無機質の弟、実力至上の学校にようこそ   作:おこげの

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2年生編アニメ化ですよ。早いですね…
何気に全クラスメイトが判明しましたね。意外とかわいい子多い。
碧 灼
【挿絵表示】



散りばめられた違和感(ヒント)

 

 早朝。意識がフェードインを始め、天井を認識した瞬間に俺は体を起こし、腕を伸ばして軽くストレッチを行う。充分にほぐし、洗顔を行い、時計を見る。時刻は6時過ぎ頃、支度する時間は十分にある。

 

「………」

 

心地のいい朝───不思議にそう感じている。

部屋に鳥の囀りが響く。朝は風が弱く静かで、声が遠くまで届きやすいため、活力をアピールするのに最適な時間帯。特にこの春から初夏の間に鮮明に囀りが響いてくるだろう。

 

「………オオルリだな」

 

鳴き声の最後にジジッ…と付くが特徴で4月下旬頃に渡来する鳥だ。今年は渡来の時期が早いようだ。しかもこんな埋立地に降りるとは………変わった鳥もいるものだ。

朝日の光の中でそう思いながら俺は身支度を進めた。

 

 

 

 

 

 

 身支度を終え、意気揚々と扉を開いて登校を始めようとした矢先。

 

「………ん」

「………あ」

 

隣人である綾小路が、俺と同時に部屋から一歩踏み出した状態でお見合いになった。互いの目が合い気まずい場面、綾小路のぬぼーっとした視線が向けられる。いつまでも沈黙状態ではいられないので挨拶はしておくべきだな。

 

「おはよう。ボッチの綾小路」

「朝から気が滅入るあいさつだな」

「折角だし一緒に行こうか。君と少し話してみたかったし」

「……えっ?い、いいのか?」

 

ほんの少し目を開いて意外そうな反応をする綾小路。

 

「その反応がぼっちたらしめている。そこは「おう!行こ!」とノリのいい返事で返すべきだ」

「……オレにはハードルが高いな」

 

高く見積もりすぎではないか、反応もどこか大袈裟だ。

 

 登校中、綾小路と他愛のない雑談をしたが、コミュニケーションに難があるとは感じられなかった。受け答えも逸脱しない範囲。だが世間の学習途中と見る。それ故か言動が少々ぎこちないのだろう。

変に意識しないでいれば自ずと友人ができると思うが、普通の高校生のイメージを掴もうと必死でどこかズレてるなという所感だ。

 

そのうちモノにすると思うが、この学校の生活次第によっては変わった結果になるかもな。分析と予想を頭の片隅で行ないながら俺は彼と並び校舎へと歩を進める。

 

「碧は人を揶揄うのが好きなのか?」

「別に、気まぐれだよ。ボチノ小路」

「………大人しそうな顔して意外と意地悪だな」

「少しでも仲を深めようと思ってだな」

「いじることでしか人と会話できない人は、その内嫌われると言われているが」

「いじる、いじられるの関係性が成り立つ前に行う人はそうなるな。距離を縮める手だが、前提の関係性次第ではハイリスクな行為だ。気を付けろよ綾小路」

「あ、ああ…」

 

心当たりがありそうな様子だが気のせいだろう。

……仮に嗜虐心なるものが俺の性質だとしたら、それはそれで腑に落ちる。

 

 

 


 

 

 

 教室に着き、綾小路に一声別れを告げて俺は席に着いた。

周りを見渡すがクラスメイトは疎ら。1週間も経たずに遅刻寸前の登校、数回の遅刻、授業態度の悪さなど、この数日で学習意欲と規律意識の低下が顕著に見て取れていた。

通常の高校生の実態は詳しくはないが、だがここまで散漫な様子は普通ではないと感じる。

綺麗で整えられた環境に身を置いているというのに。彼らは受動的すぎるのではないかと疑問に思う。

 

「グッドモーニング」

 

