ニーゴって元々曇ってるようなサークルなので正直に言ってかなり書くのは難しかったです。
今回の人間サイドは絵名がメインになります。だってそれ以外の3人は…曇りきってるし…(絵名が曇ってないとは言ってない)
地の文で瑞希に対して彼、彼女という表現は使わない事を意識しました。瑞希の性自認がどちらか分からないのでね。
「_ッ…くそっ!」
ある日の事、その少女は苦い思いをしていた。
絵画コンクールの支部大会…彼女は優勝は疎か、入賞、佳作にすら選ばれなかったのだ。自分に出来る最大限の努力を以て描いた絵だ。それが評価されないのは、誰だって辛いことだろう。
『続いて、ジュニアカテゴリーの部門の表彰に移ります。最優秀賞は_』
そうして、名前が呼ばれていった少年少女は心底嬉しそうに、表彰状を渡されていく。絵名の前には、彼らが描いたであろう絵が飾られていた。
「…色味、調和、雰囲気…どれを取っても、私よりずっとハイレベル…」
自分はこんな小さい子供達にすら負けたというのか。その事実が、絵名のプライドを更に傷つける。
彼女の持つ筆は、ボロボロだというのに…
「…才能って、本当に…っ」
そうして、彼女は苦虫を噛み潰したような表情で会場を後にした…
「…あぁ姉貴、どうだった…って、その顔は_」
「…ごめん、今話しかけないで。」
自宅に帰り、彼女は2階の自室に向かう。無論、絵の練習をする為である。
「…おい、これ父さんから_」
「話しかけないでって言ってるでしょ!」
つい感情的になってしまう。…それだけ、悔しかったのであろう。絵名の握りしめた拳は震えていた。
「ッ…そうか、悪かったな…。」しかし、彰人は何も言わない。彼もその気持ちは痛いほど味わってきたのだから。
そうして、彼女は自室に籠もってしまう。もう何回も、彼女と彼女の家族は経験してきた事。今更そんな絵名を心配に思う人はここには居らず、彰人も「その内出てくる」と考えていた。
しかし、彰人の手には父親からの絵名の
「はぁ…。早く出てこいよ…。」そうして、彼は家を出た_
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_筆を取り、絵の具を付け、水に浸す。彼女はその工程をひたすらに繰り返し、目の前のキャンパスに色を塗っていく。絵名はこれを何十回も、何百回も繰り返し、沢山の絵を描いていた…。
どれほど時間が経っただろうか。描いた絵が十を超えた頃、絵の具が切れてしまった。
「…違う…!こんな絵じゃ、最優秀賞どころか支部大会も抜けられない…っ!」
…父親の言葉が蘇る。絵の才能がない事…それは絵名自身が一番分かっている事だ。才能が無ければ、その人は才能のある人の何千倍も努力しなければいけない…この言葉が、今の絵名にはいつも以上に深く刺さった。
「…こっちだって…無いなりに努力してるのに…っ。」
…その時ふと、彼女の頭の中にコンクール会場の光景が浮かぶ。ステージに照らされた、読み上げられる表彰者の名前、喜ぶ少年少女達…
「……そうだ。セカイの皆なら、何か…」
絵名はこう考えた。日々、無彩色なセカイで、各々の過ごし方で生きているVOCALOID達。彼女達なら、自身にはない感性を持っているのではないか?と。
「…行ってみよう。何か、掴めるかもしれない…!」
そうして彼女は、セカイに向かった…
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-誰もいないセカイ-
「誰かいないかな…」
セカイに来た絵名は、ミク達を探す。普段からたまにリンやKAITOに絵のアドバイスを聞いてみる事はあったが、(KAITOはまともな意見はしてくれないが)こうやって本格的に絵の為にセカイに来たのは始めてかもしれない。
「…あっ、絵名ちゃん…?」後ろから声がした。
「レン!ちょうど良い所に!」
「どうかしたの?」
「ちょっと、絵の事で意見が欲しくって…」
そうして彼女はレンに自身の描いた絵を見せる。その絵はとても綺麗な色合いで、雰囲気も出ている。…だが、レンの目には何かが引っかかるようだ。
「何ていうか…凄く綺麗な絵なんだけど、想いが伝わって来ない…っていうか…」レンは躊躇したように、声を小さくして言う。
