【ヒカあか】報われない恋でもいいから   作:無名のヒカあか好き

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「幼馴染が大切なものをくれたら、何を返せばいい?」

 

あの時佐為が何を思っていたのか、今ならわかるような気がする。

 

 


 

 

「ヒカル、今度はこっち。

 このネクタイを試してみて」

 

「またぁ? ……うへ、今度はピンクかよ。

 絶対(ぜって)ぇ、似合わないって!」

 

「そんなことないよ。ヒカルはかっこいいもん。

 すごくスーツが似合うんだから」

 

 

 ヒカルとあかりの家からそれなりにアクセスしやすい場所にある商業施設(ショッピングモール)

あかりの誕生日から数日前の日曜日、「ヒカルと一緒にお買い物したい」というあかりの希望を容れて、二人はそこを訪れていた。

 

 

「あ、あれ……? こうかな? こうだったっけ?」

 

「あかり……おまえ本当にネクタイを結ぶの下手だなあ」

 

「もうっ、普段からよくネクタイしてるヒカルにはわからないよ。

 それにヒカルの背が高すぎて大変なんだから」

 

「だから俺の背が高いんじゃなくて、あかりが小さいんだろ。

 あ、おい……あかり、そんなにきつく結ぶなよ」

 

 

 試着のネクタイが5本目を超えた時点で「これ以上続けるなら、あかりが結べよ」と投げ出したヒカル。

ヒカルにネクタイをしてあげるというシチュエーションに頬を赤くしつつ、嬉しそうに頷いたあかり。

 

 二人は仲睦まじさを隠さずに喧嘩をする、という器用な振る舞いをしながらピンドット、小紋、ペイズリー、ストライプ……と様々なデザインのタイを試着していく。

ここが比較的カジュアルなセレクトショップで、試着に用いているのがワゴンに積まれたセール品でなければ、あまり好ましい行為とは言えなかっただろうが。

やや年配の売り場の従業員は、微笑ましそうにそれを見守っているのであった。

 

 

「あかり、ちょっと休憩……。

 おまえさ、途中から目的が変わってないか。

 俺の試着姿をいちいち写真に撮る必要ある?」

 

「……あ。

 えへ、ごめんね? ヒカル」

 

「ちぇっ。やっぱり人を着せ替え人形にして楽しんでたな。

 このままここにいたら、それだけで一日が終わっちゃうぜ」

 

 

 ヒカルに相応しい1本を見つけるつもりだったのが、迷走してファッションショーになっていたことを窘められ、しゅんとするあかり。

ご主人様に叱られた子犬のような顔をした、そのかわいらしい姿に苦笑して、ヒカルは「気分転換に地下で何か甘いもんでも食べようぜ」と誘った。

 

 

 

 

「──んぅ……あっ! これ、おいしいっ」

 

 

 濃厚なダークチョコレートのドリンクに、たっぷりのココアホイップクリーム。ドロリとしたキャラメルソースを纏い、フランボワーズとピスタチオが色鮮やかに飾られている。

地下階のグルメエリアに設けられた喫食スペースで。

あかりはそれを一口頬張り、ちゅるちゅるとドリンクを飲んで、そして弾けるように笑った。

 

 ヒカルはあかりの浮かべた明るい表情を見て『やっぱ、こっちに引っ張ってきて正解だったな』と微笑む。

あかりが「ヒカルは甘いものがそこまで好きじゃないでしょ」と、妙に気を遣って食事系のメニューを豊富に備えたクレープ屋や饅頭屋*1なんかへ足を運ぼうとするのを制止し、「あかりの誕生日なんだぜ? おまえが好きなところに行こう」と手を引いて来たのである。

 

 なおこの時、有名なショコラティエの前で思わず足を止めてしまったあかりは、『またチョコぉ?』とからかわれるのではないかとヒカルを横目で見て。

そこでヒカルから、まるで愛おしいものでも見るかのような柔らかな視線を注がれていることに気付き、『ヒカル、一体どうしちゃったの?!』と激しく混乱していたりする。

 

