運命の始まり   作:マッキンガムⅡ

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第2話

ラウは休暇をもらった。マスターである左門から「働きすぎだから休め」といわれてしまったのだ、本人としてはそんな自覚はなかったが…言葉に甘えて休ませてもらうことにした。

そして外出したラウは誰も見ていないところにつくと、黙々と作業を始めた。

月の事。地球の事。満弦ヶ崎の事。周囲の人間の事。

それらを考えながら、約束を守り続けるために作業を続ける。

こつこつ、こつこつと。

通常の人間なら気の遠くなるような、途方もない時間と労力を費やしてきた。

それでもラウは手を止めるようなことだけはしなかった。

確認しては作業、確認しては作業―――――延々とそれを繰り返す。

誰にもいってはいけない、けれどやり遂げなければならない。

だから彼はずっと作業をしてきた、これからもそれは変わらないだろう。

もし変わってしまうのだとしたら、それは彼が彼でなくなる時。

いつかは来てしまうであろう終わりを告げる始まりを待ちながら、ラウは作業する手を休めるようなことだけはしなかった。

ふいに、ある言葉がラウの口から発せられた。

 

「―――生きられるのなら、どんな命でも生きたいだろうしな」

 

それはラウが心から命に対し思う気持ちであり、約束であり、自嘲ともいえる言葉。

そんな自分自身を情けないと思いつつ、彼は作業を続けていった。

夜明け前より瑠璃色な空が、作業を続ける彼を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

オイディプス戦争は第4次まで行われた地球と月との戦争の総称である。

 

 

そもそもの始まりは地球側が新天地を求めて月を開発したことから始まった。

月に着陸して以降、人類は宇宙開発を推し進めてきた。

未知の物質が見つかり、時代に伴って科学技術も進歩し、宇宙ステーション…やがては月に人が住めるようになっていった。

 

そして時代が進むにつれて入植者が増え、やがて月は地球連邦に属する自治領となっていくまでそう時間はかからなかった。そして月と地球の間に定期輸送船が整備され、本格的に一般人も月に住めるようになっていくと人口が爆発的に増加していったのだ。

移民の多くは地球に住めなくなった事情を持つ人、あるいは地球連邦政府が推し進める月で行われる事業の高額な報酬に魅せられて月に住むことになった人などだった。

 

そして月の人口が増えていくにつれ、地球人ではなく月の人間という自覚が芽生え、独立の機運が高まってしまったのは自然の流れなのだろうか。連邦政府は最初は外交努力でなんとかしようとしていたが、うまくいかないと悟ると、それを治安維持目的で軍隊を派遣して抑えようとした。当初はそれでなんとか治安は維持されていたが、月に住まう人々からしたら不満は高まる一方だった。

 

月での民衆からの不満が高まり宗教闘争や政治闘争、果ては裁判沙汰にまで発展していき―――月を擁護する人々と地球を擁護する人とで対立が急拡大してしまい治安維持が世界的な問題になってしまった。

それをみた地球連邦政府は月への弾圧の一環として水と空気に税金をかけるようになった―――俗にいう悪法令の制定である。それは地球は月との貿易で莫大な利益を上げているのにもかかわらず、一方的な搾取であった。

 

それゆえに月にいた治安部隊も巻き込んだ対地球連邦の考えが一気に世界的に広まることになり、月側の政府は地球連邦政府に対して一方的な独立宣言を行った。それが行われた場所こそ当時の月面の首都でもある都市であったオイディプスであったため、オイディプス戦争と呼称された月の独立戦争の始まりだった。

 

第一次オイディプス戦争は俗に一年戦争ともいわれ、その名の通り一年間で終結した――――そのきっかけは月側の一部の暴徒と化した軍部が地球側のマスドライバーを標的にして隕石を次々に地球へ落下させたからである。

その結果地球の主要都市や穀倉地帯などが壊滅的ダメージを受けた。地球連邦側も核攻撃による反撃をした結果、月も少なくないダメージを負い双方合わせて億単位の人間が死亡してしまったことから『人類史上最悪の戦争』といわれるようになった。

この時、月側と地球側の間で星間条約が締結された。

 

1、地球連邦政府は月政府が求める国家独立要求を承認する

2、双方のマスドライバーによる隕石発射、ならびに核弾頭の使用を禁ずる

3、空気税、水税は廃止するものとする

4、月と地球の双方が戦争責任請求の権利を放棄する

5、民間人を巻き込む恐れのある大量破壊兵器の使用を禁ずる

 

事実上、地球側の敗北であったが月側も大きな代償を支払ったといっても過言ではなく、国としての体裁を何とか維持するのが精一杯といった有様であった。

国際裁判が開かれて大量殺戮を行った切欠を作った一部の者たちは処分されたので一応の決着はついたかのように見えた。しかし月と地球の間に埋まりようがない溝ができてしまったのは事実であったのだ。

―――この戦争を機に地球連邦政府内で地球派と月派の派閥争いが起こり、月派を月に強制移民させて地球派閥で地球を独占し、月に対するプロパガンダを展開し民衆を扇動した。その動きは月でも見られ、お互いがお互いを排除しあいたがってしまうようになってしまう。

 

第二次、および第三次オイディプス戦争時には地球側のマスドライバーが一機を残して完全に破壊された為に危険と判断されて、月との往来が途絶え

――――第四次次オイディプス戦争では月の独立記念式典の際に行われた戴冠式の最中、護衛艦隊に対して地球連邦軍が機動兵器における戦術核弾頭の使用を強行するなどの条約違反が確認された――――

幸いにも月側の高官たちは無事だったものの月をはじめとして世界中の地球連邦政府への不信感は増すばかりだった。

 

結果、当時の連邦外務省におけるトップであったセルゲイヴィッチ=フィッツジェラルド外相は月との断交を決断せざるをえなかった。

当時はまだ星間条約が有効ではあったものの、それぞれがお互いに条約違反をしたことからお互いを責め合うも――――お互いの民衆がこれ以上の戦争を行うと人類が滅亡してしまうことを危惧するようになっていき、双方の政府側としても技術の喪失に繋がっていく事態も拍車をかけていた。

それを重くうけとめた世界が全体的な倦戦な認識を共有し始めて平和運動へと発展していくまでにそう時間はかからなかった。

その事態を受けた双方の指導者が相互不干渉とすることを確認し、戦争は終結するに至った―――つい20年前に月の指導者の意向で地球に王立の月博物館と礼拝堂を建てる事、および月人居住区が設けられる程度になるまで長い年月をかけて――――地球における月への憎しみは時代と共に薄れていくようになっていった。

そしてその時の教訓を忘れないために月では新たな宗教として拝月教という宗教が生まれ、『静寂の月光』という教団が誕生し、時代とと共にほぼ国教として信仰されるようになっていき―――地球では地球連邦主導の元、国力回復を図る為の平和運動が盛んになっていった。

 

お互いが、お互いと関わらないようにするのが最善と決断するかのようになっていった結果、交流も必要最低限になっていった。

次第に技術も平和利用されるようになり技術の発展がとても緩やかになって―――人類はかつての第一次オイディプス戦争時開始前の生活と同等の平和を取りもどすまで、そしてお互いが戦争によって生じた憎しみを癒せるようになるまで数百年かけることになる。

 

 

 

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