絵名はその言葉を聞いて、首を傾げる。
「想い…?」
「うん。…この前、絵名ちゃんがミクを描いた絵を見た時にはね、ミクの…特徴?をしっかり掴んで描く!…みたいな想いが伝わってきたんだけど…この絵には、ただ描いただけ、みたいな…そんな感じがするなぁ。」
「…あっ、ごめん!詳しくもないのに、口出ししちゃって…」
レンは自分の行動に慌てているようだ。
「……いや、大丈夫だよ。意見を頂戴って言ったのは私なんだから。気にしないで?」
「そ、そう?…ありがとう…」
絵に籠もった想い。これは、絵名にとって考えた事もないような事だった。これが聞けただけでも充分な収穫と言えるだろう。
…しかし、絵名は同時にどこか満たされない気持ちになる。
(…普段、絵に関わってないレンでも、そんな事に気付けるんだ…)
沢山の"持つ者"に触れた結果、彼女のプライドは少しずつ擦り減っていた。彼女は俯いて、下を向いてしまう。
…そんな中、レンはある提案をする。
「ね、ねぇ…絵名ちゃん…。せっかくなら、ここで絵を描いてみるのは、どう…?」オドオドしているが、その声には絵名の力になりたいという強い想いが感じられた。
彼の想いを感じハッとした絵名は、下を向くのを止めてレンに答える。「…そうだね!普段描かない場所で描いたら、いつもとは違う絵が出来るかもしれないし…」
そこまで言って、絵名はせっかくなら、と言わんばかりに言う。
「ねぇレン…レンが良ければ、そこで座っててくれる?私、レンを描いた事はないな〜って思って…」
「ぼ、ぼくが絵名ちゃんの力になれるなら…全然大丈夫だよ!」そう言うレンの瞳には、不安と、自分が絵名に協力出来るかもしれないという、喜びに満ちていた。
キャンパスを用意し、描く準備は万端だ。
「…よし、描いてみるね…楽にしてていいから…」
「う、うん…!」
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1時間は経った頃。何枚かレンの絵を描いた絵名であったが、納得いくクオリティとはとても言い難い。
『才能が無い者は、才能のある者の何倍も_』
不意に父親の言葉が頭によぎり、苛立ってしまう。彼女は呟いた。「うるさい…」
しかし、一度彼女の脳に刻まれた悔しさは簡単には振り払えない。今日のコンクールをはじめとして、絵画教室で言われた事、父親に言われた事、ニーゴの動画に書き込まれたコメント…それらが絵名のプライドを傷つけていく。
そんな中、絵名の様子が妙な事に気づいたレンは彼女に近づく。
「…絵名ちゃん、大丈夫…?」その目には心配の色が宿っていた。
「…近寄らないで…」
「えっ?」
「近寄らないでって言ってるでしょ!!」
「…えっ………」
そこまで言って、絵名は我に返った。目の前を見ると、目を軽く見開いて、開いた口がふさがらないと言わんばかりの表情だった…。そして、先程自分が言った言葉を思い出し_顔が青褪める。
「……あっ、レンこれは_」
…もう、遅かった。
「…そ、の………ごめん、ね…、気づけ、なくて…」そう言って、レンは絵名から離れていく。一瞬見えたその目には、涙が溜まっていたように、絵名には映った。
「ちょ、ちょっとレン、待って…っ!」
しかし気づいた時には、レンはいなかった。
失態だ。目先のストレスに苛立って、自分を評価してくれない父親が頭によぎり…つい、本音が漏れ出てしまった。…目の前にレンがいる事に気づかずに。
「…どうしよう…私、つい…」
その時、今日の予定を思い出す。数日後の絵画コンテスト・新宿杯の参加用紙が届くはずだ。
「あっ…そうだ、確かコンテストの……でも、レンに言わなきゃ…」
暫く迷った挙句、絵名は先に自分の予定を済ませる事にした。
ここで絵名がレンを探し出し、間違いを訂正していれば、ああはならなかったであろうに。
「……絵名…。」その様子を、ある人物は見ていた。
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日が沈んで来た頃、瑞希はセカイにやって来た。理由は単純、買いすぎて余ったお菓子を配る為だ。
「セールだからって買いすぎたかなぁ〜…一人5個でも余るかもしれないや…」
そんな時、瑞希を見つけたルカが近寄ってくる。