 

「あかり、俺にも一口」

 

 

 注文の品を受け取ってからここまで妙に緊張した風だったあかりが、チョコ・クリーム・キャラメルソースが奏でる雅な和音(おと)で心を解す(さま)に、ヒカルも釣られて嬉しくなって。だからヒカルは、口をあーんと開けて幸せのおすそ分けをねだった。

 

 

「う、うん……」

 

 

 クリームをスプーンですくってヒカルの口に運び、続けてストローを差し出して飲んでもらう。

たった一口、チョコレートドリンクをシェアするだけの僅かな間に、ヒカルと2回も間接キスをすることになったあかりは頬を微かに赤く染める。

そんな幼馴染の姿を意にも介さずヒカルは「うまいな」と笑って、あかりから分けてもらった幸せのお返しをする。

 

 

「ほら。あかり、俺のもやるよ」

 

「あ、ありがと。ヒカル」

 

 

 小さく開けたあかりの口に届けられたクリーム。直後に差し出されたストローにまま(・・)よ、とあかりは吸い付く。

濃い目に仕上げられた抹茶のドリンクを、軽い口当たりのホイップクリームとホワイトチョコレートのソースが中和して。ややぼやけてしまいそうな味の輪郭を、蜜柑のソースが鮮明にしている……。

普段ならばその芸術的なおいしさに、にこにこと嬉しくなってしまうはずのあかりは。わずか1分にも満たぬ時間にヒカルと4回も間接キスをしてしまった事実に、小さく身を震わせていた。

 

 

「どうだった?」

 

「おいしかった……よ? うん」

 

「はは、なんで疑問形なんだよ。

 これ結構うまいよなあ。

 良い抹茶の匂いがしたから頼んでみたけど、当たりだったぜ」

 

「香りでわかったの?」

 

「何となくな」

 

 

 間接キスを意識していることが伝わってしまわないかとおどおどしているあかりを他所に、ヒカルは楽しげに「塔矢の家で出されることも多いから、そのおかげかもな」と続ける。

それで意識しているのは自分だけなのだと悟ってしまったあかりは、ちょっとだけ頬を膨れさせて、もじもじしながら隣に座るヒカルとの距離を詰めた。

 

 肩がとんとぶつかる距離まで移動したあかりは、ヒカルが此方に目線をやるのを感じていたが、目の前のチョコに夢中になっている振りをしながら「抹茶もチョコも、おいしいね。このお店を選んでよかった」と呟いて。「ありがと、ヒカル」と微笑みかける。

 

 ひどく面映そうな調子で告げられたその言葉に、ヒカルもなんだか無性に照れくさくなってきて。同じく目の前の抹茶に夢中になっているかのような素振りをしながら「あかりが喜んでくれたなら、いいんだ」と返した。

 

 

「そう言やあかり、今日は俺のタイピンとかネクタイとかばっか見てるけど。

 おまえは買いたいもんとか無いの?」

 

「うん。今日は、私はいいんだ」

 

「俺の買い物に来たってこと?」

 

「えっと……まあ、そんな感じ」

 

 

 触れ合う肩を通じてお互いの熱を分け合いながら、あかりが目の前の甘味を賞玩していると、ヒカルから今日の目的について確認される。

答えに窮したあかりが曖昧な返事をすると、さしものヒカルも『どういうことだよ?』という表情になった。

それを見たあかりは観念して、今日ヒカルと一緒に買い物へ来た理由を答えた。

 

 

「こうしてヒカルが、私の誕生日をお祝いしてくれてるでしょう?

