愛機を黒く塗っただけなのに最強エースの帰還扱いされたとある傭兵パイロットのお話 作:Yura0628
「…ろ!!おいニカ起きろ!なんか大変な事になってるぞ!」
戦闘があった翌朝、枕元で叫ぶリヴィの大声に叩き起こされた。
「朝っぱらからうるせぇな…何だよ」
「良いから来い!皆もう起きてる!」
「へいへい…」
眠気に苛まれながら手早く服を着替え、俺はテレビやソファが置かれたブリーフィングルームへと向かう。既に部屋には整備員の面々、さらに基地の司令部要員などが詰めて何かをジッと見ている。一体何だってんだ?
「来たかニカ、テレビ見ろテレビ!」
「お、おう?」
言われてテレビへ視線を向ける。んーと?いつものニュースが流れているだけじゃ…いやちょっと待て、これまさか…
『…なお、この黒色のMF-628 ガルムⅡについて国防省や傭兵管理機構は一切の情報を公開しておらず、SNSや軍事評論家の間でかつての英雄、レヴナントの帰還では無いかという言説が広まっています。そこで本日は元アーク連邦空軍中佐の「ジェイク・ミラー」氏に…』
キャスターの言葉と同時に映し出されたのは、若干ピンボケした
おまけにその下のテロップには「かつてのエースパイロットが帰還か」など書かれており、さも俺の機体を伝説のエースパイロットが操っていたかのように表現されていた。
「待て待て待て、何だよこれ。てかどっからこんな写真を」
「落ち着け、どうやら昨日の戦闘を偶々撮ってた戦場カメラマンが居たらしい。だがまさか本当に勘違いされるとは…言っちゃ悪いが動きは及ばんだろうに」
リヴィの言う通り、俺と本当のレヴナントじゃ天と地ほど能力に差がある。いくら俺がそこらのパイロットより多少腕が立つと言っても、レヴナントが実際に行った所業の数々…単機で数百機を相手取ったり敵の空母艦隊を殲滅なんか出来るわけがない。
だと言うのに、どのニュースでも俺の愛機をもはや決まった事実かのように報道している。さっきの元空軍中佐殿も可能性は高く、現在事実確認を行なっているとか言ってやがるし、何がどうなって…
とここで、黙ってテレビを見ていた大柄な男…基地司令「セオドア・グラント」が口を開いた。ちなみにこの基地では基地司令命令で敬語が禁止されていて、俺より30程年齢が上のセオドアへもタメ口を使う。
「恐らくこれは、軍のプロパガンダに巻き込まれたな。原因は主戦線の戦況が芳しくなく兵士の士気が低下している事だろう。ネームドも数人墜とされているし、上層部としては新しい旗印が欲しい所に、これ以上無いネタが転がり込んできた。そりゃ見逃すわけ無いさ」
「はぁっ!?よりによって何で俺が…」
「ニカ、お前中央への転属依頼を何回蹴った?」
真剣な顔で言われ、思わず言葉に詰まる。確かに何回かそんな話があったが…でも何の関係が?
「一応、4回だ。高給に興味ないし中央は暑苦しそうで行く気にならなかったからな。だが今回の件とは関係無いだろ」
「そんな理由で4回も蹴ってたのかよ…ニカ、ハッキリ言うぞ。上層部は完全にお前に目を付けてる。良い意味…かはお前からしたら分からんが、傭兵の中でもエリートが集まる中央へ4回も要請しない。それに何故転属
その問いに、俺は天を仰ぎながら答える。
「…俺を優秀だと判断しているから…か」
「あぁそうだ、アーク連邦軍は超がつくほど実力主義なのは知ってるだろ?お前に目を付けた軍の上層部はさっさと中央に呼び込んで旗印にする気満々だったのさ。かと言って本人に実力がある以上強制は出来ない。だから4回も依頼を出してたんだろう」
「だが、戦況が芳しく無くなってきて余裕も無くなってきたから半ば強行手段に出た…ってとこか。機体を黒く塗ったのは俺の意思だし、敵機を撃墜しまくったのも俺…何ともまぁ、嫌なやり方だな。それに俺がこの事態を気にせず普段通り過ごしたらどうするつもりだったんだ?」
「お前の経歴やの性格やの全部調べ上げた上で期待に応えるって判断したんだろうな。で、実際国民の安心や自軍の士気向上に繋がるとあれば、お前は絶対動く。そうだろ?