「瑞希じゃない。…あら、その大量のお菓子、どうするの?」
「あははっ、ちょっと買いすぎちゃって…せっかくだし、皆で分けようかなって!はい、どうぞ!」
「あら、ありがとう。後で美味しく頂くわね!」
ルカに多少渡した所で、お菓子は無くなる気配が無い。
「やっぱり余るよね〜、これ…沢山お菓子をあげても嫌がらなさそうなのは……あっ、レンとか?」
その言葉に一瞬眉をひそめたが、すぐにいつもの調子で話す。「確かにレンなら喜ぶでしょうね。あっちにいたし、あげてきたらどうかしら?」
「うん!そうするよ、ありがとうルカ!」
そう言って、瑞希は走っていった…
「…てっきり教えると思っていたのに、言わないのね、ルカ。」
突然のMEIKOの言葉に、ルカは毅然とした態度で返す。
「あら、そう?ちょっと貴方の真似をしてみただけよ。」
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「…あっ、いた!おーい、レン!」
レンの姿を見つけ、彼の元に駆け寄る。
ビクッとした後に、微笑んで返す。「……瑞希ちゃん…?どうしたの…?」
「いやぁ~、レンの為に沢山お菓子を買ってちゃってさ、好きなだけこの箱の中から取って欲しくてさ!……まぁホントは、ボクがうっかり買いすぎただけなんだけどね…はは…」
レンはそんな瑞希に対して、喜んだような反応を返す。
「わぁ…、お菓子がいっぱい!好きなだけ取っていいの…?」
「もっちろん!沢山取っちゃって〜!」
「あ、ありがとう…」
そうして、お菓子を取り出していくレン。しかし瑞希はそんなレンに対して、少し違和感を感じた。普段の彼なら目を輝かせてお菓子を取っているからだ。しかし今はなんだか元気がないように見える。
そんなレンに、瑞希は質問する。
「…ねぇレン、何かあった?元気がないように見えるけど…」
その言葉に、レンはピタっと止まってしまう。「…そ、…そう?」
彼は人に迷惑をかけたがらない部分がある。その為何もないかのように振る舞っているが…顔に出ているし、何より瑞希相手に隠せる訳もなかった。
「その顔は悩みがある人しかしない顔だよ?…話せる人はボクか、絵名ぐらいしかいないんじゃない?奏とかまふゆは…ほら、レンの性格的に負担は掛けたくないだろうし…」
あまりにも完璧な回答と言えるだろう瑞希の言葉に、レンは迷った末に決心して話す。
「…じ、実は_」
「…ふむふむナルホド、つまり絵を描いてもらってたけど、途中から絵名の様子がおかしくて、心配して近寄ったら拒絶された…って事で大丈夫?」
「…うん…そうだよ…」その言葉には、深い悲しみが混ざっていた。
「話だけ聞いたらレンに悪い所はないし、絵名が全部悪いように聞こえるけど…流石にレンに対して意味もなく怒鳴るほど短気じゃないしなぁ、えななんは…」
瑞希は考える。絵名が何故レンに対して怒ったのか…
…しかし考えても理由は浮かばない。まぁその場にいた訳ではないのだからしょうがないだろう。
そこで、瑞希はレンにこう話す。
「…もしかしたら、レンの行動が何か絵名の地雷を踏んじゃってたのかもしれないし…ボクもその場にいた訳じゃないから詳しく語れないんだけど…。とりあえず謝ってみる、とか?」
「…謝って、絵名ちゃんは許してくれるかな?…理由も分かってないのに…」
「まぁそうだけど、どっちみち話してみないとどうにもならないんじゃないかな?」
(…ボクだって、えななんがボクに向き合ってくれたからあの時は…)
その言葉に、レンは納得する。
「…確かにそうだね。…でも、なんて言えばいいかな…」
「それは……今からボクと練習しよう!ちょうどボクも絵名をツンデレツンデレって弄りすぎて怒らせちゃったしね、てへぺろっ♪」
レンはその話に微妙な顔をしつつも、少しだけ微笑んで答える。
「…そうなんだ、…じゃあ、一緒に謝る練習をしよう…!」
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-東雲家-
「…これも違う…これも…あぁもう…!!」
絵名はあの後、コンテストに応募する為の絵を描いていた。
…このコンテストには題材に指定があった。その内容は、『人と人の繋がり』である。
