運命の始まり   作:マッキンガムⅡ

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第9話

 

 

「フィーナ様も昨日の今日でなんてことをなさるのか……」

 

「ごめんなさい、カレン」

 

「―――――頭を上げて、さやか。それでは話も出来ないわ」

 

「……わかった」

 

「先日、フィーナ様へ達哉君の事を直接確認したわ」

 

「その時はなんとおっしゃったの?」

 

「―――――なすべきことをなす、と」

 

「……昨日、私が寝た後で二人の間に何かあったみたいなんだけども」

 

「何か、か…」

 

「取り返しのつかないことになっていないと思う……まだ」

 

「まだ、ね――――さやか、率直に答えてほしいのだけれど…二人は本気だと思う?」

 

「思うわ。二人とも実直で嘘をつけないタイプだろうから」

 

「そうでなくては困るわ。お互いが本気で結ばれたいと思うことは、周囲に迷惑をかける

うえで最低条件なのだから」

 

「―――――二人の事、応援してくれるの?」

 

「まさか、あなた……さやか、一旦冷静になって」

 

「十分冷静なつもりよ。私は良くて職を失う、悪ければ地球と月の外交問題に発展するから責任を取らされる。地球との接触を嫌う月の貴族達が騒げば、火消しにカレンも地球にいるどころの話ではなくなることも判ってる」

 

「なら…」

 

「それでも、二人の気持ちを踏みにじりたくないの。家族として」

 

「家族、か…フィーナ様はセフィリア様によく似ておられる、一つだけ違うところがあるけれど」

 

「……?」

 

「わがままさというか、自分を曲げない強さがセフィリア様にはあったわ――――突拍子もない事を言って、そして事を進めて、結果をもって貴族たちを黙らせる。そんな意志の強さが」

 

「そんなセフィリア様だったからこそ、私の月留学の許可も出していただいたのよ」

 

「さやか……」

 

「カレンも前に言っていたじゃない、そんなセフィリア様につきあって振り回されている日々が本当に楽しかったって」

 

「――――そうね。でも一つ追加する情報があるわ」

 

「え?」

 

「セフィリアさまが月と地球の平和的な交流の発展を望まれていた事だけれど、それはロームフェラ財団も関係しているわ」

 

「財団が……?確かに私の留学費用の支援とかしてもらったけど」

 

「そんな表立った処ではないわ。セフィリア様は財団の代表の方をご存じだった」

 

「え……?」

 

「でも、セフィリア様は代表が何者であるかは誰にも――――フィーナ様は勿論、伴侶であるライオネス様ですら教えられていないわ。どうしてかは判らないけどセフィリア様は財団の代表との面識もあったみたいで、ホットラインを唯一持たれている方だった。そんなセフィリア様は財団の代表も振り回してたみたいよ、いつも財団側の人間がせわしなく動いていたのを側仕えを始めたころの私は見ていたもの」

 

「そんなことがあったの……」

 

「セフィリア様亡き後も月と地球が一定の交流を維持できているのはそんな繋がりがあったからで、影響を鑑みてライオネス様も引き続きロームフェラ財団との繋がりを保持されることで月と地球の交流を維持されているわ。そして財団は今回のフィーナ様の地球留学に関して月側に認めさせるように初めて圧力をかけてきた。それは地球連邦政府側にも行われたみたい」

 

「………」

 

「もし、今回のフィーナ様の件が公になってしまったら、一番どんな反応するか判らないのが財団よ。下手をして外交問題になったら、これまで財団がしてきた活動の面子を潰される形になりかねない。そうなったら、いくら財団とて月と地球の交流促進という理念すら曲げて交流断絶を地球連邦政府に要求しかねないわ」

 

「そんなことになってしまったら、まさか――――」

 

「最悪の場合、フィーナ様と達哉君の関係をきっかけにして―――月と地球の戦争に発展しかねない」

 

「――――そんな…そんなことって」

 

「さやか、私は月の繁栄を第一に考えている。その観点からしても、財団をいたずらに刺激したくないの」

 

「……もし、達哉君が財団を刺激せず、そしてフィーナ様との関係が月の繁栄に繋がれば関係を許してくれるの?」

 