 だから私もヒカルの誕生日にはお返しをしたくて……。

 それで、何かヒカルが欲しがってるものはないかなって……」

 

「それってさ。俺の誕生日プレゼントを探しに来たってこと?」

 

「う、うん」

 

 

 あかりから告げられた意外な目的に、ヒカルは思わず『今日はお前の誕生日だから来たんだぜ?』と呆れた調子で言ってしまいそうになる。

しかし先程まであかりが見せていた楽しそうな姿を思い出して、ヒカルは咄嗟に口を閉じた。

要するに自身の生誕が祝福されるはずの一日を、ヒカルのために費やすことがあかりの望みだったのだ。

 

(あかりって、こんなにかわいい性格してたか……?

 いや、昔はもっと……。

 違うか。やっぱり昔からこんな風に世話焼きというか、そんな奴だった。

 それにしても、今日くらいはわがままを言ってくれていいんだけどな)

 

 ヒカルからじっと見られていることに、あかりは恥ずかしそうに身じろぎしながら「学校はアルバイト禁止だから、お小遣いを貯めるなら早いほうがいいし……」と続ける。

そんな健気な幼馴染の姿に『今日は一日、このままここであかりに振り回されるか』と腹を括ったヒカルは、後にしようと思っていたプレゼントを今すぐ渡してしまうことにした。

先延ばしにしているとタイミングを見失ってしまいそうだったからだ。

 

 

「あかり。これ、俺の棋譜」

 

「ぁ、ありがと」

 

「まだ、ちゃんと言ってなかったよな。

 少し早いけど誕生日おめでとう」

 

「本当にありがとう……ヒカル。

 こうしてお祝いしてもらうのって、久しぶりだね。

 ね、今見てもいい?」

 

 

 話の流れを遮って唐突にヒカルから渡されたプレゼント。

約束の棋譜はラッピングもされず、ただファイルに綴じただけの状態であかりの手元に届いた。

しかしヒカルが笑顔で誕生日を祝福してくれた事実の前では、それはあかりにとって余りにも些細なことだった。

 

 ファイルに綴られているのはヒカルが佐為と二人打ち続けた日々の記録。

今日まではただヒカルの記憶の中に残されるのみだったそれを、ヒカルが手ずから書き起こしたもの。*2

あかりには知る由もなかったが、藤原佐為という棋士の素性を思えば恐ろしく貴重な代物だった。

端的に言って、余人に見せるには問題のありすぎる棋譜だったのだが、ヒカルは『あかりにならいいだろ』と軽く判断していた。

 

 そんな背景(こと)は何も知らずに、あかりはただ、ヒカルから贈られた大切な宝物(プレゼント)をぎゅっと胸に抱いて。

そして、「すぐに棋譜を見たい」と上目遣いでおねだりをするのだ。

もちろんヒカルがそれを断ることはなく、「いいぜ」と簡単に頷いた。

 

 

 

(……あ。ミスったな。日付順に並べちまってる)

 

 ヒカルはあかりの開いたファイルを釣られるように覗き込んで、最初に出てきたのが最も自分がヘボだった時期の棋譜であることに、思わず顔を顰める。

とは言え時系列に対してランダムに並べたり、新しい棋譜から過去に遡るようにして並べるのもすっきりしない話ではあるのだが。

 

 それでも、今のあかりよりもずっと弱かった頃の記録を自分の目の前で見られるというのは、ヒカルをひどく落ち着かない気分にさせる。

しかもあかりはきらきらとした目で、心底嬉しそうにそれを見ているのだから尚更のことだった。

ここに碁盤があれば、実際に石を並べて失着を解説して見せることで、ヒカルは過去の自分と冷静に向き合うことができるのだが。

 

 

(あかり、綺麗になったよなあ……)

 

 手持ち無沙汰になったヒカルは、改めて目の前の抹茶飲料と向き合う。

あかりの横顔*3を眺めながら淡々と口に運ばれていったそれは、程なくして空のカップに転じて。そしてヒカルは特に深い考えもなく『あかりはもう飲まなさそうだから、いっか』とチョコ飲料にまで手を伸ばした。

 

 購入した飲料が室温でぐずぐずになって味が落ちてしまう前に、ヒカルはそれら2つをお腹に収める。要した時間はおよそ10分ほど。

そこでようやくあかりは棋譜から顔を上げ、空っぽになった2つのカップを見て、一瞬『わ、私のチョコぉ……』という切なげな表情をした後で*4、ヒカルから贈られた棋譜について核心的なコメントをする。

 

 

「ねえ、ヒカル……。この人って、ヒカルの先生?」

 

「……。

 …………なんで?」

 

「え? だって、ヒカルと打ってるのはずっと同じ人でしょう?