俺の憂いとは裏腹に、高円寺が軽やかな様子で教室に入る。

自信に溢れた仕草、優れた体格と自己中心的な性格、その様子から裏打ちされた実力を推察できる。

流石は資産家の息子、他を寄せ付けないオーラを放っている、いや、滲み出ているという表現が正しいかも。まぁ、俺は気にせず近づくが。

 

「おはよう、高円寺」

「おや、碧ボーイではないか」

脚を机に乗せ、手鏡越しで俺と目を合わせた。

 

「ここの生活には慣れたか?」

「ナンセンスな質問だねぇ。いついかなる場所でも私は常に不変だよ」

「いつも通りってことか」

「それで、私に何の用かな?」

「用って程でもない、他愛のない話だ」

 

櫛で髪を整える高円寺の後ろ姿を見つめながら、俺は話を続ける。

 

「変だと思わないか?」

「~~~~♪」

反応を示さず鼻歌をする高円寺。

 

「入学者が160人程、在校生含めて480人前後が学校に居ることになる。月10万を貰える()()で考えると月4800万。年間で5億6000万だ。国主導の学校とはいえ、やりすぎだと思えないか?」

「フッフッフ…」

 

手鏡越しで俺を一瞥し、高円寺は軽く笑う。

 

「何も条件や制約がなく10万を貰える……私は元から裕福だが、常識的に考えればあり得ない話だねぇ」

 

手鏡と櫛をカバンに戻して軽くこちらを見た。

 

「ティーチャーは実力で測ると言っていたよ。それに毎月10万振り込まれると、私は聞いた覚えがないね」

「実力……か。その実力が何を指すものなのか分からないが、もしかすると進学、就職先100%というのはその実力が関わると見るべきかな?実際に俺達は入学した評価として10万ポイントを対価として平等に受け取った」

「フフッ、ここで深掘りしなくても、君はもう理解しているようだ」

 

高円寺は振り向き、何かを見定めるかのような力強い双眸で俺を見据えた。俺がこの学校の仕組みを既に理解しているとみる発言、ただの言葉遊びでない────僅かなヒントで答えを導き出せる。彼の頭脳は本物のようだ。

 

「話は少し変わるが、ポイントについて気になったことがある」

「何かな?」

「Ppt、この頭文字が何を意味しているのか、高円寺は分かるか?」

「Private。という意味じゃないかな?」

 

物凄くネイティブな発音が教室に響き、反応したクラスメイト数名が俺達を見ている。まさか返答がくるとは。

 

「これは考えすぎかもしれないが、わざわざPを付ける必要性はないと感じる。ポイント、PtではなくPpt表記───」

「個人が所持している、という意味があるからではないかね?」

「ああ、確かにそう捉えられる。だが仮にプライベートポイントとするなら、俺はそれ以外に…………そろそろ時間か」

「いい暇つぶしになったよ。碧ボーイ」

 

気が付けばホームルームの時間が近く、クラスメイトも揃い始めている。頃合いか。

 

「See you later」

 

高円寺にならって英語で返すと、彼は口角を僅かに上げ、頭の後ろで腕を組んだ。そんな彼の後ろ姿を一瞥し俺は自分の席へと戻る。

着席すると隣の席の松下が興味深そうな様子でこちらに視線を送ってきた。

 

「何だ」

「いや、高円寺君と何を話してたのかなーって」

「真なる男同士で親睦を深めていただけだ」

「何それ」

 

苦笑する松下、その直後にチャイムが鳴り響き、俺達は視線を前へと向けた。

 

 

 

─────この数日の学校生活で気づく者は気づいているだろう、毎月10万ptは入らないことを。上級生のクラス人数の偏り、監視カメラの多さ、施設の至る所にある無料の商品など、違和感を感じさせられる事柄だ。考えすぎだと言われればそれまでだが、この違和感は目に見えて分かるように散らばっている。

学校側が俺達新入生を試している──と俺は見ている。まぁ、答えが出るその時まで、俺はただ起伏のない生活を続けるつもりだ。

 

 

 

◆◇

 

 

 

 大まかにだが、4クラスの雰囲気を見て、それぞれの特徴が見えた気がする。

 

