あるいはファンタジーロボットものの冒頭。
都子はずっと醒めない夢を見ていた。白銀の巨大な騎士とそれを操る王子様。15年間待っていた。とうとう王子様は現れなかった。
学校の休み時間、都子は数少ない友達…五月雨と話をしていた。
「そうそう…私のパパ、忙しいってさ。 暫く帰って来そうにないなあ。 不思議だよねー 戦争って感じでもないのに。」
五月雨の父親は国防軍の人らしい。都子は過去にそう聞いていた。
「都子っちと、あまり話すことないな〜 そうだ…! 時期はずれの転校生とはどうなったの。 確かいい仲になってるみたいだけど、王子様は諦めたの?」
五月雨はうーんと唸り、転校生との進展を聞いてくる。そう、五月雨の推測通り都子は最近転校してきたイケメン、真崎先輩と急接近していた。
「もうやめてよぉ〜 夢は卒業して、まともになるの!」
夢見がちな都子と友達になってくれた数少ない級友。色々、ズケズケと言ってくるところも含めて、都子はこの関係を好ましく思っていた。
「あれだけ王子様、王子様言ってた都子っちが意外だね。 結局、あの…真崎君に告白しないの?」
珍しく、五月雨が気を遣って尋ねてくる。
「私はいいよ…。 頭お花畑な私には不釣り合いだから…」
片や王子様のような存在と、片やただの夢見がちな現実不適合者。釣り合いが取れるわけがないのだ。
「もったいない〜 せっかく、脈ありそうな感じなのに。」
勿体無いのは都子が一番知っている。それでも、この新たな夢が壊されるのが怖いのだ。
「そんなわけ… 「いたいた…! 都子、話したいことがあるんだ。 昼休憩、屋上に来てくれないかな…?」
「えっ、え!? は、はい!」
真崎先輩に呼び出された。そうでないとわかっているのに、都子は告白ではないかと期待してしまう。心臓はバクバクと鳴っていた。
あのあと、都子は五月雨にこう言われたのだ。
「ここで諦めたら一生を夢見がちな少女で終わってしまうよ。 本当にいいの?」
こういうことを無遠慮に言ってくる五月雨を嫌う人も多いが、少なくとも都子にとっては自身の足りないところを支えてくれる友人である。
そして…昼休憩の屋上、勇気を出し、先手を取って告白することにした。
「真崎先輩、好きです!」
珍しい。先輩が真っ赤になってアワアワとしている。これはいけるのではないのかと思ってしまう。
告白の返事を待ってると、屋上のドアが開いた。先輩の顔がスッと真顔に戻る。ざんねん…、もうすこしだったのに。
なぜか真崎先輩が都子を庇うように前に出る。
先輩の陰から都子は逢引きを邪魔した二人の風貌を確かめる。知らない人だ。いや、おかしい。よく見ると違和感だらけだ。少なくともこの学校の関係者ではない。突然の不審者の出現に先輩も苦々しい顔をしているようだ。
「やあ、こんなところに何をしに来たんだい?」
真崎先輩が隠れて懐に手を伸ばしていることに気づいた。先輩の懐は不自然に膨らんでいる。
「所属は? まあ、わざわざこの学校に忍び込んだ時点で決まってるか。」
その言葉に彼らが動こうとした時、パンッパンッと懐から取り出した拳銃で撃った。先輩の豹変に都子は困惑する。撃たれた彼らは倒れて動かない。実感が湧かない。こういう時に吐き気の一つも覚えるかとも思っていたが、綺麗な死体ではそういう気持ちにはならないらしい。
都子が呆然としている間にも、手際良く柵から予め結びつけられたロープを降ろし、そのまま都子を抱き抱える。
「都子、しっかり掴まってて。」