「……その名前で呼ぶな」
あくまで前線に立って戦っただけで撃墜数自体は1桁だったし、その後は辺境基地でひっそり国境防衛に当たってる唯の傭兵…では無いが、旗印に据える程では無いはず。だと言うのに…
「と言うか、俺にレヴナントと同じような働きを求めるなよ…人外になれってか」
「はははっ、口では言っても誤魔化せてないぞ?そうだな…目見りゃ分かるが、面倒くささ1割、諦め2割、残り7割はやってやるよって感じだ、それに…
「そんなに顔に出るかね……けどまぁ、なっちまったもんは仕方ないし半分嵌められただけだが、全力で演じてやるさ…
別段ここでの暮らしにこだわっていたわけでは無い。むしろ変わらない毎日に退屈し始めていた所だ、どうせなら楽しんでやるよ。
「それでこそ、この基地期待の新星だ。安心しろ、俺達も全力でサポートする。だろう皆?」
セオドアの声に、リヴィ達が一斉に応える。我ながら仲間に恵まれたもんだ。
「さて、じゃあ直近の問題は演じる上でレヴナント並みの強さを手に入れないとって話なんだが、一朝一夕でどうにかなるもんじゃ無いし、どうしようか」
「いつもの訓練じゃ効果無いだろうしな、一応俺の権限でエース向けのシミュレーション訓練データは持ってこれるが…」
「ならそれからやってこう。まだ噂の段階だし、
「そうだな、なら大攻勢を目処にニカ強化プログラムを組むとするか。教官時代の記憶が蘇る」
その後しばらく話し合い、気が付けば朝食に時間になって全員が食堂のおばちゃんに怒鳴られたのはまた別の話。
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シャウラ魔法帝国 某基地
「何?レヴナントが帰還しただと?」
片膝をついた純白の機体のコックピットで、白髪混じりの男が言葉を溢した。
『はっ、正確な情報ではありませんがアーク連邦内でそのような情報が出回っているそうです』
「根拠と考えられる代物を見せろ」
男が言うと、すぐに機体のディスプレイへニカのグリフィスⅡが捉えられた写真が表示された。男はその写真を険しい表情で眺め、ため息を吐きつつ呟く。
「まさか本当に貴様なのか、レヴナント」
この男の名はオットー・クリューガー。シャウラ魔法帝国のネームド、〈
そんな彼に、コックピットを覗き込んだ金髪の少女が声をかけた。
「どうされましたか?教官」
「リーゼか、いや…こちらの話だ。気にするな」
言われて訝しげに首を傾けるのは、リーゼロッテ・ヴァーグナー。いわゆるオットーの後継者として扱われ、本人も期待に応えるべく日々訓練に励んでいる。
———彼らがニカ達と相見えるのは、そう遠い話では無い。
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用語解説
・ネームド
強者の代名詞にして政府から公式にエースと認められたパイロット。認められる条件は様々だが、他のネームドを倒したり一つの戦いで一定数の撃破をすれば認定される。素性を明かしている者と明かしていない者がおり、どちらも数十名存在するが実力に大きな差異はない。
ただし、ネームドに認定されたからといって無条件で有名になる事はなく、リヴァイアサンの様に国民の半数以上が知っている者もいれば、その道(傭兵や正規軍)の人間にすら殆ど知られていないネームドも存在する。
また