「不安感が強い時は、顔の周りを優しく叩くいいらしい。自分で叩くことによって危険ではないと脳が無意識に判断し、不安感を減少させる効果がある」

「へぇ……」

「………」

 

 同じDクラスのクラスメイトの、今永大成と矢田澄と俺の3人は廊下で雑談に興じていた。

こうして3人で閑談する仲に至った経緯は俺の一声から始まった。席が近いことを理由に俺は彼らに話かけた。

 今永とは軽い雑談から始まり、今では昼食を共にすることが増えた。

矢田とは授業で分からないことを聞きにいき、たどたどしくも教えてくれて、そこから雑学や勉学について会話を重ね、彼女の教養の高さを褒めたりなどして、非常に無口な矢田から話しかけてくれたりすることも多くなりつつあった。

 

「次はボックス呼吸法といって、吸って、止めて、吐いて、また止めるを全て4秒で行なう。呼吸に意識的に集中することで、不安感から抜け出せる効果がある」

「すぅー……」

「スゥッ…………はぁー……ふぅ……」

「勢いよく吸い過ぎだ。矢田」

「……ど、どんな感じでやれば……いいの?」

「そうだな………細いストローで吸うようにゆっくり細く吸い、長く吐き出すイメージでやってみればいい」

「うん……すぅ…………はぁぁ…」

「深呼吸しても緊張が解けないときがあるだろ?それも同じく吸い過ぎているからだ。ゆっくりと行い、長く吐くことを意識するといい」

「確かに、そんな気がする…」

 

そんな2人を引き合わせて、同じ気質故か滞ることなく仲を深めることができ、こうしてCクラス教室前で雑談に耽ることができた。

Aクラス教室前では今永と、Bクラス教室前では矢田と、そして今現在2人とCクラス前で雑談をしながら教室内の様子を窺っている。

 

「ね、ねぇ……もうちょっと、こっち側に来ない?」

 

今永が少し気おくれした様子で距離を取ろうと提案し、矢田も同調するように首を縦に振る。

俺はとぼけた様子を振舞い、少しでも観察の時間を稼ぐことにする。

 

「ん?何かあったか?」

「あ、いや……その、Cクラスの人がこっちを睨んできてる気がして……」

「そうなのか?…………」

 

今永の指摘に反応するように振り向き、Cクラス教室内の様子をインプットする。席順、雰囲気、容姿等の情報を頭に叩きつけるように瞬時に把握させる。青髪ボブの女子と体格の大きな男子が俺に鋭い眼差しを向け、水色髪の女子は不思議そうな表情で一瞥し、長髪の男子は視線をこちらに向けたが、すぐに視線を戻し興味無さそうな様子を見せた。

 

「───確かに、めっちゃ見られてた。怖いな。いや、こういう時にタッピング法とボックス呼吸法の出番かもしれない」

「あはは…」

「きょ、教室に戻ろ……?」

矢田が俺の袖を小さく掴み、長い前髪の隙間から見えた上目遣いで俺を見た。可愛いじゃないか。

 

「そうだな。おっかないし戻ろうか」

 

俺達は逃げるように教室へと戻り、再び雑談へ興じる。

先程の俺達の様子は気の弱いビビりな生徒だと印象付けることができたと思う。これが松下などの活発的な印象の生徒同士だと、相手からして不自然に見えると思えた為、この人選だ。まぁ俺の勝手な印象論だが。

 

この手法を用いてAからCの3クラスを観察して、暫定的にクラスの特徴が見て取れた。

 

Aクラスの生徒は比較的に規律意識が高い印象があった。

Bクラスの生徒も同様だが、Aクラスより生徒同士の仲間意識が強く感じられた。

Cクラスの生徒はDクラス程ではないが、規律意識が低く、加え素行の悪さが顕著に感じられた。

 

この4クラスを羅列すると、上から下へグラデーションがある。優劣が付けられている───そう思えるクラス分けだ。あくまで現時点の俺の所感だが。

 