空がいきなり暗くなった。都子が上を見上げると、ファンタジーやSFでありそうな、何隻もの巨大な黒い宇宙船がワームホールを通ってこちら側に来ようとしている。都子には国防軍か国連軍わからないが、巨大な宇宙船に向かって戦闘機の編隊がミサイルで攻撃している。
何が起こってるかわからない。周囲が現状に困惑する中、都子は先輩に手を引かれ校庭を駆ける。
何か来る…! 都子が思わず、振り返ろうとした時…
一瞬、大きく大地が揺れた。思わぬ揺れに都子は尻餅をつく。
土煙が静まると校庭に謎の巨大な黒い人型の物体がいた。都子の直感が叫ぶ、アレは敵だと。黒いロボットが紅く輝くモノアイを揺らし、何かを探している。黒い巨人は都子を見つめ…
「見つけたぞ、悠久なる約束の乙女!!」
三階建ての学校ほどの高さの黒鉄の鎧武者がこちらを視て、確かにそう呼んだ。悠久なる約束の乙女…その言葉を都子は知っている。夢の中の自分のことだ。ありえない、捨て去った夢が生々しく現実に甦るなんて…
黒塗りの鎧武者が巨大な刀を都子に振り下ろそうとした時…
10mあろう白銀の騎士が都子を後ろに庇うように割り込んだ。肩のマントを揺らし、黒鉄の鎧武者と赤い焔を噴かして鍔迫り合う。
「ミヤコは奪わせない!!」
そこには都子が夢に見た白銀の騎士がいた。いや、細部が違う…夢のソレはもっと有機的で滑らかなカタチだったはずだ。ジェットで空を飛んだりもしない。
でも…こんな時なのに思わず見惚れてしまった。このとき、都子は運命と束の間の邂逅をしたのだ。
「行くよ、今のうちに!」
思わず見惚れていると、真崎先輩に手を引かれ我に返る。惚けている暇はない。逃げなくちゃ…
走っても走っても、今度は別の西洋風のロボットが追いかけてくる。どうやら、何機も同じような敵がいて、私を探してるようだ…と都子は理解した。
走っていると戦車が側道から現れ、敵のロボットに砲撃し、国防軍の兵隊さんが建物の陰からバズーカのような武器でミサイルを撃っている。
「そこの嬢ちゃんたち、戦車の裏に隠れろ!」
戦車のハッチから顔を覗かせた兵隊さんがそう叫ぶと、真上の空を飛ぶ青い鎧武者のロボットにミサイルが直撃した。砕けて破片となって都子たちに落下する。先輩に庇われながらゴロゴロと戦車の陰に転がり込む。体のあちこちが痛い。
痛みに耐えながら立ち上がると、真崎先輩が都子に声を掛けてくれた。
「あと少しだから、頑張って!」
この先は大通りで隠れる場所なんてない。どうするのだろうか、そう考えていると、そこには何台も車…装甲車が停まってる。先輩に着いていくまま、後ろの扉から飛び乗る。すると、扉が開いたまま、勢いよく車は発進した。
「捕まってて! 君の神社、その山の麓まで飛ばすわよ! 分かったなら返事して!」
「は、はい!」
この声は国防軍の女性兵士さんだ。安心感から都子は何も分かってないが返事をした。
「どういうことですか、真崎先輩! 私、何が何だか…」
ほっと一息ついて、落ち着いてくると疑問が湧いてくる。とりあえず現状把握する余裕が出てきていた。
「異世界のエルシュバイン帝国が日本に攻めてきたんだ。 そして、君は戦局を左右する切り札として帝国から狙われている。」
訳がわからない。夢が現実に飛び出してきたような、そんな気分だ。
「どうして、先輩はそんなことを知ってるんですか…!」
頭がこんがらがってる。先輩は何者で…考えが纏まらない。
「僕の任務は君を護衛すること。 安心して、ここにいる人たちはみんな君の味方だから。」
ヒュッ… 並走していた隣の車が突然爆発し、吹き飛んだ。
「横の車が!」
