ウマ娘トレウマ短編集   作:篠平才斗

11 / 18
以前書いたこちらの作品(https://syosetu.org/novel/392061/7.html)の、トレーナー視点になります。九州弁(熊本弁)、一応調べながら書きましたが、それ以外で自分が参考にできるのがサファイア(ポケットモンスターSpecial)くらいなので、違和感あるかも……方言は難しい(だからかなり好きですけどユキノは出せそうにありません、スぺちゃんみたいに時々ぽろっと出る位なら……)


10年バズーカ・スティルインラブ――reverse

 混乱していた。いつものように、トレーナー室で仕事をしていた。そこに現れた、担当ウマ娘のスティルインラブ。その手にあった、彼女に似つかわしくない、物騒なもの。

 

「スティル……?」

「ごめんなさい!」

 

 瞬間、煙に包まれる体。打たれた? いや、痛みはない。ただ、煙のせいで周りがほとんど何も見えなかった。せき込んでいると、やがて煙が晴れる。

 

「……あれ?」

 

トレーナー、室だ。ただ、目の前にスティルはいない。内装などはほとんど同じだが、部屋に飾られているトロフィーや盾などが増えている。そして、目の前にあるノートパソコン。自分のものではない。

 

「どうなってるんだ」

 

 そう思いながら、パソコンの画面を覗く。ウマ娘の競争成績とデータ、そしてトレーニングメニュー。それ自体は見慣れているが、しかしウマ娘の名前は知らない。それにレースにも違和感がある。一部のレースの、グレードが違うのだ。

 

 どういう事かと思いつつ、ちらりとウィンドウの合間に見えた、パソコンの壁紙に目が行った。茶色の、長い髪のような。

 

「何、だろう」

 

 間違えてウィンドウを閉じないように、最小化する。そこに現れた壁紙を見て、息を呑んだ。二枚の写真を、左右でくっつけたような画像が、そこに表示されている。右側は、二十代前半ほどだろうか、うら若い女性だった。長い栗毛の髪をなびかせた、赤いワンピースに身を包んだ彼女を、彼は知っている。

 

「……スティル?」

 

 そう、担当のスティルインラブに、余りにも似ていた。もし彼女があと何年か――例えば十年もすれば、こんな風になるのではないかと思える程。

 

「一体」

 

 ちらりと、パソコン画面の右下に目をやる。それを見て、また彼は困惑した。日付が、おかしい。年数が、十年進んでいる。

 

「これ、は」

 

 画面、左に目をやる。スティルのような女性の横には、二人の子供の写真。一枚は人の赤ちゃん、まだ生まれて間もない位だろう。その横に、ウマ耳の生えた幼子。一歳と少し、位だろうか。二人は仲良く、眠っている。

 

「きょうだい、なのかな。一体……」

 

 彼がそう言った時、バンと扉が開け放たれた。驚いてそちらを見ると、見た事の無いウマ娘が立っている。

 

「あー! やっぱりここにおったとね! 今日は早う帰るー、って言うとったと!」

「え、あ、あの」

 

 いきなり、方言交じりにそんな風に言われ、思わず戸惑った。彼女はうん?と眉根を寄せる。

 

「……あれ、トレーナー、ちーっとなんか……?」

「あの、何と説明すれば」

 

 今の状態を、どう説明したものか。そもそも自分も説明して欲しいくらいなのだ。しかしそれ以上に言葉を紡ぐ前に、少女の方がずいずいと近づいてくる。

 

「ま、よかたい。そげん事より、とっとと帰るったいね! 今日、結婚記念日って言うとったと!」

「け、え、待って?」

「あんないい奥さん、待たせるなんていけん! 今日は私もオフにするったい、トレーナーも帰った帰った!」

「ま、待ってくれ、帰るも何も、俺は……」

 

 そこまで言った時、もくもくと彼の体から煙が昇る。何だ、と思う間もなく、再び彼の体は完全に煙に包まれ、そして――

 

「うわあっ!? ……あれ、スティル?」

 

 気がつくと、目の前にスティルが立っていた。部屋の内装は、見慣れたものになっている。ちらりとパソコンを見れば、やはり見慣れたものだ。日付も、彼の認識している年月日だった。

 

「あの娘は……? ……夢でも見てたのかなぁ……?」

 

 そう言いながら、目の前にいるスティルに目をやる。彼女の顔は、何故か真っ赤に染まっていた。

 

「スティル……? 顔、真っ赤だけど大丈夫……?」

「ひゃっ!? だ、大丈夫です! ただ、ちょっと……ごめんなさい!」

 

 スティルはそう言い残し、脱兎の如く飛び出していった。残されたトレーナーの方は、ふうと息を吐いて深く椅子にもたれ掛かる。

 

(一体何だったんだ、あれは。夢か、夢にしては妙に現実的と言うか……そもそも別に、眠たくはなかったし……。それはそれとして)

 

 夢だとしたら、何と言う夢を見ていたのか。それこそスティルではないが、はしたないにもほどがある。

 

(でもあれ、スティル……にしか、見えなかったよな。凄く……凄く、美人だった)

 

 全体的に、ふっくらとふくよかになった様に見えた。柔和な笑みは今と変わらないが、大人びた事であどけなさが美しさに置き換わっていた。

 

(……結婚、記念日、って言ってたな)

 

 日付が十年後になっていた。そこから、幾つかの仮説は立てられる。例えば、自分が何かの弾み――そう、あのバズーカの煙によって、一瞬だけ十年後に飛ばされたとしよう。突飛な話だが、そう考えれば辻褄は合う。あの九州方言の彼女はその時の自分の担当で、自分は十年後もトレーナーを続けている。……それは、まあ想像しやすいが。

 

(……問題は、あのパソコンに、何であの写真が)

 

 今のスティルの写真なら、まだ分かる。自分にとって初めての担当で、多くの栄光を勝ち取った大切な愛バだ。その写真を壁紙にと言うのは自然だろうし、そうしている先輩達も何人もいる。しかし、あの写真の彼女は成長していたし、レースの写真でもない。卒業後も交流があって、それで撮影した? いや、というより。

 

「……あの、子供たちって」

 

 そこまで考えて、一つの結論に辿り着く。思わず、顔が熱くなるのを感じた。取り合えず、落ち着こうと息を吐きながら目を閉じる。それでも、あの大人になった彼女の美しい笑顔は、中々脳裏から離れなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。