運命の始まり   作:マッキンガムⅡ

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第4話

王立月博物館は今から20年ほど前に作られた。当時の月の女王であるセフィリア=ファム=アーシュライト主導の下で造られた、月の事を地球の人々に知ってもらうための博物館である。その為に自然と職員は月に好意的な人物が多くなっているが、肝心要の月人の割合は依然として低いままだった。

 

もっとも設立者であるセフィリア女王が崩御されてからは月あるいは連邦政府からの予算も徐々に芳しくなくなっていき、慢性的な予算不足になり、次に人件費の関係から人材不足になるという悪循環になっていたのが数年前の王立月博物館がおかれている状況であった―――そこに救いの手を差し伸べたのがと10年前に『月と地球の交流促進』を主目的にうたっているロームフェラ財団だった。

 

ロームフェラ財団が博物館を支援した結果として経営はなんとか再度軌道に乗せることができ―――今は観光的にも有名な、立派な博物館として有名になっている。

 

 

 

 

(慢性的な人手不足という割には、いつ来ても手入れが行き届いている素晴らしい場所だな)

 

 

 

 

若干小姑っぽい目線ではあるが、そんな自覚はないラウは素直に感心していた。月の博物館というだけあって地球に居ては見る事すらないであろう珍しいものから、月の人々の日常の生活の知識まで幅広く学べるとても良い場所――――のはずだった。

 

しかし館長代理でもある穂崎さやかから『ラウさん正規雇用推進本部』が職員の有志で結成されてる』との情報を得てから、周囲を注意しつつ展示物を見ていると、ラウは時折職員からの視線が向けられていることに気が付いた。

 

 

 

 

(―――――彼らも悪意はないからな…どうしたものか)

 

 

 

 

ラウ個人としては事情抜きで考えれば名誉なことであると思ってはいるのだが、ラウは今の生活を続けなければならない事情がある為に固辞するしかないのだ。

 

双方が納得のいく落としどころとして、現状では特別展示が行われる繁忙期に臨時職員としてアルバイトに来ている。ただ慢性的な人手不足ともなれば人手は喉から手が出るほどに欲しいのだろう、ラウは下手すると職員よりも博物館内の事を把握している。

 

10年前から博物館の臨時アルバイトで働いてきた経験がある為に展示物のみならずバックヤードの案内も出来るほどであるのだから。

 

 

 

「あら、ラウくんまた来てたのね」

 

 

 

館長代理である穂崎さやかが声をかけてきた。

 

 

 

「あぁ、さやかか…ここはいつ来ても興味深いからな、見ていて飽きない」

 

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。ゆっくり見ていってね」

 

「そうさせてもらうとしよう、忙しいだろうに声かけてもらって感謝する」

 

「今日はまだそんなに忙しくはないから大丈夫よ」

 

 

 

そういうとよしよしとラウの頭を撫でるさやか、無表情ながら無抵抗のラウ。そんな二人を見た職員たちは『もしかして……館長代理にもついに春が…!?』と思っている職員もいた。

 

さらに一部の職員(猛者)は『ラウきゅん萌える』と失神しかけていたりしたが、それはさておき。

 

 

 

「―――とはいえ、八月の特別展示会は忙しくなるだろう。どうする、マスターに相談して早めに手伝うこともできるが」

 

「そうねぇ……それも考えてほしいかも。今年はフィーナちゃんも来ているし、より忙しくなりそうだから……そうしてもらえると助かるわ」

 

「了解した、マスターにはそう伝えておこう。許可が下りたら改めて連絡する」

 

「よろしい♪」

 

 

それじゃあね~と言い、さやかが去っていった。ラウとしてはどうにも褒められることに慣れていないせいか、さやかのよしよし攻撃には強く出れないのだ。

 

 

 

 

 

 

「――――貴方がラウ=ル=クルーゼさんですか?」

 

 

 

 

 

 

さやかと入れ替わるようにしてラウに話しかけてきた女性がいた。黒髪のロングに凛とした佇まい、また眼鏡をかけており知性を感じさせている。

 

 

「いかにも、俺がラウ=ル=クルーゼだが……?」

 

「失礼しました、私はカレン=クラヴィウスと申します――――少々お時間よろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

カレンと名乗る人物がこちらの様子を窺うようにしてきた、見た目からして月の関係者だろうと思われる。一般人のラウとしては特に心当たりもないのだが――――

 

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

ラウは承諾した。こちらに心当たりがなくても相手側が特別な用事でもない限り、わざわざ声をかけてくるようなことはしないだろうと考えたからだ。

 

 

 

 

「そうですか、ありがとうございます――――それでは博物館の応接室まで同行願います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか一般客として来館していた自分がここに来るとはな、とラウは不思議な感覚を覚えていた。初めてきた場所ではないとはいえ、中に入って豪華なソファーに身をゆだねるなどしたことがない。

 

応接室には他に誰もおらず、カレンとラウの二人きりだった。

 

 

 

「先ずラウさん、突然のことで申し訳ありません―――改めて自己紹介します。私はカレン=クラヴィウスと申します、月の秘書官兼駐在武官をしております。あなたには前々からお会いしたいと思っておりました。近頃はエステルが世話になっているそうですね」

 

「世話、というよりかは正確に言うとこちらが導いてもらっている側だがな。エステルの司祭としての仕事ぶりには感心するばかりだ」

 

 

 

 

 

 

自分が同じ年のころ、あれだけの働きが出来たであろうか―――そう考えてしまうほど、エステルはラウから見て堂々と司祭の仕事に従事していた。あれだけ見事な働きぶりなのだ、モーリッツ高司祭の補佐もそつなくこなしていることだろうと想像するに容易い。

 

 

 

 

 

 

「―――――――単刀直入に訊きたいことがあります」

 

 

 

畏まった様子でカレンがラウに話を切り出した。

 

 

「何かな?」

 

 

「貴方はいったい何者なのですか?」

 

 

 

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