泣きそうなりながら都子は叫ぶ。
「あれは囮よ!」
その言葉では全然安心できない。
どうして自分はこんな目に遭ってるんだろうか…
付き添うように飛ぶヘリコプターも敵のロボットの銃撃によって一台、また一台と墜落してゆく。無惨な姿となった戦車が道端で燃え、ミサイルがしきりに飛来してくる。終いには、国防軍のCMのロボットが敵のロボットに向かって、銃を持って白兵戦を挑んでいる。都子は恐怖を感じていた。
「さあ、降りて! ここから先、車は通れないから! さあ!!」
山の麓まで来ると、車を下ろされた。此処まで来ると敵は見えない。上手く巻けたのだろうか。
都子が周囲を見回すとあることに気づいた。
「ここって…」
そこは実家と言うべき場所、在りし日の家族との思い出の地。涙が溢れる。5年前に事故で家族を失ってから、此処に帰るのは初めてだ。
「大丈夫?」
「う、うん…ちょっと昔のことを思い出しただけだから…」
都子は手で涙を拭う。
「じゃあ、行こうか。」
先輩に手を引かれ、小山を登る。
懐かしい鳥居、懐かしい空気感。街が燃え、戦争が始まっていても…ここだけは相変わらず静かで荘厳な雰囲気だ。
なぜここなのだろうか…都子にはわからない。なぜかそこそこ大きいことを除けば、ごく普通の神社だ。とても戦争に関わる何かがあるとは思えない。わからないまま、先輩について行く。
拝殿に入ろうとした。すると都子たちの耳に何かが落ちて来る音が聞こえた。
「都子、危ない!!」
都子は先輩に建屋の外に突き飛ばされた。拝殿が轟音を立てて崩れてゆく。真崎先輩はどこだろうか…
「先輩? 真崎先輩?」
先輩を見つけた…。
真崎先輩は崩れた建物に体を潰されていた。もう助からない。都子でもそうと分かる重傷。心機一転して、まともな人生を送ろうと決意した矢先のコレだ。都子のトラウマが甦る。親を目の前で失ったあのトラウマが…。
この結末を認めたら、都子はもう立ち直れないだろう。
「いいんだ…僕のことは…早く…鏡に…」
息も絶え絶えにそう呟く。先輩の顔から色が失われていく。
「…学生生活、楽しかったな。」
真崎先輩は虚ろな目となり、そして意識を混濁させてゆき…
「そうだ…告白の…答え… にんむ…なんて…かんけい…ない… み…や…こ…あ…い…し…
その手は都子を引き留めるように伸ばされたが…
…都子は慟哭した。
鏡と言われると都子でもわかる。社の最奥に祀られた鏡のことだ。
明らかに神社に祀るのにはそぐわない古びた洋風の姿鏡。幼い頃からずっと疑問に思っていた。どうしてこんなものを有り難がるのかと…。漸く、その疑問が解決する…。不思議とそんな気がした。
都子は泣きながら拝殿のその奥、本殿へと向かう。幼い頃は家族とここに住んでいたのだ。構造は隅から隅まで知り尽くしている。先輩の遺志を無駄にしてはいけない。ただ、その一心で走っていた。
本殿の障子の奥から光が漏れている。…ありえない。中に明かりは無かったはずだ。
都子は思い切って、障子を開けた。 そこには建屋の暗がりと、その闇を振り払うように輝く鏡が鎮座している…。
(鏡が輝いてる…? 今まで、こんなことは無かったのに…)
指先を触れさせると、鏡から光が溢れて…
『今こそ、古の盟約を果たす時…』
都子が目を覚ましたとき、そこは見渡す限りの草原に二つの大きな月が浮かぶ澄んだ青空が広がっていた。
「どうして、キミは泣いているんだい?」
都子が振り返ると、白銀の鎧を着た男の子がハンカチを差し伸べている。その人こそ、夢の…運命の王子様だった。