 しかし、この学校はきな臭い。

坂柳が配属していたことに違和感はないが、白銀の生徒も入学しているとは。高円寺の存在も含め、財界関係者を仄めかす事柄だ。クラス分けに関係しているか分からないが、これも以後調査を続ける。

 

 

 

◆◇

 

 

 

 何だかいつもより教室が騒がしい。周囲を見渡すと、いつもより多くの男子が揃っていた。

毎日のように遅刻寸前に登校していた池と山内も、今日に限ってやたら早い。

 

「いやぁ~授業が楽しみ過ぎて目が冴えちゃってさー」

 

「なはは!この学校は最高だよな。まさかこの時期から水泳があるなんてさ!水泳って言ったら女子!女子と言えばスク水だよな!」

 

今日は水泳の授業があり、それも男女混合。つまり女子の水着姿が見られる。その機会に2人は興奮している…という訳か。こういう奴がいるので男女別で行われるのだが、何故混合で行うのだろうか。これも実力を測る一部なのだろうか。

 

「おい博士!記録は任せたぞ!」

「体調不良で見学する故、抜かりないですぞ」

「記録?何させるつもりだよ」

「博士にクラスの女子のおっぱい大きい子ランキングを作ってもらうんだよ。あわよくば携帯で撮影とかもなっ」

 

流石の須藤も少し引いた反応をしている。やっていい事悪い事の分別ができないらしい。これが高育生ですか……

 

年相応の感情であり否定はしない。だが、その感情を隠そうとせず、表に出す行為は周囲を不快にさせるだけ。それは小学、中学を通して自ずと理解すると思っているが、この男子達はその機会に恵まれなかったらしい。それか、その機会に遭っても自覚できなかっただけとも言える。

 

俺は興味本位にチラリと綾小路の席の方向を覗く。彼はどこかソワソワした様子で池山内一同を見ていた。他に目をやると三宅や幸村、今永や沖谷は参加せず席に着いていた。

 

「お~い碧ぃ~」

「……何だ」

パス一択しかない。

 

「実は今俺達、女子の胸の大きさで賭けようってことになってんだけどさ」

「ポイント勿体ないからパスで」

「ちぇ、ノリ悪いってーの」

池が悪態をつくが俺はすぐに目線を携帯に戻す。

 

「行かなくてよかったのー?」

 

松下が揶揄うように俺に尋ねてくる。

 

「軽蔑の視線を浴びながらあそこに混ざる勇気はない」

「だよね。あんな明け透けに叫んでさ……視線に気づかないのかな?」

「気づいてないから、変わらず笑顔を浮かべていられるのだろうな」

 

冷めた視線を彼らに向けながら松下は苦言を呈する。

軽井沢などの活発的な女子──所謂陽キャの女子達は一塊になり、端っこで猥談に耽る男子達を汚物を見るような目で睨んでいた。強烈だな。

 

「おーい!綾小路~」

 

池が手招きをして綾小路を呼びつける。

綾小路は戸惑いを見せるが、最後には立ち上がって彼らの輪に入って行った。流石は最高傑作。精神が図太いと改めて感心した。

 

 

 

◆◇

 

 

 

 男子待望女子絶望の水泳の時間が始まった。

 

着替えの早い男子はプールにいち早く集まり、水着姿の女子達が出てくるのを今か今かと待ちわびていた。

平田も苦笑いながら「程々にね…」とやんわり注意しているが、彼らの耳には届いていない様子だ。

クラスのまとめ役も大変だなー。遠巻きに眺めながら他人事なことを思う。

 

2階スペースの座席エリアには多数の女子が見学に来ている。俺も諸事情で見学の仲間入りだ。

それに気付いた池一同はみっともなく喚く。遠くからキモッ…と心底軽蔑した声が聞こえる。当然の反応だな。

それでも数名の水着姿の女子達が出てくるや否や、彼らの視線は一気にその女子に向けられた。遠くで見ている分には面白いな。動物園の餌やりを彷彿とさせる光景だ。

 

例の綾小路は堀北と何か会話してるようだ。そこに櫛田がやって来るが、堀北がすぐさま距離を取った。不仲か?