 そして最初は初心者だったヒカルが、どんどん上手になっていってるから……」

 

「────」

 

 

 ヒカルは『わかるのかよ』と言葉を返そうとして、はくはくと口を開け閉めし、結局何も言えずに目を覆って俯いた。

この時ヒカルの胸を衝いていた感情を、言語化するのは難しい。

それは不意に心の柔らかいところへ触れられたことへの動揺であり、佐為との日々を想起させられたことによって湧き上がる寂寥感や懐かしさであり、あかりに真実の一端を知られたことへの驚愕であり、あるいは棋譜を読み解いてみせたあかりの成長に対する感慨深さであり……様々な思いがマーブル状に混ざりあい、ヒカルの心をかき乱していた。

 

 十数秒ほどの沈黙の後、ヒカルはただ「ああ。俺に囲碁を教えてくれた人」とだけ答える。

それ以外に、何も言うことができなかったから。

 

 そんなヒカルの態度にあかりは少しだけ尻込みしたが、結局、自分がヒカルのプレゼントを受け取って感じた喜びを素直に伝えることにした。

 

 

「やっぱり、そうなんだ。

 ……あのね、ヒカル。

 私ね、どうしてヒカルがそんなに囲碁が好きになったのか、わかっちゃった。

 だってこの中(棋譜)のヒカル、すごく楽しそうなんだもん。

 素敵な先生に、教えてもらったんだね」

 

「ああ──

 俺には勿体ないくらいに、最高の……先生だった」

 

「……私、私、ヒカルがくれた棋譜を大切にするよ。

 私にヒカルのことを教えてくれて、ありがとう。

 ヒカルの素敵な思い出をくれてありがとう。

 ずっとずっと、大切な宝物にするんだから」

 

 

 そこまでしんみりとした口調だったあかりは、いったん言葉を切って、わざとらしいほどに明るい笑顔を浮かべる。

そして冗談めかして「ヒカルが返せって言っても、絶対に返さないよーだ!」と続け、くすくすと笑ってみせた。

 

 あかりのしてみせた、いっそ場違いなほど軽薄な言動に、ヒカルはのろのろと顔を上げる。

ようやくヒカルがあかりと目を合わせると、あかりはひまわりのような笑顔でヒカルのことを見ていた。

 

 呆然としてあかりを見つめるヒカル。

数瞬ほど後に、あかりは笑顔をふっと消して気遣わしげな表情になり、おずおずとヒカルの手を握りしめてくる。

 

(あかり……)

 

 それでもヒカルが言葉を失ったままでいると、あかりは握った手にぎゅっと力を込めて、改めて真剣な瞳でヒカルの顔を覗き込んだ。

 

(あかり……おまえ、何も聞かないんだな)

 

 ヒカルが佐為と会ったのは、囲碁を教わっていたのは何時なのか。

ヒカルの過去には不自然なことだらけで。あかりはそれをずっと傍で見ていたはずなのに。

今はただ、ヒカルの胸に走る痛みを自分の痛みのように感じて。

あかりは必死でヒカルのことを励まそうとしている。

 

(おまえさ。冗談も、励まし方も、下手くそ過ぎだから。

 ……てか、おまえが泣きそうになるのかよ)

 

 ヒカルはじわじわとあかりの目に浮かんでくる涙を見て、たまらない気持ちになって。

幼馴染の泣き顔を誰にも見られまいとして、あかりを胸に抱き寄せた。

 

 

「あかり」

 

「……うん」

 

