【ヒカあか】報われない恋でもいいから 作:無名のヒカあか好き
ヒカルのためにできることを、いつもずっと探してる。
「ありません」
ヨセに入ったところで、あかりは碁盤を前に頭を下げた。
結果は順当にヒカルの勝ち。
しかしあかりには、かなり集中して打てた実感があった。
「ありがとうございました。
……早速だけど検討に入るぞ?」
「うん」
「あかり、まず何目負けたかわかるか?」
「五目半……かな」
「へぇ、ちゃんと目算はできてるんだな。
じゃあ次。中盤のこの手。
あかりはここでうまく俺の緩手を咎めたよ。
問題はその次。どうして手抜きしてこっちに打った?」
「えっと、ヒカルが中央に置いたこの石が気になって。
右下は仮に負けても許容できるかなって」
「うーん……。そうだな、今のあかりの考えはかなり良い線いってるぜ。
まず、視野が広くて盤面が良く見えてるから出てきた手ってこと。
それから損得の……形勢判断も悪くない。
ただ、その意図で打つならツケはここにするべきだったな。
あかりがこっちに打ったという想定で、実際に何手か進めてみるぞ──」
あかりはヒカルの投げかける問いに、ヒカルが想像していたよりもずっとしっかりした答えを返す。
そんなあかりにつられてヒカルのアドバイスにも思わぬ熱が入り、感想戦は微に入り細を穿つような、長時間にわたるものになった。
「──こんなところだな。
なんだよあかり、おまえちゃんと強くなってるじゃん」
「……そうかな」
「ああ。どんな練習してたんだ?」
「でも私、高校に入ってからは誰かと対局するってほとんどできなかったんだよ?
囲碁部がなくて、だから一人で同好会を作って、それで」
「なんとか部員を集めて囲碁部を作った」
蓋をしていた感情が溢れたのか、あかりは必死で言い募るようにここ一年間の説明をする。
ヒカルは何となく、あかりのその表情を見ていられなくなって、思わず言葉を遮ってしまった。
そしてヒカルは、昨晩遅くに帰宅した時、
(楽しみにしていた、って感じじゃないよな。
母さんは他にも「あかりちゃんと約束したんでしょう」とか言ってたけど。
……あれか。
『あかりが高校で囲碁部を作ったら、俺が指導碁に行ってやるよ』とか、
そんな感じで偉そうに言っちまったような?
何様だよ、俺。忘れてえ……)
「うん。やっぱり部員の募集は時期が大切なんだね。
頑張って新入生を勧誘したら一気に三人も入部してくれて。
だから、去年は詰め碁の本をたくさん読んで勉強することが多かったかな。
あとは週刊碁に載ってる棋譜の解説も毎週欠かさず読んでた。
自分では検討なんてできないから……」
「一人で……?」
「うん」
「……毎日?」
「うん」
「そっか……」
あかりから続けられた「二学期に入ってからクラスの子が入部してくれて一人じゃなくなったよ」という言葉を他所に、ヒカルはしばし意識を飛ばした。
(あかりがそれだけ頑張った理由は、やっぱ俺と約束したからなのか?
……いや、約束のためなら部員を集めるだけでいい。囲碁の勉強は必須じゃない。
それに葉瀬中の頃、あかりの棋力はなかなか伸びなかったんだぜ。
あかりはこの一年間、それだけ真剣に取り組んだんだ)
「なるほどね……。要するにあかりも、やっと囲碁の面白さがわかってきたってことだな!」
幼稚園で出会った頃からずっと隣りにいた幼馴染の努力を、正面から褒めるのが面映ゆくなって、ついつい茶化すような言い方をしてしまうヒカル。
そして「あかりも立派な囲碁好きだな。感心、感心」と続け、明るく笑ってみせる。
そんなヒカルのやや唐突な言動に、あかりは一瞬目を丸くした後、「もちろん、囲碁も好きだけど……」と言葉を濁した。
(もちろん囲碁も好きだけど、本当に好きなのはヒカルの……)
「囲碁も好きだけど?」
「え?」
「いや、囲碁も好きだけど……って言い方だと他にも何かあるみたいじゃん」
思わぬタイミングで言葉尻を捉えた質問をヒカルからされ、あかりの頬はじわじわと赤く染まる。
「えっ……? あ、あの……違うよ。
好き、囲碁好きなの! そう、囲碁が好きなの!!」
あかりはあわあわと口を震わせ次の言葉を探す。
不意打ちで自分の恋心を、よりにもよって想い人から暴かれそうになったあかりは、もう半分泣きそうになっていた。
「それに約束したもん! ヒカルと約束したから!!