そして体育会系のマッチョな先生が出てきて授業が始まった。

 

「見学者は17名か。随分と多いがまあいいだろう。準備運動が終わったら早速だが、実力を見せてもらう。何、泳げない人も心配するな。必ず夏までに泳げるようにしてやる」

 

明らかにサボりの生徒も含まれているが、咎めることはない。教師は基本的に生徒の行いに口を出さないことは、この1週間を通して理解している。

 

「別に泳げなくてもいいですよ。海に行く機会なんてないし」

 

男子生徒の1人から、愚痴のような独り言が零れる。

 

「それはいかん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。必ずな。今は苦手でも構わんが懸命に励むことだ」

 

わざと強調した口調で断言する。違和感があると思えるのは俺の考えすぎだろうか。

 

「あれ?碧君も見学なんだ」

 

俺が先生の言葉を思案していると、耳にいい声が入る。松下だ。

 

「体調が優れなくて、激しく動く気分じゃないんだ」

「ふーん……無表情で全然分からないや」

 

俺の顔まじまじと見つめる松下。近い顔良。

 

「前にも言ったが、感情が顔に出にくい体質なんだ。そういう松下も体調不良か?」

「うん、そんなところ~」

 

元気にそう答えるが、まぁ十中八九サボりだろう。

 

「ていうか、さっきの先生の話、ちょっと変じゃなかった?」

 

松下は先生の言葉をちゃんと聞いていたらしい。

 

「そうだな。夏に何かあるような言い回しだった」

「そう!そんな感じ!夏にプールの大会でもあるのかな。あったらやだなぁ~」

 

男子の下品な視線を浴び続けなきゃならないのは、それを不快に感じる人からすれば嫌なもんだろう。

 

「1位になった生徒には、俺からの特別ボーナス、5000ポイント支給しよう。1番遅かった奴には、逆に補習を受けさせるから覚悟しろよ」 

 

先生のこの発言、学校側からポイントを景品にするケースがあるのか。それか、見学者に発破をかける為の発言かもしれない。どっちにしろヒントの1つだ。やはりポイントはキモだな。

 

ピッ──笛が鳴り競争が始まった。

 

櫛田に目をギラつかせ悶える男子たちの雄たけび、平田の泳ぎに黄色い歓喜を響き渡らせる女子。賑やか空気になる。

そして高円寺は何故ブーメラン水着なんだ?あの体格と筋肉で様になっていて違和感がなかったが、あれは女子ウケ悪い。顔を背ける女子と微妙な表情をする男子だが、我関せずの高円寺はぶっちぎりの1位を取った。素晴らしい泳ぎだった。

 

「変人じゃなかったらモテるだろうに」

「あれは、ちょっと…見るの恥ずかしいね」

 

 授業も残り20分に差し掛かる。

 

水泳の見学だが、何も見るだけではない。

水泳の授業を見てレポートを書くことが課題として渡されている。俺は適当に泳法の比較をまとめた内容で書き進めた。

 

「おお~すごく綺麗なレポートだね」

「ん、そうか?」

 

松下が俺の手元のレポートを覗き込み、関心した声を上げる。その声が聞こえたのか、興味を持った数人の女子が俺が座るベンチに集まってくる。

 

松下はそれに気付いて、俺の腕を掴み、自分の方へ寄せる。俺が座るベンチは女子で埋まるようになった。

 

「見たい見たい!」

「どれどれ……教科書?」

 

軽井沢や佐藤らのギャルグループが思い思いにそんな感想を言ってくる。何やら、レポートをどう書いていいか分からず、進まず悩んでいたらしい。これくらい書けないでどうする。

 

ここで拒否したら印象が悪くなるので、大人しく要請を聞き入れ、皆が見えやすい位置にレポートを晒す。

 

