開発は年月とともにその歴史を成熟させていき、数百年後には月に独立国家を認めさせるまでに至った――――それが後のスフィア王国へと繋がっていくのであるが、完全に地球と袂を分かつには人類全体の文明レベルを衰退させるほどの戦争を四度も必要とした。

 

 

勿論地球連邦政府としては面白くない、というよりも戦争を起こす事態そのものが不本意であったというのが実情であった。

なぜなら地球連邦政府としては何も生み出さない戦争だったからであると共に、下手に月に独立を許せば地球連邦政府としては連邦制そのものの崩壊の引き金にもなりかねない劇薬でもあったからだ。

 

 

しかし、人類の歴史は闘争の歴史とも言ってもおかしくない程の過去がある。戦争のたびに生まれる軋轢は解消されることなく悪化していったように、地球と月の関係性も悪化してしまったことは大きな損失にもつながるのは誰の眼にも明らかだった。

 

それを深く理解していた時の連邦政府首相、そして月側の代表の双方が当初は温和に平和的解決を図ろうとしたが、それは一つのテロ事件をきっかけに実現しなかった。

 

そのテロ事件こそ当時の地球連邦官邸であったラプラスコロニーで起こった、通称『ラプラス事件』である。

 

当初は月と地球の双方が対等な立場を踏まえ人類の発展に寄与していくという平和的式典だったが、『我々こそが優良たる人類である』こそ立場が上だとするイデオロギーを持った月と地球の双方に潜伏していた過激派が式典を襲撃、その場にいた世界各国首脳やメディアもあわせて全員死亡という凄惨な自爆テロ事件をなってしまったのだ。

 

 

テロ事件の直後、双方の政府は未曾有の大混乱にあった。

 

何せ各国の代表者がテロ事件にて全員死亡、或いは行方不明となってしまい首謀者を捕まえようにも自爆されたために責任の所在が不明瞭であったためだ。

 

警備も双方から出していた以上、双方に非があると言ってしまえばキリがない。

 

また民衆の感情論も厄介だった。一部の政治家たちが『自国の首相をテロによって殺されて黙っていられるほどの腰抜けか』と行政府を非難、その論調は何者かによって不自然なほどに広範囲の年齢層に拡散されてしまったのだ。

 

そうなってくるといよいよ責任の所在を求める民衆に両政府は手をこまねいてしまい、国民感情が暴発していつ戦争になってもおかしくない状況になり、地球では地球至上主義を掲げるブルーコスモスなる組織が、月では自治領の統治を任されていた将校らが唱えたコスモ貴族主義を掲げるバビロニア王国ーーーー後のスフィア王国が興った。

 

お互いがお互いを理解しようと歩み寄った結果、戦争になることは誰も望んではいなかいと理性では判っていても。恐怖や怒りといった感情をコントロールするに至るには人類全体は成熟していなかったのだろう。

 

やがて月側が一方的に地球連邦内からの独立宣言を当時の月側の首都であったオイディプスにて行い、地球連邦政府側がその声明に猛反発して平和維持軍の派遣を決定していき…第一次オイディプス戦争が起こってしまった。

 

 

それがやがて人類そのものを蝕む大戦争になり、合計して四回も発生してしまうなど当時の誰も予想などできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「…『この世界』の歴史の事なんて知ってますよ、『ロームフェラ財団の代表』さん。まさかボクに直接連絡取ってくるなんて驚きましたが、何の御用で?」

 

『率直に言わせてもらおう、儲け話に一つのらないか?』

 

「へぇ、それは一体どのようなご商談で?」

 

『ラプラスコロニーの代わりになるものを用意してある、それを拠点として我々は独立国家を樹立させるつもりだ。それに伴って生じる貿易など全ての商取引の仲介を貴方にお任せしたい―――――『ブルーコスモスの盟主』であるムルタ=アズラエル殿』

 

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