高校で囲碁部を作るって約束したから!」
ついさっきまで凛とした表情で碁盤と向かい合っていたのに、その面影は今はもうどこにもない。
『ランドセルを背負っていた頃、よくあかりをこんな風に怒らせてたなぁ……』と、ヒカルは妙に楽しくなってしまい、にやにやと笑いながらあかりへからかいの言葉を投げる。
「ふーん、あかりは俺との約束をそんなに大切にしていてくれたんだな。
あかりさ、俺のこと好きすぎるだろ」
ヒカルからサラリと告げられたその言葉に、あかりは無意識にひゅうと息を吸う。
もうこれ以上熱くならないと思っていたあかりの頬はますます熱くなり、心臓はバクバクと音を立てた。
「あ、う、だって……私、ヒカルが……」
まだ告白もしていないのに好意を悟られてしまう……小学生の頃からずっとヒカルを想い続けてきたあかりにとって、この結末はあまりにも残酷すぎた。*1
必死で泣かないように我慢していたのに、涙がぽろぽろとあかりの目から零れ落ちる。
涙とともにヒカルに言えずにいた気持ちも。
「だって、だって……ヒカルに『囲碁部に来ないで』って言ったの私だもん。
ヒカルは葉瀬中の囲碁部が好きだったのに。楽しそうにしてたのに……。
私が……わたしが……。
だから、高校に入ったら今度は私が囲碁部を作ってヒカルに『来てよ』って言いたくて……」*2
(私がヒカルから取り上げちゃった場所を、もう一度作り直したかったんだよ……。
こんなワガママな理由で色んな人を巻き込んで部活を作っちゃうなんて、本当にバカだよね。
でも、でも、ヒカルのことが好きなんだもん……)*3
なお、あかりが一人ぼっちでも囲碁の勉強を続けられていたのは、ヒカルが指導碁に訪れた際に「強くなったじゃん」と褒められたかったからである。
もっとも、この細やかな野望は本日達成されてしまったのであるが。
「俺のためかよ……」
顔を覆ってさめざめと泣く幼馴染の少女を前に、ヒカルは俯きながら小さく呟いた。
ならばヒカルに課せられた次なるミッションは、あかりを慰めて泣き止ませること。
どうすればいいのかさっぱりわからない難問であったが、とりあえずヒカルはあかりの隣に座って頭を撫でるという小学生並の対応*4から始めるのであった。
【うろ覚えと独断と偏見に満ちた原作の説明もどき】
当時、葉瀬中の囲碁部に入っていたヒカルは、独断で院生になってしまったため、大会に出場できなくなった。
原作中での部員集めは大会出場をモチベーションにしていたのでこれは非常に問題のある行動。
そのことに同じく囲碁部の三谷くんは怒り、喧嘩になる。
なお三谷くんは、ヒカルがかなり強引なやり方で囲碁部へ入れた子。
部員になった経緯からして、ヒカルと三谷くんはベタベタの仲良しというわけではなかったが、それでも友情は感じていた(良い子!)。
要するにヒカルが彼にブチキレられるのは、残念ながら当然。
そしてこれが原因で三谷くんは囲碁部に顔を出さなくなってしまった。
そこであかりはヒカルへ『もう囲碁部に来ないで』と告げる。
あかりがヒカルを拒絶した理由は、『いつか三谷くんが囲碁部に顔を出した時にヒカルが囲碁部で楽しそうにしていたら、戻って来ようとは思えないでしょう?』というもの。
一見すると三谷くんを思いやった言葉なのだが、真意は少し違う。
『三谷くんから見て、ヒカルが反省してないように見えたら、二人は仲直りできないでしょう?』
これがあかりの言いたかったこと、つまりヒカルと三谷くんの友情に配慮したセリフなのだ。
特に原作終盤で落ち着くまでのヒカルは割と考えなしな言動をとりがちで、そんなヒカルへの配慮が多分に含まれた、賢明で愛情深い発言である。
あかりの圧倒的な嫁力が発揮された原作屈指の名エピソードと言えるだろう。
なお、ヒカルから囲碁部での青春を取り上げなければならなかったあかり本人の心情は……。
ということで、本作のあかりはすごく引きずっている。
『厳しいプロの世界で生きているヒカルに、あの頃のような雰囲気で囲碁を楽しんでもらいたい……』
そういう純粋な気持ちで囲碁部を作ったのです。いいね?
ごめん、嘘。
あかりはヒカルから囲碁部を取り上げたが、同時に自分がヒカルと楽しく過ごす時間も失っている。
そんなわけであかりが高校で囲碁部を作ったのは自分のためでもある。
そして、こういったエゴを自覚して弱気になっている側面もある。
ヒカルロスのダメージが大き過ぎてかなり後ろ向きになっている。
ヒカルが勝手に動いてあかりちゃんを泣かせちゃったのマジで何なの……。
このクソボケがぁ!
プロットだと「ヒカルのために頑張ったよ!」「あかり、すげぇ!」というほのぼの会話の予定だった。
この後あかりちゃんはヒカルに優しく慰められ、瞬間的に大泣きするけど割とすぐ泣き止む。
大泣きしたのはヒカルに頭を撫で撫でされて幸せメーターが振り切れたせい。
惚れた弱み……。
R-18版の需要はありますか?
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あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
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やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
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