彼女は様々な絵を描いていたが、一つもいい絵は出来上がらない。その上、頭の中からレンが言った『絵に籠もった想い』という物が離れないのだ。
ここに来て絵名は行き詰まってしまう。自分の理想の絵が描けない自分に腹が立ってくる。ハッキリ言って、今の絵名に余裕は無かった。
「やっぱり…悩んだままじゃ絵は描けないのかな…」
こんな言葉を彰人は言った事がある。「迷う奴は弱い」と。
「…そうだよね…。…レンに、謝らなきゃ…!」
画材を置いて、絵名は再びセカイに向かった。
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瑞希と謝罪の練習をしたレンは、セカイを歩き回って絵名を探していた。
「絵名ちゃん…どこにいるかなぁ…」
彼の心は不安でいっぱいだ。でも、瑞希は背中を押してくれた。ならばこちらもその想いに応えなければ、と言う気持ちで、レンは勇気を出したのだ。
そんな中、遂にレンは絵名を見つけた。
「…!え、絵名ちゃん…!」 「あっ、レン…!」
「レン、さっきの事なんだけど、実は_」
「お、怒らせるような事をしちゃって…ごめん!」
「…へ?」完全に不意を突かれた。まさか謝られるとは思っていなかったから。
「だ、だってぼくが絵名ちゃんを…嫌な気持ちにさせちゃったから、あんな事言ったん…でしょ…?」勇気を振り絞って、言う。
「そ、そんなことは_……な……っ」絵名の中に様々な感情が渦巻く。レンが何故謝っているのかという困惑、怖いだろうに謝まらせてしまった申し訳なさ…そして、自分には出来ない事をやってのけるレンに対しての…羨望。
レンを見ると、昼の絵画コンクールで優秀な成績を取って、笑顔で喜んでいた少年少女…彼らが描いたであろう、自分には到底描けない、美しい絵…それらが、彼に重なって見える。
そしてそれを思い出す度に…絵名の承認欲求は、プライドは…心は傷つくのだ。
「…そんな、こと…っ」
しかしそれを、レンにぶつける訳にはいかない。彼に非は一切無いのだから。早く認識の誤りを正して、和解しなければ…それは絵名にとって分かりきっている事だ。
「………」レンは不安そうな顔で、絵名を見つめる。
「…そんなことは__」
「…絵名ちゃん…泣いてるよ…?」
「……!?ッ……!!」
「…泣かせちゃって、本当に…ごめん。ぼくが悪かったよ…」
…そして、絵名はレンに言葉を返した。
「_そうよ!全部レンが悪いのよ…ッ!!どれだけ頑張っても見つけられなかった物を、レンは簡単に私に言ってきたし……それがどれだけ悔しいことか分かる!?」
…今の彼女には、感情のバルブを抑える余力は無かった…
「それに……それに…ッ、それだけじゃない!貴方は知らないかも知れないけど…幾ら描いても描いても、誰からも私は評価されてないのッ…!!その気持ちが貴方に、分かるの?セカイにいるだけの、貴方が…!!」
その訴えは、一人の少女の叫びとも言えるものだろう。例え、本人がそれを我が儘だと分かっていても…
「レンなんて…レンなんて…」声が震えている。
「大っ嫌い…ッ!!!」
「……えっ…?」レンはその言葉を聞いて、一瞬硬まってしまう。
そして、その言葉の意味を理解し始め、表情が歪んでいく。
「…えな、ちゃん……それ、は…っ?」
「もうっ……もうっ……早く私を嫌いになってよ……私に、関わらないでよッ…!」嘘だ。そんな事は心にも思っていない。
レンの目からは涙が溢れ始め、絶望的な表情になる。
「そ…んな…ぼく、は……嫌、いになん…か…」
「…もうっ……!!」絵名は何処かに走り去ってしまう。
その場に残されたレン。絵名から再び拒絶された事は、彼の心にはあまりにも重すぎたようだ…。
「………あは、はっ……」その声には、どうしようもない
オマージュイベスト「茨棘の道は何処へ/第8話」
その場の感情で、思ってもいない事を言ってしまった事は誰しも一度はあるのではないでしょうか。この話はそれが最悪の場面で起きてしまったら…という想定です。どんなふうにレンを絶望させるか考えてみたんですが…結果はこの通りです。
ですが…この作品はハッピーエンドで終わらせる、と紹介にも書いた通りです。どのように物語が終わるのか、その目で見てくださると幸いです。やはり曇らせは楽しいですね。