「俺の先生は、すごいやつで、囲碁のことをめちゃくちゃ愛していて……

 そいつ(佐為)と俺が出会ったのは、奇跡みたいなことだった」

 

「奇跡……?」

 

「ああ。でも、その頃の俺はそんなの気付いてなくてさ。酷いことばかりしてた。

 それで、ある日いきなり奇跡は終わった。

 俺はもう、そいつとは二度と会えなくなって……」

 

「……」

 

「すげー後悔した。囲碁を止めそうにもなった。

 色んな人にも迷惑かけたし。

 けど、結局俺は囲碁を止められなくて、続けていくしかなくてさ。

 どうしようもなく寂しいし、これでいいのかわかんなくて、不安になったりもする」

 

「ヒカル……」

 

「それでも、自分で決めたことだから、自分で見つけた道だから。

 だから……だから、俺は」

 

「ヒカル……それってすごく……。ぐすっ……。

 寂しい、かなしいよぉ……」

 

「まあ、な」

 

「あんなに楽しそうにしていたのに、嬉しそうだったのに……。

 ヒカルが、ヒカルが寂しいのが悲しいよお……。

 ひ、ヒカルの先生がいなくなっちゃったのが、悲しい。悲しいの」

 

「そうだな……悲しい。ずっと、悲しかった(・・・)

 悲しかったんだ……」

 

「ぅ゛ん」

 

「あかり……おまえってさ。本当……」

 

 

──ヒカル! あかりちゃんのことは、大切にしないといけませんよ!!

 

 

「おまえって、本当に……どうしようもないくらい、世話焼きで、泣き虫で……

 俺の先生のことなんか、おまえは見たこともないのになぁ」

 

 

 ヒカルの分まで涙を流すのだと言わんばかりに泣くあかりの姿に、言葉にならないほどの愛しさが込み上げてきて。

危うくヒカルは『俺がお前と巡り会えたのも、奇跡だったんじゃねえかな』などと、気障ったらしい言葉で結んでしまいそうになる。

 

 そんな二人の関係を決定的に変えてしまいそうな失言*5を、口にする直前で『これじゃ、あかりを口説いてるみたいだろ*6』と回避したヒカルは、ただ感謝を込めて愛しい幼馴染を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

「今から帰るって電話したら、おばさんびっくりしてたね」

 

「びっくりって言うか。

 俺、あかりと喧嘩したんじゃないか〜って怒られたんだけど。

 何故かあかりが泣いたのもバレて切れられるし」

 

「あはは……。ヒカル、ごめんね?」

 

「いいけど。それより、昼メシどうする?

 何か買って帰るか、帰ってから店屋物でも頼むか」

 

「普通にお弁当屋さんで買って帰ろっか。

 私、先生の話を聞いたら、早くヒカルの棋譜を並べたくなっちゃった」

 

 

 ヒカルの問いかけに対して弾んだような声で答えるあかり。

時刻は正午より少し前。二人は一日の大半を過ごす予定だったショッピングモールを後にし、早くも帰路に就いていた。

胸に抱いたあかりを今では慣れたものという手付きで泣き止ませた後で、ヒカルが以下の如く堂々と言い放ったからである。

「あかりさ。俺の棋譜、並べたくなってるだろ?」……と。

 

 それは非常に自信過剰で傲慢な言い草だったし、しかもヒカルの内心はあかりへの配慮と、あかりにもっと佐為の話を聞かせたいという自己中心的な感情で五分五分だったのだが。

ともあれ、あかりはヒカルの提案によろこんで頷き、予定を変更してヒカルの部屋で棋譜を並べる*7という話になった。

 

 自宅の最寄りのバス停から一つ手前で降車して。珍しくあかりは、小走りに近い速度でヒカルの前を歩いて行く。

今から弁当屋に寄ってお昼ご飯を調達してからでないと、目的地(ヒカルの部屋)にはたどり着けないというのに。

あかりは『待ちきれないよ!』という感情を全身で表現しながら、ヒカルの数メートル先まで進んで振り返る。

 

 

「もうっ、ヒカル? ほらっ、早く行こう! 早く並べようよ!!」

 

 

──ヒカルぅ〜! 打ちましょうっ、打ちましょうよ!!