「―――――万が一、そうなればね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が出来たラウはいつもの習慣として、『静寂の月光』が管理している礼拝堂で祈りを捧げていた。

 

厳かな雰囲気は身が引き締まるような思いをさせる……それがラウにとって自分自身を保たせる数少ない術の一つだったから、大切な場所なのだ。

 

 

 

 

「数日前にあんなことがあったばかりなのに――――相も変わらず真面目に祈りを捧げに来るとはな」

 

「……フィアッカか。信仰と情勢は無関係であるべきだからな。『信じる者だけに神は宿る、可能性という名の内なる神を』という言葉もある」

 

「――――存外、ロマンチストなのだな。本当に『人の可能性』を信じていなければそんな言葉は出てこない」

 

「信じることこそが信仰の基礎だからな…さて、こうしてお前が話しかけてきたということはまた何かあるのか?」

 

「いや、この前の話で必要最低限の事は知れたから問題はない。今日、出てきたのはお前自身への興味本位だ」

 

「俺への、か」

 

「ああ。どうしてお前はそこまで他人に献身的に成れるのか、不思議でならない」

 

 

 

私のように使命を背負っているわけでもあるまいに……そういうと、フィアッカはラウの横の席へと座った。

 

ラウはフィアッカをちらり、と一瞥してから再度正面に向き直る。

 

 

「単純な理由だ」

 

「ほう?」

 

 

フィアッカは意外に感じた。

 

彼には複雑な事情があるのだとばかり思いこんでいたからだ。

 

 

「ある人との約束を信じているだけだ」

 

「ある人、か…それは誰だ?差し支えなければ教えてほしい」

 

 

 

僅かな時間、静寂が礼拝堂を支配する。

 

 

 

「――――セフィリア=ファム=アーシュライト、だ」

 

 

 

セフィリア=ファム=アーシュライト。

 

数百年にもわたる月と地球の断交状態を一定の国交を持たせるにまで回復させた名君であり、紙幣の肖像画に使用されるなど今も尚、月の国民からは慕われている。

 

そしてスフィア王国の姫であるフィーナ=ファム=アーシュライトの母親でもある。

 

「……月の先代女王か。意外な人物が出てきたものだな……まさか故人との約束を忠実に今も尚、守り続けているとは」

 

「10年前に俺は彼女に命を助けられた…その恩は返しきれるものではない。ならば忠実に彼女の意向を守り続けることが俺ができる唯一の恩返しだ」

 

「しかし、そうも言っていられまい。現国王ライオネスの統治の元、そして地球側はお前の意向のもとで月と地球の双方は一定の交流を続けてはいるが――――先の戦争から数百年経過した現在も両国家間の隔たりは大きいぞ、どうするつもりだ」

 

「仲が悪いのであれば、自然と仲良くさせる方法を模索するしかあるまい――――それが国家規模ともなれば自ずと答えが導かれる」

 

「まさか、貴様……正気か?」

 

「―――――正気だとも。もっとも、それは最悪のケースの場合だがな」

 

「……まだ最悪にはならずに済むとでもいう気か」

 

「ああ、まだ最悪のケースにはなっていない。ならば生きている限り信じようというものだ――――人の可能性をな」

 

「その身体、やはり患っていたか」

 

「俺はコーディネーターだ…遺伝子操作されて生まれてきた身だ、人為的に遺伝子を弄ればどこかおかしくなることも稀にあり得る。その一例として俺は生まれつき寿命が短いんだ」

 

「―――――…治療をする手立てがあるとすればどうする?」

 

「……生きられるのならば生きたいが、何もボランティアというわけでもあるまい。何が望みだ?」

 

「お前が持つテクロノジーでリースリットの遺伝子を元にクローン人間を作り、私の人格を移す。クローンならば適合する確率も変わらないだろうしな」

 

「……不可能ではないな、お互いに生かしたい命があると言う事か。お互いのロストテクノロジーを応用すればそれも不可能ではないと…しかしながら、その話はリースリットにも話しておくべきだろう」

 

「――――仮にもこれまで背負わされてきた宿命を大人の勝手な都合で一方的に放棄しろと言われるのは、さすがに私でもどうかと思う部分はあるからな…この話を通しておこう」

「また礼拝堂に顔を出した時に話しかけてくれ」

 

「了解した、ではな」

 

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