「君達、ちょっとは自分で考えなよ」

「なんて書けばいいか分からないんだよ~」

「男子めっちゃ早かったーぐらいしか書けない」

かわいい女子に囲まれるのは気分がいいが、自分の考えをまとめられない頭には疑問を覚える。

 

一生懸命レポートに書き写す彼女達を横目にそう思っていると、松下が突拍子もないことを聞いてくる。

 

「碧君ってさ、結構筋肉ある?」

「急にどうした」

「いや、さっき腕を引いた時に、思ったよりガッシリしてるなぁって」

「そうなの?」

「意外と着痩せ系?」

 

他の女子も便乗するように聞いてくる。手を止めずに早く書きなよ。

 

「筋肉質な体質なんだ。運動もそこそこやっていたから」

「もしかして、腹筋とかもある感じ?」

「ん…、人並にはあると思うが…」

腹筋は誰でもあるし割れているものだぞと言おうと思ったが、求められている返答じゃないなと思い直し、当たり障りない言葉で返す。

 

「ね、触っていい?」

「ちょ、千秋ちゃん!?」

「だ、大胆だね…」

取り乱すギャル達。さっきまで感心してた視線が変化していくのを感じる。女子も男子と同様、そういう感情が僅かにあると分かる。好奇心は本能に起因する感情、その僅かな反応だろうか。

 

別に減るものじゃないし、俺は頷くことにした。

 

「服の上からで良いなら別に触ってもいい」

「いいの?じゃ、遠慮なく~」

松下の小さな手が俺の腹筋に触れる。

腹直筋、所謂シックスパックと呼ばれる筋と厚みをなぞる触り方。

 

「固い?どんな感じ?」

誰かがそう呟く。

 

「固いけど、これって力入れてるの?」

「入れてない、入れて方がいいか?」

「え、分かんない。じゃあ入れてみて」

腹部に集中して力を入れると、松下の驚愕の表情を見せた。

 

「すご…めっちゃ固いじゃん」

「そうか」

「へぇー、こんな感じなんだ」

「男の筋肉に触れる初めてか?」

「うん、なんて言うか、どう表現したらいいか…」

松下は満足したように手を離した。

 

松下がきっかけに他の女子も俺の腹筋に視線を向けてくる。

察しているが言いずらそうな雰囲気。彼女達が言ってくるのを待つか、俺から提案するか微妙に迷うが、まぁいい。

 

「……触ってみるか?」

 

その一声を皮切りに皆が俺の腹筋目掛けて手を伸ばしてきた。そんなに腹筋が珍しいのか?

 

「かっっっった」

「前園、そこは腹筋じゃなくて大胸筋だ」

どさくさに紛れて別の部位を触れられたり。セクハラ判定では?

 

「ヤバ、どうしたらこうなるの…」

「バケモノじゃん」

軽井沢と佐藤から化け物扱いされたり。

 

「………固い…」

「男の子ってほんとにこんな感じなんだ…」

優しく撫でるように触れながら園田と石倉が恥ずかしそうにそう呟く。

その恥じらう姿が何だか──少々、官能的に感じられた。

 

「ちょっとヤらしーよ2人とも~」

「なんか、それちょっとエロい」

川渕のツッコミと松下の揶揄いに、2人は飛ぶように手を離した。

俺も同じこと思ってました。

 

キャッキャわいわいと賑わい、ダラダラとレポートを書く彼女達を横目にして水泳の授業は難なく終えた。

 

その後、休み時間に矢田がいきなり俺の腹筋を触ってきた。意外に思ったので黙って彼女を見つめたが、口を開くことはなく、数秒後焦った様子でどこかへ走り去った。何だったのだろうか?

 

 

 




おかしい所があればご指摘お願いします。

倫理的問題点がある学校ですが、碧はそこを見抜く展開にしたいですね。

名前が判明したモブ達とも絡むように書いていきます。性格は独自設定です。原作で判明次第、その性格に沿うように変換するのでよろしくです。

それにしても4月Dクラスの状態は惨状を呈しますね…
初期の綾小路はキャラが意外すぎると思ったので、アニメ一期の彼を参考にしながら書いてます。
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