 

 

……佐為。

 …………。

 〜〜〜〜〜っ! あかりっ!!

 お前さぁ、ガキじゃないんだからそんなに先に行くなよ!」

 

 

 ヒカルは大股になってあかりに追いつき、腕を取って捕まえる。

驚いたような顔をしてあかりがヒカルを見るのを他所に、ヒカルは捕まえた腕を放し、手をつなぎ直す。

 

 『あかりは、ずっとこのままでいろよ』と、そう言いたげに。

ヒカルは指と指を絡めて、しっかりと手をつなぎ直した。

 

 

 

*1
和菓子ではなく、いわゆる点心を提供している店。あかりが考えていたのは豚の角煮やエビチリなどを封入した饅頭。つまり包子(パオズ)

*2
つまりヒカルは、かなりの時間を割いてこの棋譜を準備している。

*3
あかりは週末にヒカルと会う時、特に気合を入れて身だしなみを整えている。

*4
思わずヒカルは噴き出しそうになった。

*5
ヒカル目線で。

*6
ヒカル、そこは愛を囁くところですよ!

*7
より正確には、当時のヒカルが佐為と検討した内容を、あかりが聞く。





・あかりのキャラソング『ずっとこのまま』のタイトル回収。
 自分なりの歌詞の解釈も話中の展開に盛り込んでます。
 感想で「わかんねーよ!」みたいなツッコミが入ったら解説(ネタバレ)します。

・棋譜並べ(佐為の思い出話)を終えた後、ヒカルはあかりに膝枕で慰められる。
 あかりのお誕生日会なのに。……あかりは喜んでそうだから、ええか。

・自分のお誕生日デートなのに、ヒカルの誕生日プレゼントを探しに来てしまうあかり。
 そのままではありませんが『賢者の贈り物』をイメージして書きました。

・デートの場所は最初は百貨店だったのですが、どう考えても敷居が高すぎる……と見直し。
 今で言えば少なくともイ○ンモールくらいには力が抜けた商業施設のイメージ。
 カップルもいるけど子ども連れの家族がとても多い場所。
 実は少し魔が差して塔矢くんを出そうかと思ったのですが、収拾がつかないので没に。

・佐為に打ってもらった棋譜の数々。
 某NERVの司令みたいに『全ては心の中だ。今はそれでいい』みたいな心境でした。
 けど、あかりに棋譜をおねだりされてあっさりプレゼントしてしまった。
 これが原作の、例えば手合に復帰した時期のヒカルだったらあげたかな?
 個人的には『あかりのアプローチ次第だけど、厳しいんじゃない?』と思う……。
 つまりはそういうことです。

・ヒカルが書き出した棋譜は佐為との対局を網羅しているわけではありません。
 対局の回数が多すぎてそれは不可能なので、ヒカルなりに厳選しています。



以下、普通のあとがき。

・大変おまたせしました。
 煮詰まってしまってたのがいい感じに解消できたので、執筆を再開していきます。
 今後ともよろしくお願いします。

・ヒカルがクソボケなりにあかりのことを思いやっている描写を書くのが楽しい。
 やっぱりヒカあかは最高ですね。
 時々『ハーメルンのヒカあか作品増えてくれ〜』と念じながら書いてます。

・ヒカルがクソボケなのには、ちゃんと理由があります。
 これは最終回で明かされる予定です。
 実は最終回まで残り3話くらいなので、もうすぐ判明するはず。

・評価やお気に入りなどの数字が少しずつ増えていくのが嬉しい。
 とても励みになっています。いつもありがとうございます。

R-18版の需要はありますか?

  • あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
  • やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
  • 回答しない(アンケ結果の閲覧用)
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